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なぜ?「自転車は横断歩道を乗ったまま横断しちゃダメ」という説が定着した理由。

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いまだに「自転車は横断歩道を横断するときに、乗ったままではダメ」と理解している人がいます。
これは誤りでして、

同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せない

 

平成30年1月18日 福岡高裁

 

このように、自転車に乗ったままでも違反ではありません。
ではなぜ、「乗ったままでは違反説」が一部では定着したのでしょうか?

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なぜ?自転車に乗ったままではダメ説の由来

自転車横断帯は昭和53年道路交通法改正時に新設されました。
さて、古い文献やら判例をみても、「自転車が横断歩道を乗ったままでは違反」とはしていない。

 

一例。
まずは昭和54年、警察庁の説明。

道路交通法上、車両の横断歩道通行を直接に禁止する規定はない

 

「小児用の車の意義について」(警察庁交通局交通企画課 中澤見山)、月間交通1979年7月(昭和54年)、東京法令出版

次に昭和56年東京高裁の判例。

本件のように附近に自転車横断帯がない場所で自転車に乗ったまま道路横断のために横断歩道を進行することについては、これを容認又は禁止する明文の規定は置かれていない

 

昭和56年6月10日 東京高裁

警察庁も裁判所も、昭和53年に自転車横断帯が新設された後でも、「乗ったまま横断歩道を横断することは禁止してない」というスタンス。

 

じゃあなぜ「乗ったままでは違反説」が一部で定着したのかというと、「交通の方法に関する教則」にあります。
自転車横断帯を新設した昭和53年の国会議事録より。

第84回国会 衆議院 地方行政委員会運輸委員会交通安全対策特別委員会連合審査会 第1号 昭和53年4月26日

 

○水平委員 それから、自転車の横断帯の新設によって、自転車は一応乗ったまま横断できますね。ところが、歩行者の横断道では必ず下車をして、自転車を引いて渡らなければならぬという配慮が必要だと思うのですが、この道交法の中にはそうした法的根拠といいますか、法的に明確にされていないですね。そこらあたり、なぜ明確にそういうことをうたわれなかったかということについてお答え願いたいと思います。

 

○杉原政府委員 従来必ずしも徹底をしないきらいがございましたが、基本的には横断歩道で歩行者の妨害になるときには、押して歩行者と同じ立場で歩いてもらうということでございます。今度も、歩道の自転車の通行を法律上認めることにしたわけでございますが、この場合も、歩行者の通行を妨害するときには一時停止をしろ、基本的に徐行を義務づけております。いつでも、どういう状態のもとでもとまれるスピードで走ってくれという形にしておるわけであります。基本的にそういう考え方で対処してまいりたいというふうに思っております。

 

○水平委員 自転車の通行が認められるようになった歩道の上においては、いまおっしゃったような一時停止だとか、徐行の配慮、これはいいのです。私の言うのは、歩行者の横断帯も自転車が渡ることができるでしょう、そうした場合に、一時停止も徐行の配慮も必要でありますが、横断帯という歩行者の保護、安全を図る意味からも、自転車も同時にそれはおりて引いていくべきではないか、そういうことが法的になぜ明確に確認をされておかなかったか、こういうことなんです。

 

○杉原政府委員 一応、いま歩行者がおってそれの通行の妨害になるときには、おりて押して歩いてもらうということになっておりますが、徹底を欠くきらいがございますので、これは教則その他できちっと指導するようにいたしたいと思います。

自転車横断帯を新設した昭和53年時点でも、自転車が横断歩道を乗ったまま横断することは禁止されていなかったのですが、歩行者の妨害になるので、「交通の方法に関する教則」では、

自転車は横断歩道では降りて押して渡りましょう

としていたんですね。
法律上は「禁止する規定はない」。
しかし歩行者妨害を懸念して「降りて押して渡りましょう」と指導していた。

 

単にそれだけの理由です。

この「交通の方法に関する教則」については、古い判例でも出てきます。

ただ自転車については、道路の横断にあたつては、その安全上むしろ横断歩道を利用し、自転車を押して渡るよう指導されているところであり(交通の方法に関する教則・交通ルールブック警察庁交通局監修11頁)

