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あおり運転から回避するためスピードオーバーは認められるのか?

以前チラっと挙げたことがありますが、刑法には緊急避難という違法性阻却事由になる場合があります。

ついでになんですが、執務資料に掲載されている横断歩道関係(38条関係)の判例について質問を受けましたので。 最高裁判例 結論から...

仮にですが、後ろから煽られて衝突の危険性を回避するために速度を増して、スピードオーバーになったとしたら速度超過の罪はどうなるでしょうか?

緊急避難と速度超過

緊急避難はこのように定められています。

(緊急避難)
第37条
自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

やむを得ず=他に手段がなかった場合を意味します。
緊急避難として速度超過することが許されるのか?という判例があります。

①札幌高裁 平成26年12月2日

法定速度60キロの道路で後方から煽られて速度を上げざるを得ない状況に追い込まれたとして時速94キロで走行。

→軽く踏んでブレーキランプを点灯させたり、進路変更するなど他にも回避手段があるとして緊急避難は成立を認めず。

②神戸地裁 平成17年10月24日

道路合流部でトラブルが発生し、相手方車両から二名が降車し怒鳴りながら空き缶を投げつけるなどしてきたことから、法定速度60キロ道路を時速106キロで逃げた。

被告人は,その供述によると,相手方車両の運転席の男から「降りてこい。」というようなことを言われた上,降りてきた男から空き缶を私の車に投げ付けられたというのであるから,直ちに運転車両を発進させて逃走すること自体はやむを得ないものといえるものの,とりあえず現場を離脱すれば,当面の危難は避けられたのであるし,相手方車両が追跡してきたとしても,通常の速度で走行する間に横道に入るなどしてこれを引き離すことは可能であるとともに,たとえ信号等で停止を余儀なくされて追い付かれた場合でも,ドアロックをかけて運転車両内にとどまっていながら直ちに生命や身体に危険が及び,その間に携帯電話等を使って助けを求めることさえも不可能といえるほどの差し迫った状況にあったとは認められない
したがって,被告人の供述を前提としても,本件速度違反以外に他に取るべき方法があったのであり,本件速度違反をもって,やむを得ずにした行為とはいえない。
本件速度違反は,最高速度が毎時60キロメートルに制限された一般道で毎時106キロメートルの速度で進行したというものであり,もし,他の通行車両と衝突すれば,その運転者や同乗者を死亡させるなどの重大事故となる危険は極めて高い運転態様であったことは明らかであるところ,被告人が,逃走中に先行する車両を追い抜いた旨供述していることからすれば,当時他の通行車両が存在したことは明らかであり,かつ,本件速度違反が通常の予想を超える程度のものであったことに照らすと,その運転者が被告人運転車両の動静を見誤る可能性は高く,重大事故の発生する危険はかなり現実的なものであったといえる。

他方,被告人の供述によっても,被告人が避けようとした害は,客観的に見れば,その生命の危険に及ぶものとまではいえない。
そうすると,本件速度違反によって生じた害は,被告人が避けようとした害の程度を越えなかった場合には該当しない。

以上によれば,本件速度違反について,緊急避難はもちろん過剰避難は成立しないし,適法行為の期待可能性がなかったともいえない。

神戸地裁 平成17年10月24日

スピードオーバーが法で禁止されている理由は、当たり前ですが事故誘発リスクが高いから。
煽られたからリスクが高い走行を許容するという発想は、他にも回避手段がある以上は認められないかと。

③堺簡裁 昭和61年8月27日

煽られた案件ではないけど、子供の発熱で病院に連れていくため88キロで走行(制限速度50キロ)した件について、緊急避難は認められないものの過剰避難にあたるとして刑を免除した判例もあります。

被告人は、本件は同乗中の8歳の次女が高熱であつたので病院に急行するため、やむを得ず速度を出したものであるから緊急避難行為である旨主張し、弁護人は、被告人は同乗中の幼ない我が子が高熱で、ぐつたりした病状であつたから、一刻も早く病院へ赴くためスピードを早めていたものであつて、右実状と当時の交通の状況など他の事情をも併せ考慮すると、本件は緊急避難行為である。仮りにそうでないとしても過剰避難行為である旨主張する。

