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「偶然のタイミング」と「安全確認」は異なる。

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何年か前にこんな事故がありましたよね。

これについてちょっと。

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「偶然のタイミング」と「安全確認」は別

この状況って自転車とクルマの関係「だけ」で言うなら「左方優先」ですよね。

(交差点における他の車両等との関係等)
第三十六条 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、次項の規定が適用される場合を除き、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる車両等の進行妨害をしてはならない
一 車両である場合 その通行している道路と交差する道路(以下「交差道路」という。)を左方から進行してくる車両及び交差道路を通行する路面電車

結構恐ろしいことに、このように考える人もいるらしい。

左方優先なんだしクルマのドライバーは自転車に「譲る義務」があるのだから、クルマが自転車に譲っていれば事故は起きなかった

この考え方のダメなところは、事故が起きた後の「結果論」でしかないところ。
スケボーで腹這いになって進行する子供は見えていないのだから、このタイミングで交差点に突入したのは偶然のタイミングでしかない。

結果論で考えると、確かに自転車を先に進行させていれば「たまたまこのタイミングで交差点に突入した子供」との衝突は避けられたかもしれません。
けどそれは安全確認ではなく、「偶然のタイミング」についての話でしかないので、それを過失にすることはできない。

 

いやさ、このような「偶然のタイミング」についての話をたまたま見て、この判例を思い出しまして。

一時停止では足りないとした判例

何度もとりあげていますが、広島高裁 令和3年9月16日。
道路外から歩道を横切り車道に進出する際に、歩道通行自転車と衝突した事故です。

 

事故概要。

道路外のガソリンスタンドから進出する際に、歩道左側には高さ2.5mの壁があり左側が見えないにもかかわらず、徐行進行した。
そこに歩道通行する自転車(時速39.6キロ)が衝突した事故になります。

 

一審は「一時停止を怠った過失」として有罪にしましたが、二審の広島高裁は「是認できない」として破棄します。
理由はこちら。

原判決は,その説示に照らし,本位的訴因の内容を⑴で当裁判所が理解したのと同様の趣旨で捉えた上でこれを是認し,そのとおりの犯罪事実を認定したものといえる。しかしながら,以下の理由からこの判断は是認することができない。

 

ア 被告人車両の進路に沿って本件ガソリンスタンド敷地内から本件歩道に進出しようとする場合,左方の見通しが不良であったことは原判決も説示するところである。4のとおり,本件においては,高さ2.5mの壁が本件ガソリンスタンド敷地の西端に南北方向に設けられ,本件ガソリンスタンド敷地と本件歩道との境界線上まで及んでいるのみならず,その北端付近には看板等も設置されている。加えて,被告人車両においては,車両先端からルームミラーまでの距離が約120cm,同じく運転席の背もたれまでの距離がおおよそ160cmであるから,本件歩道手前の地点に被告人車両を停止させた状態では,運転者である被告人は,本件歩道と本件ガソリンスタンドの境界線から1m以上手前(南側)の地点にいることになる。記録によれば,同地点からは,上記壁等遮へい物の存在により,本件歩道上の左方の状況については,視認することが困難な状況にあったものと認められる。
そうすると,被告人が仮に本件歩道手前の地点で一時停止をしても,左方から来るA自転車について視認することは困難であるから,本件歩道手前の地点で一時停止をして左右等の安全確認を行ったとしても,左方から来るA自転車を発見,視認して衝突回避措置を執ることはできなかったことになる。
したがって,本位的訴因において本件過失の根拠となる注意義務として行うべきとされた本件歩道手前の地点での一時停止及び左右等の安全確認措置は,本件事故の回避を可能ならしめる有効な措置とはいえず,本位的訴因における上記注意義務及びその違反は,被告人に過失責任を問うことのできないものであったといわざるを得ない。
原判決は,このような過失責任を問うことのできない注意義務を設定した本位的訴因をそのまま是認した点において,その事実認定は,論理則,経験則等に違反した不合理なものといわざるを得ない。

イ また,原判決は,本位的訴因における過失行為と本件結果との因果関係を肯定し,本件結果を本位的訴因における注意義務違反,つまり,本件歩道手前の地点における一時停止及び安全確認の各義務違反に帰責しているが,この判断についても是認することはできない。
すなわち,本件においては,上記のとおり,被告人には,本位的訴因に係る本件歩道手前の地点での一時停止義務及び安全確認義務を課すことはできず,本位的訴因における被告人の行為に,本件結果を帰責することは許されない。
また,仮に,被告人が,本位的訴因における本件歩道手前の地点での一時停止及び左右等の安全確認の各措置を執ったとしても,A自転車が左方から進行して来ることに気付くことができず,ひいては,本件結果を回避することができる有効な措置を執ることができなかったものと認められ,原判決は,当該各措置を履行したとしても,予見することも有効な回避措置を執ることもできないまま発生した結果を被告人に帰責するものであって是認することができない。
この点,原判決は,被告人が本件歩道手前の地点で一時停止をしていれば,被告人車両が本件衝突地点に到達する前にA自転車が同地点を通過し終えていることになるため,本件事故は発生しなかったことを指摘し,これを主たる根拠として,本件歩道手前の地点における一時停止及び安全確認義務違反と本件結果との因果関係を肯定している
しかしながら,上記のような理屈によって,本件において,被告人が本件歩道手前の地点に到達した時点で一時停止をしていたら,その分だけ本件衝突地点への到達が遅れ,本件結果を回避することができたとはいえるとしても,それゆえに,被告人に対し,本件歩道手前の地点での一時停止義務を課し,同義務違反と本件結果との間の因果関係を肯定することは許されない。
すなわち,本位的訴因にいう本件歩道手前の地点での一時停止義務は,飽くまで,本件歩道に進出するに当たって,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認するために課されるものであり,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等との本件衝突地点における衝突を避けるために本件衝突地点への到達を遅らせることを目的として課されるものではない。後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すのであれば,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等がいつ本件衝突地点に到達するか予見可能である必要があるが,本件において,本件歩道手前の地点からは本件歩道上の左方の見通しが不良であるため,そのような予見は不可能であるから,後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すことはできないというべきである。また,原判決がいう理屈で本件歩道手前の地点での一時停止義務違反と本件結果との因果関係を肯定することは,結局のところ,一時停止により本件衝突地点への到達が遅れることによって時間差が生じ,偶然に結果を回避できた可能性を根拠として被告人に本件結果を帰責することになり,ひいては,A自転車が本件衝突地点に到達した時点がいつであったかという偶然の事情によって結論が左右されることになって,妥当性を欠く。

