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「歩行者横断禁止」と責任。

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読者様から質問を頂いたのですが、「歩行者横断禁止」の規制がある道路で、禁止規制を破って横断する歩行者と事故が起きた場合は過失責任がどうなるの?という話。

 

民事責任でいうなら、「歩行者横断禁止」の場所で歩行者が横断して事故になった場合、歩行者に加算される過失は5~10%ですよ。
その他、幹線道路や夜間、直前直後横断ならさらに歩行者に加算されますが、これら全てが揃えば歩行者のほうが過失が大きくなりますが、そうでなければ車の過失のほうが大きくなります。

民事の過失

民事の過失ですが、基本的な概念は「被害者の救済、弱者保護」にあるので、道路交通法上は歩行者が悪くても民事責任は車が大きくなることは「普通」。

 

ちなみに古い解説書に書いてありましたが、「歩行者横断禁止」にもかかわらず歩行者が横断して事故が起きた場合、過失割合の試案では車:歩行者=20:80だったそうです。

 

しかし裁判所内でも反対意見が多く、この試案は不採用になったらしい。
昭和40年代に横断歩道を廃止して歩道橋建設を優先させていた話は以前書きましたが、

 

「歩道橋は明らかにヒューマニズムに反する」。
古い判例って、時々凄いな。 歩道橋は反ヒューマニズム 判例タイムズの解説にチラっと掲載されている判例なのですが。 判決年月日はなぜか書いてありません。 事件番号は大分地裁 昭和43年(わ)423号です。 事案の概要。 歩道橋を使わずに道路を...

 

高齢者、身体障害者、ベビーカーなどを置き去りにした愚策なので裁判官が「ヒューマニズムに反する」としてますし、そういう事情も考えずに歩行者過失80%とは何事か!という反対意見が多かったらしい。

 

民事責任とはそういうものです。
道路交通法違反の程度を争うわけではない。

刑事責任

刑事責任で考えた場合は、判例上は割れてます。

 

まず、「歩行者横断禁止」だからと信頼の原則を否定した判例から。
前方不注視のまま漠然走行した過失を認めています。

本件事故は、原判示被害者が、所論のように、道路交通法第13条第2項の規定に違反して、歩行者として横断禁止区域となつている原判示道路を横断しようとし、しかも、横断に際して一たん立止り、2、3歩後退したことにその一因があり、右被害者にもかなり重大な過失があるものと解せられるが、その主たる原因は、被告人が自動車運転者としての基本的な義務である進路前方の注視義務を怠り、漫然時速約50キロの速度で進行した過失により右横断中の歩行者である被害者に全く気付かず、自車前部を同人に衝突させたことにあることが充分認められるのである。従つて、原判決には、所論の如き認定事実と証拠との間のくいちがいは存しない。(右のように、本件事故に関しては、被害者の過失が認められるのであるが、被害者の過失を罪となるべき事実として判示する必要はないものと認められるので、原判決が被害者の過失につき判示しなかつたことをもつて、事実摘示の不備や事実と証拠との間に理由のくいちがいがあるものとすることはできない。右被害者の過失については、量刑事情としてこれを参酌すれば足るのである。)次に、本件事故の場合に、論旨に援用する最高裁判所判例が認めるいわゆる信頼の原則の適用があるかどうかについて考察してみると、自動車運転者としては、他の自動車運転者が交通法規を守ることが期待し、これに信頼して行動すれば足りるといわゆる信頼の原則が右最高裁判所の判例によつて認められたものと解し得るのであるが、この原則を直ちに、そのまま自動車運転者対歩行者の場合にまで拡張し得るかどうかについては、疑問があるものといわなければならない。わが国現下の道路交通事情は、自動車専用道路(道路交通法第2条第7号の2にいう高速通行路)及び歩行者専用道路(跨道橋など)が少なく、大多数の道路は、歩車の区別がある場合でも、歩行者が車道を横断するなどの方法により、自動車その他の車輛と歩行者との通行に共用されており、かかる共用道路における交通の安全のためには、歩行者に比してより大きな交通の危険を発生させる可能性がある自動車運転者に歩行者よりも大きな注意義務が課せられるものと解するのを相当とし、自動車運転者がかかる共用道路における予測可能な歩行者の通行につき前方注視その他の注意義務を尽くさないで事故を発生させたときには、右の原則は、その適用がないものと解すべきである。本件についてみると、本件事故は、歩道と車道との区別はあるが、右に説明した車輛等と歩行者との共用道路において生じ、前記のとおり、被害者たる歩行者に過失があつたにもせよ、被告人には、歩行者の通行を予測し得る車輛等と歩行者との共用道路において自動車運転者としての基本的注意義務である前方注視を怠つたのであるから、前記信頼の原則を適用して被告人に過失がないとすることはとうてい許されないのである。

