道路交通法や道路交通法施行令の改正で、妨害運転罪が創設されるのは、報道などを通じてご存じのことと思います。
これ、自転車にも関係するようになるのですが、イマイチ全貌が見えていないというか、勘違いしている人もいるようです。
そういうわけで、ロードバイクにおける妨害運転罪の創設について、少し考えてみたいと思います。
妨害運転罪
妨害運転罪は、道路交通法に新たに明文化されるものです。
車だけでなく車両全般に関わるので、ロードバイクも関わってきます。
この妨害運転罪ですが、既に道交法で違反になっている行為に対して、
通行を妨害する目的でこうした行為を繰り返すなど交通の危険を生じさせる恐れがある場合
これが大原則です。
妨害運転罪に該当する行為は10項目挙げられています。
引用:https://www.police.pref.saga.jp/koutsu/k_kikaku/_7111/_7342.html
違反行為 | 具体例 | |
1 | 通行区分違反 | 逆走など |
2 | 急ブレーキ禁止違反 | 急ブレーキ |
3 | 車間距離不保持違反 | |
4 | 進路変更禁止違反 | 割り込みなど |
5 | 追越し違反 | 割り込みなど |
6 | 減光等義務違反 | |
7 | 警音器使用制限違反 | クラクション連打など |
8 | 安全運転義務違反 | 幅寄せや蛇行など |
9 | 最低速度違反 | |
10 | 高速自動車国道等駐停車違反 | 無理矢理停止させる行為など |
自転車には関係ない違反もありますが、この10項目の違反は、今までも前から違反行為です。
その違反に対し、
通行を妨害する目的でこうした行為を繰り返すなど交通の危険を生じさせる恐れがある場合
要はあおり運転として妨害目的で違反した場合には、より罰則を厳しくしましょうというのが妨害運転罪の規定になります。
この妨害運転罪の創設は、きっかけはやはり東名高速でのあおり運転死傷事故の件でしょう。
危険運転致死傷罪に当たるかどうかで、どうしても無理があるという【法の抜け穴】的な部分を埋めるためと思えばいいかと。
ちなみにこの事件、一審の手続きが違法だったとのことで、高裁から地裁に破棄差戻しされてます。
危険運転致死傷罪には当たらないと当初裁判官が見解を示したことで、それに基づいて被告が反論していたけど、判決は危険運転致死傷罪になってしまったため、十分な反論の機会が与えられていないからというのが理由です。
妨害運転罪ですが、罰則が極めて重く設定されているのも特徴です。
状態 | 罰則 |
違反 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
高速道路や一般道で停車させたり、衝突事故を発生させるなど著しい危険を生じさせた場合 | 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
行政処分 | 違反点数は25点で欠格期間は2年、著しい危険があった場合は35点で同3年 |
一発で免許取り消しです。
これくらいしないと、あおり運転は無くならないということでしょう。
ロードバイクと妨害運転罪
さてこれを踏まえて、ロードバイクと妨害運転罪の件です。
この妨害運転罪に当たる違反は、自転車講習制度の対象になります。
3年以内に2回、指定された違反を犯すと、講習行きというシステムです。
これ自体は、道路交通法施行令第四十一条の三に規定されています。
(危険行為)
第四十一条の三 法第百八条の三の四の政令で定める行為は、自転車の運転に関し行われた次に掲げる行為とする。
一 法第七条(信号機の信号等に従う義務)の規定に違反する行為
二 法第八条(通行の禁止等)第一項の規定に違反する行為
三 法第九条(歩行者用道路を通行する車両の義務)の規定に違反する行為
四 法第十七条(通行区分)第一項、第四項又は第六項の規定に違反する行為
五 法第十七条の二(軽車両の路側帯通行)第二項の規定に違反する行為
六 法第三十三条(踏切の通過)第二項の規定に違反する行為
七 法第三十六条(交差点における他の車両等との関係等)の規定に違反する行為
八 法第三十七条(交差点における他の車両等との関係等)の規定に違反する行為
九 法第三十七条の二(環状交差点における他の車両等との関係等)の規定に違反する行為
十 法第四十三条(指定場所における一時停止)の規定に違反する行為
十一 法第六十三条の四(普通自転車の歩道通行)第二項の規定に違反する行為
十二 法第六十三条の九(自転車の制動装置等)第一項の規定に違反する行為
十三 法第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反する行為(法第百十七条の二第一号に規定する酒に酔つた状態でするものに限る。)
