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車が自転車を追い越すときに、クラクション(警音器)を鳴らすのは違反なのか?

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先日書いた記事で紹介した判例。

自動車運転者が自転車を追い越す場合には、自動車運転者は、まず、先行する自転車の右側を通過しうる十分の余裕があるかどうかを確かめるとともに、あらかじめ警笛を吹鳴するなどして、その自転車乗りに警告を与え、道路の左側に退避させ、十分な間隔を保った上、追い越すべき注意義務がある。

 

昭和40年3月26日 福岡地裁飯塚支部

これ、ちょっと誤解を生みかねないので他の判例も踏まえて検討してみます。

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クラクションの規定

クラクション(警音器)については、道路交通法54条で規定されています。
1項が鳴らさないといけない場所の規定、2項はそれ以外の場所でクラクションを鳴らすことの違法性を阻却する規定。

(警音器の使用等)
第五十四条
2 車両等の運転者は、法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。ただし、危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない。

やむを得ないという日本語は、言い換えるなら【ほかに手段がないこと】とも言えます。
なので法を読む限り、クラクションを鳴らす以外に危険防止の方法が無い場合とも言える。

 

さてここからは判例で検討していきます。
ちょっとややこしいのですが、刑事事件として道交法違反容疑に問われることって実はかなり少なく、刑事事件の判例というとほとんどが業務上過失致死傷(現行法では過失運転致死傷)。
反則金制度が始まった昭和43年以降、基本的に交通違反は反則金を支払うことで刑事訴追されないシステムになっている上に、反則金を支払わなくても起訴されることはほとんどありません。
なので純粋に道交法違反容疑として54条違反について争った判例はほぼ無いと思っていい。

 

しかし、54条2項但し書き「やむを得ない」に該当する場合に、警音器を吹鳴しなかったことを過失(注意義務違反)とし、業務上過失致死傷罪(過失運転致死傷罪)で有罪としている判例はまあまああります。
鳴らさないことが道路交通法の義務違反にはならなくても、業務上過失致死傷罪を検討する上では注意義務違反になるという話。

警音器の使用についての判例

まずは警音器を鳴らす義務があったのか?について争われた判例から。

 

いわき簡裁 昭和42年1月12日(刑事)

自転車を追い抜く際に、警音器を吹鳴する義務はあるかの判例

 

この事件は見通しが悪い交差点で車が自転車を追い抜きしようとした際に、先行自転車が合図もなく小回り右折を開始。
その結果後続車と先行自転車が接触した事件です。

次に被告人が警音器を鳴らさなかったことは確かであるが、この場合警音器を吹鳴する義務があるかどうかについてみるに、現場は公安委員会によって指定された警音器を吹鳴すべき場所ではなく(道路交通法54条第1項参照)、また同条2項但書の「危険を防止するためにやむを得ないとき」というのは単に安全確保という消極的な理由にすぎない場合ではなくて、危険が現実、具体的に認められるような状況下でその危険を防止するためやむを得ないときというほどの意味であるが、本件におけるように単に交差点付近で先行自転車に接近しこれを追い抜く場合に、状況の如何を問わずに常に必ず警音器を吹鳴すべき義務ありとは右方の趣旨からみて到底考えられないのであり、さらに具体的諸事情を考慮し、そのような状況のもとで危険が具体的に認められる場合にのみ警音器吹鳴義務があるものと考えるべきところ、本件においては、自転車に乗車していたSは高校生であり、自転車には後写鏡も設置され、本件の道路の交通はかなり頻繁であること、しかしSは後方を見るとか右折の合図をするなど進路変更、右折などのきざしを何らみせることなく交差点の手前側端付近まで直進していたこと、被告人は自転車との車間距離を約2m置いて進行しており、当時反対方向からの交通もなかったから交差点付近で追い抜く場合にもこの車間距離を保つことができたと推測できることなどの事情に鑑み、警音器を吹鳴すべき危険な状況であったとは認めがたく、本件の具体的場合においては、自動車運転者として警音器を吹鳴すべき義務は存しないものと考えられる。

 

