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横断歩道を横断した自転車と、優先道路の判例。

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以前こちらで挙げた福岡高裁の判例ですが、横断歩道を横断した自転車を優先道路の進行妨害(36条2項)としています。

 

横断歩道の自転車通行と、38条の関係性。
こちらにまとめ直しました。 以後、追加は下記にしていきます。 先日このような記事を書いたのですが、 記事でも書いたように、横断歩道=歩行者のためのもの、自転車横断帯=自転車のものなので、基本的には横断歩道を通行する自転車に対しては適用外です...

 

横断歩道を横断する歩行者と38条の関係。判例を元に。
前回、横断歩道を横断する自転車についての判例をまとめましたが、歩行者についてもまとめておきます。 道路交通法38条1項とは 道路交通法では、横断歩道を横断する歩行者について極めて強い優先権を与えています。 (横断歩道等における歩行者等の優先...

 

一応、似たような判例はあります。

横断歩道と優先道路

判例は大阪地裁、平成25年6月27日。
イメージ図です(正確性は保証しません)。

信号機がない交差点で、制限速度は40キロ。
裁判所の認定でも、車が東進した道路は優先道路(36条2項)。
対向車線が渋滞しており、停止車両が横断歩道手前(赤車両から見て手前)にあったことになっています。

認定事実によれば、本件事故の主要な原因は、被告が、本件交差点を通過する際に、本件横断歩道が設置されていたにもかかわらず、減速、徐行等を行わず、指定最高速度を越える速度で進行したこと、進路前方、左右の安全を十分に確認しなかったことにあるというべきである。

 

しかし、他方、被害者は、自転車を運転して、優先道路である東西道路を横断するにあたって、東西道路の西行車線のみならず、東行車線を走行してくる車両の有無及びその安全を確認して横断すべきであったといえるところ、本件事故の態様からして、被害者が、東行車線に進入する前に同車線上の接近車両の有無等の安全確認をしなかったものと推認されるのであり、しかも、西行車線が渋滞し、本件交差点内まで車両が連続して停止しているため、東行車線走行車両からの見通しがよくない状況にあったものであり、加えて、被害者は、自転車を運転して、歩行者の歩行速度よりも速い速度で横断したものと解されるのであって、これらの点は、本件事故における、被害者の落ち度と評価できる。この点は、被告車の車高如何によって、左右されるものとは解されない。

 

原告らは、本件事故当時、横断歩道上に歩行者がいなかったから、被害者は、横断歩道上を自転車で走行することが法的に許されていた、自転車で横断歩道上を通行することは日常よく見かけられる光景であることなどから、被害者が横断歩道上を歩行していたのと同様に評価すべき旨主張する。確かに、道路交通法施行令2条では、信号機による人の形の記号を有する灯火がある場合には、それによって、横断歩道を進行する普通自転車を対象とする趣旨の規定がある。しかし、本件交差点では、前記認定のとおり、信号機による交通整理は行われていないのであって、事案を異にするものであるし、これをもって、自転車を歩行者と同視すべきことには、直ちにつながらないというべきである。

 

道路交通法38条1項は、「横断歩道又は自転車横断帯(以下・・・「横断歩道等」という)に接近する場合には当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下・・・「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。」と規定しているが、これは、自転車については、同法63条の6において、自転車の自転車横断帯による横断義務を定めていることに照応するものであって、自転車が、自転車横断帯の設けられていない交差点の横断歩道上を走行して横断する場合には当てはまらないものというべきである。従って、自転車運転者としては、付近に自転車横断帯のない横断歩道上を横断する際には、自転車を降りて横断するのでない限り、横断歩道を通過しようとする車両に対して、歩行者と同様の絶対的な保護が法的に認められているとはいえない。また、自転車で横断歩道上を通行するという光景は日常よく見かけられるものであるとしても、それをもって、落ち度と評価することが妨げられるものとはいえない。

 

大阪地裁 平成25年6月27日

という判例です。

なお、この事故態様は優先道路対非優先道路の態様をベースにするのが民事。
おそらくこのようなイメージです。

クルマ 横断自転車
基本過失割合 50 50
横断歩道修正 +5 -5
小学生修正 +5~10 -5~10
著しい高速度 +20~25 -20~25
85 15

なお、横断歩道での自転車事故の場合、右左折巻き込み態様なら自転車過失は10%程度になりますが、優先道路態様は別です。

横断歩道での自転車事故、刑事、民事、行政の視点。
こちらで書いた件ですが、 これ、書いたように双方の義務違反はこうなります。 クルマの義務違反 自転車の義務違反 法条 38条1項前段(減速接近義務違反) 25条の2第1項(横断禁止) 具体的内容 対向車の停止により見通しが悪い横断歩道だから...

車に課された義務

まず、道路交通法38条についてのよくある勘違いから。
歩行者が見えたら減速ではなくて、「歩行者がいないことが明らかな場合以外は全部減速して一時停止に備えろ」という規定です。

 

この事故の場合、対向車両が渋滞して停止しているわけ。
つまり、加害者から見て横断歩道右側は死角になる。

死角=横断しようとする歩行者が明らかにいないとは到底言えないため、38条1項前段の義務があり、減速や徐行する必要があります。

 

これについて、裁判所は事故の主な原因としている。

認定事実によれば、本件事故の主要な原因は、被告が、本件交差点を通過する際に、本件横断歩道が設置されていたにもかかわらず、減速、徐行等を行わず、指定最高速度を越える速度で進行したこと、進路前方、左右の安全を十分に確認しなかったことにある

以前も書いた件。

 

横断歩道を横断しようとする自転車に対し、38条1項前段の義務。
道路交通法38条は、横断歩道を横断する歩行者と自転車横断帯を横断する自転車に対する規定です。 質問を頂きましたが、後述しますが考え方を変えた方がいいかもしれません。 義務の発生点と除外規定 法律を理解しようとするときには、義務、義務の発生点...