十四 法第七十条(安全運転の義務)の規定に違反する行為
この14項目に、妨害運転に関する規定が15番目として規定されます。
で、妨害運転罪は、あくまでも、
通行を妨害する目的でこうした行為を繰り返すなど交通の危険を生じさせる恐れがある場合
これが前提です。
で、妨害運転罪はあくまでも車を想定して作られたものなのですが、道交法に規定する以上、全ての車両が対象になります。
恐らくですが、あくまでも取り締まりたいのは車のあおり運転のほうで、自転車は【ついで】みたいな感じなんじゃないかと思ったりもします。
例えばですが、自転車が関わる妨害運転の中には、いわゆる逆走があります。
逆走自体は、道交法施行令41条の3の四でも規定されている、講習行きのケースに当たります。
なので逆走自転車がいたとして、
即座に妨害運転とみなされるわけでもありません。
自転車だと想定しづらいですが、反対車線から急に飛び出てきて逆走して、明らかに妨害するような言動でない限りはあまり関係ないのでは?と思うのですが。
強いて言うなら、これがイメージとしては近いのかもしれません。
今までこういうのって、暴行罪か、道交法違反(通行区分違反)しか取れませんでしたが、これは誰が見ても妨害してますので・・・
ただしこれ、通報が相次いだから警察が動いただけですので、単発だったら恐らくは妨害運転にはならないでしょう。
単に横断しようとして、タイミングを間違えた(=過失)との区別がつかない。
何度も同じことを繰り返した【実績】があるので、反復・継続性がある=故意と言えるわけですので。
これだけ通報が相次いでいて、毎回過失でしたとは言えない。
車間距離不保持の違反もそうなんですが、
いわゆるトレイン走行も、法を厳密に適用すれば、今までも車間距離不保持の違反でした。
ただ、ロードバイクでこれを取られた人なんて、事故以外ではたぶんいないんじゃないかと・・・
新設される妨害運転の中には、車間距離不保持の違反も入ってます。
あくまでもあおり運転、他人の妨害行為として行った場合に、妨害運転罪が適用される可能性があるということなので、仲間内でトレイン組んでいるのは、妨害運転ではなく単なる車間距離不保持です。
もしこれで妨害運転になってしまうなら、車でもちょっと車間距離が近かっただけで、免許取り消しが全国で多発しちゃいます。
過失と故意の違いに近いかもしれません。
公道で、あまりにも車間を詰めて走るのは、今までも車間距離不保持の違反ですが、実態としてはこういう方々はいますよね。
警察が事故以外で車間距離不保持の違反を取った事例なんて聞いたことはないですが、なんとなく暗黙の了解というか、スポーツだから許されるみたいな風潮もどうなのかとは思いますが。
この動画をわざわざアップしているのは、恐らく注意喚起の目的だろうとは思いますが、違反行為を堂々とアップしているのを見る限り、恐らくこれが違反になっていることを知らないのだろうと・・・
ただし誰が見ても、これを妨害運転だとは見ませんから、もし違反を取るにしても車間距離不保持のみでしょう。
仲間内で走っていて、悪意を持って妨害していると見なす根拠はどこにもない。
個人的には、歩行者に対してベルで威嚇する行為も、ここに入れるべきだと思ってます。
あくまでも妨害運転罪は【ほかの車両の通行を妨害する目的で】となっているようなので、歩行者に対するベル連打は、単なる警音器の使用制限違反にしかなりませんので・・・
前にも取り上げましたが、ベルの製造メーカーが、堂々と歩行者をどかす目的で開発してました。
ここの開発者を名乗る方から、謝罪させてくれとメールが来たことがありますが、誰に謝罪するのかすら不明だったのでお断りしました。
いまだにHPでは
警音器のご使用は道路交通法第54条(警音器の使用等)に基づき、「危険を防止するためやむを得ない場合においてのみ」ご使用ください。
と間違ったことを書いているくらいなので、どうかと思うのですが・・・
ベルは、標識があるところでも鳴らす義務があるので。
何かが変わるとも思いませんが
自転車で、ほかの自転車や車に対して、あおり運転をすることなんてあるのか??という疑問があったのですが、この記事を書いていて思い出したのは、これですね。
こういうのに対しては、妨害運転罪の適用を検討するということでしょう。
単なる逆走とか、
ノールックで歩道から車道に降りてくるママチャリとか、
この行為【だけ】では妨害運転にはならないかと。
例えばなんですが、反対車線からいきなり、ママチャリが横断してきて逆走しようとしたとします。
これがいきなり妨害運転になるのかというと、ならないかと。
単に横断したくてタイミングを間違えた(=過失)なのか、ロードバイクの走行を妨害する目的なのか、客観的な判定が困難。
ただしこのときに、例えばですが、
などと奇声を上げていたなら、妨害目的でしょうし。
