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安易に使われる安全運転義務違反。

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道路関係の揉め事(?)の際、安全運転義務違反って安易に使われ過ぎていると思う。

(安全運転の義務)
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

この条文、あまりにも抽象的な規定なため、このような判示もされています。

ところで安全運転義務は具体的義務規定でまかないきれないところを補充する意味で設けられたものであるが、その規定の仕方はきわめて抽象的で明確を欠き(特に同法第七〇条後段についてその感が強い)、それ故に拡大して解釈されるおそれも大きい。(道路交通法立法の際に衆参両院の各地方行政委員会は安全運転の一般原則に関する規準の設定を付帯決議をして要望している。)従つてその解釈にあたつては罪刑法定主義の趣旨に則り、厳格に解釈すべきであり、拡大して解釈、適用することを厳に慎しまなければならない。右のような趣旨から、同法第七〇条後段により可罰的とされるのは、道路、交通、当該車両等の具体的状況のもとで、一般的にみて事故に結びつく蓋然性の強い危険な速度方法による運転行為に限られるものと考える。(具体的に物件事故が起きたからといつて常に安全運転義務違反があるといえないことはいうまでもない。)

 

昭和42年1月15日 いわき簡裁

法70条違反の罪の規定と右各条違反の罪の規定との関係は、いわゆる法条競合にあたるものと解するのが相当

 

昭和46年5月13日 最高裁

以前、大変んなドヤ顔でこのように語っている方がいました。

読者様
読者様
ロードバイクで車間距離を詰めてトレイン走行するのは安全運転義務違反!

70条はほかの規定で補いきれない部分を補完する役目なので、他の条文で違反になる場合には70条は成立しません。
これを法条競合と言います。

本条違反の過失犯は、物損事故についての過失ではなく、他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転したこと自体について過失が存ずることが必要であり

 

昭和46年10月14日 最高裁

本条の故意犯は、事故の具体的行為が、他人に危害を及ぼすおそれがあるかもしれないことを認識しながら、それを否定しなかった場合に成立する

 

昭和43年11月18日 松江簡裁

中には、

読者様
読者様
法定外の手信号を出すのは安全運転義務違反だ!

こんなのは当然成立しない。
いったい誰にどんな危害を及ぼす恐れがあるのやら。

安全運転義務違反

安全運転義務違反は、以下の状況の認定が必須要件です。

 

・具体的な状況
・客観的に危険を及ぼす恐れがある速度と方法

 

さらに言うと、安全運転義務違反には、故意犯(119条1項9号)、過失犯(119条2項)、妨害運転罪(117条の2第6号)があるので、それぞれ別に検討されるもの。
妨害運転罪については、まだ創設されて間もないので判例自体もほとんどありません。
判例タイムズ1973年1月25日号は、現役裁判官が道路交通法の解説をしているのですが、古い書籍ながら勉強になる。

過失による法70条違反の場合、「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなかった」ということは、被告人が何らかの過失によって陥った結果であるべきで、過失の内容であってはならないのに、1審判決の判示は、これを過失の内容としているわけで、本来の過失にあたる事実を確定していない誤りをおかしていることになろう。

 

判例タイムズ1973年1月25日号、p238

要は、【対向車の動向が気になり前方不注視の結果】⇒「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなかった」とか、【エロ本を読みながら違うレバーを握りしめていた結果】⇒「ハンドル操作が確実に出来ず」(70条前段)「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなかった」(70条後段)みたいに、何らかの過失を認定し、その結果として安全運転義務に違反したと過失内容を明らかにしない限りは、過失による安全運転義務違反が成立しないということ。
まあ、判決文にエロ本ガー!とか書かれたら末代までの恥ですし、あってはならないことですけど。

 

こういうの、古い判例だと結構細かく認定しています。

故意による安全運転義務違反の事実と過失による安全運転義務違反の事実とは構成要件が別個であるのみならず、後者には前者にない注意義務違反という別の要件が加わり、被告人の防禦の対象に差異が生ずるものであり、ことに、本件においては、検察官において故意犯である旨の明確な釈明をなし、これに沿って審理が進められてきたものである

(中略)

