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横断歩道を横断する自転車と、道路交通法25条の2第1項。

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交通の方法に関する教則の中に、このような記載があります。

(5) 道路を横断しようとするとき、近くに自転車横断帯があれば、その自転車横断帯を通行しなければなりません。また、横断歩道は歩行者の横断のための場所ですので、横断中の歩行者がいないなど歩行者の通行を妨げるおそれのない場合を除き、自転車に乗つたまま通行してはいけません

これの法的根拠は25条の2第1項になります。

(横断等の禁止)
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない

対歩行者については25条の2第1項ですが、車道を通行する車両に対しても同様なのか?という疑問があります。

25条の2第1項

これ、定期的に文句のコメント入れてくる人がいて、死ぬほどうざいのです。
判例を出せと。

 

これ、なかなか難しい問題がありまして、私の解釈としては厳密に解釈すれば25条の2第1項の義務はあると考えます。
ただし、違反として25条の2第1項が成立する要素は厳しくなりせいぜい70条の過失犯として成立するか否かの程度かと。
(本来は成立すべきとは思うけど実態込みで検討すると無理がある)

 

一応、さほど真剣に判例を探してないので5件くらい流し読みした程度ですが、民事では横断歩道を横断する自転車に対して「25条の2第1項の違反」だと車側が主張しているものはあります。
ただし、自転車に乗って横断した被害者が7歳だとして「注意義務の程度は成人に比べ限定的に捉えるべき」として25条の2第1項についての主張をスルー(名古屋地裁 平成25年3月12日)。
25条の2第1項の主張については、裁判所は何も語らなかった扱いです。

 

他にも真剣に探せば何かあるのかもしれないし、ないのかもしれません。
ちなみに上の判例については、交通整理がない十字路にて横断歩道を横断した自転車と、交差道路を進行した車が衝突した事故になりますが、車側が黄色点滅、自転車側が赤点滅(一時停止)という関係なので、被害者が子供であることを考慮しても自転車:車=20:80。

 

なお、「自転車ではなく小児用の車」だとする主張は採用されていません。

 

イメージ図(細部の正確性は保証しません)。

最近はイラストの手抜きをするとデマ呼ばわりされる時代なので、本当に面倒な時代だなとガッカリします。
面倒なので他の車両などはフル割愛しています。

 

福岡高裁判例は横断歩道を横断した自転車に対して「優先道路の進行妨害」としていますが、上のケースではどちらにも取れる気がします。
民事の判例を見ていると、横断歩道も含めて「交差点」とみなしている判例はそれなりにあります。
結局は何を主張するか次第なんですが、上の判例では「道路交通法38条」は一言も出てきません。

 

強いていうなら、「小児用の車」「横断歩道上」という点から「歩行者と同等とみなすべき」という主張をしています。
小児用の車は却下してますが、横断歩道上という点は被害者に有利に判断したようです。
このあたり、裁判官により多少判断は割れていますが、子供に求めるのは酷な面もある。

 

横断歩道を横断する自転車と進行妨害。
だいぶ前に書いたこちらの判例についてですが、 ちょっとまとめ直しました。 この中で、横断歩道を横断した自転車が優先道路の進行妨害をした(36条2項)と判示されているのがあります。 なぜ進行妨害? 判例は福岡高裁平成30年1月18日。 一審の...

 

25条の2第1項の横断

25条の2第1項の横断という概念を見ていくには、道路交通法以前の道路交通取締法から順次検討していかないと理解しづらいかもしれません。

 

道路交通取締法時代は、現行の25条の2に相当する規定はこうなってました。

第十二条 車馬は、他の交通を妨害する虞のある場合においては、併進し又は後退し若しくは転回してはならない。
2 公安委員会は、危険防止及びその他の交通の安全のために特に必要があると認めるときは、区域を限り併進、後退又は転回について、必要な制限を定めることができる。

同法施行令にて、車馬の斜め横断を禁ずる規定もあります。

 

この時代の判例を見ているとなかなか面白くて、旧法12条では車馬の横断が規定されてない。
公安委員会が転回禁止の標識を立てたら転回禁止なのですが、「スイッチバック式転回」がどうも流行したようなのです。

 

これは何かというと、車は一度停止してバックして小道に入れる。
その後、前に発車し、横断して右折すると「スイッチバック式転回」になる。

 

転回は禁止だけど、

スイッチバックしたら後退→右折だろ!という主張。

 