 

東京高裁 昭和42年5月26日

次の判例。
制限速度40キロ、中央分離帯がある道路を時速70キロで進行したことについて、無罪としています。

被告人は右自動車を北東方の入谷方面から南西方の上野駅前方面に向かつて走行させていたが、そこは東京都公安委員会がそこを北東方の入谷方面から南西方の上野駅前方面に向かつて通行する車両の最高速度を40キロメートル毎時と定めているところであるのに、被告人はそのときそこで右自動車を約70キロメートル毎時の速さで走行させており、かつ、右自動車の助手席に同乗していたAの購入したスポーツ新聞の競馬予想記事について同人と話をかわしたり、その新聞をのぞきこんだりして右自動車の進路前方を注視しておらず、従つて右自動車の進路前方における横断歩行者の存否を確認していなかつたところ、そのとき被害者が右自動車の進路前方(南西方)を左から右に(南東方から北西方に)横断歩行しようとしており、被告人は以上の前方不注視のためこれに気づくのが遅れ、被告人がこれに気づいたときには右自動車は被害者の手前(北東方)約9メートルの地点を約70キロメートル毎時の速さで走行していたため、どうするいとまもなく、右自動車の車体が被害者の身体に衝突し、そのため同人がはねとばされて路上に転倒し、その結果(略)死亡するに至つたものであり、以上の事実は〈証拠〉によつて明らかである。

前方不注視のまま制限速度を30キロオーバーで進行していた状況です。

検察官は、自動車運転業務従事者としてはかかる場合この衝突を避けるため、右自動車の速さにつき前記の指定最高速度を守り、かつ、右自動車の進路前方を注視して、そこを左から右に横断する歩行者の存否を確認していなければならないと主張するが、以上の歩行者横断禁止区間内で前記の如き二本の分離帯の間を走行している車両の運転者はその車両の進路前方を横切る歩行者があるかも知れないということまで予想していなければならないということはできない(このことは、前記の南東側分離帯が前記のように一部途切れていることやここを通行する車両の最高速度が前記のとおり公安委員会によつて40キロメートル毎時と定められていることによつて影響されない。けだし、分離帯の中断は分離帯の北西側から南東側に移る車両のためにあるものに過ぎず歩行者のためにあるものではないし、また指定最高速度はこの場合車両の進路前方における車両との衝突を防止するためのものに過ぎず歩行者保護のためのものではないからである。)。

 

すなわち、前記の二本の分離帯の間を走行する車両の運転者としては、歩行者が南東側歩道から北西側歩道に移る際にはかならず前記二本の横断歩道のうちのどれかを利用するのであつて、これを利用しないで前記のガードレールをまたいで、かつ、歩行者横断禁止を無視して、横断歩道以外の部分で車道を横切るものはないであろうと信頼していればたりるというべきである。従つて本件の場合被告人にはその運転する自動車の進路前方を横切る(または、横切ろうとしている)歩行者の存在を予見すべき義務はないのであり、従つて、(進路前方の車両に対する関係ではともかく)かかる歩行者に対する関係では前方注視義務も指定最高速度遵守義務もないといわなければならない。そうだとすれば、被告人がもし前方注視をしていたならば被害者の姿を(右転把または制動により回避しうる地点で)現認しえたとしても、またもし被告人が前記の指定最高速度を遵守していたならば前記衝突を回避することができたとしても、そのことは被告人に前記衝突についての過失責任を負わせる根拠とはなりえないものというべきである。

