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制動距離と判例。ロードバイクが停止できるまでの距離って??

自転車の制動距離と判例というのは、正直見たことがありません。
なかなか一般化しづらい要素でもあるし、そこまで真剣な検討がされているとも思えない。

車については判例があります。

停止距離と判例

例えば車道において、急に歩行者が飛び出してきたとします。
歩行者の飛び出しを察知してブレーキペダルを踏むまでの時間を空走距離、実際にブレーキを踏んでから停止するまでの距離を制動距離といいますが、両者を合わせて停止距離といいます。

判例は神戸地裁  平成14年3月25日。
横断歩道ではない車道上にいる歩行者に対し、車が時速約55キロで進行し死亡に至らしめたという事件です(業務上過失致死)。
かつ飲酒運転による道路交通法違反もあります。
ちなみにこの判例は差戻し審。

業務上過失致死なので、要は回避可能性があったのか?が争点となっているわけです。

イ(ア) 関係各証拠によれば,本件事故当時,被告人車両は,時速約55キロメートル(秒速約15.28メートル)であり,本件道路における摩擦係数は0.87前後であったと認められる。
(イ) そして,空走距離についてみてみるに,知覚反応時間は,一般に0.7秒程度から1.0秒程度と考えられており,被告人に最大限有利に考えたとしても,知覚反応時間を1.1秒とすれば十分であるから,その場合の空走距離(被告人車両の空走距離の最大値)は,約16.806メートル(55000/3600×1.1=16.806) …………①である。
そして,制動距離については,摩擦係数が0.87前後であるから,誤差をも考慮して,これも被告人に有利に0.86として計算すれば,約13.847メートル((55000/3600)2÷(2×9.8×0.86)=13.847) ………………………………………②
であるから,結局,停止距離は,長くても約30.65メートル(①+②) …………………………………③とみるのが合理的である。
(ウ) この点,弁護人は,空走距離算出のための知覚反応時間について,オルソンの論文(原1審弁8)等を援用して,障害物の存在を予期していない場合には,予期している場合と比べ,障害物の認知が遅れることを理由に,本件事故のように障害物の存在を予期していない場合の知覚反応時間は,上記1.1秒を最大値とする数値よりも長くなると主張する。そして,同論文は,実験の結果から,予期していない場合の知覚反応時間の95パーセントタイル値(100人中95人が反応できる時間)は,1.6秒程度であるとし,また,予期しない状況に直面した運転者の知覚反応時間として2.5秒を用いることを推奨している。
しかし,この論文における実験は,上り坂の頂上付近に高さ15センチメートル,幅91センチメートルの黄色の気泡ゴムでできた障害物を設置して行った(障害物の上端への平均視程距離は46メートル,被験者の多くの障害物を初めて見たときの速度は秒速12ないし14メートルであり,衝突するまでには3ないし4秒あった。)というものであるところ,論者自身もいうように,もっと脅威のある障害物やブレーキを踏むことしかできないようなものに対しては,知覚反応時間はさらに短くなることが予想されるというのであるし,また,実験の時に比べて障害物への平均視程距離がもっと短かかったり,被験者の進行速度がもっと速かったりしても,やはり知覚反応時間は短くなると思われるから,予期していない場合の知覚反応時間の95パーセントタイル値が1.6秒であるとの結果を本件事故の場合の知覚反応時間としてそのまま用いることはできない。また,2.5秒という数値は,アメリカの交通工学における高速道路設計時の可及的に事故を防止しようとの観点から推奨されている数値であって,論者によれば,疲労やアルコールといった要因が関与する場合を考慮した上で見積もったものであるから,本件のような具体的な事件における知覚反応時間を考える上で用いるべき数値とは到底認められない。上記の1.6秒や2.5秒といった数値を本件における被告人の知覚反応時間として用いるのが適当でないことは明らかである。
そして,前記(イ)で述べた,0.7秒程度から1.0秒程度という知覚反応時間は,障害物の存在を予期していない場合をも含めて考えられている数値であるところ,前記「自動車事故鑑定工学」の写し(原1審弁2)には,いくつかの知覚反応時間に関する実験の結果が紹介されていて,実験の方法によってその数値は様々であるが,そのうち,本件事故と最も状況の似た実験である,シミュレーターの視界に突然歩行者を飛び出させて測定した知覚反応時間は,素速いグループの平均値で0.83秒,のろい反応のグループの平均値で1.13秒であったというのであって,上記の数字とごく近い数値であることからすると,本件事故における知覚反応時間は,前記のとおり最大値として1.1秒を用いるのが相当である。
ウ そうすると,被告人車両の停止距離は被告人に最も有利に考えても約30.65メートル(前記(イ)の③)であると認められ,また,被告人車両と被害者の速度から考えて,被告人車両が衝突地点の30.65メートル北方(手前)の地点を進行していたときには,被害者は上記地点の範囲内で佇立あるいは歩行していたとみるのが相当であるところ,先に検討したように,被告人は,本件事故現場近くにあるバス停留所の街灯が消灯していたとしても,本件事故当時,衝突地点の30.65メートル北方(手前)の地点に至るまでには,上記地点のいずれかの地点あるいはその範囲内の地点において佇立又は歩行していた被害者をはっきりと発見できただけでなく,衝突地点から37.72メートル北方(手前)の地点においてすでに,被害者が上記地点のいずれかの地点あるいはその範囲内の地点に佇立していた場合には,それを発見することができたと認められるのであるから,それらの時点で直ちに急制動の措置を講じていれば,被害者に衝突することを避け,本件事故の結果発生を回避することができたことが明らかである。