そこで、この点について検討するに、前掲各証拠を綜合すれば、被告人が本件行為に及ぶに至つた経緯及びCの病状については判示のとおりであつて、Cの右病状は、同人の身体に対する現在の危難があつたというに妨げないこと、本件行為は、右の危難を避けるためになしたものであることがそれぞれ認められる。また右行為によつて害される法益が、これによつて保全されるCの身体に対する危難の程度より重いということはできない。

しかしながら、緊急避難には自ら手段の面で制約があるところ、判示の如き現在の危難を避けるためには、病院まで左程遠くない(本件場所からは、自動車で7、8分ぐらいである。)のであるから、許されるスピード(当時の速度違反の検挙は、毎時15キロメートル以上超過しているものであつた。)で運転すれば足るものであつて、本件行為の如きは判示危難を避くるため、やむことを得ざるに出でたる行為としての程度を超えたものであるといわねばならない。

従つて、本件行為は過剰避難行為にとどまるものと認められるので、弁護人のこの主張は、その限度で理由がある。

堺簡裁 昭和61年8月27日

ぶっちゃけた話、一般道でスピードを上げても到達時間なんて大して変わらないはずだし、それにより他人が危険に晒される理由にもならないし、捕まったならむしろ到達は遅れるわけで無意味としか思いませんが。
高熱でリスクが高い状況ならば、救急車の出番と思われます。

なお過剰避難が認められた理由はこちら。

本件は被告人が幼ない我が子の前掲の病状に心痛し、医師の手当を一刻も早くうけたいため急いで運転していたこと、当時は、夜間であつて交通量が割合に少なく、一般自動車が必ずしも制限速度を遵守していなかつたこと、また速度違反の取締りについても必らずしも厳重な検挙がなされていなかつたことが認められ、その他諸般の事情をも考え併せれば、被告人に対しては刑を免除するのが相当である。

堺簡裁 昭和61年8月27日

今の時代に通用するとは思えません。
昭和感がある判例な気もしますが、あくまでも有罪で刑の免除。

速度は

スピードオーバーは交通に重大な危険をもたらすから禁止されているわけで、基本的に緊急避難が認められる余地はないでしょう。
これが違う違反・・・なんだろう・・・通行帯違反とかなら別かもしれません。

ちなみに自転車の場合、法定速度がないため理屈の上では制限速度の指定がない道路で時速100キロで走行しようとスピードオーバーとして違反になることはありません。
あくまでもスピードオーバーとならないだけで、安全運転義務違反などにはなり得ます。

例えば多摩川サイクリングロードには制限速度の指定はないと思いますが、時速50キロであんな狭いところを走行すれば普通に危険プレイなのは言うまでもなく。

冒頭で挙げた判例ですが、

ついでになんですが、執務資料に掲載されている横断歩道関係(38条関係)の判例について質問を受けましたので。 最高裁判例 結論から...

この判例は雨天時に、横断歩道を横断中の歩行者がいるのに急ブレーキを掛けなかった事故(46年道路交通法改正以前なので、38条1項に前段の義務が規定される前)。
急ブレーキを掛けなかった理由は、大型車なので急ブレーキによりスリップして横転する危険性が高く、歩道を通行する歩行者に害を及ぼす可能性があったからとして緊急避難を主張した判例です。

これに対し東京高裁は、70条安全運転義務を根拠に「雨天時の急ブレーキで横転する可能性を知っているなら、それに応じた速度で進行すべきだろ!」として有罪。

当たり前のことなんですが、急ブレーキで吹っ飛ぶなら急ブレーキを必要としないような速度で通行する必要があるので、制限速度がどうとか以前の問題です。
まあ、制限速度40キロの道路を時速45キロで進行していたようなので、そもそもいろいろ間違っているのですが。

夜間ロービームで進行するなら、ロービームで対処できる速度で進行する義務があるし、雨天など制動力が落ちる状況ならそれに応じた速度で進行する義務がある。
そういう当たり前をすっ飛ばしているにもかかわらず、問題が起きてから「緊急避難!」とか言っても無意味です。

煽られたから速度超過が許容されるわけではないという判例でした。




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