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道路交通法38条2項と判例の話。

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以前の続き。

 

38条2項は対向車含まなくてよい。
先日の記事ですが、 「対向車は含まない」で問題ないと思う。 理由 いまさら書かなくても明らかだと思うけど、さらにいくつかの都道府県警察本部に確認したところ、即答レベルで「対向車は含まない」と。 一番分かりやすかったシンプルな理由。 (横断歩...

 

道路交通法38条2項は横断歩道手前に停止車両があるときには、前に出る前に一時停止するルール。

Aに対して Bに対して Cに対して
38条2項(一時停止) 38条1項前段(最徐行) 特になし

対向車(B)も含むのでは?と疑問が晴れない方もいますが、一応判例があります。

38条2項と判例

判例は東京高裁 昭和46年5月31日。

 

まずは公訴事実から。

 (罪となるべき事実)
被告人は、自動車運転の業務に従事している者であるが、昭和43年4月26日午前11時10分ごろ、大型乗用自動車(ワンマンバス)を運転し、東京都世田谷区b町c番地先道路を調布方面から渋谷方面に向かい時速約40キロメートルで進行中、前方に横断歩道が設けられ、同歩道付近の道路右側部分は交通が渋滞し横断歩道をはさんで連続して停止車両があり、右停止中の車両の間から右から左へと横断歩道上を横断する歩行者の出現が予想され、中には駆け足で横断する幼児のあることも予想できなくはない状況にあつたのであるから、同方向を注視して少くとも時速を約20キロメートル以下に減速し、歩行者の安全を確認しつつ横断歩道上を通過すべき業務上の注意義務があるのにかかわらず、漫然と時速約35キロメートルに減速したのみで進行した過失により、おりから連続停止車両の間の横断歩道上を右から左に駆け出してきたE(当時4歳)を目前に発見し急制動の措置をとつたが及ばず、自車右側部を同人に衝突させて路上に転倒せしめ、よつて同人をして同日午後1時10分同都同区同町d番地国立F病院において骨盤内臓器損傷により死亡するに至らせたものである。

 

東京高裁 昭和46年5月31日

概略はこんなイメージ。

※厳密には異なりますが他の判例のイラストを流用します。

検察官の控訴趣意中に、横断歩行者の有無が明確でない場合にも一時停止義務があると主張する部分があるが、この点は採用しがたい

 

東京高裁 昭和46年5月31日

38条2項を対向車に適用することを否定していると取れます。

 

なお、38条2項は昭和42年改正道路交通法で新設された規定ですが、同改正法は昭和42年11月1日施行なので、改正後の事件となります。

 

それ以外の判例だと、道路左側に停止している車両は一時停止だろうと駐車だろうと問わないとした名古屋高裁判決。

所論は、原判示の横断歩道直前に停止していた自動車は、一時停止していたものではなく、「駐車」していたものであるから、本件において、被告人は、道路交通法38条2項にいう「その前方に出る前に一時停止しなければならない」義務を負わないのに、その義務があるとした原判決の認定は失当であると主張する。しかし、被告人の立会のもとに作成された実況見分調書によつて明らかなとおり、原判示道路は、道路標識等によつて駐車が禁止されているし、原判示自動車の停止位置は、道路交通法44条2号、3号によつても停車及び駐車が禁止されている場所であるから、かかる場所に敢えて駐車するが如きことは通常考えられない事柄であるのみならず、同法38条2項にいう「横断歩道の直前で停止している車両等」とは、その停止している原因、理由を問わず、ともかく横断歩道の直前で停止している一切の車両を意味するものと解すべきであるから、本件の場合、被告人の進路前方の横断歩道直前の道路左側寄りに停止していた自動車が、一時停止による場合であると停車或いは駐車による場合であるとにかかわりなく、被告人としては、右停止車両の側方を通過してその前方に出ようとするときは、出る前に一時停止しなければならないのである。従つて、右措置をとらないまま横断歩道に進入した被告人に過失があるとした原判決に誤りはない。論旨は理由がない。

 

名古屋高裁 昭和49年3月26日

あとは38条2項の新設された経緯を引用した札幌高裁判決。

右規定の新設された立法の趣旨、目的は、従前、横断歩道の直前で他の車両等が停止している場合に、その側方を通過して前方へ出たため前車のかげになつていた歩行者の発見がおくれ、横断歩道上で事故を惹起する車両が少なくなかつた道路交通の実情にかんがみ、とくに歩行者の保護を徹底する趣旨で設けられたものである。すなわち、右規定は、本来駐停車禁止区域である横断歩道直前において車両等が停止しているのは、多くの場合、歩行者の通行を妨げないように一時停止しているものであり、また、具体的場合に、当該車両等が歩行者の横断待ちのため一時停止しているのかそうでないかが、必ずしもその外観のみからは、一見して明らかでないことが多い等の理由から、いやしくも横断歩道の直前に停止中の車両等が存在する場合にその側方を通過しようとする者に対しては、それが横断中の歩行者の存在を強く推測させる一時停止中の場合であると、かかる歩行者の存在の高度の蓋然性と直接結びつかない駐車中の場合であるとを問わず、いずれの場合にも一律に、横断歩道の直前における一時停止の義務を課し、歩行者の保護のよりいつそうの強化を図つたものと解されるのである。(浅野信二郎・警察研究38巻10号34頁。なお弁護人の論旨は、右「停止」中の車両の中には「駐車」中の車両が含まれないとの趣旨の主張をしているが、法2条18号、19号によれば、「停止」とは「駐車」と「停車」の双方を含む概念であることが明らかであるから、右の主張にはにわかに賛同できない。)

 

