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「歩道橋は明らかにヒューマニズムに反する」。

古い判例って、時々凄いな。

歩道橋は反ヒューマニズム

判例タイムズの解説にチラっと掲載されている判例なのですが。
判決年月日はなぜか書いてありません。
事件番号は大分地裁 昭和43年(わ)423号です。

事案の概要。
歩道橋を使わずに道路を横断した人が、酒酔い運転の車にはねられた上、救護義務を果たさずに逃走。
どうも被害者さんが身体障害者だったようなのですが、裁判官の説示がなかなか凄い。

「交通事故の増加という重大問題に対処するため為政者および警察関係者は例えば「歩道橋」の設置等による安易な方法での解決を考え、人間が自から作った自動車から身を守るため、自動車が人間を避けて通るのならいざしらず、人間が自動車に遠慮してそれを避けて通らなければならないという全く道理に合わない方法で(問題)解決を考えているが、「歩道橋」は明らかにヒューマニズムに反しているものであることを、為政者らは、人間性を取りもどしたところの一市民として、いま一度考え致さなければならない問題ではなかろうか。」と述べ、更に右被害者が身体障害者であって、歩道橋を利用することが肉体的心理的に苦痛であるため(平面)道路を横断しようとしたことも事故の一因をなしているとしたうえ、「前叙のような反ヒューマニズム的なものの設置等による安易な事故防止の考えに深く反省を求めたい。」と結んでいる。

判例タイムズ284号(歩行者の通行-その規制と保護など-)、東京地裁判事 久米喜三郎、p145

いわゆる交通戦争からモータリゼーションの波に対し、市民の意見を代弁したものみたいに書いてあります。

歩道橋は反ヒューマニズムと言い切るところがなかなか凄い。
今の時代はエレベーターがあるので全てに共感することはないのですが、いまだにエレベーターがない歩道橋は見かけます。
車椅子の人とかどうしているのかわからないし、以前取り上げたこちらの判例についても、現場はエレベーターがない歩道橋と、路面には自転車横断帯のみ。
被害者は後期高齢者なので、足腰の不安から歩道橋を回避した可能性は十分高い。

たまに横断歩道がなく歩道橋になっている交差点があります。 そのような交差点に自転車横断帯がある場合、歩行者が歩道橋を使わずに自転車横断帯を...

ちなみに判決文を探したものの見つかりませんでした。
判決自体は業務上過失傷害、道路交通法違反(酒酔い、救護義務違反)ともに有罪です。

国会議事録を見ると、歩道橋の流れを感じ取れます。
昭和40年頃はやたらと歩道橋建設に力を入れていた。

○国務大臣(西村英一君)

交通事故の中でも、いわゆる自動車事故が最も問題になっておるわけでございまするが、自動車事故のうちでは、やはり自動車対人間、車対車、車自身、大体分けてそういうふうになろうと思うのでございまするが、やっぱり一番多い事故は、人間対車の事故でございます。事故の統計を見ましても、やはり歩行者に対するものが三四・五%に達するということが過去の事例でございます。したがいまして、私どものほうといたしましては、やはりまずそれには、横断歩道橋をつくりまして、その危険な場所を横断歩道橋にやらせる。その場合も、そういう歩道橋をつくりましたら、もうそこは平面――きびしくその横断歩道橋以外を絶対に渡らせないように指導するということが必要であると思うのであります。

第55回国会 参議院 予算委員会 第14号 昭和42年5月15日

○角本良平君

まず第一番目の、歩道橋を私が望ましくない、しからばかわりはどんなものを考えるかということであります。
現在つけられている歩道橋すべてについていきなりかわりのものがあるかと言われれば、これはない。しかしながら、道路を全体としてつくりかえていく過程で、だんだんに歩道橋のように階段をのぼりおりしなければいけないものを整理していく、どうしても歩道橋になるならば、少なくとも階段ではなくて坂道でのぼっていくというようなことが一つあると思います。
それからもう一つは、現在の歩道橋という逃げ方は、信号をつけた場合に車の流れが渋滞するということから歩道橋になっておるわけでありますが、車の流れが渋滞いたしましても、信号をもっとつけるべきではなかろうかと私は思います。と申しますことは、歩道橋を上がることがめんどうでございますし、また上がれない人もおりまして、そういう人たちは歩道橋がありましても、自動車の合い間を抜けて道の上を通っているというのが現実であります。これは幾ら法律で禁止いたしましても防げないことだと思います。それからまた、雨風のときにあの歩道橋の上に上がるということはとてもできないことでありますから、そういうときにそういう人たちが出る。したがいまして、もっと信号で置きかえるということを考えていただいたらどうかと思います。
それから、地下道のほうがいいではないかという代案も出ると思いますけれども、地下道はとてもこわくて入れません。これは大都会の中の地下道でありましても、昼間はまだよろしゅうございますが、夜になるととても大の男でも一人ではこわくて入れない。したがって、私は地下道も特殊な場所以外は望ましくないと思います。
特にこの点、歩道橋の問題を取り上げましたのは、たとえば新宿の西口にいたしましても、あるいは東京駅前の八重州の側にいたしましても、地下に人間を追い込んで、そして自動車を地平に通すというような構造物を積極的におつくりになる、こういった場合にはぜひとも人間は階段を通らずに、自動車のほうが、地下か高架か知りませんけれども、人間を避けて坂道を通って立体分離していくという形で考えていただきたいと思います。

