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時速40キロで歩道を通行する自転車と、道路外から歩道を横断するクルマの注意義務。

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以前書いた判例について、メールを頂きました。

 

車が道路外→車道に進入する際の、歩道に対する注意義務。時速40キロ弱で歩道通行する自転車を予見せよ。
車が道路外の施設から歩道を横切って車道に進入する際は、歩行者を妨げてはならない義務があります。 自転車は一応、歩道を通行することが可能です。 ただし自転車が歩道を通行する際には原則として徐行義務があります(63条の4第2項)...

 

読者様
読者様
自転車が歩道を通行する際には徐行義務があるのだし歩道の車道寄りを通行しなければならない。
車が一時停止義務を怠ったとしても過失は自転車のほうが高いのだから罪になるのはおかしい。
小刻みに停止と前進を繰り返すなんて道路交通法には書いてない。

 

ちょっと勘違いされているような。

過失運転傷害罪

この判例は刑事事件、過失運転傷害罪に問われたモノ。
過失運転傷害罪はこのように定義されます。

(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

民事では過失割合が問われますが、この事件は刑事。
車に注意義務違反があり、その結果他人を死傷させれば犯罪になります。
被害者側の過失が大きいかどうかは罪の成立には関係せず、量刑判断として考慮されるだけです。

 

あらためて事故詳細を。

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ガソリンスタンドから歩道を横切り車道に進出する際に、クルマは一時停止せずに時速4.2キロで進行。
歩道の左側には高さ2.5mの壁があり、歩道左側の見通しが効かない状況です。

 

自転車は歩道を時速39.6キロで進行した結果、クルマと衝突。
クルマのドライバーが過失運転傷害罪に問われた判例です。

 

一審が認めた「罪となる事実」がこれ。

被告人は,平成30年7月10日午後1時30分頃,普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転し,広島市a区bc丁目d番e号所在のガソリンスタンド(以下「本件ガソリンスタンド」という。)敷地内からその北方に接する歩道(以下「本件歩道」という。)を通過して車道(以下「本件車道」という。)へ向け進出するに当たり,本件歩道手前で一時停止し,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約5kmで進行した過失により,折から本件歩道を左から右へ向け進行して来たA(当時41歳)運転の自転車(以下「A自転車」という。)に気付かず,A自転車右側に自車右前部を衝突させてAを路上に転倒させ,よって,Aに入院加療150日間を要する脊髄損傷等の傷害を負わせた。

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この場合、17条2項によりドライバーには一時停止義務があります。

(通行区分)
第十七条
2 前項ただし書の場合において、車両は、歩道等に入る直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない

あくまでも歩行者に向けた注意義務ですが、25条の2第1項の趣旨も考慮すれば一時停止して確認してから歩道に進出する義務があったと一審は認定。

(横断等の禁止)
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない

過失運転傷害罪の「過失」は注意義務全般を指すので、道路交通法違反と必ずしも一致するわけではありません。
要は「他人に怪我をさせないようにあらゆる注意義務を果たせ」ということなので。
信頼の原則が働く場合は別。

 

一時停止せずに歩道に進出したわけなので17条2項の違反が成立するのは間違いないですが、この判例は過失運転傷害罪。
その義務を果たしていれば事故が起きなかったこと、つまりは注意義務違反と怪我の発生に因果関係がなければ成立しません。

 

二審は一審を破棄した上で、新たに有罪を言い渡しています。
二審が認定した「罪となる事実」がこれ。

本件ガソリンスタンド敷地内からその北方に接する本件歩道を通過して本件車道へ向け進出するに当たり,本件ガソリンスタンドの出入口左方には壁や看板等が設置されていて左方の見通しが悪く,本件歩道を進行する自転車等の有無及びその安全を確認するのが困難であったから,本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失により,折から本件歩道を左から右へ向け進行して来たA(当時41歳)運転のA自転車に気付かず,A自転車右側に自車右前部を衝突させてAを路上に転倒させ,よって,Aに入院加療150日間を要する脊髄損傷等の傷害を負わせたものである。

 

広島高裁 令和3年9月16日

一審 二審
本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約5kmで進行した過失 本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失