もちろん被告人が危険を感じなくても予防的措置として警音器を吹鳴していれば、或いはSも被告人の接近に気づき事故を避けえたかもしれない。けれども前述のとおり本件の具体的事実関係をもとにおいて警音器吹鳴の注意義務が客観的に認められないから、Sの傷害の結果を被告人に帰せしめることができないのは当然である。

 

いわき簡裁 昭和42年1月12日(刑事)

あくまでもクラクションを鳴らす義務があるかどうかの判例です。
【単に安全確保という消極的な理由にすぎない場合ではなくて、危険が現実、具体的に認められるような状況下でその危険を防止するためやむを得ないときというほどの意味である】としているので、安全確保目的で鳴らすのは違反であるかのようにも取れるのですが、一方では予防的に鳴らしてもいいかのようにもなっているので難しい。

 

鳴らすのが違反かどうかについての判例ではなく、鳴らす義務があったかの判例なので気をつけたほうがいいかも。
似たような事例で東京高裁昭和42年12月15日判決(刑事)もありますが、この事件は十字路で酔っ払って赤信号無視して突入した自転車と、青信号進入の車の衝突事故。
これについても鳴らす義務はないとしています。
理由ですが、上二つの判例に共通しているのは予見不可能な状況だったことが理由で、つまりは信頼の原則。
突如合図もなく自転車が小回り右折を開始することは予見できないし、交差点に突如赤信号無視の自転車が進入することも予見できない。
そのような予見不可能な状況下では、警音器を鳴らして注意喚起する義務は求めていないという判例です。
まあ、当たり前な気もしますが、昔はこういうのでも警音器を吹鳴していないことが業務上の過失として立件されていたということでしょうか。

 

奈良地裁葛城支部 昭和46年8月10日(刑事)

自転車を追い抜く際に警音器を使うことの是非についての判例(刑事)

まずは事実認定から。

(1)  本件事故現場は、別紙図面記載のとおり直線且つ平坦な見通しの良いアスフアルト舗装の国道25号線上で、国道両側には人家はない。本件事故当時の自動車の交通量は比較的少なかつたが、通常時には多い個所である。なお本件事故当時は晴天であつた。

(2)  被告人は、本件公訴事実記載の日時、普通貨物自動車を運転して前記国道(最高制限速度50キロ)を約50キロで西進し、奈良県北葛城郡王寺町藤井一丁目八一番地附近にさしかかつた際、前方約43mの国道左側端(歩道南端から約50センチ)を前記被害者が足踏式自転車に乗り自車と同一方向に進行しているのを認めた。

(3)  被告人が同人を認めた地点から西方約70m余のところに、別紙図面記載のとおり国道から三郷町に通じる幅員3mの道路があつたが、右道路に通じる入口附近は草に覆われており、右地点から右道路の存在を認めることは困難であつた。

(4)  被告人は、同人が一見して年寄であると認めたが、ふらつくことなく安定した歩行状態で直進しており、同人の進路前方に進行を妨げる障害物もなく、同人が進路を変更して右折するなどの気配は全く認められなかつた被告人は、同人がこのまま直進するものと信じ、同人と接触および風圧による危険を与えることのないよう安全な間隔を保つて追抜くべく、自車を中央線寄りに寄せ、警音器を吹鳴することなく前記速度で進行した。しかるに前方約20mに迫つた地点において、予想に反して同人が何らの合図もなく後方の安全を確認することなく(前記三郷町に至る道路に進入すべく、但しこの点については被告人にわからなかった)突然右折を開始し、右斜めに国道を横断しはじめたのを認めた。そこで同人との衝突を避けるため急制動の措置を講じると共に、対向車もないことから突嗟に同人がそのまま横断を継続するものと判断し、同人の横断した後方を通過すべく急拠ハンドルを左に採つたが、至近距離に迫つて同人がハンドルを回転させ引き返したため、自車右前部を前記自転車後部左側に接触させ、同人を路上に転倒させた。

奈良地裁葛城支部 昭和46年8月10日

予兆もなく自転車が右折横断を開始し、急制動を掛けたものの間に合わなかったという判例です。
この判例では、先行する自転車の状況に合わせて、安全側方間隔を保って追越ししようとしています。