第61回国会 衆議院 交通安全対策特別委員会 第23号 昭和44年7月23日

○伊藤(公)委員

私は、これからの交通安全対策という問題は、単に事故が起きれば歩道橋をつくればいい、あるいはガードレールをふやせばいいという小手先の交通安全対策だけに目を奪われているのではなくて、新しい都市づくり、また新しい都市の中における、特に大都市の中における交通体系というものを新しい発想で考え直してみる必要があるのではないかという気がするわけであります。
たまたま私は五ヵ年間海外で生活をしておりましたけれども、特に東京オリンピックを境にして、まあ私もいま東京に住んでいるわけでありますけれども、東京はガードレールが非常にふえたり、あるいは歩道橋が急速にふえました。これは子供たちを初め生命を守るために、交通の安全のためにということで、もちろん急をしのいでつくったという場面もありましょうけれども、これからの町づくりはできるだけ歩道橋のない町をつくる、あるいはガードレールのない、こうしたできるだけ精神衛生的にも快適な町づくりをするということが、ハンドルを握る人たちに対しても、私はやはり長い目で見て交通安全対策につながっていくという気がするわけであります。恐らく東京ほど歩道橋の多い町は世界のどこの町に行ってもないだろうと思います。

第84回国会 衆議院 交通安全対策特別委員会 第4号 昭和53年3月22日

○坂井委員

それから、同じ歩道でも歩道橋が、どうも見てみますと、全国的に余り活用されていない。むしろ、せっかくつくった歩道橋をもう撤去してほしい、こういう要望が相次いで起こっているようでございますが、そういう現況について。同時に、せっかく歩道橋をつくりましたが、今のようなことで非常に評判が悪い。利用する人もいない。心理的、肉体的に、歩道橋を渡れ、強制されるという、この言葉はどうか知りませんが、苦痛だとかなんとかというような、いろいろ裁判でもそんなような、歩行権の問題と同時に議論されているようでございますが、確かにあの歩道橋というのは余り渡りたがらない。渡りたくない。特に病院の近くの歩道橋なんというのは、病人にとっては酷ですな。やはり平面を安全に自由に横断できる、そういうことが一番理想的で好ましいことでありまして、歩道橋というのは交通安全という観点から考えられたことではございますが、しかし今申しましたように、余りにもその利用というものが行われていない、そういう現状があるように思います。
でありますから、二点目の問題として、せっかく歩道橋をつくった、しかし利用されないので、また近くに横断歩道を設置した、したがって、ますますこの歩道橋は使われない、無用の長物のごとく町の真ん中にかかっている。こういう歩道橋は全国で一体どのぐらいあるのだろうか、そういうことについて調査、把握されていると思いますが、一遍現況についてお聞かせいただきたいと思います。

第102回国会 衆議院 建設委員会 第11号 昭和60年6月12日

昭和40年代以降、歩道橋を設置したことにより平面横断する権利が侵害されたという行政訴訟がいくつもあったようです。
下記は横断歩道を廃止して歩道橋にすることに対して、行政訴訟を提起した事件。
かなりの裁判があったらしいけど、判決は基本「却下」。
棄却ではなく却下になるのは、行政訴訟は提起する要件が厳しく制限されているから。
ただし、却下ではなく棄却になっている判例もあり。

○横断歩道廃止処分取消請求事件(札幌地裁 昭和55年10月24日)
○執行停止申立事件(東京地裁 昭和45年10月14日)
○行政処分取消請求事件(東京地裁 昭和48年5月31日)

