判例と車両通行帯。

読者様からメールを頂きました。

先日はありがとうございます。
興味が出て判例をいくつか調べてみました。

おっしゃる通り、判例の中には車両通行帯の概念を間違えていると思わしきものがいくつか出てきました。
なぜそうなるのか、詳しく記事にしてくれませんか。

というお話。

判例の意味と車両通行帯

どの判例だったか思い出せなくて申し訳ないのですが、記憶の中だけで書きます。

確か、片側3車線の道路で、自転車と車が接触事故が起きたみたいな判例だったと思います。
記憶の中では自転車側が原告だったように記憶してますが、要は事故の損害賠償請求の話。

双方の主張、たぶんこんな感じなんだろうと思われます。

自転車の主張事故現場は片側3車線の車両通行帯だから、第1通行帯の中で右寄り通行していたことは何ら違反ではない。
車の主張事故現場は片側3車線の車両通行帯であるが、交通が頻繁な道路であり、歩道の中に自転車レーンがある。原告は事故を未然に防止するため、歩道の中の自転車レーンを通行すべき注意義務があった。また事故を未然に防ぐ意味でも、車道を通行するときは左端を通行する義務があり、追い付かれた車両の義務が課せられているのだから、できる限り左側端に寄るべきだった。

車両通行帯は公安委員会が指定して初めて効力を得るわけで、本来は片側3車線道路だから車両通行帯というわけではない。
けど車の反論で、車両通行帯であることを認めてしまっているので、そこは争いに出来ないんです。
裁判官は、双方が認めている事実関係についてはそのまま認定するしかないんです。

弁論主義というのですが、裁判官は独自に調査する権限も無いので、双方が認めていることについてはそのまま認定します。

こういうのもどう反論するべきかということ。
例えばこんな感じ。

原告は本件道路を車両通行帯だと主張するが、車両通行帯は公安委員会が指定して初めて効力を得るものであり、原告は車両通行帯であることを何ら示していない。
道路交通法110条1項に基づく、「交通規制基準(警察庁)」によると、車両通行帯として規制効力を得るためには公安委員会の認定が必要とあり、かつ、自転車専用通行帯や進行方向別通行区分など上乗せ規制をする際には、必ず車両通行帯として認定するようにとしている(乙1号証)。
加えて、道路交通法108条の28に基づく「交通の方法に関する教則」によると、自転車は専用通行帯などを除き左端を通行する義務があるとしている(乙2号証)。
これらから考えれば、車両通行帯というのは高速自動車国道を除けば、交差点手前の進行方向別通行区分であったり、自転車専用通行帯などにしかないものと見ることが適切である。
道路交通法2条2項、標識令7条によると、車線境界線を車両通行帯とみなすことにはされていない以上、本件道路は車線境界線で区切っただけの道路であり、原告が本件道路を車両通行帯と誤認した過失がある。
原告は車両通行帯と主張するがその証拠もなく、本件道路では、原告は道路交通法18条1項に基づき、左側端を通行する義務があったのであり、左側端ではない位置を通行し続けたのは過失と評価すべきである。

こう主張すれば、車両通行帯だったかどうかが争点に変わる。
車両通行帯であることを立証する義務は自転車側にあるわけで、見分けがつかないからどうだとか言っても、それが採用される可能性は極めて少ない。

こういうことです。
主張と反論の仕方によって争点が変わるわけで、争点として争ったかどうかが大切。

けどこれ、車両通行帯かどうかを争っている判例ってたぶん少ないのかもしれません。
判例検索システムも全ての判例を収録しているわけではないので正確な数はわかりませんが。

こういう事例だと、車両通行帯かどうかを争っているとみなせます。

なお被告は亡Aに重大な過失の存ずる根拠の一つとして、原付自転車に登場していた同人が本件事故現場に設置されていた3本の通行区分帯中左端の第一通行帯を進行すべきであるのに(道交法20条1、3項、同法施行令10条1項2号)右端の第3通行帯を進行した旨主張するが、【証拠略】によれば本件事故現場に設けられている前記2本の白線は岡山県公安委員会が正式の車両通行帯として設置したものではなく、道路管理者たる建設省岡山国道工事事務所が通行車両の便宜を考慮して設けた事実上の車両境界線に過ぎないことが認められるから、両被告の主張はその前提を欠き理由がないものと言うべきである。

