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刑事と民事の差。

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ちょっと前に、信号がない横断歩道を横断して事故になった判例(広島高裁)を取り上げたと思いますが、

 

横断歩行者に注意義務違反。探せばいくらでもあるとは思うけど。
先日の記事について追記。 横断歩道事故で歩行者に過失 横断歩道事故の場合、赤信号無視以外なら「原則」は歩行者が無過失ですが、歩行者に注意義務違反を認めることはあります。 本件事故当時降雨中であつたため、控訴人は右手で雨傘を差し左手で手提かば...

 

これについてご意見を頂きました。

読者様
読者様
執務資料に書いてある東京高裁46年10月27日判例によると、「歩行者の横断に若干の慎重さを欠く点(たとえば左右をよくみないで横断をはじめたなど)が認められるとしても、加害者の過失の存否に影響を及ぼすものではない」とあり、広島高裁の判例とは見解が違うように見えます。

うーん。
意味が違います。

刑事と民事の差

これですよね?

本件事故当時降雨中であつたため、控訴人は右手で雨傘を差し左手で手提かばんを持つて(または抱えて)歩行し、信号機の設置されていない本件事故のあつた横断歩道の手前で、横断のため左右を見たところ、南方から被控訴人車が北進しているのに気づいたが、かなりの距離があつたので歩道(一段高い)端附近に横断歩道に向つて立ち止まり、右のように右手に傘を持ち左手にかばんをかかえながらライターを取り出して煙草に火をつけた後、左右の交通の安全を確認しなくても安全に横断できるものと考えその確認をしないまま、横断歩道上を横断し始め、約1.3m歩いたとき被控訴人車左前方フエンダー附近に控訴人の腰部を接触し、本件事故を起した

 

以上のとおり認められる。もつとも、乙第12号証(控訴人の供述調書)には、横断前に一度左右を見たことについて述べていないが、原審控訴人本人尋問の結果では事故のシヨツクで思い出せなかつたと述べており、これと対比すると右認定を妨げるものではなく、他に右認定を左右する証拠がない。

 

横断歩道であつても信号機の設備のない場合歩行者は左右の交通の安全を確認して横断すべき注意義務(事故を回避するための)があることは多言を要しない。右事実によると、控訴人は一旦横断歩道の手前で左右を見て被控訴人車がやや離れた南方から北進中であり直ちに横断すれば安全に横断できた状態であり、その時点では控訴人は右注意義務を果したといえないわけではない。しかし、控訴人はその直後に歩道端に横断歩道に向つて立ち止まり、右手に傘を持ち、左手でかばんをかかえながらライターを取り出して、煙草に火をつけたというのであるから、通常の場合よりも若干手間取つたことが考えられ、その時間的経過により、被控訴人車がさらに近づきもはや安全には横断できない状態になつていたことが十分に予測できたものといえるから、控訴人が横断し始めるときには、すでに、歩道に立ち止まる以前にした左右の交通の安全の確認では不十分で、さらにもう一度左右の交通の安全を確認した後に横断を始めるべき注意義務があつたものというべきである。しかるに、控訴人は歩道に立ち止まる前にした左右の交通の安全の確認だけで安全に横断できるものと軽信し、あらためて左右の交通の安全を確認しないまま横断し始めた過失があり、それが本件事故の一因となつているものといわざるをえない。本件事故についての控訴人、被控訴人双方の過失の態様、程度を比較し検討すると、控訴人の過失割合は10%とみるのが相当で、これを損害額算定につき考慮すべきものである。

 

広島高裁 昭和59年(ネ)第103号

たぶん根本的なところを誤解していると思いますが、東京高裁の判例は業務上過失致死容疑の刑事事件。
犯罪の成否を決めるものです。

 

広島高裁の判例は民事。
民事の過失割合を決めるものです。

 

刑事事件は被告人の行動が犯罪なのかを決めるものですが、民事事件は事故によって失われた利益を当事者間でどのように弁済するかを決めるもの。
刑事事件は一方的に被告人の過失を追及する構造ですが、民事事件は原告と被告の双方に落ち度がないかを認定するシステムです。

 

たぶん根本的なところを誤解していると思いますが、刑事事件は被告人=加害者ですよね。
加害者の過失について検察官が犯罪事実を立証していく仕組みなので、被害者は関係ないのです。
被害者に落ち度があっても、犯罪の成否に影響しないと判示したのが東京高裁。
民事責任として被害者にも過失があるとして弁済額を減らした(過失相殺)のが広島高裁。

 

単にそれだけの意味です。

 