二審が一審を破棄した理由は、一時停止しても事故を防げないという理由です。
一時停止しても、運転席の位置や歩道左側の壁の関係から、歩道左側を視認できない。
せいぜい、黄色の範囲しか見えないでしょう。

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一時停止していたら事故は起きてないとも言えますが、そもそも歩道左側は見えないのだから、自転車がどの位置にいたかなんてわからない。
仮に自転車がAの位置にいたら、一時停止することにより「偶然」自転車との衝突を回避できますが、そもそも自転車の位置がどこなのか見えてないのだから、それはたまたま運良く回避したに過ぎない。

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なので一審が認定した注意義務を果たしても、偶然回避できるに過ぎないのだからそれは違うよね?と二審が指摘している。
偶然回避したに過ぎない注意義務違反を罪にはできない。

原判決がいう理屈で本件歩道手前の地点での一時停止義務違反と本件結果との因果関係を肯定することは,結局のところ,一時停止により本件衝突地点への到達が遅れることによって時間差が生じ,偶然に結果を回避できた可能性を根拠として被告人に本件結果を帰責することになり,ひいては,A自転車が本件衝突地点に到達した時点がいつであったかという偶然の事情によって結論が左右されることになって,妥当性を欠く。

なので、二審は、「一時停止し、小刻みに停止・発進を繰り返すなどして」安全確認する義務があったにも関わらず怠ったとして有罪にしてます。

 

一時停止して小刻みに前進と停止を繰り返せば、歩道左側の見える範囲も変わる。

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歩行者を妨害してはいけない趣旨(17条2項)と、歩行者や車両の正常な交通を妨害してはいけない趣旨(25条の2第1項)を考えれば、見えないなら見えるように注意して進行するのが当たり前でしょ?という注意義務違反から有罪にした判例です。

 

読者様
読者様
自転車が歩道を通行する際には徐行義務があるのだし歩道の車道寄りを通行しなければならない。
車が一時停止義務を怠ったとしても過失は自転車のほうが高いのだから罪になるのはおかしい。
小刻みに停止と前進を繰り返すなんて道路交通法には書いてない。
管理人
管理人
「一時停止、かつ歩行者の妨害禁止」の趣旨を考えれば、見えない状況なら小刻みに前進と停止を繰り返しながら確認して進行する義務があるとなるのでは?
明文として「確認してから進行」とは書いてないけど、確認せずに進行したら妨害する可能性があるのだから、わざわざ「確認してから進行」などと規定しなくても明らかだと思いますけど。

 

自転車が時速39.6キロで歩道を通行したことは、当然徐行義務違反(63条の4第2項)。
なので被害者にも過失はありますが、それは量刑判断として考慮するということになる。

しかしながら,本件においては,道路交通法上,徐行義務のある歩道上で,時速約39.6kmという高速度で自転車を運転し,被告人車両が歩道上に進出して来ているのを認識しながら,あえて停止等の措置を執ることなくその前を通り過ぎようとしたという点で,被害者の行為が本件事故の一因を形成し,あるいは,本件傷害の結果の重さに影響した側面があることは否定できない。
こうした犯情を踏まえ,被告人にこれまで前科前歴が見当たらないことなどの一般情状をも考慮すると,被告人に対しては,原審検察官の求刑よりも若干減額した上で,主文の罰金刑に処するのが相当である。

 

広島高裁 令和3年9月16日

被害者に過失があるのは当然ですが、だからといって加害者の過失を消し去るわけじゃないのね。
それは民事の過失相殺の話。

一時停止義務

歩道を横切る際の一時停止義務を果たさない車両は残念ながらかなり多いですし、しまいには

読者様
読者様
一時停止しなくても違反にはならない。

などと語るヤベー奴までいるそうな。

 

歩道を横切るときは「一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない」
初歩中の初歩だと思いますが、歩道を横切る際には「一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない」義務があります。 第十七条 2 前項ただし書の場合において、車両は、歩道等に入る直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げ...

