以前書いたこちらについて質問を頂いたのですが、
ということなので。
みんな大好き「追いつかれた車両の義務」ですよね。
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札幌地裁 平成6年4月15日(民事)
この判例は民事ですが、事故の態様。
原告が、昭和(略)、被害車両を運転し、北海道千歳市泉郷140番地先路上において、進行方向右側にある空地に駐車するため、右折を開始したところ、被告の運転する加害車両が、被害車両を追い越そうとして追突し、被害車両は、道路右側にあった側溝上に、左側(助手席側)を下にして横転した。そこで、原告は、横転した被害車両の上部(運転席側)のドアから車外に出ようとしたが、その際、右側溝に転落し、第一二胸椎脱臼骨折、腰髄損傷、歯骨々折等の傷害を負った。
先行する原告車が道路外に右折しようとしたところ、原告車を追い越ししようとした後続被告車と衝突した事故です。
事故現場はイエローのセンターライン、片側一車線、指定最高速度40キロ。
なんでこれで「追いつかれた車両の義務」が主張されているか、これだけを見ると意味がわからないですよね。
理由はこれ。
原告は、昭和(略)ころ、被害車両を運転し、同乗者8名とともに小川農場の畑に働きに行くため、本件事故現場の約600m手前の横道から右折して本件道路に進入し、協和方面に向かって、時速約30キロメートルで進行し、本件事故現場の100mないし150m手前の地点で右折の合図をし、徐々に減速したうえ、進路右側にある前記空地に駐車するため右折を開始したところ、被害車両を追い抜こうとして反対車線にはみ出て進行してきた加害車両が、急制動をしたものの止まり切れず、その前部を被害車両の後部右側に衝突させ、その結果、被害車両は、進路をはずれたため、空地の左側(協和方面)にある側溝上に、側溝を跨ぐような状態で左側(助手席側)を下にして横転し、停止した。
他方、被告は、前記日時ころ、加害車両を運転し、本件道路を時速約60キロメートルで進行していたところ、その前方を被害車両が本件道路に進入してきたが、すぐに追いつき、減速してそのまま同車の後をついて進行したが、途中、被害車両が右折の合図をしたものの、右に入る道路は思いあたらないので自分に道を譲ってくれるものと思い、小さなカーブを経て道路が直線状態になったこともあって、反対車線にはみ出て被害車両を追い抜こうとし、前記のとおりの結果となった。
要は先行する原告車が「アーリー合図」なんです。
右折予定の100~150m手前で右折合図を開始し、しかも指定最高速度の40キロを下回る時速30キロで進行していた。
この道路は右折するポイントがなく、後続被告車からすると「譲ってくれた」と思い込んで追い越しを開始したら、先行する原告車が道路外に右折した。
そういう事情から後続被告車が「原告の追いつかれた車両の義務違反」を主張。
なお、被告らは、原告の運転行為は、「追いつかれた車両の進路避譲義務違反」として、道路交通法27条2項に違反する旨主張するが、本件のように追越しのための右側部分はみ出し禁止の規制のある道路においては、反対車線にはみ出て追越そうとする場合には右規定は適用されないと考えるのが相当である。
札幌地裁 平成6年4月15日
原告にはアーリー合図について過失としています。
地裁判例なのでさほど意味があるわけではありませんが、一部解説だと「イエローラインの場合、先行車が一時停止すれば障害物扱いになり後続車がセンターラインを越えることが合法になる。譲る義務とは後続車を先行させる義務だからイエローラインの場合には一時停止して譲る義務がある」みたいに解説していたと思うけど、地裁レベルではそのような考え方はしていません。
27条の判例
27条が関係する判例としては、先行車の一方的過失を認めた東京高裁 昭和43年8月30日があります。
要は追い越しされたくない先行車が、追い越しされているときに加速して右にハンドルを切り追い越し妨害した事故。
先行車の追い越し妨害を理由に全過失を先行車にしています。
加速禁止義務(27条1項)は昭和39年に新設されましたが、ジュネーブ条約に加入したことと、以下が新設の理由。
○沢田一精君 二十七条及び三十四条から三十六条までの改正規定についてですけれども、ここでは、いわゆる後車に追いつかれた車両の加速を禁止するという措置がとられようとしているわけなんですけれども、これは結局、追い越し、追い抜きの競争をやってこの前事事故を起こした、そういうような事例にかんがみて、こういう改正規定を考えられたわけですか。
○説明員(宮崎清文君) そのとおりでございます。
第46回国会 参議院 地方行政委員会 第21号 昭和39年4月2日
追い越し妨害して競争して事故る事例があったことも新設の理由。
それ以外だとこんな判例(業務上過失致死)。
片側3mの狭い橋で自転車を追い抜きすることを差し控えるか、あえて追い抜きするに際しては後続車が責任を負うとして有罪に。
