判例の読み方と意味。

最近、判例の読み方と意味を全く理解してない人が多いのかなと思うことが多いのですが。
ちょっと前にツイッターで動画を挙げていた人。

うーん・・・【ちゃんと説明されている】はさすがに失笑。

判例の読み方と意味

判例はこちらなんですが、

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/309/007309_hanrei.pdf

確かに判決文の中には、このように書いてあります。

道路交通法18条1項は,車両通行帯の設けられていない道路を通行する場合,自動車及び原動機付自転車は「道路の左側に寄って」通行しなければならない旨規定するが,道路状況,交通状況などに鑑み,常にその厳守を期待することは実情に沿わないことから,同規定の違反に対して罰則を設けず,努力義務として規定したものである。

この人って判決文を読んでいない、もしくは読む力が無いことを自ら暴露しているのと同じ。
この文章だけを取り上げるからおかしくなる。

ここに関わるところを全文見ていきます。

第三 争点についての当事者の主張
一 争点1(本件道路の安全性)について
1 原告の主張

(中略)

(二) 被告らは,本件事故は原告の自損事故というべきであると主張するが,本件事故につき原告に過失はない。

(中略)

(3) 被告らは,原告が交通法規を遵守して道路左側を通行していれば,本件消火栓
に接触して本件事故を起こすことはなかったはずであると主張するが,机上の空論である。
まず,道路交通法18条1項は,車両通行帯の設けられていない道路を通行する場合,自動車及び原動機付自転車は「道路の左側に寄って」通行しなければならない旨規定するが,道路状況,交通状況などに鑑み,常にその厳守を期待することは実情に沿わないことから,同規定の違反に対して罰則を設けず,努力義務として規定したものである。原動機付自転車が,道路の状況,交通状況によって適切な選択をすることは禁止されていないのである。まして,本件の場合のように,路面が道路端まで全面的に切削されているような場合には,安全を考慮して道路端を避け,中央付近を走行するのはむしろ適切なのである。

これは裁判所の認定ではなくて、原告の主張ですよw
原告の主張部分を取り上げて、【ちゃんと説明されている】はさすがにひどい。

原告も被告も、何を主張しようと自由です。
池袋暴走事故の被告人も、【被告人に過失はなく、車の何らかの異常により暴走した】みたいに主張しているようですが、何を主張しようと自由ですし、判決文の中でも【被告人の主張】として記されるだけ。

上の判決では、裁判所の認定はここです。

2(一) なお,被告らは,本来,原動機付自転車は,道路の左側に寄って通行しなければならないところ(道路交通法18条1項),本件消火栓は,本件道路の北行車線の中央線寄りに位置し,本件消火栓西端から道路左端まで1.575メートルの距離があったから,原告が上記交通法規を遵守して道路左側を通行していれば,本件消火栓に接触して本件事故を起こすことはなかったはずであると主張する。
しかし,道路交通法18条1項は,「車両……は,車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き,自動車及び原動機付自転車にあっては道路の左側に寄って,……当該道路を通行しなければならない。」と規定する一方,「ただし,……道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは,この限りでない。」と規定しているところ,前記一1(三)(2)認定の事実によれば,北行車線の切削されていない街渠部分(幅0.65メートル)の東端と本件消火栓の西端との距離は,1.425メートル(街渠部分の東端と本件消火栓の中心との距離1.65メートルー本件消火栓の横[東西]0.45メートルの2分の1である0.225メートル)であったが,同街渠部分と切削された路面との間に段差が生じていたのであるから,北行車線の左側に寄りすぎるとかえって危険であり,原告が北行車線の右側寄り(中央線寄り)を走行していたのは,本件道路の状況に照らし,不適切な通行方法であったということはできないのであって,この点を捉えて過失相殺を基礎づける原告の過失とすることはできない。

判決文は、だいたいこんな感じで書いてあります。

・当事者の表示
・主文
・原告の請求
・事件の概要
・当事者(原告・被告)の主張
・当裁判所の判断

原告の主張部分を取り上げて、

いろんな人
いろんな人
判例で認められている!
読者様
読者様
判例で法解釈の説明がされている!