 

東京地裁 昭和47年3月18日

まあ、大胆に信頼の原則を適用「し過ぎ」な気がするし、下記については今の時代なら普通に否定されると思う。
なお、理由はわかりませんが控訴せずに確定。

指定最高速度を遵守していたならば前記衝突を回避することができたとしても、そのことは被告人に前記衝突についての過失責任を負わせる根拠とはなりえない

いろいろ見ている限りでは、

・ガードレールを越えてまで「歩行者横断禁止規制」を突破する歩行者を予見する義務はない
・しかし安全運転義務として前方不注視&回避可能性があれば刑事責任を負う可能性が高い

こんな感じでは?

民事の不思議

先日、違う読者様と「優先道路」の話をメールでしていたのですが、例えばこちらの判例。

 

6歳が乗る自転車でも過失割合50%。
以前チラっと書いた件ですが、 この中の判例について。 6歳が乗る自転車でも過失割合50% 判例は東京高裁 平成26年12月24日。 事故概略です(イメージ図。正確性は保証しません。) 加害車両はバス、被害車両は満6歳が運転する自転車。 対向...

 

バスが進行していたのは優先道路なので、徐行義務はありません。

ですが民事責任としては、36条4項(交差点内安全進行義務)を理由に無過失は認めていない。
ただまあ、時速28キロで進行していて徐行義務は否定しながらも36条4項を適用するわけで、結局は徐行しろと言ってるのと同じこと。
事故回避するには徐行していない限りは不可能でしょう。

 

民事ってどうしてもこうなるのですが、道路交通法上は優先道路だから徐行義務はない。
けど民事責任としては事故回避のため子供の自転車の飛び出しを予測して「安全運転」しろとなるわけで、結局求めているのは徐行になります。

 

「歩行者横断禁止」についても、刑事責任としては歩行者が横断することを予見する義務はないとしても、民事責任としては歩行者が横断開始することを予見する義務があることになる。

 

ちなみに新潟地裁長岡支部の判例で、ドライバーが無過失になった理由ですが、

 

横断歩行者に過失100%をつけた珍しい判例。
横断歩道がなく、かつ横断禁止ではない道路の場合、民事上では車にもかなりの過失がつきます。 目安は歩行者:車=20:80。 ところが、横断歩行者に過失100%とした珍しい判例もあります。 横断歩行者に過失100% ※画像と事故現場は関係ありま...

 

中央分離帯に立っていた歩行者を視認不可能と判断されたからです。
中央分離帯の街路樹が被害者の背丈と同じくらいな上、ガソリンスタンドの光が逆光になり中央分離帯上に歩行者がいたことを視認できない。

 

普通の事故なら、こうなる。

 

①歩道にいる歩行者が車道に向いて横断しようとしている

②ドライバーは横断可能性に備えて注視し速度を調節しながら進行する義務を負う

③歩行者が横断開始しても事故を防げたか?(直前横断か?)

 

要は①と②が「視認不可能」として否定された以上、直前横断なら回避可能性も否定されてしまう。
なのでちょっと珍しい判例です。
なおこの判例、法定速度を10キロ程度オーバーしてましたが、法定速度内でも回避不可能としたため無過失。

 

歩行者横断禁止の場合でも前方注視義務は免れないし、ガードレールを越えようとしていたら横断可能性に備える義務はあるし、歩行者横断禁止だから無過失になるわけではないです。
車ではなくロードバイクでも基本的には変わりませんが、2輪車の場合には2輪車の運転者が転倒して怪我することもあり、どちらが加害者でどちらが被害者になるのかはケースバイケースです。





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