神戸地裁  平成14年3月25日

シミュレーターでの実験では素早いグループの平均値で0.83秒、のろい反応の平均値が1.13秒としていて、一般に0.7秒程度から1.0秒程度というところから被告人にやや有利な1.1秒を採用している。
ちなみに【のろい】という表現はいかがなものかと思いますが、原文がこのようになっているのでそのまま引用しますw

次に仙台高裁 平成15年12月2日。
同じく業過の判例です。

しかしながら,空走時間は,一般には,普通人で0.6ないし0.8秒,運動神経の鈍い人や酒,薬の影響下にある人で1.0秒以上とされていることから,単に73歳という高齢を理由に2秒という時間を設定するのは明らかに不当であり,また,摩擦係数を0.5としているのも,一般の例に比較して妥当性を欠くといえるのであって,所論のいう被害車両の停止距離は,合理的な根拠を欠くものといわざるを得ない。
そこで,改めて,相当と考えられる数値として空走時間1.2秒,摩擦係数0.6を前提にした場合,被害車両の停止距離は,時速40キロメートルのとき約23.82メートル,時速30キロメートルのとき約15.89メートルと計算でき,上記衝突地点までの距離を考えると,被害者が被告人車両が発進したのを発見して直ちに急制動を掛けておれば,衝突を回避できたか,あるいは十分減速されていて,衝突しても死亡するに至らなかった可能性があることが否定できないのである。そうすると,本件衝突の発生あるいは少なくとも死亡という結果の発生については,被害者側の行動も寄与している可能性があることを否定できないといわねばならない。

仙台高裁 平成15年12月2日

普通人で0.6ないし0.8秒、鈍い人などは1.0秒以上とされていて、恐らくは高齢者ということもあって1.2秒で検討されています。
いろいろ見ていても、恐らくどれだけ注意を払って反射速度が速い人でも、0.5~0.6秒は掛かるかと思われます。
0.5秒なら相当早い部類になるかと。

歩行者等を発見する⇒ブレーキペダルを踏みこんで作動させるという過程には、反射とブレーキペダルが沈み込むまでの実効時間も必要なので、恐らくはこれ以上ここを縮めるというのは不可能とみていいかと。