ちなみに東京高裁の判例、一部を抜粋します。

被告人は、自動二輪車を運転して原判示の横断歩道直前付近にさしかかつた際、右横断歩道によつて横断する歩行者の有無およびその動静を確め、横断歩道上の交通の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、前方を注視しないでその安全を確認することなく漫然進行した過失があつたことは十分認めることができ、一件記録を検討し、当審における事実取調の結果に徴しても、事実誤認を疑わせるに足りるものは存しない。そして、原判決が前記過失を認定するにあたり、被告人が「後続車両の有無に気をとられて」と判示した部分は、これに続く被告人の前方を注意しないまま進行した過失行為の縁由たる事実として認定した趣旨であると解されるところ、被告人の捜査段階における供述中には、被告人は横断歩道の手前3、40m付近でバツクミラーにより後続車両の有無をちらつと見たところ、左のバツクミラーに乗用車らしい一台の車がずいぶん後ろに写つて見えた旨の供述があるけれども、そのことから直ちに被告人が後続車両の有無に気をとられて前方を注視しなかつたと認定するのは無理であり、他に右認定に照応する証拠は見出しがたいから、原判決の右認定部分は誤りであるけれども、原判決は前示のとおり前方不注視、安全不確認等の過失を正当に認定判示しているのであるから、右の点の誤りは明らかに判決に影響を及ぼすものとは解されない。それゆえ、論旨は理由がない。

 

また、被害者が横断歩道上を横断するに際し、車道の左右の様子を見たか否かについては、目撃者の司法警察員に対する供述によれば、「被害者はちよつと左右を見た様子であつたが、」というのであり、当審において同人を証人として取調べたところによつても、被害者は目撃者が立つている所の左方から来て、同人の後ろを通つて右側に来たと思つたらするすると渡りはじめたというのであるから、被害者が車道の左右を見てから横断を始めたことを確認しがたく、なお、被害者の左眼が義眼であつたことをも合わせ考えると、所論のように歩行者が車道左右の様子を見てのち横断を始めたという点については確たる証拠を欠くといわなければならない。しかしながら、横断歩道における歩行者の優先権は道路交通法の諸規定に照らし明らかであつて、歩行者の横断に若干慎重さを欠く点が認められるにしても、それは被告人の本件過失の存否に影響を及ぼすほどのものではなく、他の事情とも相まつて量刑上考慮すべき一つの事情となりうるに過ぎない。それゆえ、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるとの論旨は、理由がない。

 

なお、所論は、被告人は、横断歩道の手前2、30mから前方を注視していたが、被害者が急に横断歩道に飛び出してきたのであるから、被害者に信頼の原則を無視した非常識な行動があつたものというべく、原判決が被告人の一方的過失を認定しているのは判決に影響を及ぼす事実の誤認がある、というのである。

 

しかしながら、犯罪の成否につき過失相殺の観念を容れない刑法上の過失犯にあつては、かりに被害者側に過失が認められる場合でも、そのことを罪となるべき事実に認定判示しなければならないものとはいえず、原判決は単に法令の適用の項において、被告人の過失は大きいといつているだけであるから、所論のように一方的過失を認定したとは断定しがたいところであるが、それはともかくとして、目撃者の司法警察員に対する供述および当審における事実の取調としての同人の証言によつてみても、被害者がかけ足で横断歩道上に飛び出したことは認めがたく、むしろ、本件事故は、記録に明らかなように、衝突地点が歩道の縁石から3.45m離れた横断歩道上であること、被告人運転車両の時速が約40キロメートル(秒速約11メートル)であつたこと、これと、年令67才の被害者の通常の歩行速度とを考え合わせ、それに当時は昼間で見とおしのよい場所であつたことなどを総合すると、被告人において原判示の前方注視、安全確認の義務を遵守していたならば、被害者が本件横断歩道を横断し又は横断しようとしているのを発見しえたことは、これを優に肯認することができる。それゆえ、本件につき信頼の原則を云々する余地はないから、被害者がかけ足で横断歩道に飛び出したことを前提として、信頼の原則を無視したとする所論はとうてい採用しがたく、原判決が被告人の過失を認定したのは相当であつて、判決に影響を及ぼす実事誤認ないしは法令適用の誤があるとはいえない。それゆえ、この点に関する論旨も理由がない。

 

東京高裁 昭和46年10月27日

「犯罪の成否につき過失相殺の観念を容れない刑法上の過失犯にあつては」とありますが、過失相殺は民事責任の概念。
刑事責任としては被害者の落ち度は犯罪の成否に影響しないが量刑判断の考慮材料にはなりうる。
民事責任としては、過失相殺として被害者の落ち度を認め減額することはあり得ます。

 

けどまあ、時代だよなと思う判例でして、

横断歩道の手前2、30mから前方を注視していたが、被害者が急に横断歩道に飛び出してきたのであるから、被害者に信頼の原則を無視した非常識な行動があつたものというべく

信号がない横断歩道ですが、歩行者が急に飛び出さないことを「信頼の原則」と主張しています。
まあこの時代の38条については、今でいうところの前段がないからかもしれませんが。

 

当時の法律。

(横断歩道における歩行者の優先)
第三十八条 車両等は、歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

違うもの

刑事事件と民事事件は根本的に違うので、意味を混同すると理解しにくいかと。

 

ただしこの東京高裁判例ですが、被害者遺族とは示談が成立し、被害者遺族からも寛大な処分を望む上申書かなんかが出ているようです。

 

最初から注意義務を果たしてきちんと停止していれば何ら事故は起きていないわけですが、仮に不注意で事故を起こしてしまった場合、きちんと謝罪し民事上の示談をすることは大切。
謝らない人もいるみたいですが。

 

ちなみに民事の過失割合って要は話し合いで決めていいので、基本過失割合が10:90だとしても双方が合意するなら0:100にしても何ら構いません。
契約自由ですから。

 




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