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あまり気にしないほうが。

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最近執務資料を買ったという方から、38条2項の判例として紹介されている「昭和45年8月20日札幌高裁」の意味がわからないと質問を頂きました。

 

この判例、38条2項の判例として取り上げる必要があるのか?という疑問しかありません。

38条2項の判例

この判例のまとめ。

・横断歩道直前に違法停車しているトラックがいた
・バスが横断歩道に差し掛かり、違法停車しているトラックの横を通過した
・横断歩行者がいたのでバスが急ブレーキ
バス車内にいた人が急ブレーキにより負傷
・バス運転者が業務上過失傷害罪に問われた判例

一審の公訴事実がこちら。

本件公訴事実の要旨は、「被告人は、◯✕バス株式会社の大型乗合自動車の運転業務に従事しているものであるが、昭和42年9月1日午後4時10分ごろ、乗客20名位が乗車している前記自動車(本件バス)を運転し、北海道(略)の交通整理の行なわれていない十字路交差点を南方から北方に向け時速約10キロメートルないし15キロメートルで直進しようとしたが、同交差点直前に横断歩道(指導線)が設けられており横断者があることが予想され、当時前記横断歩道手前の道路左端部に同一方向に向けて駐車している普通貨物自動車があつて、同車の前方の見とおしがきかなかつたから、被告人としては、右横断歩道直前で一時停止し、横断歩道上の交通の安全を確認した後進行して、みだりに急制動をかけて乗客に危害を及ぼすことのない、よう安全に運転すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、漫然前記同一速度で進行した過失により、前記駐車中の車両のかげから右横断歩道を左方から右方へ横断走行してくる歩行者(五歳)を直前で認め、これとの衝突を回避するため急制動の措置をとり、その反動で、自車の乗客であるA、Bの各身体を、それぞれ座席前部の鉄製手すりおよび右手すりの支柱に激突させて、Aに対し加療20日間を要する右上腕打撲兼右肩関節打撲の、Bに対し加療52日間を要する右側頭骨皹裂骨折兼脳挫傷の各傷害を与えたものである。」というのである。

38条2項は、横断歩道直前に停止車両があるときには、前に出る前に一時停止義務を課している規定です。
ただしこの38条2項、昭和42年道路交通法改正により新設された規定なのですが、要は改正道路交通法が施行される前に起きた事故なんです。
38条2項が新設される前に起きた事故について、同様の一時停止義務を課すことが妥当なのか?という問題があることと、原審の認定速度が誤っていて札幌高裁は「時速5キロ程度」と認定しています。

