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古い判例と警音器の使用。

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ちょっと前にも書きましたが、

 

ロードバイクに乗っていて、クラクションを鳴らされることの意味と意義。
ロードバイクに乗っているときに、後続車からクラクションを鳴らされることってありますよね。 クラクションの使用については、道路交通法では道路標識により「鳴らせ」となっている場合を除けば、「危険回避のためやむを得ない場合」に限定されます。 (警...

 

古い判例を見ていると、「自転車を追い越す時にはクラクションを鳴らして左側端に退避させる義務を怠った過失」などと判示されてるものは普通にあります。
民事の判例では、平成になってからの判例でもありますが、刑事の判例でも業務上過失致死の判例で同様の記述はある。

 

一例。

原判決書によれば、原判決がその理由中罪となるべき事実として業務上過失致死罪の有罪事実を認定判示していることが認められる。

これに対し所論は、要するに、(一)原判決は、同一方向に向う自転車を追い越す場合被告人は警音器の吹鳴義務、自転車を進路から更に左側に避譲せしめる義務、その他交通の安全を確認する義務をすべて怠つたように認定しているが、

 

東京高裁 昭和35年(う)第1663号

クラクションを鳴らして自転車を左側に避譲させる業務上の注意義務を怠って追い越しして事故を起こすと有罪だそうです笑。
もちろん今はそんなことはない。

 

一応これ、理由があってこういう判例なのです。

道路交通取締法

現行の道路交通法は昭和35年に出来た法律で、それより前には道路交通取締法というのがありました。
道路交通取締法施行令には、以下の条文があります。

第24条(追越の方法)
2、前項の場合においては、後車は、警音器、掛声その他の合図をして前車に警戒させ、交通の安全を確認した上で追い越さなければならない

つまり、昭和35年までの道路交通取締法においては、追い越す際にクラクション鳴らすのが義務だったんです笑。
今の時代に同じことをしたら、基本的にはトラブルになります。
ヤクザ様の車を追い越す時にクラクション鳴らしたりしたら、ありがたいお説教モードに突入しかねません。

 

なぜか「掛声」「その他の合図」もありますが、「うぇーい」とかでも合法だったのかもしれません。
「その他の合図」に屁が含まれるかは謎ですが、先行車が感知する屁というと、一般的な音量では到底足りない。

 

昭和35年の道路交通法制定により、追い越しの規定が以下のように改定されました。

(追越しの方法)第二十八条 車両は、他の車両を 追い越そうとするときは、その追い越されようとする車両(以下この条及び次条において「前車」という。)の右側を通行しなければならない。
2 車両は、路面電車を追い越そ うとするときは、当該車両が追いついた路面電車の左側を通行しなければならない。ただし、軌道が道路の左側端に寄つて設けられているときは、この限りでない。
3 前二項の場合においては、追 越しをしようとする車両(以下次条において「後車」という。)は、反対の方向からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、前車又は路面電車の速度 及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

追い越す際の、警音器を鳴らす義務が削除されました。

 

古い判例見ると、追い越しの場合は警音器吹鳴義務があるけど、追い抜きの場合には吹鳴義務がないとしているものもあります。

さて本件の場合の如く先行車と後走車の車間間隔が十分であり双方とも自己の通行区分を守り両車の速力の差によつて「追抜き」が行われる場合にも公訴事実の如く後走車を運転する被告人に警音器吹鳴並びに先行車の動向に応じて臨機の措置をとり得る程度の減速措置をなすことが業務上の注意義務になるか否かについて考えるのに、所謂「追越し」の場合は後走車はその進路を変更して先行車を追い抜くのであるから一般的に言つて先行車との車間間隔が十分とれず両車間の併進関係が複雑であるから後走車は警音器を吹鳴して「追越し」運転に移ることを先行車に警告し先行車に用心させて後「追越し」をなすべきであり先行車が後走車の「追越し」を認識するまでは先行車の動向に応じた臨機の措置をとり得る程度に減速すべきであるが「追抜き」の場合は一般に両車の併進関係は単純であり特に本件の如く車間間隔が十分の場合は特別の事情のない限り警音器の吹鳴の義務もなく減速措置をとる義務もないと考えられる。若しこのような「追抜き」の場合も警音器吹鳴の注意義務ありとすれば即ち道路交通法第五四条第二項但書の危険を防止するため止むを得ない場合と解しなければならないとすると道路交通法が騒音防止のため特に新たに加えた同法第五四条第二項本文の規定が無意味になり国民は再び警笛騒音の苦悩をなめることになる

 

宇都宮簡裁 昭和38年(ろ)第40号

この判例、道路交通法制定後なのでなぜこういう判決なのかは調べてもよくわからなかったのですが、たぶん、昭和39年以前は旧道路交通法18条の優先関係があったからじゃないかな?と思います。
業務上過失致死傷の注意義務を争った判例なので、54条2項でいう「危険防止のためやむを得ない場合」という解釈なのかもしれません。