自動車運転者が、警音器の吹鳴義務を負う場合は、法54条1項及び2項但書の場合に限られ、右各場合以外に警音器を吹鳴することは禁止されているところ、本件事故現場付近は、同法54条1項によって警音器を吹鳴すべき場所でないことは明らかである。また同2項但書によって警音器を吹鳴すべき義務を負担する場合は、危険が現実具体的に認められる状況下で、その危険を防止するため、やむを得ないときに限られ、本件におけるように先行自転車を追い抜くにあたって、常に警音器を吹鳴すべきであるとは解されず、追い抜きにあたって具体的な危険が認められる場合にのみ警音器を吹鳴すべき義務があるものと解される

 

ところで、被告人は、司法警察員に対する供述調書第11項において、「あの様な場合警音器を有効に使用して相手に事前に警告を与えておけばよかつたのですがこれを怠り」と述べ、更に検察官に対する供述調書第3項において、「私もこの自転車を追抜く際、警音器を鳴して相手に私の車の近づくのを知らせる可きでした。そうしてそれからスピードを落して相手の様子を良くたしかめ大丈夫であると見極めてから追抜きをする可きでした。それを相手が真直ぐ進むものと考え相手の動きに余り注意しないでそのままの速度で進んだのがいけなかつたのです。」と述べ、自ら自己の注意義務懈怠を認めている如くであるが被告人に過失があつたか否かの認定は、事故当時の道路、交通状態、事故当事者双方の運転状況等により客観的に判断すべきものであるから、これらの被告人の単なる主観的意見によつて、直ちに被告人に過失ありと認定できないこと論を俟たない。

もちろん被告人が危険を感じなくとも被告人が右に供述している如く警音器を吹鳴していれば、同人も被告人の接近に気付き事故を防止することができたかもしれない。しかし、前記認定のとおり警音器吹鳴の義務が客観的に認められないから、同人の死亡の結果を被告人に帰せしめることはできない。

奈良地裁葛城支部 昭和46年8月10日

自転車を追い抜くという状況で常に警音器を鳴らす義務はないとしている判例です。
あくまでも具体的な危険性がある状況下ではないと鳴らす義務はないとしている。

 

福岡地裁飯塚支部 昭和40年3月26日(民事)

ここで一番最初に挙げた判例について。
ちょっと勘違いしていた点もあるので記します。

被告は、昭和36年2月19日、被告所有の本件自動車を運転し、福岡県嘉穂郡日鉄二瀬中央坑より鶴三緒に赴く途中、午前11時40分頃、飯塚市昭和通3丁目手島いも問屋前の幅員約8mの車道左側を、時速約25キロの速度で南進中、斜左前方約3mの地点に、原告が自転車に乗り後部荷台にボール箱を積み、道路の左端を歩道沿いに同一方向に進行しているのを認め、その右側を追越そうとして、警笛を吹鳴することなく、漫然と同一速度のまま、右自転車の右側を通過しようとした際、本件自動車のアングルボデー附近を、右自転車後部荷台のボール箱に接触させ、その衝撃で、原告を自転車諸共その場に転倒させ、よつて、原告に対し治療3ケ月を要する右側頭骨々折、頭蓋内出血、右第4、5、6肋骨々折、肺気腫右手挫滅創、右第3、4指複雑骨折を負わしめたことが認められ、乙第3号証の3、7および被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。しかして、当時被告が無免許運転であつたことは当事者間に争いがないところ、自動車が先行する自転車を追越す場合には、自動車の運転者は、まず先行する自転車の右側を通過しうる十分の余裕があるかどうかを確めるとともに、あらかじめ、警笛を吹鳴するなどしてその自転車運転者に警告をあたえ道路の左側に避譲させ、十分な間隔を保つた上、追越すべき注意義務あるに拘らず被告は無免許で運転が未熟であつたため、距離感を誤り、先行する原告の自転車と接触することなく、十分に追越しうるものと過信し、漫然と追越しを敢行したため、本件事故を惹起したもので、右事故は被告の重大な過失に基くものといわなければならない。