 

東京地裁 昭和47年8月12日

法律上は禁止されていなかったけど、表向きの指導では「降りて押して渡りましょう」にしていた。
それが勘違いされて「乗ったままだと違反」という誤解が広まっただけです。

2008年(平成20年)道路交通法改正

平成20年に道路交通法を改正し、自転車の歩道通行要件を変えたのですが、このときに横断歩道を横断する自転車が従うべき信号機を変えました。

 

このときの警察庁の説明。

「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」に対する意見の募集について|e-Govパブリック・コメント
パブリックコメントの「「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」に対する意見の募集について」に関する意見募集の実施についての詳細です。

イ 横断歩道を進行する普通自転車が従うべき信号灯火を定めることについて

 

この項目に対しては、
○ 自転車に乗ったまま横断歩道を通行することはできないはずであり、また、自転車で横断歩道を通行することは大変危険。
といった御意見がありました。

今回の改正は、道路交通法の一部を改正する法律(平成19年法律第90号。以下「改正法」といいます。)により、例外的に歩道を通行することができる普通自転車の範囲を明確化したことに伴い、自転車横断帯が設置されていない交差点において、これらの普通自転車が横断歩道を進行して道路を横断することが見込まれることを踏まえ、横断歩道を通行する普通自転車が従うべき信号を車両用でなく歩行者用灯器とするものです。
道路交通法においては、普通自転車が横断歩道を通行することを禁止する規定はありませんが、横断歩道は歩行者の横断のための場所であることから、交通の方法に関する教則(昭和53年国家公安委員会告示第3号)において、横断歩道の通行について、歩行者の通行を妨げてはならない旨を周知し、歩行者の安全確保を図ることとしています。

 

警察庁パブリックコメント

自転車が横断歩道を乗ったまま横断することは禁止されてないことと、今までは車両用信号だったのを歩行者用信号に変えただけだと説明している。

判例でもそのように解釈されていました。
平成2年東京地裁の判例から。

なお、被告らは、「被害者が本件横断歩道上を横断する以上、たとえ自転車に乗つて横断するとしても歩行者用信号機の表示に従つて横断すべきであり、被害者が横断を開始しようとしたときには、本件横断歩道に設置されていた歩行者信号機は赤色ないし青色点滅の表示であつたから、被害者は横断を開始してはならず、それにもかかわらず、横断を始めた被害者には重大な義務違反がある」旨主張する
しかし、自転車は、道路交通法上「軽車両」として、交差点の通行方法については、自転車横断帯が設けられていない交差点にあつては、交差点の側端に沿つて通行すべきものであり(道路交通法18条、34条、63条の7参照)、その際従うべき信号は、歩行者用信号機に「歩行者・自転車専用」と表示されている場合にはこれにより、そうでない場合には車両用信号によるものとされている(同法7条、道路交通法施行令2条1、4項)のであるから被告らの右主張は採用することができない。

 

東京地裁 平成2年12月18日

平成20年以降は横断歩道を横断する自転車が従うべき信号機は「歩行者用」です。

「交通の方法に関する教則」が誤解の原因

昭和53年に自転車横断帯が新設された時点でも法律上は「乗ったまま横断することは禁止されていない」だったにもかかわらず、「交通の方法に関する教則」では「降りて押して渡りましょう」にしていたのが誤解の原因です。

 

なので道路交通法上は一貫して、「乗ったままでも禁止していない」。

道路交通法上、車両の横断歩道通行を直接に禁止する規定はない

 

「小児用の車の意義について」(警察庁交通局交通企画課 中澤見山)、月間交通1979年7月(昭和54年)、東京法令出版

なお、相変わらず38条が誤解されていますが、平成20年以降も何ら解釈は変わっていません。
そもそも、昭和53年に自転車横断帯が新設されて以降、38条は改正されていないので解釈が変わる余地がない。

