先日の件について、続き。

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横断意思が外見上明らかな場合
38条1項後段の「横断しようとする歩行者」とは、このように解釈されています。
右法条にいわゆる「横断しようとしているとき」とは、所論のように、歩行者の動作その他の状況から見て、その者に横断しようとする意思のあることが外見上からも見受けられる場合を指称するものである
東京高裁 昭和42年10月12日
※右法条=旧71条3号(現在の38条1項後段)
同法38条1項にいう「横断し、又は横断しようとする歩行者」とは、横断歩道上を現に横断している歩行者等であるか、あるいは、横断歩道等がある場所の付近において、当該横断歩道等によって道路を横断しようとしていることが車両等運転者にとって明らかである場合の歩行者等、すなわち、動作その他から見て、その者が横断歩道等によって進路を横断しようとする意思のあることが外見上明らかである歩行者等のことをいうと解するのが相当である。
東京地裁 令和元年12月19日
「横断しようとする意思が外見上明らか」とはどういう状態なのか?
判例タイムズ284号(横断歩行者に対する保護 東京地裁判事 和田保)ではいくつかのパターンを与える挙げてます。
歩行者の状況 | 38条1項後段の義務(一時停止かつ妨害禁止) |
現に進路の前方を横断中 | ◯ |
既に車両の進路を通過した横断歩行者 | ✕(安全側方間隔は必要) |
車両の進路から遠く離れている | ✕(距離と歩行速度を勘案する必要あり) |
道路の幅員が広くなく、横断歩道側近で車のほうを見て佇立している | ◯ |
横断歩道の側近で立話をしている歩行者 | ✕(注1) |
横断歩道の信号が赤信号 | ✕(安全運転義務があるのは当然) |
注1→和田氏は以下のような説明をしています。
横断歩道の側近で立話をしている歩行者がいるとき
若干疑問があるが、「横断しようとしている」とは、その態度からして客観的にそう判断される場合であるから、この場合は消極に解してよいであろう。
判例タイムズ284号、1973年1月、「横断歩行者に対する保護」 東京地裁判事 和田保
意味合いとして、横断歩道に向いて車の動向を確認しながら立話している場合には一時停止義務があるけど、全然関係ない方向を見ながら立話している歩行者が「横断しようとする意思が外見上明らか」とは言えない。
当たり前ですが、この場合でも前段の減速義務があることはお忘れなく。
要は減速義務を果たしている最中に、立話している歩行者が「横断しようとする歩行者」に変わる可能性がある以上、減速しながら動向を見極める必要があります。
横断歩道が赤信号の場合には、減速義務も一時停止義務もありません。
ただし、車道が青信号になったばかりのときで、かつ、横断歩道の全景が見渡せない場合には、「青信号で横断開始したものの渡りきれなかった残存歩行者」に対する注意義務があるのでご注意を(札幌高裁 昭和50年2月13日)。

本件横断歩道の長さは前記のとおり31.6mであるから、歩行者がたとえ青色信号で横断を開始しても途中で青色点滅信号に変つたとき、渡り終るまでにいまだ12m以上の距離を残している場合、当該歩行者は被告人側の信号が青色に変つた時点において、依然歩道上に残存していることになる。
(中略)
本件のような道路、交通状況のもとにおいて、対面信号が青色に変つた直後ただちに発進する自動車運転者としては、特段の事情のないかぎり、これと交差する本件横断歩道上にいまだ歩行者が残存し、なお横断を続行している可能性があることは十分に予測できたものとみるのが相当であつて、特段の事情を認めえない本件の場合、被告人に対しても右の予測可能性を肯定するになんらの妨げはない。そして、以上のごとく、被告人が本件交差点を通過するに際し、本件横断歩道上にいまだ横断中の歩行者が残存していることが予測できる場合においては、当該横断歩道により自車の前方を横断しようとする歩行者のいないことが明らかな場合とはいいえないから、たとえ、被告人が青色信号に従つて発進し本件交差点に進入したとしても、本件横断歩道の直前で停止できるような安全な速度で進行すべきことはもとより、同横断歩道により自車の前方を横断し、または横断しようとする歩行者があるときは、その直前で一時停止してその通行を妨害しないようにして歩行者を優先させなければならない(道路交通法38条1項なお同法36条4項参照)
札幌高裁 昭和50年2月13日
前段の減速義務が生じないのは以下の場合のみです。
②歩行者に向けた信号が赤の場合
例えばこの横断歩道なら、一見すると歩行者は全くいない。
しかし、横断歩道左側が全く見渡せない状況なので、大幅に減速しながら接近する義務があります。
こっちなら横断歩道右側が全く見渡せないので、同じく大幅に減速しながら接近する義務があります。
減速義務違反は最終的に歩行者がいなくても成立しますが、あんまり前段の違反を取るケースは聞きません。