 

一時停止義務の本質は、単に止まることではなくて「止まった上で安全確認する」こと。
なので歩道の全体を見渡せない状況では一時停止義務だけでは足りず、小刻みに前進と停止を繰り返す注意義務があったとしています。

 

時速40キロ弱で歩道を爆走する自転車もどうかとは思いますが、歩道を確認してから横切る義務があるのは間違いないのでこういう判決になります。

 

「一時停止義務だけでは足りない」としている点は、クルマを運転する方には参考になると思いますよ。

 

ちなみにですが、視認できない状況では道端にいる通行人に見張りを頼めとしている判例もあります。

運転補助者なく狭い三叉路において車体転換をし、つづいて後進をしようとすると、自動車を右折もしくは左折させ、停止させ、後進させ、後進のまま右折もしくは左折することとなり、附近通行人は自動車の動きを十分に予測することができず、衝突の危険を持つということができ、又後進の際には、運転者自から車体の一方を警戒しても、その反対側及びその後方には当然死角を生じ、同様通行人と衝突の危険を持つということができる。そこで運転補助者なくして右の如き処置をなそうとする運転者は、その行為に出る前一旦下車して三叉路附近通行人の存否を確かめ、通行人ある場合は、これに対し、一旦進入し後進を開始する箇所、後進する方向等を具体的に指示して避譲せしめ、又附近に成年者もしくは成年者に近い者がいて、たやすく協力を求め得る事情にある場合には、少くとも車体転換が終る前後の間だけでも、右の如き処置をとることを伝え、幼児等が突然後進方向に現れないよう見張方の協力を依頼し、見張人が得られない時は、後進開始後数米毎に一旦停車し、運転しながら警戒した反対側に通行人が現れないかを確かめ、且つ極力徐行し、後進しながらも随時警笛を吹鳴させて通行人を警戒させる等のことをし、事故を未然に防止する業務上の注意義務があるということができる。

 

山口地裁 昭和35年2月11日

助手席に誰かいるなら降りて誘導したり、道端にいる通行人に頼むという方法もあるし、それらが不可能なら小刻みに前進と停止を繰り返す注意義務があると言えます。

 

気のせいかわからないけど、昔って通行人が誘導して進行する場面があったような気もする。
ていうよりも「すみません!左側が見えないので誘導してもらえませんか?」と通行人に頼んでも構わないわけですし、勘を頼りに進行するよりもマシな気がします。

 

それとは別に、自転車が歩道で爆走する行為は危険だし違反です。
そういう意味では、今後登場する特定小型原付の歩道通行モード(時速6キロ)なんて、自転車よりも安全だと評価されそうな気もする。
自転車が歩道で爆走する行為について、危険だと感じている歩行者は多いですよ。

 

https://www.mlit.go.jp/common/001469846.pdf

歩行中 車を運転中 バイクを運転中 自転車を運転中
原付に危険を感じる 48% 59% 61% 50%
自転車に危険を感じる 71% 70% 68% 62%
キックボードに危険を感じる 48% 61% 61% 49%
被害者側の過失は量刑判断に影響しますが、だからといって加害者の過失が無くなるわけではない。

あとついでに。
刑事訴訟で過失が否定されても、民事の過失が否定されるわけではありません。

本件事故に関する刑事判決を云為するが右判決の内容が如何ようにもあれ、原審としてこれに一致する判断をしなければならない筋合はなく、また右判決と一致しない事実認定をするについて第一審判決の説明以上の場面を附け加えなければならないわけもない。

 

最高裁判所第一小法廷 昭和34年11月26日

刑事で過失が否定されても、民事では過失になることもありますが、立証の深さが違うのでしょうがない。

 

あともう一つ。
過失運転致死傷の容疑で逮捕されるケースもあれば、逮捕されないケース(在宅捜査)もあります。

 

逮捕されないから過失なしが疑われるというわけでもないし、逮捕されたから過失が濃厚というわけでもありません。
逮捕されずに在宅捜査の事件でも実刑になることもあるし、逮捕されたけど嫌疑不十分で不起訴も普通にあります。
要は逃亡や証拠隠滅のおそれがないなら逮捕する理由もないわけで、ドラレコを回収していて(証拠確保)、同居家族がいるなど逃亡のおそれもなく、現場の状況と照らし合わせて不自然な点がなければ逮捕する理由がない。

 

たまにこれを理解せず、逮捕されたかどうかを過失の有無と結びつけようとする人もいますが、基本的には無関係です。





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