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さすべぇは違反なのか?というのは無意味な議論。

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昔から時々議論に上がるのが、さすべぇ。

 

傘を自転車に固定するというものですね。

 

これ、違反になるとかならないとかいろんな説があります。
警察庁(国家公安委員会)は、ものすごく濁しています。

 

交通の教則

第1節 自転車の正しい乗り方

1 自転車に乗るに当たつての心得

(7) 自転車に荷物を積むときは、運転の妨げになつたり、不安定となつたりするなどして、危険な場合があるので、そのような積み方をしてはいけません。傘を自転車に固定して運転するときも、不安定となつたり、視野が妨げられたり、傘が歩行者に接触したりするなどして、危険な場合があります

危険な場合があるとしながら、禁止とは書いていない。
この曖昧さが問題を複雑にしている気がします。

70条安全運転義務

さすべぇが違反になるかどうかですが、70条安全運転義務か、71条6項運転者の遵守事項(各都道府県公安委員会規則)のどちらかが当てはまる可能性があります。
私が知る限り、71条6項でさすべぇを違反としている都道府県は無いはずなので、もっぱら70条に抵触するかどうかが問題となるわけです。

積載物制限に引っ掛かるのは論外なので省きます。

さて、70条の安全運転義務。

(安全運転の義務)
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作しかつ道路、交通及び当該車両等の状況に応じ他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない

この条文、漠然と読むとわかりづらい。
・ハンドルとブレーキなどを確実に操作
・道路の状況に応じて、他人に危害を及ぼさないような速度と方法

 

【かつ】なので、前段と後段が両方成立して違反となります。
しかもややこしいのが、

 

管理人
管理人
道路、交通及び当該車両等の状況に応じ

 

ここがまたややこしい。
70条については最高裁判例で以下の3点が示されています。

 

・他条で違反になる行為は、70条違反は成立しない
・他条で規定されていない危険行為を補完する役目
・客観的に危険と言えるような速度か方法が求められている
(最高裁昭和48年4月19日)

 

速度超過+信号無視をすれば危険な行為ですが、それぞれ速度超過と信号無視で処罰されるだけで、70条も加算されるわけではない。
左右の見通しが効かない交差点で安全確認せずに交差点に進入すれば42条違反が成立するけど、70条も同時に成立するわけではない。

 

70条については有名な判決があります。

安全運転義務は具体的義務違反でまかないきれないところを補充するものであるが、その規定のしかたはきわめて抽象的で明確を欠き拡大して解釈されるおそれがあるので罪刑法定主義の趣旨に則り厳格に解釈すべきであり、拡大して解釈、適用することを厳に慎まなければならない。
そのような趣旨から法70条後段により可罰的とされるのは道路、交通、当該車両の具体的状況のもとで、一般的にみて事故に結びつく蓋然性の強い危険な速度、方法による運転行為に限られるものである。

 

昭和42年1月15日 いわき簡裁

立法当時の国会でも拡大解釈禁止の議決がされていますが、判例上も拡大解釈禁止になっています。
【事故に結びつく蓋然性の強い危険な速度、方法による運転行為に限定】なわけです。

 

さて、70条。

(安全運転の義務)
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

さすべぇの場合、傘を固定しているので両手でハンドルもブレーキも操作できます。
ただし傘が開いていると風圧で吹っ飛ぶ可能性があるので、風速と速度次第ではハンドルもブレーキも確実に操作できなくなる恐れがある。

 

ハンドルとブレーキを確実に操作できない可能性があって、かつ歩行者がたくさんいる状況であれば【他人に危害を加える恐れ】が出てくるので、状況次第では違反と言えますよね。
けどこういうケースではどうでしょうか?

自転車にさすべぇで傘を固定。
風速は1m/s、自転車は時速8キロで歩道を進行。
歩道を見渡す限り、歩行者が全く見えない。
歩道幅は十分あるので、万が一脇道から歩行者が出てきてもすぐに対処できる速度と距離感を保っている。

こういう条件が揃った場合に、本当にさすべぇを使っているという事実だけで70条に違反するのか?という問題が出てくるわけですよ。
歩行者が誰もいないなら、他人に危害を及ぼす可能性がゼロと言ってもいい。
この時点で70条違反が成立しなくなる。

 

70条は抽象的な規定なので、拡大解釈禁止という問題もあります。

 

逆にこういう状況ではどうでしょうか?

自転車にさすべぇで傘を固定。
風速は8m/s、自転車は歩道上を時速10キロで徐行。
歩道幅はそれほど広くない上に、歩行者もそれなりに歩いている。

風速8m/sという時点で、傘が開いていれば吹っ飛ぶ。
歩行者もそれなりにいるなら、徐行していようと歩行者に危害を及ぼす方法と速度を満たしている。

速度というのは絶対的に速いかどうかではなく、その状況でその行為をする上で危険な速度と言えるかが問題になります。

なのでさすべぇ自体が違反と言えるだけの根拠も乏しく、状況次第では違反になりうるよね?というところで交通の教則上でも曖昧な表現にしかならないわけです。

実態として

個人的にはこれ、道交法71条6項から各都道府県規則で禁止すべきことだと思うのですが、今のところそのような動きもないですね。
ちなみに昭和期には、出前の自転車の片持ちがありましたよね。
あれも同じ理屈で、確実に70条安全運転義務に違反するとまでは言えないので、各都道府県規則(道交法71条6項)で禁止対象にしています(規定がない都道府県もありますが)。

 

東京都道路交通規則

(運転者の遵守事項)第8条 法第71条第6号の規定により、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)の運転者が遵守しなければならない事項は、次に掲げるとおりとする。

