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ロードバイクの事故と、本当の原因。

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何年か前になりますが、名古屋で先行する時速35キロで進行する大型車に対し、左側の狭いところから時速36キロで追い抜きしたロードバイクが事故に遭った件をご存知でしょうか?
こちら。

 

自転車の左追い抜き事故の判例。
何年か前の話ですが、ロードバイクが左から追い抜きしたことにより接触事故が起こり、先行していた大型車が無罪になった判決がありました。 確か読者様からメールで教えて頂いて、ネット上では「先行大型車が幅寄せしたのに無罪とは何事か!」みたいな意見が...

 

この事故、民事の判例もあります。

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刑事事件の内容

刑事事件の概要です。

・被告人は一貫して幅寄せしてないと主張
左側に寄せたとする鑑定人の意見は不自然、不合理として採用されていない
・やや左側に湾曲した道路
・被告人が左側に寄せる理由がない
・警察の再現実験では、約1mの隙間を左後ろから追い抜きすると、着衣等が先行車側面に接触してしまう
・ロードバイク乗りから同条件で追い抜きするか聞き取り調査したところ、いずれの対象者も否定

なお,捜査段階で本件事故の衝突状況等について鑑定を行った証人Eは,本件擦過痕は被告人車両が被害者自転車を踏んで引きずって印象されたものであり,本件擦過痕の位置及び方向から、衝突地点はX地点より縁石よりで,被害者自転車が第1車両通行帯外側線より縁石側を走行し,そのハンドルが同外側線の車道側の端付近で被告人車両に接触した,本件擦過痕が外側線側から縁石側に向かっていることからすると被告人が被告人車両のハンドルを左に切ったと考えられる旨供述する。しかし,Eは,被告人車両の左第2軸がダブルタイヤで被害者自転車を踏んで本件擦過痕を残した旨供述するところ,被告人車両の第2軸はシングルタイヤであることを看過している点で信用性に疑問がある。この点をおくとしても,自転車の形状は複雑であるため,被告人車両のタイヤに踏まれた部分とは別の部位が路面に本件擦過痕を残す可能性は否定できず,Eが述べるように本件擦過痕上を被告人車両のタイヤが通過したとは必ずしも言い切れない。また,証人Fが指摘するように,本件擦過痕はやや右に湾曲しており,同人が本件擦過痕の角度として再現,測定した値が正確かどうかはおくとしても,Eが述べるように被告人車両の左第2軸のタイヤが本件擦過痕上を通過した場合,被告人車両の左前部が縁石に衝突ないし接触しかねない状況になり,不自然,不合理である。したがって,衝突地点及び本件擦過痕から推測される被告人車両の走行軌跡に関するEの見解は,採用できない。

概要としてはこんなイメージになります。
(なお、事故現場はわずかに左カーブしている様子です)

第3 過失の有無についての検討
1 前記第2の1のとおり,本件道路は,交通頻繁な国道で,西側に防音壁が設置され,その西方に歩道が整備されていることからすると,歩行者や自転車の通行が想定されていないものと認められる。
また,本件事故現場の第1車両通行帯は幅約3.8m,被告人車両は幅約2.49mであるから,被告人車両が第1車両通行帯の中央を走行した場合,被告人車両の左側面と外側線との幅は約0.6m,これに外側線と縁石までの幅約0.7mを併せても約1.3mである。証拠によれば,実際に,被告人車両と車両諸元が同一の大型貨物自動車を本件道路の第1車両通行帯に置き,被告人に本件事故時の走行状況を再現させて,同車両左側面と縁石との通行余地の幅を計測したところ約1mであり,自転車(28インチのロードバイク)に乗車した警察官に,同通行余地を走行させたところ,時折その着衣等が大型貨物自動車側面に接触するなど,安全走行が極めて困難な状況であったこと,本件道路の第1車両通行帯を通行する標準的な大型貨物自動車等を任意に抽出,調査したところ,車両左側の通行余地は約1mであったこと,本件道路を通過するロードバイクライダーを抽出し,第1車両通行帯を時速約35kmで走行する大型貨物自動車の左側通行余地1mの条件で,同車両の左側を追い抜いたり接近したりするか聞き取り捜査をしたところ,いずれの対象者も否定したことが認められる。
これらの事実からすると,被告人において,本件道路の第1車両通行帯を走行するに当たって,走行中の被告人車両左側面と縁石との間のわずか約1mの隙間を左後方から自転車等が進行してくることを予見して,その進路を妨害しないよう留意して進行すべき注意義務があるとはいえない