 

具体例で示します。

ここ、横断歩道左側には隠れた歩道と階段があります。

ひし形は横断歩道の手前30mと50mにあります。
ひし形は横断歩道の予告なので、走行しながら最初のひし形を発見するのは横断歩道の70mくらい手前でしょうか。
前段の義務は「横断歩道に接近するときには減速」ですから、ひし形を発見した時点で減速義務が発生します。

50m手前のひし形を通過時には、どう頑張っても横断歩道左側に「横断しようとする歩行者」がいるかわかりませんよね。
なので「横断しようとする歩行者が明らかにいないとき」には該当しないので、減速義務は継続します。

もうちょい横断歩道に近づいた場合も、まだ横断歩道左側をしっかり確認出来ません。
なので減速義務は継続

横断歩道直前まで近づいた場合に、やっと横断歩道左側がしっかり確認できます。
横断しようとする歩行者がいないことを確認したら、減速義務が解除されます。

もしこの時に横断しようとする歩行者を確認したならば、後段の義務として一時停止します。

これが38条の義務。
横断歩道を横断する自転車には38条の優先権はないものの、歩行者に向けた減速義務はある。

 

他の判例でも、同様の見解を取っています(自転車と車の事故)。

進行道路の制限速度が時速約40キロメートルであることや本件交差点に横断歩道が設置されていることを以前から知っていたものの、交通が閑散であったので気を許し、ぼんやりと遠方を見ており、前方左右を十分に確認しないまま時速約55キロメートルで進行した、というのである。進路前方を横断歩道により横断しようとする歩行者がないことを確認していた訳ではないから、道路交通法38条1項により、横断歩道手前にある停止線の直前で停止することができるような速度で進行するべき義務があったことは明らかである。
結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない。もちろん、同条項による徐行義務は、本件のように自転車横断帯の設置されていない横断歩道を自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではない。

 

東京高裁 平成22年5月25日

なので今回の判例。

このように横断歩道が死角になる以上、本来は徐行レベルまで落とす義務があります。
この38条1項前段の違反ですが、最終的に歩行者がいなかったことをもって免責されないため、見通しが悪い横断歩道なら減速してないだけで横断歩行者妨害(38条1項前段)が成立します。

自転車の義務

自転車は道路交通法上では車両なので、押して歩かない限りは歩行者にはなりません。

 

この判例でも優先道路の概念(36条2項)が適用されてますが、車両である以上、優先道路を通行する車両が優先になります。
なので優先道路の進行妨害にならないよう、自転車側にも安全確認義務があります。

優者危険負担の原則がある上に、車が制限速度を越えて横断歩道に進入しているところが重過失になります。
かといって自転車は歩行者ではないため、一定の責任を負うことになりますが、この判例での被害者は児童です。

義務と誤解

38条はこのように、「横断しようとする歩行者が明らかにいないとは言い切れない」場合には減速義務があります。
「見えたら止まれ」ではなく、「わかんないから減速して見えたら止まれ」というルール。

 

自転車が横断歩道上で事故に遭った場合、多数の判例ではこのような記載があります。

自転車が横断歩道上を通行する際は、車両等が他の歩行者と同様に注意を向けてくれるものと期待されることが通常であることの限度で考慮するのが相当

 

平成30年1月18日 福岡高裁

自転車に優先がないにせよ、歩行者に対しての減速義務は消えない。
歩行者に向けた減速義務の範疇で考慮するというのが民事の判例です。

 

仮に車が減速義務を十分果たし、自転車が見えない位置から高速度横断したとしたら、過失割合も自転車のほうが大きくなる可能性はありますが、事故判例を見ている限り、車が歩行者に向けた減速義務違反(38条1項前段)が大きく評価されている印象です。

 

ちなみに38条2項にはこのような規定があります。

2 車両等は、横断歩道等(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等により当該横断歩道等による歩行者等の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない

この規定、同一進行方向について停止している車両がある場合の規定。
そのため、対向車線で停止している車両がいても2項の義務はないと解釈されます。

この規定が出来たのは昭和42年ですが、要は横断歩道前に停止車両があると、死角になって見落とすことから新設されたルール。
そういう意味では、対向車線が渋滞等から停止している車両がある場合にも適用すべきなんですが、法はそのようにはなっていない。

しかし「死角で見えない」=「いるかいないかわかんない」=減速義務。
怠れば事故になりますが、それと同時に自転車には優先権がないことを理解して左右確認義務があることも知らないといけないかと。

 

ちなみに横断歩道上を横断した自転車を優先道路の進行妨害とみなすことは、珍しいことではないようです。
これだけ判例があるということは、これだけ事故が日常的に発生しているわけですが、個人的には38条2項は対向車線にも適用した方がより分かりやすくなる気がします。
どちらにせよ守られていない現状は別としても。





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