(通行の優先順位)
第十八条 車両相互の間の通行の 優先順位は、次の順序による。
一 自動車(自動二輪車及び軽 自動車を除く。)及びトロリーバス
二 自動二輪車及び軽自動車
三 原動機付自転車
四 軽車両

この規定は昭和39年に削除されました。

 

上の判例では「道路交通法が騒音防止のため特に新たに加えた同法第五四条第二項本文の規定が無意味になり国民は再び警笛騒音の苦悩をなめることになる」とありますが、そりゃ追い越す際や追い抜きする際にクラクション鳴らす義務があったなら、クソ迷惑です笑。
この時代、車線という概念もあまりなかったことも影響しているのかも。

 

昭和40年代の業務上過失致死傷の判例だと、さすがに変わって来てます。

自動車運転者が、警音器の吹鳴義務を負う場合は、法54条1項及び2項但書の場合に限られ、右各場合以外に警音器を吹鳴することは禁止されているところ、本件事故現場付近は、同法54条1項によって警音器を吹鳴すべき場所でないことは明らかである。また同2項但書によって警音器を吹鳴すべき義務を負担する場合は、危険が現実具体的に認められる状況下で、その危険を防止するため、やむを得ないときに限られ、本件におけるように先行自転車を追い抜くにあたって、常に警音器を吹鳴すべきであるとは解されず、追い抜きにあたって具体的な危険が認められる場合にのみ警音器を吹鳴すべき義務があるものと解される。

 

奈良地裁葛城支部 昭和46年8月10日

この判例はふらつきもなく進行する自転車を追い抜くときに、自転車が突如右折開始した結果事故が起きた判例。
クラクションを鳴らす業務上の注意義務を怠ったという理由で起訴されましたが、ふらつきもなく進行する自転車には吹鳴義務がないとして無罪。

 

次の判例。
こちらも業務上過失致死の判例ですが、先行自転車が50センチ幅で左右にふらつきながら進行していたのを追い越す際に、クラクションを鳴らすべき業務上の注意義務があったとしています。

約62メートルの距離をおいた時点において、すでに自転車に乗つた被害者を発見し、しかもその自転車が約50センチメートル幅で左右に動揺しながら走行する自転車を追尾する自動車運転者として、減速その他何らかの措置もとることなく進行を続けるときは、やがて同自転車に近接し、これを追い抜くまでの間に相手方がどのような不測の操作をとるかも知れず、そのために自車との衝突事故を招く結果も起こりうることは当然予見されるところであるから、予見可能性の存在は疑うべくもなく、

(中略)

被告人は、右のように、被害者の自転車を最初に発見し、その不安定な走行の状態を認識したさいには、これとの間に十分事故を回避するための措置をとりうるだけの距離的余裕を残していたのであるから、原判決判示にかかる減速、相手方の動静注視、警音器吹鳴等の措置をとることにより結果の回避が可能であつたことも明白であり、所論警音器吹鳴の点も、法規はむしろ本件のような場合にこそその効用を認めて許容している趣旨と解される。

 

東京高裁 昭和55年6月12日

古いクラクションに関する判例があまり意味を持たない理由は、古い時代にはそもそも追い越す際にクラクションを鳴らす義務があったとか、車両の優先順位が決まっていたとか、そういった理由から成された判示。
昭和39年以前に起きた事故の判例は、クラクション関係についてはまず役に立たないと思います。

 

追い越す前にクラクション鳴らして自転車を左側に退避させる業務上の注意義務が、昭和30年代にはあったわけですから。
今の時代に同じプレイをしたら、トラブルどころの騒ぎではない。

時代背景

判例を検討する際に、古い判例だと特にですが、その当時の法律まで確認しないと意味を取り違えてしまうだけ。
令和の時代では、クラクションは相当制限されていると考えるべき。

 

ただまあ、比較的最近の判例でも、自転車を自転車が追い越す時にベルを鳴らさなかったことを「過失」にしている判例はあります。
民事だと、事故が起きたという結果論でしか見てない気がする。
ちなみにこの判例は後日書きますが、追い越し中に先行自転車が突如進路変更した事故。

 

いまだに自転車を追い越す時には、クラクション鳴らしてから追い越す車もいます。
先行自転車に何らかの違反がある状況なら、クラクションを鳴らすことは違反とは言えない可能性が高いですが、何ら違反もなく左側端を通行している自転車に鳴らすのは違反。
判例は、その当時の法律と照らし合わせて検討しないと意味を取り違えて失敗すると思いますが、昭和30年代の追い越しってやかましい時代だったのですね、笑。
警音器のほか、「掛声」も認められていたようですが。

 

何ら違反してないのに自転車にクラクション鳴らしてから追い越そうとする車がいたら、

管理人
管理人
追い越し時のクラクション吹鳴義務は、昭和35年に廃止されてますよ。笑。
古い法律に縛られてないで、今の時代を生きろよ。

と諭してあげると、「わかってる漢」なのかもしれません。
そもそも何歳なんだ?という義務はありますけど。

 


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