 

2 また,検察官は,被告人が,ハンドルを的確に操作して適正に進路を保持することなく,被告人車両を本件道路の左端に寄せて走行させた旨主張し,被告人はこれを否定しているところ,被告人があえて被告人車両を左端に寄せる理由は見当たらない。本件擦過痕に基づき,被告人車両が本件道路の左端に寄って第1車両通行帯外側線付近で被害者自転車に衝突したとするEの見解が採用できないことは,前記第2の3のとおりである。
なお,証拠によれば,本件道路は直線道路ではあるものの,わずかに左に湾曲しているため,第1車両通行帯の中央付近を走行するためには,本件事故現場の南方でやや左にハンドルを操作する必要があり,意図的に車体を寄せるつもりがなくても,車体が左右に振れることは十分あり得る。
一般に,自動車運転中に走行車線内で車体が若干左右に振れることは不可避であり,走行車線からはみ出すような場合はともかく,走行車線内で走行位置が若干左右に振れたことをとらえて,ハンドルを的確に操作し進路を適正に保持しなかったということはできない。被害者自転車においても,被告人車両同様,走行中に車体が若干左右に振れることは避けられないと
ころ,本件道路のように第1車両通行帯の外側線と縁石との幅が狭い場所を走行する際には,もとより被害者自転車のハンドルや被害者の身体が外側線から第1車両通行帯内にはみ出すことになるため,被告人車両が殊更左に寄らなくても,被害者自転車が被告人車両左側面と接触してしまう可能性は否定できない。
以上によれば,結局のところ,そもそも被告人がハンドルを的確に操作して進路を適正に保持することなく被告人車両を本件道路左端に寄せて走行させた事実は認められず,仮に,走行中に被告人車両の車体が若干左に振れたために本件事故に至ったとしても,被告人に結果回避義務違反があったとはいえず,被告人に過失は認められない。

 

名古屋地裁 平成31年3月8日

という内容。

 

ちなみに報道ではややおかしなところが切り抜きされたようですが、判決文をみるとわかるように、

歩行者や自転車の通行が想定されていないものと認められる

これが過失なしとした直接的な部分ではありません。
ここを切り取った報道のせいでおかしな方向に話が進んだ気がしますが、左に幅寄せしたという事実が認定されてない。

民事責任の行方

控訴中でまだ確定してないようなので詳細は控えますが、そもそも。

大型車が時速35キロで先行している中、防音壁もあり狭い左側から追い抜きするということ自体、不可解ですよね。
刑事裁判でもこの点について、

本件道路を通過するロードバイクライダーを抽出し,第1車両通行帯を時速約35kmで走行する大型貨物自動車の左側通行余地1mの条件で,同車両の左側を追い抜いたり接近したりするか聞き取り捜査をしたところ,いずれの対象者も否定したことが認められる

事故現場を通行するロードバイクに聞き取り調査して、全員が否定する状況。
しかも警察の再現実験では、左側から追い抜きすると着衣が大型車に接触するとしている。

 

先行車が停止しているならともかく、時速35キロというまあまあ速い速度で進行しながらなぜ追い抜きしたのでしょう?

約1mってこんなもん。
短足戦士なので…という話を抜きにしても、防音壁+大型車という左右に巨大な壁がある状況で追い抜きしますかね?