裁判所の判断の項目に書いてあれば、判例で認められたとか、裁判所が法解釈を示したと言ってもいいのですが、原告の主張を取り上げて【ちゃんと説明されている】はさすがにアウト。
原告が何を主張しようと自由ですし。

最近、判例の読み方もわかってない人が、判決文を取り上げてあたかも権威があるかのようにSNSで主張することって多いように感じますが、そもそもこのケースでは判決文の読み方というよりも日本語の読み方の問題。

本当に不思議

18条1項に罰則が無いのに、判例を求めている時点でお察しというか。
民事での判例は、事故が起きたときの過失割合に関する話で、そもそも関係ない。
当事者主義なので、双方が認めると争点が変わるわけだし。

先日も意味不明な批判をされましたが、

こちらでも書いたのですが、この事件、判決文を読む限りでは争点が違う。

先日このような記事を書いたのですが、 記事でも書いたように、横断歩道=歩行者のためのもの、自転車横断帯=自転車...

双方に38条の徐行義務があることに争いが無く、横断の予見性があったと言えるのかが争点になっているように読める。
民事訴訟の場合、原告が訴状で主張したものに対し、被告は答弁書で認否を明らかにする必要があります。
原告の主張に対して認める、否認する、不知などをつけるのですが、認めると書くとそれ以降は争点にはならない。

なので横断歩道を渡ろうとする自転車に対して、38条の成立をダイレクトに争った判例のほうが価値があるので、高裁判決のほうが意味があるよねと言える。

追いつかれた車両の義務も、自転車には適用除外とみなすことが一般的ですが、民事の判例では認めているものもあります。
この判例では、27条の適用を認めた上で、左側に逃げる余地が無いことを理由に義務を果たしているとしている。

堅苦しい話が続いていますが、一つの参考になるかと思いまして。 自転車の場合、道路交通法27条の【追いつかれた車両の義務】は適用...

判例を持ち出す人ってそれなりにいますが、持ち出すポイントが的外れなことも多く、ホントおかしな人が増えたな・・・

そもそもですが、民事訴訟の場合、事故が起きて損害賠償を求めるもの。
起こった事故に対して、道交法の概念を適用して違反があったか否かを元に損害賠償を決定する。

刑事訴訟の場合、事故発生の有無にかかわらず、行為自体が違反だったかを決める手続き。
民事と刑事では全く性質が異なるので、民事では違反があったと認定されても、刑事では無罪になることだって普通にある。

ツイッター動画の人なんて事故自体は起こっていないので、求める根拠が違う。

どう捉えるか?

こちらでも書きましたが、

先日もちょっと書きましたが、 この中で取りあげたキープレフトの判例。 車同士の衝突事故ですが、左側端2m空け...

細かい数字はその事故、その状況で変わるので、意味を成さないものです。
正直なところ、どういう読み方をすればそう捉えることになるんだろう?と不思議に思う解釈をドヤ顔でする人が多い。
SNS、特にツイッターって短文なので、判決文では認定されていないことも認定したかのように書いてしまう人がいる。
冒頭のツイッターなんて、原告の主張を裁判所が認めたかのように書いている時点で、ちゃんと読んでいないことを自ら披露しているわけですし。

判例を絶対視する謎の人たちもいますが、なんでこうなってしまうのやら。

いったいいつからこの国が判例法主義になったのかも疑問ですが、判例の持つ意味を取り違えると、おかしな主張になるだけなのかと。

18条1項の判例

私が知る限り3件ほど判例を見つけていますが、以下のようになっています。

各種車両の交通頻繁な箇所では、最高速度時速30キロメートルの原動機付自転車は、本条の立法趣旨を尊重し、軽車両同様できるだけ第一車線上の道路左側端を通行して事故の発生を未然に防止すべきである。

昭和48年1月19日 福岡地裁小倉支部

具体的には軽車両が道路の左側部分に寄つて通行するために必要とされる道路の部分を除いた道路の部分の左はしに寄つてということであり、また前記法条の軽車両の観念上の通行区分である「道路の左側端に寄つて」とは路肩部分を除いた道路の部分の左はしに寄つてという意味であると解するを相当とする。

静岡地裁浜松支部 昭和42年(ワ)193号

原告車両から見て衝突位置の左側に、車線の半分以上である少なくとも1.5m以上のスペースを残して直進進行してきたものであるから、左側寄り通行義務(道路交通法18条1項)に違反した過失もあるというべきであり、このことが本件事故発生の一原因になっていることは否定し難い。

東京地裁 平成19年1月21日

こちらで詳しく解説しています。

先日もちょっと書きましたが、 この中で取りあげたキープレフトの判例。 車同士の衝突事故ですが、左側端2m空け...

あくまでも民事での判例なので、事故が起きたときに過失となるのか?という観点で18条1項を見ている判例です。
1.5mとか2mという判決文も、その道路状況と事故状況の中でどうなのか?を判示しただけなので、それ以上の意味はありません。
刑事ではそもそも罰則がありませんので、判例はあるはずもありません。