被告は、原告は本件事故当時飲酒しており、自転車に乗つて歩道から車道に下りた途端ふらついて操縦を誤つたものであると主張するが、飲酒の点については、被告本人尋問中右の主張にそう部分もあるが、にわかに信用できず、成立に争いがない甲第10号証の12もこれを認めるに足りず、他にこの点を認めるに足る証拠はない。また、原告が自転車で歩道から車道に下りてきた際操縦を誤つたという点は、右主張にそう乙第3号証の3および被告本人尋問の結果はとうてい信用できず、他にこの点を認めうる証拠はない。かえつて、被告主張の如き事実がなかつたことは、前記当裁判所が信用した証拠から、優に認めることができるのである。

そうすると、被告は民法第709条の規定により、本件事故により原告の受けた損害を賠償すべき義務がある。

 

昭和40年3月26日 福岡地裁飯塚支部

この判例で一点誤解していた点があります。
昭和39年の道路交通法改正までは、このような規定がありました。

(通行の優先順位)第十八条 車両相互の間の通行の 優先順位は、次の順序による。

一 自動車(自動二輪車及び軽 自動車を除く。)及びトロリーバス

二 自動二輪車及び軽自動車

三 原動機付自転車

四 軽車両

今でいうところの27条(追い付かれた車両の義務)は、昭和39年以前までは18条の順序に従って譲るものとされていた。
現行の27条は自転車には適用外です。
警音器の使用に関する規定は現行と変わりませんが、軽車両は譲る規定だった時代の判例なので、あまり意味を持たないかもしれません。

 

ただし平成になってからの判例でも、民事ですがこのようになっているものもあります。

車道の左側端を走行する自転車を追い越そうとする車両の運転手は、危険を防止するため、警音器等を利用して自車が当該自転車を追い越そうとしていることを当該自転車の運転者に知らしめるとともに、絶えず当該自転車の動向を注意して徐行し(ここで、「徐行」とは、道路交通法2条2項20号により、「車両等が直ちに停止することができるような速度で進行すること」をいう。)、当該自転車との側方の車間距離を十分に保持した上で、当該自転車を追い越すべき注意義務があることは明らかである。

ところが、被告は、右注意義務を何ら果たさず、前認定のとおり、自車を東行き車線の右側いっぱいまで寄せたのみで亡被害者自転車を追い越そうとしたのであって、同被告の本人尋問の結果によっても、反対車線に自車の一部を出すことに何らの支障もなかったことが認められることに照らすと、同被告の追い越しの方法は、速度の点においても、側方の車間距離の保持の点においても、きわめて重大な過失があったといわざるをえない

神戸地裁 平成8年(ワ)2010号

この判例は片側1車線道路で、車が先行自転車を追い越す際、減速せず時速40キロのまま、センターライン付近まで寄せただけで追越ししたことによる事故です。
これも警音器を使ってもいいように書いてありますが、メインとなるのは「被告の追い越しの方法は、速度の点においても、側方の車間距離の保持の点においても、きわめて重大な過失があった」なので、本来であれば徐行と側方間隔をしっかり取ればそれで十分と言えます。

東京高裁 昭和55年6月12日(刑事)