道路交通法七〇条は、自動車等の運転が、車両、道路等の状況に応じ臨機に応変の処置を必要とするというその特性にかんがみ、同法各本条の具体的義務規定では賄い切れない危険な行為を補足し禁止するための補充規定であるから、同七〇条所定の危険な行為によって人損・物損等の被害が生じた場合であったとしても、その被害はあくまでも一個の事情であって同条違反の罪の成立要件ではなく、同条の構成要件は同条所定の危険な運転行為自体と解すべきことは多言を要しないところである。したがって、過失によって同条所定の危険な運転行為が行われた場合における過失とは、そのような危険な行為によって生じた人損・物損等の結果と関連させて考えるべきではなく、危険な行為それ自体との関連で考えるべきであって、その過失内容は、そのような危険な行為に陥ったその原因となる行為について求めるべきである。このように、同条の過失犯は、過失によって同条所定の安全運転義務に違反した運転行為をした場合に成立するのであるから、同条前段・後段ともに過失犯の成立を認めた原判決としては、罪となるべき事実として、同条前段及び後段に該当する具体的な運転行為の他、それが過失によって行われたことを、過失内容を具体的に明示して認定しておく必要があるというべきである。しかるに、原判決の認定判示するところによれば、原判決は、確かに、そのような運転行為及びそれが過失によるものであることを示しているものの、それは「過失により」という簡潔な表現に過ぎないうえ、その運転行為自体をもって過失の内容としたため、同条違反の過失犯に要求される注意義務の内容及びそれに違反した具体的行為が全く明らかにされておらず、この点において、以下に述べるとおり、理由不備の違法があるといわざるを得ない。

 

大阪高裁 平成2年1月25日

どのような過失があって、その結果として「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなかった」を認定しない限りは、70条の過失犯として処罰できないからちゃんとやれという判示です。
その結果、この判例では原審に差戻しとなっている。

 

今って基本は反則金制度で行政処分なので、安全運転義務違反罪かどうかの判例ってあまりないと思います。
古い判例だと、真剣にといったらアレかもしれないけど、どのような過失があった結果、安全運転義務に反したのかを検討して違法かどうかを検討している。

 

一応、犯罪ですからね。

 

妨害運転罪となると、自転車でひょっこり飛び出す方の判例が裁判所HPにも出ています。

第2 令和2年3月18日午後7時9分頃,自転車を運転し,埼玉県上尾市(以下略)付近道路を桶川市方面からさいたま市方面に向かい進行するに当たり,同道路の車道を後方から時速約49ないし51キロメートルで同一方向に進行してきたB(当時49歳)運転の普通乗用自動車に対し同道路左側から右に急転把して時速約21ないし22キロメートルで同車の直前の車道に進出し,前記B運転車両に自車を接近させ,もって他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転し

第3 自転車を運転し,C(当時40歳)運転の準中型貨物自動車の通行を妨害する目的で
1 同年9月27日午後5時5分頃,千葉県流山市(以下略)付近道路を千葉県野田市方面から千葉県柏市方面に向かい進行するに当たり,同道路の車道を後方から時速約23キロメートルで同一方向に進行してきた前記C運転車両に対し同道路左側から右に急転把して時速約20ないし27キロメートルで同車の直前の車道に進出し,同車に自車を接近させ,他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転し,

2 前記日時頃,千葉県流山市(以下略)付近道路を千葉県野田市方面から千葉県柏市方面に向かい進行するに当たり,同道路の車道を後方から時速約23キロメートルで同一方向に進行してきた前記C運転車両に対し同道路左側から右に急転把して時速約20キロメートルで同車の直前の車道に進出し,同車に自車を接近させ,他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転し,

3 前記日時頃,千葉県流山市(以下略)付近道路を千葉県野田市方面から千葉県柏市方面に向かい進行するに当たり,同道路の車道を後方から時速約31キロメートルで同一方向に進行してきた前記C運転車両に対し同道路左側から右に急転把して時速約20キロメートルで同車の直前の車道に進出し,同車に自車を接近させ,他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転し,
もって同人運転車両に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法により運転し

 

