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交差点安全進行義務(道路交通法36条4項)の解釈と判例。

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先日取り上げた件について質問を頂きました。

 

これを信号無視に見えない方々。
なかなかな。 歩道を進行していた自転車と、交差道路を青信号で進行した車の衝突事故。 ビックリすることに、この自転車を「信号無視には当たらない」とか「自転車を規制する信号はなかった」と捉える方々がいる。らしい。 アホか そもそも交差点の範囲と...

 

読者様
読者様
このような場合でもドライバーは36条4項の違反になるのでしょうか?

ええと、基本的にはならないです。

交差点安全進行義務

交差点安全進行義務はこちら。

(交差点における他の車両等との関係等)
第三十六条
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

この規定は昭和46年道路交通法改正で誕生した規定です。
趣旨は交差点での事故が増えていたことから、「一般的注意義務」を定めたもの。
内容としては、安全運転義務(70条)と同じだと解釈されています。

 

36条4項の特徴

○一般的注意義務であり、回避不可能なことを違反にする意図はない。
○交差点での優先規定が優先する。
○信号機の有無は問わない

この規定って、要は前方左右を注視して状況に合わせて適宜速度を調整しながら進行しろというだけ。
例えばですが、対向右折車がこんな感じで交差点内に止まってしまった。

このとき、交差道路から直進してくる車両と距離が十分あれば、直進車は速度を落として様子をみながら進行しますよね。
そういう回避可能なことをちゃんとやれという規定です。

 

信号無視した横断歩行者が200m先(笑)にいたら、速度を落として様子をみながら進行する。
まさか、「オメーは赤信号なんだから俺様優先♪衝突してみせるぜ!」みたいなアホはいないでしょ。

 

だから、「当該交差点の状況に応じ」としているわけ。
赤信号無視の歩行者や車両が直前横断的に来たとしても回避不可能。
そういうことでは違反にはなりません。

 

なお、70条と違い過失犯の処罰規定はありません。
ただし36条4項の故意とは、交差点であることを認識していれば足りるとされます。

 

判例をいくつか。
右直事故の右折車が直進オートバイに衝突した事故ですが、被害者が制限速度を10キロオーバーしていたことは36条4項に違反しないとしています。

 所論は,道路交通法36条4項によれば,交差点を通行しようとする車両は,交差点の状況に応じ,右折車両に特に注意し,かつ,できる限り安全な速度と方法で通行しなければならないのであるから,本件被害者においても,交差点に進入するに当たり制限速度を守らなかった点で,本件衝突について過失がある,という。なるほど,同条項に定めるように,直進車にも,交差点を通行するに当たってはできる限り安全な速度と方法で進行すべきことが要求されるといえるが,一方で道路交通法37条は,直進車の右折車両に対する優先を定めているのであって,それは,直進車が制限速度を時速10キロメートル程度を超えた速度で進行する場合であっても適用されるというべきであるから,右折車両としては,直進車が制限速度を時速10キロメートル程度超えた速度で進行してくることを予測して,その進路を妨げることがないようにすべき義務があり,直進車からいえば,その程度の制限速度を超えて進行することを右折車両が予測して行動するものと期待してよいといえるのである。
さらに,例え被害車両が交差点に進入する時点で時速40キロメートルの制限速度に減速していたとしても,上記の被告人車と被害車両との相互の位置及び距離関係などからして,衝突が避けられた,あるいは被害者に衝突回避の措置を期待できたとはいえないのである。したがって,本件被害者が,制限速度を時速約10キロメートル超える速度で交差点に進入したからといって,本件衝突について被害者に過失があるとはいえない。

 

仙台高裁 平成13年12月4日(業務上過失致死)

 

次に民事の判例。
優先道路を進行していた車両と、非優先道路から進行してきた車両の事故ですが、優先道路側としては非優先道路側車両が進行してこないことを前提にしてよいとして、優先道路側の過失をゼロと認定しています。

控訴人車は、優先道路を進行していたのであるから、本件交差点を進行するに当たり徐行義務(道路交通法36条3項,42条)は課されておらず、問題となるのは前方注視義務(同法36条4項)違反である。前方注視義務は、「当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等・・・に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」というものである。したがって、控訴人は、本件交差点を通過するに当たり、優先道路を進行中であることを前提としてよい。すなわち、交通整理の行われていない交差点(本件交差点もこれに当たる。)において、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を通行する車両の進行妨害をしてはならないのであるから(同法36条2項)、控訴人は、被控訴人車が控訴人車の進行妨害をする方法で本件交差点に進入してこないことを前提として進行してよく、前方注視義務違反の有無もこのことを前提として判断するのが相当である。そうすると、優先道路を進行している控訴人は、急制動の措置を講ずることなく停止できる場所において、非優先道路から交差点に進入している車両を発見した等の特段の事情のない限り、非優先道路を進行している車両が一時停止をせずに優先道路と交差する交差点に進入してくることを予測して前方注視をし、交差点を進行すべき義務はないというべきである。本件においては、前示の事故態様に照らし、上記特段の事情は認められない。