フラフラしている自転車を追い抜く場合に、警音器を鳴らすべきとしている判例。

被告人は、所論のいう被害者の自転車が急に右方に曲つた地点までこれに近接するより以前に、これと約62メートルの距離をおいた時点において、すでに自転車に乗つた被害者を発見し、しかもその自転車が約50センチメートル幅で左右に動揺しながら走行する自転車を追尾する自動車運転者として、減速その他何らかの措置もとることなく進行を続けるときは、やがて同自転車に近接し、これを追い抜くまでの間に相手方がどのような不測の操作をとるかも知れず、そのために自車との衝突事故を招く結果も起こりうることは当然予見されるところであるから、予見可能性の存在は疑うべくもなく、また、右のような相手方における自転車の操法が不相当なものであり、時に交通法規に違反する場面を現出したとしても、すでに外形にあらわれているその現象を被告人において確認した以上は、その確認した現象を前提として、その後に発生すべき事態としての事故の結果を予見すべき義務ももとより存在したものといわなければならない。所論信頼の原則なるものは、相手方の法規違反の状態が発現するより以前の段階において、その違法状態の発現まで事前に予見すべき義務があるかどうかにかかわる問題であつて、本件のごとく、被害者の自転車による走行状態が違法なものであつたかどうかは暫くおくとして、その不安定で道路の交通に危険を生じ易い状態は、所論のいう地点まで近接するより前にすでに実現していて、しかもこれが被告人の認識するところとなつていたのであるから、それ以後の段階においては、もはや信頼の原則を論ずることによつて被告人の責任を否定する余地は全く存しないものというほかない。そして、被告人は、右のように、被害者の自転車を最初に発見し、その不安定な走行の状態を認識したさいには、これとの間に十分事故を回避するための措置をとりうるだけの距離的余裕を残していたのであるから、原判決判示にかかる減速、相手方の動静注視、警音器吹鳴等の措置をとることにより結果の回避が可能であつたことも明白であり、所論警音器吹鳴の点も、法規はむしろ本件のような場合にこそその効用を認めて許容している趣旨と解される。

 

東京高裁 昭和55年6月12日

約50センチの幅で左右に振れている自転車に対し、追い抜きするときには警音器を鳴らすことは問題ないとしている判例です。
54条2項では【やむを得ないとき】とありますが、やむを得ないというのはほかに代替手段が無いこととされます。

 

不安定な走行を続ける自転車をだいぶ手前で発見した以上、「減速、相手方の動静注視、警音器吹鳴等の措置をとることにより結果の回避が可能であつたことも明白」ということで、警音器の使用はこういう場合こそ許されていると判示されています。

 

高松高裁 昭和42年12月22日(刑事)

道路状況 見通しのよい昼間
自転車の動静 自転車後部荷台に荷物をつけ、片手に日傘をさし、片手でハンドルをもつて不安定な操縦をしていた
車の速度 大型貨物自動車、時速約50キロ
側方間隔 約1m

一審は無罪にしていますが、高松高裁は有罪にしています。

被害者は、不安定な状態で自転車を片手運転しており、しかも、前記のような坂道を登つていたのであるから、よろけたり、蛇行したりして、他の近接して走行する車両の進行を妨げ、接触事故を起したりする危険性が充分推認でき、現に蛇行するなど不安定な走行状態がみられたのであるうえ、被告人が本件事故現場に至る以前に前記(三)のように自車を道路中央部に寄せていても、(なお、被告人は、センターラインを越えた付近まで自車を寄せて走行し、道路南端と約2.8mの距離を保つていたことを考えると、被害者との間隔保持の点では被告人に注意義務違背があつたものとは解し得ない。)そのまま進行すると被害者を追い越す際の被害者との間隔は約1mしかないことになるのであるから、追い越す以前に警音器を吹鳴し、被害者に後続車のあることを知らしめ、道路左側にできるだけ避譲させるなどして、安全な状態で追い越しができるような態勢をとらしめると共に、自らも減速徐行し、被害者の走行状態に注意して臨機の措置をとり得るよう注意すべき業務上の義務があるものというべきところ、被告人は、前記のように警音器を吹鳴せず、減速徐行しなかったし、前記(三)のように同方向に進行する被害者を前方に発見しながら、前方道路を横断する警察官に気をとられ、再び被害者に目を向けた直後に、被害者が前記(四)のように急に右のハンドルを切つて道路中央に進出して来たためその衝突を避け得なかつたものである以上、被告人の右各業務上の注意義務違背にもとづく本件業務上過失致死の公訴事実は優に肯認できるといわなければならない。

 

昭和42年12月22日 高松高裁

この判例では側方間隔は問題にせず、減速しなかったことと警音器吹鳴義務違反を問題にしています。
警音器吹鳴義務違反というと、道路交通法54条1項の「道路標識がある場所で鳴らさなかったこと」のほか、業務上過失致死傷罪における注意義務としている判例は多数あります。

さいたま地裁 平成30年9月14日(民事)

路側帯を走るランナーについて、警音器を使用した事例(民事)

 