事実、古い判例における「控訴趣意」(被告人の主張)にはこのようにあります。

第一点本件は東京都特別区公安委員会が「転回禁止No. U Turn」と表示した場所で「一旦小路にスイッチバツクしてから転回」したことが道路交通取締法第12条第2項の転回運転に該当するか否かというテストケースなのである。而して現在東京都に於ては直接のUターンは右法条に該当するが右のような方向転換は該法条に触れず禁止ないものと多くの運転手から解釈せられ現に本件実地検証の際にも僅か10分間位の間に判検事弁護士の眼の前で官庁用自動車である二台が相次いで併し何の連絡もなくその通り実演してスマシタ顔で平然と過ぎ去つたことが示す通り行われている点にテストケースたる所以があるのである。
形式的に之を論ずるならばその禁止の表示が「No. Uターン」となつていてとはなつていないこと同法第12条が「併進し又は後退し若くは転回」となつているので、ここに所謂「転回」とは「一度でやる∩型転回行為」を意味するのであるから何等違反しないといつて差支ない更に実質的に之を論ずるならば一旦車が停車して後続の車のいないことを確めてからスイッチバックして車の尻を小路につき込み、交通の安全を確めてから方向転換をするのである。この場合停車することも後退することも「他の交通の妨害にはならぬ限り」(同法12条第1項)差支ないのである。然るにスイッチバックは右にいう後退ではないので傾後方に尻を突込ことであるから「交通を妨害する虞」なき限り固より差支ない、運転手はスイッチバックの時、後続車の無いのを確めてからやるから固より何の交通上の危険もない。ここで車がスイッチバックして尻を小路に入れた時の状態から「転回」する時の状態を見れば車がその小路の奥から出て来て新に右転回をしようと思つて車の先を小路の先にノゾカセタ状態と少しも違いはないのである。右のように小路の奥から進行して来た車がその小路を出て右転回することが禁止されていないのに本件のようなスイッチバックの後に転回することを禁するという理由は毫も存在しないのである。交通安全を実質的に何等妨害するものでない点に於て両者差異はない。警視庁が之を変型的転回と称して運転手の教養講習に用いることは良い併しながら断じて違反事件として処罰することはできないのである。

 

昭和27年6月13日 東京高裁

転回は禁止だけど、スイッチバック式転回は禁止されていないから旧法12条2項(転回禁止)に違反しないとして控訴した事件です。
みんなやってるし、現場検証のときに「官庁用自動車2台」が目の前でスイッチバック式転回をしたからいいじゃん!という主張。
犯罪事実に関わるのにテストケース呼ばわりしているあたりが凄い。

 

こういうのを見ていると、いつの時代にも「脱法的プレイ」を考案して都市伝説的に流行することはあったのかなと。
個人的には、爆笑レベルの言い訳です。

 

自転車の無灯火で取り締まりされた人のすぐ横を、無灯火自転車が通りすぎるのと似たようなレベルの話をしています。
「ほら!あいつもやってるじゃん!」みたいな。

 

法律の盲点を探しては新しい「自称合法」プレイを考案するというのは、人間が持つ心の闇、いや知恵なのかもしれません。
私が調べた範囲では、昭和35年道路交通法制定までの間、旧法12条に「横断」が加わった形跡は見当たりませんでした。

 

ちなみに道路交通法になってからも、道路外に出ることを左横断、右横断としていた時期もあります(昭和42~46年)。
本質的に転回も道路外への右左折も、そのプレイの中に「横断」を含む。
それでいなからも横断とは別個に規定している。

 

この流れを追っていくとまあまあ面白いのですが、要は現行法25条の2第1項は故意犯の処罰規定しかなく、転回しようとしている途中で進行妨害した際に、「転回による進行妨害」ならプレイの未遂と既遂という問題が出る。
かといって「横断による進行妨害」なら横断する意志が無い以上、横断の故意が成立しない。
このあたりの流れは判例タイムズ284号に載ってますが、詳しくは書きません笑。
中身は面白いけどマニアック過ぎる。

 

ちなみに判例タイムズ284号は1973年(昭和48年)に各裁判所の現役裁判官が道路交通法の解説をしているのですが、まだ70条過失犯に関する最高裁判決(昭和48年4月19日)が出る前のもの。
様々な解釈を取り上げているので、昭和の時代にどのような疑義があったのか知ることができます。
デジタル版は2000円くらいで購入できるので、いろんな解説書に飽きたら是非どうぞ。

 

転回と横断の違いについての名古屋高裁判決(上告棄却)と70条の最高裁判決なども関係しますが、いつの時代にも脱法的プレイを考案する先人がいるという話でやめておきます。笑。

 

ちなみにこの問題って、某執務資料にはなんと書いてあるのでしょう?
いろいろあって手放したのでわからん。
あと、横断歩道での歩行者に対する25条の2第1項の違反については、以前警察に聞いたときには取り締まり事例はあるはず、みたいに語ってました。
どうせ自転車の違反なんて不起訴か略式なので、盛大に争う人なんていないと思う。
なので刑事事件の判例はたぶん無い。

 

以前、自転車横断帯における「付近」の解釈について東京高裁判例があると書いてあったサイトがありますが、自転車横断帯違反は警察官の指示に従わない場合のみ罰則だし、ほとんどが注意止まり。
切符切って起訴されて争うこと自体がほぼ考えられない上に、そんなもん高裁まで争うのか?と不思議です。
なんでサイトごと滅亡したのやら。







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