そもそも壁で歩道左側が見えてないのだから、一時停止したとしてもやはり見えない。
一時停止したら「偶然」事故を回避できたかもしれないけど、そもそも見えてないのだから一時停止しても事故を回避する有効な方法にはならないとしている。

 

そこで二審が新たに認定した過失はこちら。

一審 二審
本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約5kmで進行した過失 本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失

で。
冒頭の動画について、広島高裁判決と同じように小刻みに一時停止すべきだった…という話をしたいのではない。
仮に左方優先で自転車を先に行かせたとしたら、「偶然」スケボーの子供との衝突を避け得たかもしれません。
しかしそれは「偶然のタイミング」でしかなく、安全確認の問題とは程遠い暴論に過ぎない。

 

そもそもスケボーの子供を視認できていないのだから、いつ・何が進行してくるかは「わからない」という前提に立って安全確認の話をしなければ意味がないのよね。
見えていないのだから、仮に自転車を先に行かせたとしても「偶然のタイミング」により事故が起きた可能性があるのだから。

 

なので問題になるのは、一時停止後に進行するに際して「さらに左方の車両や歩行者を確認して進行する義務」の話でしかない。
それを尽くしても回避不可能なのか、そもそも確認不十分だったのかはさておいて。

左方優先

そもそも「左方に譲る義務」ではなく「左方の進行妨害をしてはならない義務」。
進行妨害は2条1項22号に定義されています。

二十二 進行妨害 車両等が、進行を継続し、又は始めた場合においては危険を防止するため他の車両等がその速度又は方向を急に変更しなければならないこととなるおそれがあるときに、その進行を継続し、又は始めることをいう。

左方の車両が譲った場合、「他の車両等がその速度又は方向を急に変更しなければならないこととなるおそれがあるとき」には該当しないので進行しても違反ではありません。
停止している車両の速度や方向を急に変えるなんて起こり得ないので。

 

一時停止後にどれだけ安全確認する義務があったのか、そして安全確認を尽くしたかの話になるべきところが、「左方優先なら事故が起きなかった」という「偶然のタイミングによる結果論」にすり替えてはダメだと思う。
あくまでも「スケボーが出てきた結果」については頭から離して、どこまで安全確認をすべきだったのかが議論の対象になるべきだし、偶然の結果について検討しだしたら交通安全は偶然に頼る貧弱なものになるのだから。

 

あくまでも「何が出てくるかはわからない」という前提に立って考えないと。

 

下記もそうなんだけど、

 

大人が子供に配慮するのは当たり前ですよ。
先日、歩行者の逆走などという道路交通法にはない概念をご披露頂いた方がいましたが、 道路交通法上は歩道もしくは路側帯において歩行者の進行方向に指定はなく、歩道もしくは路側帯がない道路においても右側端通行義務を定めながらも、左側端通行を許容して...

 

6歳が乗る自転車が道路交通法上、自転車になるのか小児用の車(歩行者)になるのかはわからないし、そもそも何歳なのかなんてわからない。
最終的にどっちと見なされるかは結果論の問題でしかないので、歩行者とみなして最大限の安全確保をするのが筋。

 

結果論で考えてはダメなのよ。

 

なお違うスケボー事故についての民事判例では、路外から道路に進行したスケボーについてこのように判断しています。

ところで、(2)で述べたような、本件マンションのスロープで危険なスケートボード遊びをし、しかも、間近に迫っている加害車両に気付くことなくスロープを滑り降りた亡被害者の落ち度と、(3)で述べた被告の落ち度とを単純に比較するならば、被告の主張するように、亡被害者の落ち度の方がより大きいと言えるだろう
しかし、交通事故における過失割合は、双方の落ち度(帰責性)の程度を比較考量するだけでなく、被害者保護及び危険責任の観点を考慮し、被害者側に生じた損害の衡平な分担を図るという見地から、決定すべきものである。歩行者(人)と車両との衝突事故の場合には、被害者保護及び危険責任の観点を考慮すべき要請がより強く働くものであり、その保有する危険性から、車両の側にその落ち度に比して大きな責任が課されていることになるのはやむを得ない。特に、被害者が思慮分別の十分でない子供の場合には、車両の運転者としては、飛び出し事故のような場合にも、相当程度の責任は免れないものというべきである。

 

平成15年6月26日 東京地裁

民事の過失って法律違反の程度を争うのではなく注意義務違反(不注意)を争う上、優者危険負担の原則が強く働くもの。
法律違反があるから過失責任を負うわけじゃない。

 

生活道路(車道幅員5.4m)で、マンションのスロープからスケボーで飛び出したことによる事故ですが、時速30キロ程度で車道を通行する車にスケボーが衝突した死亡事故です。
判決でも被害者のほうが落ち度が大きいとしながらも、優者危険負担の原則からすれば被害者:車=40:60としています。


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