こちらは自転車相手ではなく歩行者相手の事故の過失割合についての判例。
これはちょっとややこしいのですが、片側1車線道路の路側帯を走っているランナーが、路側帯の電柱を避けるために車道に飛び出したところ、後続車と衝突した事故。

 

これなんですが、ランナーは両耳にイヤホンを付けていました。
後続車はランナーの後方約36m地点でランナーの動きに違和感を覚えて、ランナーの後方約18.4m地点で数回クラクションを鳴らして注意喚起した。
けどランナーが気づいていない様子だったので減速しつつ側方を通過しようとしたところ、ランナーが突如車道側に飛び出してきてセンターライン付近で後続車と接触。

被告は、歩行者である原告の動静に違和感を覚え、また、クラクションに気付いていない様子であることも認識しながら、十分に徐行することもなく、その側方を通過しようとし、結果、車道内に進入した原告を回避することが出来ず、被告車両を原告に衝突させたものであるから、この点に過失があると認めることができる。
もっとも、本件事故の態様は、通行するに十分な幅員を有する路側帯をランニングしていた原告が、両耳にイヤホンを装着して音楽を聴いていたため、被告車両のクラクションによる注意喚起に気付かず、被告車両が直近に至った時点で、後方確認することもなく車道内に大きく進入し、センターライン付近に至って被告車両と衝突したというものであって、原告にも相当な落度があり、被告の回避可能性が減退していたこともまた明らかではないほかない。

 

さいたま地裁 平成30年9月14日(控訴後和解)

ランナー:後続車=40:60としています。

 

違和感を覚えてクラクションを鳴らしているわけですが、歩行者にも大幅な過失を付けた判例です。

結局、クラクションは使っていいのか?

結局のところ、まず確実に言えること。

車が自転車を追い抜くときに、常に警音器を鳴らすことは許されていない。

ここは完全同意だと思います。
これが許されたら、自転車乗りは毎回クラクションを鳴らされまくる結果となる。

 

具体的な危険性があるときには、クラクションを鳴らしてもいいというのが判例の立場です。
もう一度54条2項をおさらいします。

(警音器の使用等)
第五十四条
2 車両等の運転者は、法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。ただし、危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない。

危険を防止するためにやむをえないときには違法性阻却事由となるわけですが、自転車がおかしな挙動をしているときに、事故回避目的でクラクションを使うことはむしろ許容されていると言えます。
やむを得ないという言葉を限定的に解釈すれば、

 

管理人
管理人
追い抜きせずに、自転車に合わせて後方待機すればいいんじゃね?

 

こうなってもおかしくはなさそうですが、判例ではこのような考え方は採用されていないものもある。
ちなみに昭和39年より前の判例についてもみつかるのですが、昭和39年以前は旧道路交通法で、車両の優先順位が決まっていました。
軽車両は最下位(4位)だったので、昭和39年以前の判例はあまりあてにならないと思い除外しています。
優先順位があると、クラクションで警告して軽車両をどかせるという発想がまかり通りそうな気がするのですが、旧道路交通法でもクラクションの規定は現行法と同じなので、そういう使い方は許されていなかったのではないかと思いますが、さらに前の時代の法律ではむしろ鳴らすものとされていたようです。

 

結局のところ、状況次第ではクラクションが違反ではないし、状況次第では違反ということなので、その場にならない限りは分からないと言えますw
これもあって、警察も警音器の使用制限違反ってあまり取り締まっていないのではないかと思うのですが、違反件数をみても警音器の使用制限違反って項目自体が無い。

 

第5節 道路交通秩序の維持|令和元年交通安全白書(全文) - 内閣府
内閣府の令和元年版交通安全白書(全文)(HTML形式)を掲載しています。

 

警音器の使用制限違反は妨害運転罪の構成要素でもありますが、明確&客観的に妨害意思があるクラクション以外は取り締まり対象にしていないのかもしれません。

 

難しいのはこういうケース。

前にトラックに煽られたと騒いでいた人と同じ道路なわけですが、この道路は片側2車線ですが車両通行帯ではない道路で、交差点手前のイエロー規制が掛かっているところだけが車両通行帯です。

 

正しい車両通行帯の考え方と、自転車乗りは違反なのかについて検討。
先日も書いた件です。 片側2車線道路で、左第1車線のど真ん中付近を走行しているのですが、これが違反になるのかどうかについて検討します。 事実確認・法確認から 調べたところ、この道路は府道13号京都守口線の守口市内のようです。 ・片側2車線道...