被告人に、公訴事実記載のとおり、「右横断歩道直前で一時停止し、横断歩道上の交通の安全を確認した後進行」すべき法律上の注意義務があるかどうかにつき検討する。思うに、バスの運転者は、他の一般の自動車の運転者と同様、他の車両および歩行者等との衝突の危険を未然に回避し、第三者の生命身体に危害を加えることのないよう運転上深甚の注意を払うべきことは、もとより当然であるが、なおそのほかに、一時に多数の乗客を運搬し、しかもその座席の位置が比較的高く、急停止等の衝撃を乗客が受け易いという、その任務および車体の構造等にかんがみ、不用意な運転方法(たとえば、みだりに急発進し、または急停止する等)は厳にこれを慎しみ、その衝撃により乗客の生命、身体に万一の危害を及ぼすことのないよう、慎重に運転すべき業務上の注意義務を負担するのである。したがつて、もし急停止によるのでなければ車両あるいは歩行者などとの衝突の危険を回避できないような事態がある程度予測されるような場合においては、予め一時停止して、右危険のないことを確認した後進行するとか、あるいは、適宜に減速しまたは徐行し、警音器を吹鳴する等必要な措置を講じ、もつて急停止のための衝撃による被害を乗客が蒙らないように運転をなすべき業務上の注意義務を有するものと認められる。しかして、右のような危険な事態を未然に回避すべくバスの運転者に要求される注意義務の限度が、右の「一時停止」「減速」「徐行」「警音器吹鳴」等のいずれであるべきかは、右危険な事態の出現の予測される蓋然性の大小等に応じ、結局は、社会通念により具体的に決するほかないのであるが、その場合においても、自動車運転の具有する高速度交通機関としての社会的効用と、右運転の包蔵する危険との調和を図り、右危険の適正・公平な分配を図る必要があるのであつて、いやしくも、右効用および危険の一方のみを過度に強調し、交通生活上生ずる危険を当事者の一方のみに負担させることのないよう慎重に配慮する必要がある。ところで、本件につきこれを見るに、本件事故現場である前記横断歩道は、市街地の交差点外側に接着し、しかもその直前に駐車していたトラックのため、いわゆる死角となつて、本件バスの運転者の被告人から横断歩道の西側(本件バスの進路左側)部分が歩道側端から道路中央寄りに1.65メートル位の面は見えない状態であつたから、右トラックの陰から突如として横断者が出てくるのを発見し、これとの衝突を回避するため、急停止の措置を講ずることを余儀なくされる事態が、絶対に予見され得ないわけではなく、もし右のような事態が発生して急停止の措置を講じた場合においても、その急停止の衝撃によりバスの乗客に傷害を与えることのない程度のきわめて低速に運転進行することが必ずしも不可能とまでは認められないが、他方右トラックは、前記のように当時、ビールの積み下ろしのため、車体を歩道端に寄せて駐車中であつたことが明らかであるから、横断歩道直前に、停車中の車両が存在している場合等とは異り、それだけでは、横断者の出現を強く危くさせるほどの事情であるとは認め難いのであつて、果たして然らば、他に無謀な横断者の存在を強く推認させる特段の事情(たとえば、幼稚園や小学校が近く、登下校時の園児児童の姿を多数見かける等)の認められない本件においては、バスの運転者が前記横断歩道直前において一時停止して、万一の危険に対処しなければならない法的義務を負担するとまではにわかに断じ難く、むしろただちに停止できるような速度にまで減速し(あるいはさらに、予め警音器を吹鳴して歩行者に注意を喚起し)、急停止により乗客に与える衝撃をできるだけ緩和する措置を講じて進行すれば足りると解するのが相当である。そうすると、前記認定の如く当時、時速約5キロメートルのただちに停止できる速度で右横断歩道内に進入した被告人の本件所為は、少なくとも対乗客の関係では、一応社会通念上相当な注意義務を尽くしたものと解し得るのであつて、それ以上に、右横断歩道直前において、一時停止したうえ交通の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務の存在することを前提とした本件公訴事実は、その前提を欠くものといわなければならない。なお、この点につき、原判決は、昭和42年改正後の道路交通法38条2項の存在をも一つの論拠として、被告人の右一時停止義務の存在を肯定しているので、この点につき一言する。まず、改正後の同法38条2項は、横断歩道上の歩行者の保護の徹底を図るため、同年法律第126号(同年11月1日施行)により新設されたものであつて、本件の発生した昭和42年9月1日当時は、右のような横断歩道直前における一時停止義務は、対歩行者の関係においても、未だ法的義務にまで高められていなかつたことが明らかであるから、これをもつて、同条の新設される以前の、本件における被告人の一時停止義務を根拠づけることの失当であることは、言うをまたないところであるが、いまこの点をしばらく措くとしても、そもそも右規定の新設された立法の趣旨、目的は、従前、横断歩道の直前で他の車両等が停止している場合に、その側方を通過して前方へ出たため前車のかげになつていた歩行者の発見がおくれ、横断歩道上で事故を惹起する車両が少なくなかつた道路交通の実情にかんがみ、とくに歩行者の保護を徹底する趣旨で設けられたものである。すなわち、右規定は、本来駐停車禁止区域である横断歩道直前において車両等が停止しているのは、多くの場合、歩行者の通行を妨げないように一時停止しているものであり、また、具体的場合に、当該車両等が歩行者の横断待ちのため一時停止しているのかそうでないかが、必ずしもその外観のみからは、一見して明らかでないことが多い等の理由から、いやしくも横断歩道の直前に停止中の車両等が存在する場合にその側方を通過しようとする者に対しては、それが横断中の歩行者の存在を強く推測させる一時停止中の場合であると、かかる歩行者の存在の高度の蓋然性と直接結びつかない駐車中の場合であるとを問わず、いずれの場合にも一律に、横断歩道の直前における一時停止の義務を課し、歩行者の保護のよりいつそうの強化を図つたものと解されるのである。(浅野信二郎・警察研究38巻10号34頁。なお弁護人の論旨は、右「停止」中の車両の中には「駐車」中の車両が含まれないとの趣旨の主張をしているが、法2条18号、19号によれば、「停止」とは「駐車」と「停車」の双方を含む概念であることが明らかであるから、右の主張にはにわかに賛同できない。)そうだとすると、右のような歩行者保護のための規定の存在と、本件のように横断歩道の直前で明らかに違法に駐車している車両の側方を通過する場合のバスの運転者の乗客に対するさきに述べたような注意義務の限度とは、何ら直接の関連はないと解されるのであつて、右注意義務の限度は、道路交通法上の右のような規定の解釈を離れて、さきに述べたような交通生活上の適正・公平な責任分配の見地から、合理的に決せられなければならないものである。そうすると、本件公訴事実は、Aに対する関係においてのみならず、Bに対する関係においても、結局、犯罪の証明がないことに帰着する。

 

昭和45年8月20日 札幌高裁

大型バスだから急ブレーキを掛けたら危険。
しかし時速5キロで横断歩道に進行したバスは対横断歩行者の関係、対乗客の関係から考えても問題ない。
さらに未施行の38条2項を根拠に一時停止義務を課すのは「失当」。
さらに歩行者保護の規定と、乗客に対する注意義務は直接的な関係がないとして無罪を言い渡した判例です。

 

なので38条2項の判例と言うのも違う気がします。
時速5キロで進行したバスは、当時の法律から考えても問題があるわけではないし、対横断歩行者の事故ではない。
強いて言うなら、38条2項の意義について触れているくらいです。

38条2項の意義

38条2項は同一進行方向上に停止している車両があるとき、前に出る前に一時停止する義務を課してます。
対向車線の停止車両の際は38条2項の対象ではない。

ただまあ、判例としてはむしろ対向車線の渋滞により横断歩道右側が視認不可能な状態の事故の方が見かける気がします。
大阪高裁 昭和54年11月22日(刑事)や、大阪地裁 平成25年6月27日(民事、対自転車)など。

 

横断歩道を横断した自転車と、優先道路の判例。
以前こちらで挙げた福岡高裁の判例ですが、横断歩道を横断した自転車を優先道路の進行妨害(36条2項)としています。 一応、似たような判例はあります。 横断歩道と優先道路 判例は大阪地裁、平成25年6月27日。 イメージ図です(正確性は保証しま...

 

対向車線の渋滞により見えない場合、38条1項により「横断しようとする歩行者が明らかにいないとは言えない」ので事実上徐行義務がありますが、

それを理解しないでかっ飛ばすから死亡事故になる。
そういう意味では対向車線についても一時停止義務を課すほうがマシなのかもしれません。

 

執務資料に掲載された部分だけを見ても何の判例なのかさっぱりわからないみたいだけど、そもそも38条2項の判例なのか?というと違うような気がします。

 




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