このようにいきなり反対車線から来て、自転車を横置きして進路を妨害しているなら、
妨害運転認定される可能性は出てきますが、どちらにしてもドラレコなどで立証できない限り、意味は無いです。
このように歩道からノールックで出てくるママチャリも、
ロードの進行を妨害する目的だったのか、単なる後方確認不足の結果なのか、その立証は難しい。
これが、歩道が工事中などの理由がないにも関わらず、同じ行動を繰り返してくるようであれば、
妨害目的だとわかるでしょうけど、結局はドラレコがない限りは立証できないわけで。
単なる不注意による違反でしかない場合もありますし、明確な妨害意思があるような反復性とかがないと、自転車で妨害運転は成立しづらいかなと・・・
ちょっと前の記事でも書いたように、
自転車講習制度は、そこまで普及しているわけでもありません。
平成27年6月~28年5月までの一年間、自転車の違反講習を受けたのは、たった24人
自転車運転者講習制度の施行状況について|平成29年交通安全白書(全文) - 内閣府内閣府の平成28年版交通安全白書(全文)(HTML形式)を掲載しています。
一年間で全国の総数が24件しかないので、都道府県あたりだと0.5人未満です。
こんなの、警察が威信をかけて取り締まりすれば、この100倍以上は講習者が出そうな気もしますが、そんな暇ではないでしょうし。
さきほどの【ひょっこりはん】みたいなバカが登場したときには、より重い刑罰を科せる可能性もあるわけですし、某飲食系宅配サービスの運転マナーが悪すぎるという件もあるので、そういうところはなんとかしてもらいたいところです。
これを読んでいる方々は、むしろ法令順守のお気持ちが強いと思うので、実質的に何かが変わるわけでもないと考えていいかと。
こういうのはどんどん取り締まりしてほしいんですけどね。
ちょっと話は変わりますが、数日前ですか。
ある有名チームに所属する選手が、公道で信号無視する動画がアップされ話題になってました。
そのチームは、その日のうちに謝罪文を掲載していましたが、【危険走行】についての謝罪になってました。
法令違反行為についての謝罪じゃないんだ・・・と違う意味で衝撃を受けました。
あと、一部の競技者の中には、【別に迷惑かけてないんだし】みたいなことを書いている人もいたらしいですが、結果論で語るからおかしくなるのではないでしょうか?
事故が起きてないという結果だけに着目すれば、信号無視が許容されちゃうという意味不明な結果になりますが、それじゃ社会の秩序もヘッタクレもないわけで。
刑法で行為無価値論と結果無価値論というのがあるのですが、結果で見るのか、行為で見るのかという違いです。
道路交通法は結果で判断するのではなくて、行為自体を取り締まっているものなので、【事故はなかった】という結果論で語れば大きな間違いを犯します。
この話を知った夜、ママチャリ二人乗りの高校生を見て、なんかいろいろ考えてしまいました。
この記事を書こうと思ったきっかけですが、ロードバイクを敵視する人がいて、妨害運転罪のニュースを見て、トレイン組んでいたらバンバン通報しようと目論んでいる奴がいることを知ったからです。
正直メンドクセー奴だなと思うのですが、世の中には頭がおかしい奴もいるので、そういう意味でも気を付けましょうということです。
車間距離不保持の違反になりうる可能性は、今もこれからもあるのですから。
そうそう、それで大切なことなんですが、先日書いた、過失割合の記事。
妨害運転罪になる逆走なら、恐らく0:100で行けるのではないでしょうか?
ただし上でも書いたように、単純な逆走で妨害運転罪が適用になるとは思えないので、相当悪質で、妨害目的だと言えるような逆走で事故った場合には、0:100で行ける可能性もあるということです。
具体的にいうなら、これで実際に衝突した場合とかですかね。
コメント
いつも、読ませていただいてます。
こんな記事が今日出てました。
自転車であおり運転か 車傷つけた疑い、男逮捕
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60717180U0A620C2CE0000/
被害者と加害者が逆かと思いましたが、
自転車が加害者、自動車が被害者で、自転車の人が逮捕されてました。
容疑は、あおり運転ではなく、器物損壊(クルマを傷つけた)ですけど。
コメントありがとうございます。
現状、まだ妨害運転罪は施行前なので適用できないですが、施行されたら妨害運転罪の可能性は出てくるかと思います。
要はこういう人に対して、今までは暴行とか器物破損とか、通行区分違反(逆走など)や車間距離不保持などしか適用できず、実質的に微罪扱いだったものを、妨害意思が明確な場合は取り締まれる法にしましょうというのが今回の道路交通法改正ですので。