仮に空走時間が0.5秒というかなり俊敏な人がいたとして、速度別に空走距離を計算するとこうなります(あくまでもブレーキを作動させるまでは等速という前提で)。

空走距離
時速20キロ2.78m
時速30キロ4,17m
時速40キロ5.56m

これが判例で採用されている1.1秒で計算するとこうなる。

空走距離
時速20キロ6.11m
時速30キロ9.17m
時速40キロ12.2m

空走時間がこれだけで、さらに制動距離は別になる。
たまに時速20キロで走行していても3m以内で止まれるとか寝言を語る人がいますが、物理的に不可能なので寝言でしかないわけです。

摩擦係数0.87、時速20キロで計算すると、制動距離は1.81m。
一般的と言われる摩擦係数0.7で計算すると、制動距離は2.25m。
これと空走距離を合わせると、どんなに俊敏な人でも時速20キロで5m弱~6m程度は必要になりますから。

仮に摩擦係数0.87という高めの数字を使い、超人的能力で空走時間が0.2秒だったとした場合には1.81+1.11なので3m以内とも言えますが、0.2秒でブレーキを作動させることは人類には無理でしょう。
摩擦係数は道路状態によって変化しますが、乾燥路面で用いられるのは多くは0.7。
超有利な状態&人類とは思えぬ素早さを持つ人を想定して計算すれば3m以内というのも計算上は可能ですが、当然夢の世界でしかない。

ただしこれは相当な注意を払って、相当俊敏な能力を持つ人が出来るか否かレベルの話なので、実務上ではそこまで求めているわけではないとも言えます。
法律上、罪となるにはある程度一般化した基準の下で回避可能性があったかどうかが問われるので、上位層に振った基準を採用して回避可能かどうかという検討はされない。
人の能力には限界があることを認めた上で、注意義務を払っていたかどうか、回避可能性があったか否かを以って犯罪の成否が決まるのは法治国家では当たり前のことで、俺が優れているからほかの奴らは怠慢だ!というのは一歩間違うと差別にもつながりますし。

他人が出来ないようなプレイを出来たとしても、それを以って他人に強いるのはパワハラみたいなもん。

ロードバイクの制動距離

自転車の制動距離というのは一般化されているとは思いませんが、こちらのサイトさんでは恐らくママチャリだと思いますが目安を示していらっしゃいます。

http://www.minami-morimachi.com/sites/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E3%83%BB%E4%BA%A4%E9%80%9A%E4%BA%8B%E6%95%85%EF%BC%AE%EF%BC%A5%EF%BC%B4/%E8%87%AA%E8%BB%A2%E8%BB%8A%E4%BA%8B%E6%95%85%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%B3%95%E7%9A%84%E8%AB%B8%E5%95%8F%E9%A1%8C/another04.html

ロードバイクの場合、タイヤ自体の性能とブレーキキャリパーの性能が関わるので一般化することは難しいですが、勝手な印象としては空走距離については車と違って手で操作する分、若干速くなるのでは??と思う要素もあるし、甘く見て上ハンドルを握っていた日にはハンドルの握り替えも必要になるので結局はブレーキレバーに指を添えていたかどうかに依存するかもしれません。

ブレーキレバーに指を添えていたかという要素と、人それぞれの反射能力、道路上の注意予見義務の払い方などによって空走距離は変わるかと。

ブレーキレバーも握り始めはいわゆる遊びの部分なので、あとはセッティング次第でも変わりうる。
以前も書いたことがありますが、結局のところ自転車の制動力を生むのはタイヤと地面の摩擦なので、ブレーキキャリパーのグレードがよくてもタイヤがダメダメならスリップするだけで意味がありません。

ブレーキが効かない!という悩みはよく聞く話です。 特に安い完成車を買った場合、ブレーキも低質なテクトロとかボントレガーとかメリダオリジナル...