 

そのため車が追越しする時も、第2車線に移動して追越しする義務が無く、自転車は左側端に寄って通行する義務があります。

 

これも判断が難しいのですが、後続車がクラクションを鳴らしたと同時あたりで、自転車が進路を右に変えて第1車線の右寄りに移動しています。
これ自体、事故回避義務違反(70条)になりうる行為なのですが、このように想定外の動きをしそうな予兆があったためにクラクションを鳴らしたという見方が成り立つ以上、警音器の使用制限だけで違反が成立するかどうかはかなり怪しくなる。
ただしもしそうであったとしても、減速して様子をみることも義務になり得るので、どっちもどっち感は正直あります。

 

警察もこういうので警音器の使用制限違反を取らないのは、違反を取って車のドライバーが否認した場合、刑事訴訟に持ち込んでも有罪とするだけの根拠が乏しいからなのではないかと思われますが、事故が起こったときにはこういう判例もあるわけです。

自動車運転者が自転車を追い越す場合には、自動車運転者は、まず、先行する自転車の右側を通過しうる十分の余裕があるかどうかを確かめるとともに、あらかじめ警笛を吹鳴するなどして、その自転車乗りに警告を与え、道路の左側に退避させ、十分な間隔を保った上、追い越すべき注意義務がある。

 

昭和40年3月26日 福岡地裁飯塚支部

いろいろ法律や判例を検討していくと、法27条の追い付かれた車両の義務から自転車が除外されているのは、左側端通行義務があるからではないかと思います。
車両通行帯は、交差点付近か専用通行帯などがある場所以外では一般道にあることはほとんどない。

 

さらに詳しく知りたい人への車両通行帯の話。
ここまで何度も、一般道の場合は車両通行帯は限られた場所にしかないよという話を書いているのですが、警察庁が車両通行帯を設ける場所の基準を一応出しています。 この中で、【必ず】車両通行帯にせよとしている個所がいくつかあります。 いくつかの警察署...

 

さらに上の動画のケースでは、追越しされる時に右に進路を変えているので、事故が起きた場合は自転車側も進路変更禁止違反(26条の2)に問われる可能性がある。
車両通行帯ではない以上、右に進路を変えるのは危険行為になるので。
ちなみに車線変更と進路変更は同義ではありません。

 

道交法の【進路変更】の概念。
ずいぶん前に書いた記事についてメールを頂いたのですが。 関係ない部分もあるので、まとめて書きます。 進路を変える=車線を跨いで移動することなので、書いている内容は間違いではないか? 例えばこういうのが、道交法での【進路変更】に当たっていない...

 

1つの可能性としてですが、先行自転車が何ら違反を犯していない状態なのに対し、後続車が追い抜き・追越しする時にクラクションを使えば違反になる可能性が高い。
自転車の違反というのは、左側端通行義務違反とか、みだりに進路を変えるような動きをしているときなど。
また路側帯の歩行者に対し、違和感を覚えたことでクラクションを数回使った件も許容されているので、客観的に危険性がある動きを自転車がしている状態であれば、クラクションで警告してから追い抜き・追越しすることが必ずしも違反とまでは言えないのかもしれません。

 

一番上で紹介した判例についても、クラクションを鳴らす義務までは無かったという判決ですが、その一方で予防的にクラクションを鳴らしてもいいように判示されているので、なおさらややこしい。

 

なお判例では、直前横断しようとした歩行者に向けてクラクションを鳴らした事例や、車道で作業をしている作業員が上の方をみていて車の動静を気にしていなかったときに鳴らした事例、狭い生活道路で子供が遊んでいる状態で車の動静に気が付いていない状態に鳴らした事例などで違反ではないとしています。

 