強いていうなら、下記判例では歩道橋が国賠法の瑕疵にあたる可能性は認めてます(ただし請求棄却)。

確かに道路は人が歩いたことから出来たものであり人が歩くためのものであり住民の生活圏を形成するためのものであると一応言うことは出来るが、しかしそれは道路の発生の由来がそうであるというにすぎないのであつて、文明の進歩とともに道路の機能も変化し、現在にあつては道路は高速度交通機関たる自動車の手段としても機能するに至つており、日本国の大部分の道路は歩行者と自動車運行者の共用とされているのが実状であつて、それら多数の道路利用者の安全かつ円滑な交通のために、国や地方公共団体はさまざまな通行区分や交通規制をするわけである。従つて現在にあつては人は道路のどこを歩くことも自由であるわけではなく道路交通法等の法規に従い一定の秩序を守りつゝ歩行しなければならない。もつとも右のようにいうことは国や地方公共団体が行う交通規制の一切に従わなければならないことを意味するものではなく、違法な規制には従う必要はないし場合によつては違法な規制によつて損害をこうむつたときには賠償を求めることができる。本件において被告らが本件歩道橋を設置し、検証の結果によつて認められるように本件歩道橋の設置された附近において従来平面的な横断歩道として通行を認められた部分にガードレールを設置して歩行者に事実上平面的な横断を出来なくさせるとともに歩道橋の利用を事実上強制することも右に述べた広い意味での交通規制の一方法ということができるのであつて、この方法は、歩道橋を設置し、車道と歩道との間にガードレールを設置することによつて、すなわち道路の構造に変更を加えもつて交通の安全と自動車等の円滑な通行を図ろうとするものであるが、被告ら自身認めているように横断歩道橋の利用には歩行者に多少の負担を与えるものであるから、右の如き構造の道路には歩行者の立場からみて瑕疵があるとの原告らの主張にも一応の理由は認められるわけである。しかしながら、右に述べたような歩行者からみた本件歩道橋を利用するうえでの不便さをもつて国家賠償法第2条第1項に定める道路の設置または管理上の瑕疵であると認めるにはなお幾多の点を検討しなければならない。

右の点として、1当該場所を通行する車両等の量と横断しようとする歩行者の量との関係およびいわゆる交通渋滞の程度、2歩道橋の構造上その利用によつて歩行者の受ける肉体的精神的な負担の程度、損失する時間の長さ、3当該場所から最も近い横断歩道までの距離、4横断歩道を廃止し歩道橋を設けたことによる交通事故の減少の程度、5歩行者が安全に道路を横断しうる他の施設(例えば地下横断歩道)の利用の可否、難易、6その他当該箇所の特殊事情、等の諸点を挙げることができる。

名古屋地裁 昭和47年9月22日

この判例は、被験者を用いて横断歩道と歩道橋をそれぞれ横断した際の心拍数と血圧の違いや、アンケート調査による心理的影響の結果などを証拠に使ってますが、「本件で取調べた証拠をもつてしては本件歩道橋にはいまだ国家賠償法第2条第1項に定める瑕疵が存在するものとはいうことができない」として棄却。
他の判例だと門前払いみたいなものもあるので、まだいいほうかも。

歩道橋は

最低限エレベーター付きならまだいいけど、エレベーターが付いてない歩道橋はまあまあ見かけます。
あれはこのままにするのか疑問なんですが。

歩道橋を「反ヒューマニズム」と断罪している判例があるのはちょっと驚きました。
しかも「反省を求めたい」と。
刑事事件なので、被告人以外には効力を及ぼしませんが…

今年、多摩川スカイブリッジという橋が出来て、自転車道が併設されていることが話題になりました。
あれ、自転車を車から保護する目的で自転車道を作ったわけじゃなくて、何が何でも自転車を車道から排除しなければならない理由があるから自転車道を作ったと見るほうが正解。

多摩川スカイブリッヂについては過去に書いてますが、 実は控えめに言ってもクソ構造です。 多摩...

東京都側の橋に向かう分岐が、片側三車線の真ん中にあるからです。
橋に向かう車両は真ん中まで平面交差して第三車線まで行かないといけないけど、自転車にそんなプレイされたら困る。

なので自転車は階段とスロープを使って歩道に上げて、何が何でも自転車を車道に行かせないために自転車道を作ったと見るほうが正解でしょう。

ずいぶんと前時代的なアレですが、一昔前なら自転車は通行禁止にしていたのかもしれません笑。
道路構造の問題は理解しますが、何とかならんもんかね。
「自転車道ができた!」と喜ぶべきポイントではなく、あれは自転車を排除する理由があるから自転車道にしただけ。

「歩道橋は反ヒューマニズム」と判決文の中で声をあげる裁判官がいたのにはまあまあ驚きました。
真相はわかりませんが、今の時代、国策に反する判決を出す裁判官は出世しないみたいなのをみたことがあります。
もちろん本当なのかは知りません。

けど、エレベーターが付いてない歩道橋、困るのは高齢化社会や障害者、ベビーカーなど多数いるはずだよな。





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