さいたま地方裁判所 令和3年5月17日

安全運転義務違反での起訴ですが、赤線で引いたところが「具体的状況」、イエローで引いたところが「客観的に危険を及ぼす恐れがある速度と方法」を指してます。
ちなみに「第2」については故意の70条違反(119条1項9号)、「第3」については妨害運転罪としての70条違反となっています。

 

この方については映像証拠がありますし、通常の自転車運転とは異なる動きなので故意であることも明白、第3のところは同じ日に連続してやりまくっているので妨害意思は明白なんだろうなと思われます。
70条違反は犯罪なので、具体的状況と、その状況下で客観的に危険を及ぼす速度と方法を認定して初めて成立する。
なので巷で言われるところの

読者様
読者様
安全運転義務違反だ!

こういうのって実はほとんど成立しないと思います。
事故った結果=安全運転義務違反というのも間違い。
あくまでも走行方法が危険を及ぼす恐れがあったかどうかの話なので、どうしようもない避けようもない状況で起こった事故とかは、安全運転義務違反ではない。

 

当然ですがこういうのも無し。

読者様
読者様
法定外の手信号を出すのは安全運転義務違反だ!

民事での安全運転義務違反

上で書いたのは刑罰としての70条違反ですが、民事になるともうちょっと幅広い概念で捉えられています。
先日も書いた民事での自転車と車の事故の判例。

 

車両通行帯でも自転車は左端を走ることが通常とする判例。
まあ、何度も書いているように一般道には車両通行帯なんてほぼ無いのですがw 車両通行帯は、交差点手前か、専用通行帯くらいしかありません。 そのことは置いといて、自転車と車の事故の判例がありました。 片側2車線の車両通行帯での事故 判例は福岡地...

 

控訴人が挙げる上記要因は、いずれも推測の域を脱していないし、仮に天候、道路状況等の要因によって、自転車のハンドルを確実に操作出来ない状況に至っていたのであれば、自転車の搭乗(運転)自体を差し控えるべきである(道路交通法70条)

 

福岡高裁 令和2年12月8日

これは自転車が、横風でふらついた結果として進路変更したのでは?という主張に対するものです。

大雨や強風などの時には、自転車に乗るべきではないということを70条として記してあるわけですが、逆にそのような悪天候の日に自転車に乗ったから即座に違法なのかというとそんなわけもない。
なので民事でいうところの安全運転義務というのは、だいぶ幅広い概念になるのかなと。
以前挙げた国家賠償訴訟の判例でも似たようなのがありました。

本件事故の発生の原因が原告の道路交通法違反の通行方法という道路交通法無視の態度にある以上、本件事故の発生と本件中央分離帯に視線誘導線の設置がなかったこととの間には何らの因果関係もなかったことになる。その意味でこのような原告自身の責任による損害を、本件道路の設置又は管理の瑕疵を主張して、市民の税金がその支払原資となる国家賠償に転嫁するような本件請求は、到底認めることができない

福岡高裁 平成18年6月18日

判例は、交差点で右折する際に中央分離帯に乗り上げたというもののようですが、国家賠償請求しているのは、右折に際する視線誘導線がないことが道路の瑕疵に当たると主張しているもの。
この事故であった車の違反は、交差点右折方法の違反(徐行義務、34条2項)と、豪雨で視界が悪いにもかかわらず注意を怠った安全運転義務違反(70条)となっているようです。

 

刑事罰としての70条違反、反則制度としての70条、民事での70条違反って、その範囲が異なると思うのですが、イメージ的にはこんな感じでしょうか。

反則制度では警察官が現認で切符を切るわけですが、それが違反なのかは争うことも出来るので、裁判してみないと分からない。
なので刑罰としての70条違反は、反則制度としての70条違反よりも狭くなるだろうと思いますし、民事はむしろ広い概念で捉えられる傾向にある。

 

で、ネット上でこれは違反だの、これは違反ではないだの言い争いみたいなのを見かけますが、安全運転義務違反って刑罰としては実は結構狭い範囲なのかなと思ってまして、それでいて民事上の注意義務としてはかなり広い。
刑罰として語っているのか、民事上の注意義務として語っているのかすら怪しいまま議論すれば、永久に噛み合うことって無いと思うんですね。

 