○自転車が横断歩道を乗ったまま横断することは禁止されていない
○しかし、優先権はない

自転車に乗り横断歩道を横断する者は、この規定による保護は受けません。

 

法の規定が、横断歩道等を横断する歩行者等となっており、横断歩道等の中には自転車横断帯が、歩行者等の中には自転車が含まれまれているところから設問のような疑問を持たれたことと思いますが、法38条1項の保護対象は、横断歩道を横断する歩行者と自転車横断帯を横断する自転車であって、横断歩道を横断する自転車や、自転車横断帯を横断する歩行者を保護する趣旨ではありません。ただし、二輪や三輪の自転車を押して歩いているときは別です。
つまり、あくまでも、法の規定(法12条、法63条の6)に従って横断している者だけを対象にした保護規定です。

 

道路交通法ハンドブック、警察庁交通企画課、p2140、ぎょうせい

道路交通法は歩行者と軽車両である自転車を明確に区別しており、自転車を押して歩いている者は、歩行者とみなして歩行者と同様の保護を与えている(同法2条3項)のに対し、自転車の運転者に対しては歩行者に準ずるような特別な扱いはしておらず、同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せないものの、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは道路交通法上の要保護性には明らかな差があるというべきである。
また、道路交通法38条1項は、自転車については、自転車横断帯(自転車の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号の2)を横断している場合に自転車を優先することを規定したものであって、横断歩道(歩行者の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号)を横断している場合にまで自転車に優先することを規定しているとまでは解されず

 

平成30年1月18日 福岡高裁

元々38条の優先は、下記横断義務を果たす歩行者と自転車に対するご褒美としての優先権。

○歩行者→「付近に横断歩道がある場合の横断歩道通行義務」(12条1項)
○自転車→「付近に自転車横断帯がある場合の自転車横断帯通行義務」(63条の6)

いまだに自転車については、「横断歩道を横断する義務」がないので、横断歩道を横断する自転車には優先権はありません。
ただし、クルマには事故回避義務があるため、事故を起こして怪我をさせると有罪になります。

 

自転車と横断歩道の関係性。道路交通法38条の判例とケーススタディ。
この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。 いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。 横断歩道と自転車の関係をメインにします。 ○横断歩道を横断する自転車には38条による優先権はない。 ○横断歩道を横断しようとする自転...

 

なお、現在の交通の方法に関する教則ではこのように説明されていますが、

 

交通の方法に関する教則(道路交通法108条の28)

(5) 道路を横断しようとするとき、近くに自転車横断帯があれば、その自転車横断帯を通行しなければなりません。また、横断歩道は歩行者の横断のための場所ですので、横断中の歩行者がいないなど歩行者の通行を妨げるおそれのない場合を除き、自転車に乗つたまま通行してはいけません

 

これの根拠は、道路交通法25条の2第1項です。

(横断等の禁止)
第二十五条の二 車両は歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない

 

「乗ったままでは違反説」は、交通の方法に関する教則が原因。
道路交通法上は昭和35年から一貫して、車両が横断歩道を横断することを禁止したことはありません。
ただし「降りて押して歩行者化」すると優先権があるため、降りて押して渡るほうがいいのかも。
なお、歩行者の妨害になる可能性がある場合には、降りて押して歩くルールです。

コメント

  1. 横の人 より:

    自分が生きてきた中では、平成20年の改定で自転車に関する法はガラッと変わった印象があります。マスコミの騒ぎ方が大きかっただけかもしれないけど。
    近所の横断歩道から一斉に「自転車は降りて渡りましょう」の立て看板が撤去されただけじゃなく、歩道通行に関しての大変更も子供メットの努力義務化もこの時ですよね。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      平成20年改正は自転車の歩道通行要件を変えただけなので、横断歩道を横断する際のルールは全く変わっていないんですよね。
      単なる印象操作的な問題かと思いますが、古い判例の一部は「教則の記述」を理由に、乗ったままでは違反と解釈しているものもあります。

  2. kueharaaz より:

    自分の生活圏である都内と近郊に限ってですが、ママチャリ、通勤通学の自転車の暴虐は目に余り、もう横断歩道は自転車は乗ってわたってはいかん、下りてあるけ、という法改正でよいように思われます。
    美しい日本で汚点と言える交通モラルは法律で明確に示さないとどうしようもないかと。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      たぶんですが、「横断歩道は降りて渡れ」と決めたところで守られないだけだと思います。
      歩行者との交錯を避ける目的で自転車横断帯を作ったのに廃止しまくったのでなおさら…

      まあ、自転車横断帯があっても交錯しまくったのですが。

  3. ごりさん より:

    信号等で交通規制されている、が前提の横断歩道、自転車横断帯においては、自転車にも歩行者同等の優先権があると、記載もしくは判例がありませんでしたっけ。横断歩道が共用にあるから自転車横断帯自体の設置を減らしてると。また、ぽつんとある規制のない横断歩道には自転車の優先権はないが、その場合でも自転車横断帯設置場所には優先権はあると。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      https://roadbike-navi.xyz/archives/30201/

      https://roadbike-navi.xyz/archives/37065/

      ・大阪高裁 平成30年2月16日
      ・神戸地裁 令和元年9月12日
      ・仙台地裁 平成29年5月19日
      ・名古屋地裁 令和4年3月30日

      信号がある場合の判例ですが、そのような内容の判例は聞いたことがありませんし、信号が優先に影響するということはあり得ないかと。

      歩行者用信号規制対象自転車であっても、横断歩道では歩行者が横断歩道により道路を横断する場合のような優先的地位(同法38条1項)は与えられておらず、また、他の車両との関係においてはなお安全配慮義務(同法70条)を負うと解されるから、安全確認や運転操作に過失がある場合は、自転車の運転者は、相当の責任を負わなければならない。

      神戸地裁 令和元年9月12日

  4. パト より:

    自転車横断帯が無い道路を横断する時は、他の歩行者の妨げにならない限りは自転車に乗ったまま横断歩道を渡っても良い。
    しかし、歩行者と同等の保護を受けたければ自転車から降りて歩行者となれ。
    ということでよろしいでしょうか?
    その場合乗車したまま横断しようとする自転車に対する自動車等の停止義務はどうなるのでしょうか?

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      >その場合乗車したまま横断しようとする自転車に対する自動車等の停止義務はどうなるのでしょうか?

      38条1項による一時停止義務はありませんが、事故回避義務(70条)は免れませんから自転車が横断を開始して事故が起きる可能性があるなら停止する等事故回避することになります。

  5. わんわん より:

    歩行者自転車専用信号と歩行者専用信号を勘違いしている人が多いですね。
    歩行者専用信号のスクランブル交差点で自転車は渡れない、ということを確認しておいていただきたいと存じます。
    歩車分離式である以上は、自転車は自転車専用信号がない限り車両用信号に従っていただきたいものです。

    • roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      これは「横断歩道を自転車が通行する場合の話」であって、「交差点を自転車が通行する場合の話」ではありません。
      話を混同しているようですのできちんとご確認ください。

      https://roadbike-navi.xyz/archives/33928/

      • roadbikenavi より:

        コメントありがとうございます。

        ですので、たぶん意味を理解されてないのかと思いますが。
        「横断歩道を横断する場合」であり、「交差点を通行する話」ではありません。
        歩車道の区別がある交差点を通行するなら車道の信号に従いますし、歩行者用信号に「歩行者自転車専用」がついているなら、車道通行だろうと歩道通行だろうと「歩行者自転車専用」の補助標識がある歩行者用信号に従うのは当然です。

        それと「横断歩道を横断する場合」は別問題ですが、横断歩道を横断するという状況と交差点を通行する状況を混同されていますので、一度整理されたらいかがでしょうか?

  6. マルコ より:

    毎日自転車乗ってるけど、逆に「乗ったまま違反説」と言うのを初めて聞きました。
    違反と認識している人が一定数いると言う事を全く意識しないでいつも横断歩道を乗ったまま渡ってました。

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