被告人が対向車との接触を避けようとしてハンドルを少し左に切って進行したために、自車の左側の橋上左側端を進行していたAの自転車の進路の幅をさらに狭める結果を招き、その右ハンドル先端部に自車左側後輪前フェンダー付近を接触させて、自転車を前にはねて橋を渡り切った路上に転倒させ、右事故に基づく急性硬膜下血腫により死亡させたものと認めることができる。そして前記認定のような場合、自動車運転者である被告人としては、自転車の発見とともに警音器を十分吹鳴してAに警告を与え、橋の手前で同人を避譲させたうえで自車が先に橋を進行するか、狭い橋上での追い抜きを差し控えて自転車が橋上を通過し従来の幅員の広い道路に出た後にこれを追い抜くようにし、あえて狭い橋上での追い抜きをするにおいては狭い橋上で自動車と自転車が並進する態勢となるから、接触するおそれがないようにその動静に注意し、交通の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があったといわなければならない。しかるに、被告人は、橋の手前でA操縦の自転車が橋上に進入しようとしているのを認めながら、これに十分な警告を与えず、その避譲を確認しないで、漠然同一速度で進行し、狭い橋上で自転車と並進してこれを追い抜く態勢となり自車後部車体がまだ橋を通過し終わらないうちに対向車を認めてハンドルを少し左に切ったため自車左側後輪前フェンダー付近を自転車に接触させ、そこで初めてAが倒れかかるのをバックミラーで認めたというのであるから、追い抜きの際の前記注意義務を尽くしたものということはできない。
所論は、道路交通法27条2項(控訴趣意書に37条2項とあるのは27条2項の誤記と認める)の規定を援用し、A操縦の自転車は橋の手前において被告人運転の自動車に追いつかれたのであるから、一時停止または徐行して被告人運転の自動車に進路を譲るべき義務があり、被告人としては自転車が一時停止等して進路を譲ってくれるものと信頼して自らは停止等の処置をとらずに運転を継続しても注意義務違反の過失がないというので、この点について検討するに、道路交通法27条2項は、速度の速い車両に追いつかれた車両に対し進路を譲るべき義務を課し、狭い道路での交通の円滑を図ることを目的としているのであって、車両を運転する者がこれを遵守しなければならないことはいうまでもない。しかし、狭い道路で自転車が自動車に追いつかれた場合、自転車を操縦する者としては、追いついてきた自動車の大きさを十分確認することができないために、そのまま道路左側端に寄って進行を継続しても、道路中央との間にその自動車が十分通過し得る余地があると判断して進行することが考えられるから、むしろ、追いついて来た自動車の運転者において、まず前記認定の注意義務を尽くして進行すべきであって、右道路交通法27条2項の規定は、狭い道路で速度が速い車両がおそい車両に追いついた場合、その動静を無視してそのままの速度で追い抜きにかかり接触事故をおこしてもなんら責任がないという趣旨であるとはとうてい考えられない。このことは道路交通法28条3項により追越ししようとする車両は前車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないとされていること、また、同法70条により車両等の運転者は、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならないとされている規定の趣旨から推しても十分うかがえるところである。ことに本件のように、片側幅員約3mの小橋にまさに進入しようとする自転車を認めた場合、自転車を操縦するAが急に狭くなっている橋上道路の進路に注意を奪われ、追いついてきた自動車があってもこれに対する注意が十分にできないまま橋上に進入することが考えられるのであるから、被告人運転の自動車がわずかに早く橋上にはいりうる場合においても、被告人としては、自転車の動静に注意を払い、無事に橋上を通過し得られるかどうかについて、その安全を確認したうえで進行すべきである。そうだとすれば、自転車を操縦するAにおいて被告人運転の自動車に進路を譲るべき義務があったことを前提として被告人に過失の責任がないとする右所論は採用することができない。してみると、被告人は自転車を追い抜くに際し、その避譲を確認する等安全を確認しないで追い抜きにかかり、車体が橋を渡り切らないうちに対向車を認めて左に転把して自転車の進路をさらに狭めた点について過失があったと認めざるを得ない。
大阪高裁 昭和43年4月26日
昭和39年改正で1項が新設された後の判例なので、旧18条の優先順位ではなく政令で定める最高速度の優劣に変更後の判例。
なので自転車が関係しないように思えますが、
狭い道路で自転車が自動車に追いつかれた場合、自転車を操縦する者としては、追いついてきた自動車の大きさを十分確認することができないために、そのまま道路左側端に寄って進行を継続しても、道路中央との間にその自動車が十分通過し得る余地があると判断して進行することが考えられるから、むしろ、追いついて来た自動車の運転者において、まず前記認定の注意義務を尽くして進行すべきであって
確かに、追いつかれた自転車からすると後続車の大きさを知りようがない。
人間の目は前についているわけだし、前方注視義務を負う後続車が安全確認をして進行すべきとしています。
※昭和35年以前の道路交通取締法時代の名残を感じさせる内容ですが、道路交通取締法時代は追い越しする後者がクラクションを鳴らすことが義務でした。
みんな大好き「追いつかれた車両の義務」ですが、そもそもきちんと理解してない人が多いように感じます。
あと、これの意味を全然違う方向に捉える人もいて
ビックリします。
以前書いたけど、順走自転車と逆走自転車が衝突して、順走自転車が過失100%になった判例があります。
なぜそうなるかですが、裁判官がおかしいわけでもありません。
けど、わかってない人が読むと裁判官がおかしいように感じるでしょう。
けど不思議なのは、判例をやたら有り難がるような人が多いこと。
不思議です。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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