岡山地裁 昭和45年4月22日

なお車両は車両通行帯の設けられた道路においては、道路の左側端から数えて1番目の車両通行帯を通行しなければならない(道路交通法20条)が、本件道路について、車両通行帯(同2条1項7号)が設置されていることを示す証拠はない(車線境界線は、直ちに車両通行帯になるわけではない)し、右折を予定していたことを踏まえると、ただちに左側寄り通行等の規制に反していたともいい難い。
そうすると、被告において第2車線を走行していたこと自体に何らかの過失を見いだすことも困難といえる。

名古屋地裁 平成26年9月8日

この二つは民事の損害賠償請求ですが、きちんとわかっている人が適切な主張をしていると言えます。
最後の判例は、これは非常上告といって、既に確定した判決をひっくり返す刑事手続きですが、要は車両通行帯ではないのに車両通行帯だとして通行区分違反を取り締まったけど、調べてみたら車両通行帯ではなかったので確定した罰金刑を取り消す必要が出たものです。

さいたま簡易裁判所は,平成23年4月21日,「被告人は,平成20年11月18日午後4時35分頃,埼玉県三郷市栄1丁目386番地2東京外環自動車道内回り31.7キロポスト付近道路において,普通乗用自動車(軽四)を運転して,法定の車両通行帯以外の車両通行帯を通行した。」旨の事実を認定した上,道路交通法120条1項3号,20条1項本文,4条1項,同法施行令1条の2,刑法66条,71条,68条4号,18条,刑訴法348条を適用して,被告人を罰金6000円に処する旨の略式命令を発付し,同略式命令は,平成23年5月7日確定した。
しかしながら,一件記録によると,本件道路は,埼玉県公安委員会による車両通行帯とすることの意思決定がされておらず,道路交通法20条1項の「車両通行帯の設けられた道路」に該当しない。したがって,被告人が法定の車両通行帯以外の車両通行帯を通行したとはいえず,前記略式命令の認定事実は,罪とならなかったものといわなければならない。
そうすると,原略式命令は,法令に違反し,かつ,被告人のため不利益であることが明らかである。

最高裁判所第二小法廷 平成27年6月8日

ということで

判例で車両通行帯に公安委員会の指定ガーと出てこないものが多いのは、当事者が車両通行帯であることを認めているので争いになっていないというだけのこと。
争いになっていないことに対し、裁判官が勝手に事実認定をひっくり返すことは出来ないシステム。
だから弁論主義と言います。
要は当事者が弁論した内容だけが事実認定になるという裁判の原則です。

こういうことも分かっていない人だと、判例を読んで

いろんな人
いろんな人
公安委員会の指定がどうのこうのと書いていないから、複数車線であれば車両通行帯とみなしてもいいという判例です!

こういうトンデモ論に走る。
当事者が争っていないのに、裁判官は勝手にひっくり返せないわけです。

それこそ、何ら借金が無いにもかかわらず、「被告は原告から100万円借りているが返していない」「その通りである」なんてすれば、借金があるものとして事実認定されます。
たまにこういうのを使った詐欺事件もあって、例えばこういうのですね。

https://diamond.jp/articles/-/281116?page=3

訴えられた側が答弁書を提出しないと、原告の主張が全面的に認定されてしまうシステム。
反論しなかった=すべて認めたとなるので。
当事者間で認めている以上、裁判所はそれが真実かどうかには踏み込めない。

反論するときに「車両通行帯だけど事故を防ぐために左端に寄って走るべきだった」とするのと、「原告は車両通行帯だというが、車両通行帯ではないのだから左側端通行義務がある」と主張するのでは全く意味が違うわけです。
単にそれだけの事。

けどまあ、これ次第では過失割合は大きく変わるはずですが、弁護士さんも面倒だと思うのかこういうところまでは突っ込まないっぽいですね。
ちなみに車両通行帯のリストについては、管轄の警察署に聞けば開示してくれると思います。
隠すものでもないし。




コメント

  1. カモがネギしょってる より:

    開示してもらわないと分からないというが、そもそも法として機能してると言えるのか疑問ですね。身内の警察官ですら、これに限らず道路区分の誤認でやらかしていますし。歩道を自転車で走る警察官とかは当人のレベルが低すぎなので別問題でしょうけど。カーナビに全部情報を入れてもらえばなんとかなりそうですが、マップを作る人たちが発狂しそうです。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      実際のところでいうと、開示してもらわなくても判別できるようになってます。
      恐らく99%以上は。
      けど分からないのであれば、18条1項と20条1項を両方満たすために、第1車線の左端を走っていれば問題ありません。