そういう意味では23cよりも太い28cとかのほうが制動力は高そうに思いますが、ぶっちゃけ空気圧次第でもそれなりに体感は変わるので(当然データはありません)、どちらにせよ急制動した際の停止距離(空走距離&制動距離)は知っておいたほうがいい。
具体的に何メートルというところではなくて、だいたいあの辺なら止まれる程度の目安でいいので。
ブレーキング開始から停止するまでの距離は測れますが、空走距離ってシミュレーターみたいなのが無いと反応速度は測れない。
目安になるとしたら、車の0.7~1.0秒あたりになるのかもしれませんが、足と手でも意味合いが変わるので、これもいいデータは見つからないのが実情。

以前このような判例を挙げました。

ちょっと前に取り上げた件。 この記事で取り上げたブログさん、ほかにも判例について解説(?)をしているようなので...

時速約25キロで進行する自転車と、逆走自転車の衝突事故です。
時速25キロで進行中に、8m先の逆走車を発見して衝突した事案ですが、上で挙げたサイトさんの基準でいえば、ギリギリ停止できるかもしれないし出来ないかもしれないというあたりでしょうか。
ここはまあまあ難しいところですが、そもそも前を見ていればもうちょっと早く逆走自転車が斜め横断してきたことに気が付くので、そのような状況でもきちんと前を見て適宜速度を調整するというのは当たり前の義務と言えます。

逆走自転車が悪いと言いたいところですが、民事で争っているのは道交法違反だけではなくて、民法による過失ですから。
過失というのは予見できることへの回避義務違反。

これはロードバイクに限らずの話ですが、自分がコントロールできる範囲の速度で乗るというのが絶対条件。
峠の下りで爆死する人もいますが、自爆系落車であってもやはりコントロールできていなかったことになるわけで、自分のコントロールできる範囲を知らないといけない。

ちなみに法26条の車間距離保持義務は自転車にも適用されますが、法律上は先行車が突如速度ゼロになったことを想定して停止できるだけの車間距離を求めています。
なのでこの制動距離がそのまんま当てはまるわけですが、実務上は取り締まりしている対象ではないというところでしょうか。
車一台分の長さが5m弱、上のサイトさんの基準でいうと乾燥路面、時速30キロでは車2台分以上が求められているとも取れますが、ロードバイクについてこのような車間距離を求めていない理由は・・・何となく想像つきますがやめておきますw

とりあえずは安全運転でどうぞ。
見知らぬ人が後ろでべた付きしてくることもあるのですが、そんなのは先に行かせればいい。
先にイッてもらうことは男として最高の喜びです。




コメント

  1. カモがネギしょってる より:

    ママチャリやMTBは余り関係無いですが、ロードでブラケットポジションだと握力がない人は本当にブレーキが効かない。
    特にシマノの場合。スラムはどうでしょうか?
    ちなみにカンパは自転車を貸すとブラケットポジションでもブレーキがちゃんと効くと驚かれます。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      最近のシマノのリムブレーキってむしろ効きすぎると思っているのですが、カンパだとまた違うんですかね?
      11速化以降、やたらとガツンと効きすぎるのでむしろ好きではないのですが・・・
      スラムは分かりません。

  2. カモがネギしょってる より:

    グラフにするとカンパの方は初期はなだらかで、段々角度がきつくなる感じです。シマノは最初にドンと効いて後半なだらかになるように感じます。同じブレーキ力ならカンパの方が力が要らないと思います。シマノは11速前期までしか分からないので今は違うかもしれません。STIのピボット位置が変わりましたし。車が好きな人にはマツダ車のアクセルとトヨタ車のアクセルみたいな違いと説明しています。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      最近のシマノブレーキ、ガツンと来る感じは好きになれないですw
      10s⇒11sにしたときに思い知りました。
      カンパのブレーキってスピードコントロール重視なのかなと勝手に思っているのですが、シマノのブレーキは今はストッピング重視という感じがします。

      • カモがネギしょってる より:

        カンパはキャリパーがしなる設計なのかしなっちゃうのか分からないですが、ブレーキが効き初めてからのコントロール幅(レバーストローク)が広いと思います。特に下ハンで差が出る感じです。