昭和45年8月20日 札幌高裁

札幌高裁判決で引用された警察研究はこちら。

もともと横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するために一時停止する場合のほかは停止および駐車が禁止されている(第44条第3号)のであるから、交通整理の行われていない横断歩道の直前で車両等が停止しているのは、通常の場合は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにするため一時停止しているものと考えてしかるべきであるしたがって、このような場合には、後方から来る車両等は、たとえ歩行者が見えなくとも注意して進行するのが当然であると考えられるにかかわらず、現実には、歩行者を横断させるため横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出たため、その歩行者に衝突するという交通事故を起こす車両が少なくなかったのである。
そこで、今回の改正では、第38条第2項の規定を設けて、交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとする車両等は、横断歩道を通行し、または通行しようとしている歩行者の存在を認識していない場合であっても、必ずその横断歩道の直前で一時停止しなければならないこととし、歩行者の有無を確認させることにしたのである。車両等が最初から歩行者の存在を認識している場合には、今回の改正によるこの規定をまつまでもなく、第38条第1項の規定により一時停止しなければならないことになる。
「一時停止」するというのは、文字通り一時・停止することであって、前車が停止している間停止しなければならないというのではない。この一時停止は、歩行者の有無を確認するためのものであるから、この一時停止した後は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにしなければならないことになる。また、一時停止した結果、歩行者の通行を妨げるおそれがないときは、そのまま進行してよいことになる。

 

警察学論集、浅野信二郎(警察庁交通企画課)、立花書房、1967年12月

そのほか、仙台高裁 昭和54年7月4日判決、昭和54年(う)63号も道路交通法38条2項に関する判例なのですが、こちらはある本に掲載されてます。
内容を確認できなかったけど、都内にお住まいで見たい方がいるならどこにあるか教えます。

 

以前も書いたように、2条の「追い越しの定義」、52条2項の「他の車両等と行き違う場合」を見る限り、「側方を通過してその前方に出ようとするとき」とは同一進行方向の車両としか解釈できないから。

 

警察学論集にもありますが、38条2項の設立経緯は

歩行者を優先するために一時停止している前車の横を、空気読めずにかっ飛ばすバカが横行したから

なので設立経緯からも、対向車は含まない。
なお、対向車が渋滞停止しているときには、最徐行する義務があったとする判例があります(東京高裁 昭和42年2月10日)。
同様に対向車が渋滞停止していた場合の注意義務については、大阪高裁 昭和54年11月22日判決もかなり参考になります。

対向車線が渋滞していたため、横断歩道に向かう際に徐行していた。
横断歩道の右側から歩行者が見えたものの、立ち止まったことからそのまま進行(時速8~10キロ)。
立ち止まった歩行者の後ろから弟がスキップしながら横断したため、車と衝突した判例です(加害車両の側面に衝突)が、歩行者のために一時停止してもなお横断歩道右側が十分視認できないなら、

更に進行するに際しても、最徐行するなどして横断歩道上の右方の安全を慎重に見極めつつ進行すべき業務上の注意義務があった

としています。

 

横断歩道を横断する歩行者と38条の関係。判例を元に。
前回、横断歩道を横断する自転車についての判例をまとめましたが、歩行者についてもまとめておきます。 道路交通法38条1項とは 道路交通法では、横断歩道を横断する歩行者について極めて強い優先権を与えています。 (横断歩道等における歩行者等の優先...

 

見えない場合の注意義務

横断歩道ではなく歩道を横切る際の注意義務ですが、見えないなら一時停止だけでは足りず、一時停止と僅かに前進を繰り返しながら確認する注意義務を認めた判例があります。

 

時速40キロで歩道を通行する自転車と、道路外から歩道を横断するクルマの注意義務。
以前書いた判例について、メールを頂きました。 ちょっと勘違いされているような。 過失運転傷害罪 この判例は刑事事件、過失運転傷害罪に問われたモノ。 過失運転傷害罪はこのように定義されます。 (過失運転致死傷) 第五条 自動車の運転上必要な注...

 

まあ、歩道を時速40キロで走る自転車もどうかと思うけど、一審が認定した「一時停止義務違反」では足りないとしている。

本件ガソリンスタンド敷地内からその北方に接する本件歩道を通過して本件車道へ向け進出するに当たり,本件ガソリンスタンドの出入口左方には壁や看板等が設置されていて左方の見通しが悪く,本件歩道を進行する自転車等の有無及びその安全を確認するのが困難であったから,本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失により,折から本件歩道を左から右へ向け進行して来たA(当時41歳)運転のA自転車に気付かず,A自転車右側に自車右前部を衝突させてAを路上に転倒させ,よって,Aに入院加療150日間を要する脊髄損傷等の傷害を負わせたものである。

 

広島高裁 令和3年9月16日

古い判例の中には「見えないなら成人の通行人に誘導を頼め」としているものすらありますが、昔はそんな光景もあった気がします。

 

とりあえず、

38条2項は対向車を含まないものの、1項前段により最徐行する義務がある。
あとそもそも、横断歩道上で停止するなという話。

対向車の渋滞停止に関する判例は、以下が分かりやすい。
・東京高裁 昭和42年2月10日
・東京高裁 昭和46年5月31日
・大阪高裁 昭和54年11月22日

 

横断歩道を横断する歩行者と38条の関係。判例を元に。
前回、横断歩道を横断する自転車についての判例をまとめましたが、歩行者についてもまとめておきます。 道路交通法38条1項とは 道路交通法では、横断歩道を横断する歩行者について極めて強い優先権を与えています。 (横断歩道等における歩行者等の優先...

 

自転車と横断歩道の関係性。道路交通法38条の判例とケーススタディ。
この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。 いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。 横断歩道と自転車の関係をメインにします。 ○横断歩道を横断する自転車には38条による優先権はない。 ○横断歩道を横断しようとする自転...

 






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