 

名古屋高裁 平成22年3月31日

 

ポイントになるのは、ここ。

 

前方注視義務は、「当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等・・・に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」というものである。したがって、控訴人は、本件交差点を通過するに当たり、優先道路を進行中であることを前提としてよい

前方注視義務違反の成否は、この状況では優先道路を進行しているわけなので、非優先側が妨害してこないことを前提に検討するということ。
「急制動の措置を講ずることなく停止できる場所において、非優先道路から交差点に進入している車両を発見した等の特段の事情のない限り」、非優先側が無理矢理進行してくることを予想して運転する必要はないわけです。
だから「当該交差点の状況に応じ」と規定している。

 

次に行政事件。
36条4項の違反があったかの争いです。
十字路をT字路と誤認したことや、誤認した結果交差道路右方から進行してきた自転車と衝突した事故が36条4項の違反にならないと主張した判例。

法36条4項は,交差点に入ろうとし,及び交差点内を通行する車両等の運転者に対し,当該交差点の状況に応じ,交差道路を通行する車両等,反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し,かつ,できる限り安全な速度と方法で進行すべきことを義務付けている。これは,交通上特に危険性の高い場所である
交差点(その付近を含む。)における事故防止という見地,目的から,交差点に入ろうとする車両等の運転者に対し,一般道路とは異なる特別の注意義務を規定したものであると解される。このような同項の趣旨に加え,同項が「当該交差点の状況に応じ,」と定めていることからすれば,同項は,交差点に入ろうとし,及び交差点内を通行する車両等の運転者に対し,当該交差点の具体的形状を含む当該交差点の状況を正確に認識・把握した上で,その認識・把握したところの交差点の状況に応じた安全進行を義務付ける趣旨であると解される。
したがって,車両等の運転者が,当該交差点の具体的形状を認識・把握することが客観的に可能であったにもかかわらず,これを誤認したため,交差道路を通行する車両等に気付かず,安全な速度と方法で進行すべき義務を怠ったような場合には,当該交差点の状況に応じた安全進行をしなかったものとして,法36条4項の規定の違反になるものと解すべきであり,交差点の具体的形状の認識に欠けるとして同項の規定の違反にはならないとの解釈を取ることは相当でないというべきである。すなわち,同項の規定の違反となるような行為に該当するためには,交差点を認識した運転者において,当該交差点の具体的形状を認識することが客観的に可能であることを必要とするとはいい得ても,当該交差点の具体的形状を実際に認識していることは必要がないと解するのが相当である。

(中略)

交差点安全進行義務違反と本件事故との間の相当因果関係の有無について前記(1)のとおり,原告は,前方を注視していれば,遅くとも本件車両が本件視認可能地点に到達した時点において,本件停止地点において停止していたか,又は既に本件停止地点を発進して本件交差点に進入していた本件自転車を発見することができ,その時点以降,本件自転車の動静に応じて適切な減速の措置を執ることにより,本件自転車との衝突を回避することが可能であったと認められる。
したがって,上記(2)イで認定した交差点安全進行義務違反と本件事故との間の相当因果関係を認めることができる。

 

東京地裁  平成28年12月9日

前方注視を果たしていれば発見&回避可能なので、交差点安全進行義務違反が成立するとしています。

 

なので青信号で交差点を進行しようとした瞬間に、いきなり赤信号無視で交差点を進行してきた自転車について回避不可能なら、交差点安全進行義務違反にはなりません。

 

不可能なことをしろという条文ではないし、一般的注意義務に過ぎません。
冒頭記事についても、ドライバーに過失が認められる可能性はないに等しい。
せいぜい「自転車だから」として10%くらい持つくらいかと。

基本的には

元々、37条には2項があった話は何度か書いてますが、2項を削除した理由は安全運転義務さえあれば事足りるからとされます。

 

1項は、直進車を優先させる規定。

2項は、直進車は「既に右折した車両」の進行妨害禁止。

途中で優先関係が変わるかのような誤解を生みますが、要は前方注視をして速度を調整するという当たり前の義務さえあれば十分なわけ。
なので2項を削除し、さらに交差点の事故が増えていたことから交差点安全進行義務を新たに設けた。

 

36条4項は信号無視などの違法進行する車両や歩行者に対しては関係ないのではなくて、「当該交差点の状況に応じ」としてその状況で最大限安全に進行する義務。
なので直前横断みたいな回避可能性がない場合には違反にはなりませんが、過失運転致死傷罪における信頼の原則では、「普段から信号無視する人が多いことを知っていた」なら信頼の原則が適用されません。

 

冒頭の記事の件ですが、結局のところ被害自転車はあの交差点をよく通行する人なのかによっても話が変わります。
まあ、「誰にでもすぐに判別できるシステム」であるべきだとは思いますが、よく通行する人なのであれば同情の余地もありませんし。
交差点安全進行義務は被害自転車にも義務が課されてますから。


 




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