なお、横断歩道が赤信号の場合には38条の義務が生じないため、これは38条でいうところの「横断しようとする歩行者」には該当しません。
手挙げ
38条1項後段でいう「横断しようとする歩行者」とは、横断意思を外見上明らかにしている歩行者だと解釈されています。
なので以下の場合は「横断意思が外見上明らか」と言えます。
②横断歩道に向かってあるいている歩行者
③いわゆる「手挙げ」
手挙げにやたら反対する方もいますが、私としては別に反対しません。
横断意思が外見上明らかだと強調しているだけで、手挙げしてない人も横断意思が外見上明らかなら車両の義務が免除されませんし。
なので上記画像は、横断歩道側近で横断歩道に向いている以上、手を挙げなくても「横断意思は外見上明らか」に該当します。
横断意思が外見上明らかとは言えないなら減速義務があるものの一時停止義務はありません。
なんだろう、例えばこんなのか?
・横断歩道の側近で腕立て伏せしている謎の人
→減速接近義務はあるものの、一時停止義務はない。
なお、腕立て伏せが終了して横断開始する可能性があるため減速接近義務は免れない。
・横断歩道側近で愛し合っている謎の二名
→減速接近義務はあるものの、一時停止義務はない。
なお、プレイが終了して横断開始する可能性があるため減速接近義務は免れない。
唯一注意した方がいいのは、行動パターンが読めない子供と挙動不審者か。
違反取消の件
とりあえず、対歩行者、対自転車の判例はまとめておきました。


弁護士さんが取り上げた違反取消の件について思うのですが、まあ、いろんな意見は好き放題出てましたよね。
判例じゃないから無意味だとか、進行妨害とは違うからとか、「横断しようとする歩行者」とは「横断意思」ではないとか・・・
一見すると説得力がありそうな意見を出しているようにみえて明らかに違うだろと言えるケースは多々ある。
そもそも、裁判で争える可能性は限りなく0%なので事実上が警察と交渉するしかないことも理解してないとか。

「進行妨害」と「妨げてはならない」はそもそも同じ意味だったことを理解していない上に、進行妨害とは交差点の車両関係のみに使うと昭和46年に決めたこともわかってないとか。

「妨げてはならない」と「妨げないようにしなければならない」は、立法者の著書等を読む限り、意味は変わらないこととか。
「妨げないようにしなければならない」を使う際は、一時停止等の義務を並列的に課しているだけ。

「横断しようとする歩行者」とは「横断意思を外見上明らかにした歩行者」のことだと判例上も示されているし、判例上も「横断意思の一時放棄」自体は否定してない点からも、意思の優先は普通に成立しうる。

まあ、判例が仮にあったとしても、「裁判官がおかしい」とか「下級審だから」などと言い出しそうな気配。
しまいには「著者に都合のいい判例を集めただけ」呼ばわりされますから笑。

そういやちょっと話は変わりますが、何ヵ月か前に失礼なコメントとメールしてきた人。

ちゃんと読まずにコメントしてきたことが明らかだったので突き放しましたが、そもそもさ。
判決に疑問があるのであればまずは全文を読んでからどうぞ。
どうしても見つからないというのであれば話は聞きますが、そこまで検索するのが難しくもない判例ばかりなので。
横断歩道と自転車の判例。以前、横断歩道を渡ろうとする自転車の判例をいくつか挙げたのですが、正直なところこれについては道交法と実態の差が激しい面があって、どちらにせよ事故を防止する観点から考えると横断歩道を渡ろうとする自転車がいたら一時停止するのが当たり前のこと。そ...
このように書いてある記事について「記事を普通に読めばわかる質問」と「判決文読めば解決する程度の質問」をしてきたので、さすがに驚いた笑。
自分で調べもせずにいきなり答えを求める人が増えているのか知らないけど、立法者がどのような意図をもって立法したのかまで調べると、一見説得力がありそうな主張には何の根拠もないことが理解できますね。
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