クラクションの違反については、より厳密にいうとサンキューホーンも違反ですし、信号待ちから青信号に変わって、先行車が信号を見ていなくて発車しないときに鳴らすのも違反と言えば違反です。
ただまあ、その程度については事実上許容されているとも言えますし、明確に違反として成立するのは少ないのかもしれません。

 

とりあえず言えることとしては、ロードバイクに乗っていて違反行為が無いなら、通常はクラクションを鳴らされることもありません。
車両通行帯ではないのに車両通行帯だと決めつけておかしな位置を走っているなら、鳴らされても文句を言えるだけの立場でもないのかもしれませんし、事実、あのトラックに煽られたという方も警察から事件として受理しないと言われているようですし。

 

要は自転車側に何らかの違反行為があった場合には、クラクションを鳴らすことが許容されるケースもあるかもしれないということです。
ただし自転車の違反があったからすぐに鳴らしてもいいということでもないので、どこからがアウトでどこからがセーフという線引き自体が極めて曖昧なのかと。

 

私も以前、原付ババアからクラクション連打されたことがありますが、

 

【自転車は歩道を走りなさい!それが法律です!】←なぜか激怒する原付を警察へ。
どうにも理解できないことがありました。 意味不明なことを訴える原付に乗ったオバサンに激怒され、仕方なく警察呼びました。 面白くもない話ですが、そんな話を。 (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).p...

 

軽めに警音器の使用制限違反を主張してみましたが、双方ともにクラクション連打を認めていても違反は取れないと言ってました。
警察官の現認が必要だと。

 

ちなみにロードバイクにベルを付けるのは義務です。
一般論としていいますが、クラクションでもベルでも、鳴らすことは不愉快な思いをさせる原因になります。
喧嘩を売っていると誤解される恐れもある。

 

なので警音器を鳴らすこと自体の違法性が阻却される時でも、不必要に鳴らすことを控えるのが大人のマナー。
十分な側方距離が保てないときは無理に追越しとか勘弁してほしいのが本音です。
既に左側端に寄っているにもかかわらず、後ろからクラクションを鳴らされても困るだけですし。

 

けどまあ、一般道には車両通行帯なんて交差点手前か専用通行帯などに限られるので、それ以外の場所で左側端とは言い難い位置を通行していた場合には、クラクションを鳴らして警告されたとしても文句を言える立場ではないということなのかと。

 

さらに詳しく知りたい人への車両通行帯の話。
ここまで何度も、一般道の場合は車両通行帯は限られた場所にしかないよという話を書いているのですが、警察庁が車両通行帯を設ける場所の基準を一応出しています。 この中で、【必ず】車両通行帯にせよとしている個所がいくつかあります。 いくつかの警察署...

 

歩道での対歩行者の場合

自転車で歩道を通行しているときに、歩行者に対してベルを鳴らすことについては完全NGです。
これの根拠はこちら。

(普通自転車の歩道通行)
第六十三条の四
2 前項の場合において、普通自転車は、当該歩道の中央から車道寄りの部分(道路標識等により普通自転車が通行すべき部分として指定された部分(以下この項において「普通自転車通行指定部分」という。)があるときは、当該普通自転車通行指定部分)を徐行しなければならず、また、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げることとなるときは、一時停止しなければならない。ただし、普通自転車通行指定部分については、当該普通自転車通行指定部分を通行し、又は通行しようとする歩行者がないときは、歩道の状況に応じた安全な速度と方法で進行することができる。

自転車は車道が原則で、歩道は例外的に許されているという事情がまず一つ。
さらに歩道通行時は徐行義務があり、歩行者を妨げてはいけないので、歩道での歩行者については絶対的に守られていると考えていい。
路側帯についてもほぼ似たような形です。
ただし、歩行者の動きに違和感を覚えてクラクションを鳴らした事例についても、それ自体の違反が問われていないようなので(争点ではないからということもあるとは思いますが)、その線引きはまあまあ曖昧なのかもしれません。

 

まあ、実態として自転車のベルについて、不正使用(使用制限違反)を取られたという人の話を聞いたことが無いので、よほどのことが無い限り取り締まりされることも無いとは思いますが。
車についても、実態としてはよほどのことが無い限り取り締まりしてないのかもしれません。

 




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