(3) 傘を差し、物を担ぎ、物を持つ等視野を妨げ、又は安定を失うおそれのある方法で、大型自動二輪車、普通自動二輪車、原動機付自転車又は自転車を運転しないこと。

この規定がないと、確実に違反と言える根拠がないわけなんですよ。
ここが70条の問題点。

 

都道府県規則にある【安定を失うおそれがある方法】に抵触するかどうかも怪しいですが、この規定も全都道府県にあるわけでもないですし。
茨城県の場合、似たような条文はこれしかありません。

(2) 交通頻繁な道路において,傘を差して自転車を運転しないこと。

交通が頻繁ではない道路では違反を取れない。

 

安定を失うおそれがある方法で乗ることが違反だとしても、ほぼ無風&低速では成立しなくなる。
【おそれ】というのも恣意的解釈すれば何でも当てはまりかねないので、基本的な概念は70条に近いものかと。
安定を失うおそれという表現を恣意的解釈されたら、二輪車全般が当てはまるとか意味不明なことになりますし。

 

まあ、さすべぇを使いたいと思う人の気持ちは正直わかりません。
傘で風圧で吹っ飛ぶことは容易に理解できる上に、風圧で吹っ飛ぶ時はコントロール不能ですし。

 

警察のHPをみると、だいたいは

いろんな人
いろんな人
自転車の片手運転は違反です!

 

こんな文言があります。
これ、片手になった瞬間に違反が成立するわけではなくて、結局はモノを持っていれば各都道府県規則に引っ掛かる可能性はあるし、モノを持っていない場合には70条に違反する恐れがある。
その具体的状況を全て書くことも難しいので、一律違反だとアナウンスして注意喚起しているだけのこと。

 

片手になった瞬間に違反が成立するわけではありません。

 

例えばロード乗りがよくやる、走行中にドリンクを飲む行為。
これが違反なのか?という話なんですが、ある場面では違反になりうるし、ある場面では何ら違反ではない。

 

例えば、路面に滑り止めがついている急こう配の下り坂で、

歩行者とかほかの車両もたくさんいる中でドリンクボトルに手を掛ければ、その状況でハンドルとブレーキを確実に操作できる見込みもなく、他人に危害を及ぼす恐れが普通に高いので違反になる可能性がある。
平坦で時速25キロ程度で、前方を注視してドリンクを飲むことが違反になるのかというと、成立しない。

 

前方をきちんと確認して、安全性が確保された状態でドリンクを飲むことは【事故に結びつく蓋然性の強い危険な速度、方法】とまでは言えませんし。

 

ほかの片手運転になるケース。
対向右折車に対して、手で【先に行ってくれ】とサインを出すことも一時的には片手運転ですが、【事故に結びつく蓋然性が高い】とは通常言えませんし違反にはならない。
後続のロードバイクがやたら接近してきたので、先に行けと手で促す行為も、同じく安全運転義務違反になりませんが、歩行者が車道に飛び出てきたタイミングでそれをすれば違反になるかもしれない程度の話。

 

それこそ恣意的解釈をするなら、走行中にサイコンをちょっと触っただけで片手運転で違反だとか、鼻がかゆいから走行中に搔いたら片手運転で違反だとか、意味不明な状態になりかねないですが、当然そんな違反が成立することはない。

 

70条って拡大解釈しようと思えば何でも違反になってしまう恐れがあって、例えばディスクホイールって横風に弱いですよね。

これも恣意的に解釈されてしまうと、横風に弱く危険性があるホイールを公道で使ったから安全運転義務違反だ!なんて理屈が成り立つわけもない。
使う場面と状況次第では危険性があるにせよ、他人に危険性を与えるような事故を起こす蓋然性が高いかと聞かれるとそれも微妙。

 

ビンディングペダルにしても、恣意的に解釈されると安全運転義務違反だとなりかねませんが、そんなバカな話は成立しないようにちゃんとなっているんですね。

 

警察的には、事故が起きたときには安全運転義務違反に問われるという言い方をよくします。
これ、必ずしもそうとは言えなくて、70条の安全運転義務は走行中の話。
事故が起きた場合は、怪我をさせれば過失傷害罪(刑法)に問われる可能性があるし、死亡させれば過失致死罪に問われる可能性はあるにせよ、それは事故の結果に対する刑罰なわけで、その前段階の運転中がどうだったかは厳密にいえば別問題。

本来は禁止すべきと思うのですが

個人的には71条6項(運転者の遵守事項)で各都道府県が禁止すべきではないかと思うのですが、あんまりそういう議論にはなっていないようですね。
ただしこれが原因で歩行者に怪我をさせれば、過失傷害罪に問われるわけですし、民事上の責任としては安全運転義務に反するとされるのがオチ。

 

道交法上の違反とはならなくても、民事責任とかはまた別問題ですし、そもそも突風で吹っ飛ぶことは容易に予見できるので、自分が怪我をしないためにも使わないほうがベターなのは言うまでもなく。

 

70条に【道路、交通及び当該車両等の状況に応じ】とあるので、実態としては事故が起きたときに問われる程度で、さすべぇ自体が絶対的な禁止行為とはならないという解釈にしか取れないそうですが、警察としては違反として取れなくても注意は出来るわけで、積極的に注意指導していくしかないのかもしれません。

 

モノ自体が絶対的な違反ではなくて、状況次第で違反になりうるということ。




コメント

  1. k より:

    歩道の例だと、傘を開いた時点で全幅60cmを超えて違反になりませんか?

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      冒頭で書いたように車幅や積載物制限に引っ掛からない条件の下、という意味です。

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