それこそこれ。

控訴人が挙げる上記要因は、いずれも推測の域を脱していないし、仮に天候、道路状況等の要因によって、自転車のハンドルを確実に操作出来ない状況に至っていたのであれば、自転車の搭乗(運転)自体を差し控えるべきである(道路交通法70条)

 

福岡高裁 令和2年12月8日

台風の日に自転車に乗った瞬間に違法なのか?というと当然そんなわけもない。
台風の日に自転車に乗った瞬間に検挙されるなんてバカな話はないので。
けど事故ったときには注意義務違反として取らえられる余地もあるということなので、民事でいうところの安全運転義務というのは自己防衛も多分に含んでいるのが実情。

 

執務資料は道交法の解説書ではかなり信頼性が高いのですが、やや怪しい表記や判例が出てくる理由も、刑事と民事を区分することなく判例を使っているからではないかと思うのですが。
27条の追い付かれた車両の義務についても、条文では一時停止を求めているようには思えませんが、民事では一時停止義務まで認めているものもある。
これは単に事故回避義務なんだろうなと思うけど、判例で27条違反としている以上、そのまま使っているのかもしれません。

 

ネット上での争いごとを見ていても、このあたりを区別することなく判例を挙げてくる人とかいるわけで。
こういうあたりが道交法のややこしさと、解釈が割れる一因になり得るのかなと思うのですが。

 

古い道交法違反の判例を見ていると、安全運転義務違反で起訴したけど無罪になっているものとか見かけます。
きちんと急ブレーキを掛けて停止しようとしたけど衝突した、みたいな事例で安全運転義務違反罪を問うている判例とかもあるのですが、いやいや、誰が頑張ってもこの状況では衝突するから無罪でしょみたいな。

 

とりあえず言えるのは、法律関係を知っておくことは重要だとして、事故らないようにいろいろ気をつけてロードバイクに乗りましょうということだけです。
個人的には、刑罰として違反ではないからいいんだ!という考え方は好きではないですが、ネット上でお粗末な議論が勃発する原因って、刑罰としての違法性と、民事での注意義務を分けることなく議論が始まるところに問題があると思っているので。

 

結構いい加減なのかも

10キロおじさんという、やたら低速で車を運転する人がいることをご存じでしょうか?
後方から車が近づいてくると低速になり進行妨害をすることで有名な方です。

 

これ、一般道ではどのような違反が成立するかというと、追い付かれた車両の義務(27条)くらいしかないんですね。
実際、弁護士さんが解説しているものでもそうなっている。

 

ただし違う弁護士さんが解説しているものだと、安全運転義務違反(70条)の妨害運転罪になる可能性もあるとしているのも見かけます。
先行車がノロノロ走っていても、後続車に危害を及ぼす恐れはないので、さすがにムリがある。
急ブレーキの連続で妨害しているというなら、24条の妨害運転罪(117条の2の2第11号ロ)になる可能性はあると思いますが、ノロノロ10キロで走っているだけの車が、後続車に危害を及ぼせないですから。

 

よく、弁護士が書いたかどうか、などとよくわからないことを言いだす人がいますが、誰が書いたものでも批判的に検討する癖付けが出来ない人って、どこか間違う。
それこそ、

読者様
読者様
ロードバイクで車間距離を詰めてトレイン走行するのは安全運転義務違反!
読者様
読者様
法定外の手信号を出すのは安全運転義務違反!
読者様
読者様
ロードバイクで車間距離を詰めてトレイン走行し事故を起こせば危険運転致死傷罪!

これら全部間違い。
危険運転致死傷罪は自転車には適用できませんし。

 

けどこういう間違いを平然と述べて、個人だから間違えても問題ないなどと言い訳に走る人もいるので、困ったもんだなと思う。
キープレフトは軽車両の走る分を空けて、車線(車道ではなく)の左側に寄ることだと思っている人もいるし、それでいて自称道路交通法に詳しいらしいけど、このレベルまで来ると目も当てられない。
よほどわかってないんだろうなと・・・
個人でも大手でも、責任が無い人がテキトーなことを流すからインターネットの信頼性を落とすのですが、落としている張本人に自覚が無いとどうしようもない。




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