 

で。
民事での原告側の主張って、逆なんです。

大型車 ロードバイク
刑事裁判 先行 後行(追い抜き)
民事での原告の主張 後行(追い抜き) 先行

ロードバイクに乗る被害者は、大型車から至近距離の追い抜きを受けた結果の事故なんだと主張。

 

ここで重要なのは、自賠法3条の規定。

(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

自賠法は事故の「人身部分」に対する賠償責任を定めていて、物損は民法の規定による。
自賠法って無過失を立証しない限りは賠償責任を負うことになります。

 

で、「先行がロードバイク、後行が大型車で至近距離の追い抜き」という可能性について、裁判所は「否定できない」とし自賠法による賠償責任を認めている(無過失責任なので、無過失の証明が必要)。


一方、「先行がロードバイク、後行が大型車」である立証がないとして物損(民法)の賠償責任は認めていない(民法は過失責任なので、過失の立証が必要)。

先行がロードバイク、後行が大型車で至近距離の追い抜きをしたなら、大型車は縁石から約1mとところを通行していたわけで、ロードバイクは驚愕狼狽する状況なので過失は認められない(至近距離で追い抜きする後続車に全過失)。

一方、刑事事件と同じく「先行が大型車、後行がロードバイク」でロードバイクが追い抜きしたなら、大型車は左側に幅寄せした事実もなく、自転車のように無音でしかも狭いところを追い抜きする自転車を予見できないので大型車に過失は認められない。
(民事でも大型車が幅寄せした事実は証拠から否定。跡と状況から幅寄せしたら大型車は縁石にぶつかるはずとしてます。)

真相はどこに

ちなみにですが、刑事事件で認定されたことがそのまま民事でも認定されるわけではないので、別個に扱われます。

 

事件の真相はどこにあるのかわかりませんが、どちらが先行していたのか次第で全く意味合いが違う事故。
控訴審の判決がどうなるのかはわかりませんが、「先行ロードバイク、後行大型車で至近距離の追い抜き」という可能性を否定できない以上、自賠法上は「無過失の証明がない」=賠償責任を負うことになります。

ただし、「可能性を否定できない」けど「立証もない」という状態。
可能性を否定できないとした理由については書きませんが、一定の合理性はあります。

 

ところでこの事故、刑事事件の判決報道の際に

①幅寄せした
②自転車の通行は予定されてない場所

この二点が報道されたため、おかしな方向にネット上が騒いだような感じがしてまして。
幅寄せについてはそもそも否定されてますし、民事でも否定。
②については、確かに判決文にそのような記載はありますが、それが無罪にした理由ではない。
「幅寄せしても無罪」とか「自転車の通行が予定されてないから無罪」みたいな間違った解釈に陥る人すらいますが…恐ろしい。

 

おかしな報道で騒ぐのはネットあるあるなのかもしれませんが、断片的に聞き取るマスコミが悪いのか?ちゃんと見ないで語るネット民が悪いのか?
ちょっと考えさせられる事故です。
あと、警察や検察の捜査や立証にも時々疑問を感じます。

 

確かに、刑事事件で認定されたような「ロードバイク追い抜きした」については正直不可解な面もあるのですが、「ロードバイク追い抜きした」でも不可解な面はあるし、真相はどこにあるのやら。
どっちが先行していたかによって、過失責任は真逆なんですよね。
100:0なのか、0:100なのか。

 

被害者保護のために自賠法が無過失責任主義を取っているわけです。
なお先日報道があった件についても、

 

大型車の自転車接触事故、無罪に。
こういう報道にはちょっとだけ言いたいことが。 報道① 大村裁判長は判決理由で、「大型トラックと自転車の具体的な接触状況は不明」と指摘。周囲の防犯カメラ映像などから検察側が推定した位置関係や走行速度は誤差が生じうるとして、「事故が回避可能だっ...

 

報道だけみても何がどう判断されたのかは全くわかりません。
報道だけで批評するのか無理があります。



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