かなり大々的に報道されてますが、被害者の方のご冥福を。
事故を目撃した人によりますと、「パトカーのサイレンが聞こえて、その数秒後に衝撃音のような鈍い音がした」ため、外を見ると、「警察官が転倒したバイクの運転手に声掛けしているような様子があり、その後、警察官が心臓マッサージを行っていた」ということです。
警察によりますと、バイクを運転していた20歳とみられる男性が、意識不明の状態で救急搬送され、その後死亡が確認されました。
当時、覆面パトカーが、赤信号を無視して谷町筋を、北から南に通過する交通違反の車両を見つけたことから、それを追跡するために交差点に進入したところで、谷町筋を南から北へ直進するバイクとの衝突事故が起きたということです。
【速報】覆面パトカーと衝突、バイクの男性が死亡「警察官が心臓マッサージを行っていた」交通違反車両を見つけたパトカーが交差点へ進入して事故(MBSニュース) - Yahoo!ニュース交差点で覆面パトカーとバイクが事故、運転していたとみられる男性が意識不明で搬送され、その後死亡しました。交通違反の車両を追跡しようと、パトカーが交差点に入った直後の事故とみられています。 午前11
この場合、緊急自動車(覆面パトカー)は赤信号だろうと注意しながら徐行進行可能。
第三十九条
2 緊急自動車は、法令の規定により停止しなければならない場合においても、停止することを要しない。この場合においては、他の交通に注意して徐行しなければならない。
一方、オートバイは緊急車両の優先義務があります。
第四十条 交差点又はその附近において、緊急自動車が接近してきたときは、路面電車は交差点を避けて、車両(緊急自動車を除く。以下この条において同じ。)は交差点を避け、かつ、道路の左側(一方通行となつている道路においてその左側に寄ることが緊急自動車の通行を妨げることとなる場合にあつては、道路の右側。次項において同じ。)に寄つて一時停止しなければならない。
これって、オートバイがどの地点でサイレンを察知したか、その地点で交差点に進入せずに停止可能だったのかによって変わるし(もちろん、速度超過していたら別)、パトカー側も徐行して注意進行したかが問題になります。
細かい状況がわからないとどっちが悪いかなんて軽々しく言えない。
なのでこの事故についてはわからないので、「緊急自動車が赤信号で交差点に進入した事故」の判例をいくつかピックアップします。
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千葉地裁 平成14年3月28日(刑事)
この事故は赤信号で交差点に突入した救急車と、青信号で突入した貨物車が衝突。
両者ともに業務上過失致死傷罪に問われた判例です。
救急車 | 貨物車 | |
信号 | 赤 | 青 |
交差点進入速度 | 20~23キロ | 77~92キロ(指定最高速度40キロ) |
その他 | サイレン&赤色灯 | 飲酒運転 |
判決 | 罰金50万 | 懲役2年 |
3 緊急自動車は緊急用務を遂行する場合は,信号機の表示に従わずに進行することができるが,その場合は他の交通に注意して徐行しなければならない。一般車両は緊急車両を優先させる義務があるとはいえ,緊急車両が信号表示に従わないで進行する際の運転には特に慎重を期すべき注意義務が課されているというべきである。被告人Aは,本件交差点に信号表示に従わないで進入するに当たり上記のように左右の交差道路を確認し,右方道路には車両はなく,左方道路には救急車を優先させるため停止していた車両を確認したが,再度右方道路を確認することなく本件交差点に進入したのである。被告人Aは当時は深夜で交通が閑散とし,右方道路は被告人Aから見て下りの坂道で一度は確認したとはいえ,見通しが良いとはいえないこともあるから,停止線を超えて交差点に進入するときに再度右方を確認をして徐行して進行すべきであった。そうすれば被告人Bの運転車両を避けられた可能性があったといえ,この点において,被告人Aの過失は軽微なものとはいえず,同人の負っていた救急隊員としての責務に照らし,また,発生した結果が重大なものであることから,同人の責任は軽視しがたいものがある。
4 被告人Bにおいては,飲酒の上,深夜の交通閑散に気を許し,制限速度のほぼ2倍の高速度で進行していたものであり,その運転自体が危険なものである。本件交差点では青色の信号表示に従っていたとはいえ,被告人Bの本件交差点までの道路は上り坂で同人から見て左方道路はやや見通しが悪い状況であったから,運転者としては交差点においては前方左右を注視し,起こりうる事態に対応できるように運転すべき注意義務があった。しかし,同人は判示のように漫然と高速度で進行したばかりか,上記のとおり衝突直前に至るまでサイレンを吹鳴し警光灯を点灯させていた救急車に気づかなかったというのであるから,その注意義務違反の程度は誠に重大というほかない。本件においては,酒気帯び運転が厳しく非難されるべきことはもちろんであるが,被告人Bが制限速度を遵守し,前方左右を注視して運転していれば,本件交差点付近で夜間に警光灯を点灯しサイレンを吹鳴していた救急車に容易に気づくことができ,それを優先させるべき運転者の義務を果たし得た,すなわち事故を容易に回避できたのであって,被告人Bの本件運転は極めて危険,悪質なものでその過失は大きい。それにより生じた結果を考えれば,同人の責任は極めて重大であるといわなければならない。千葉地裁 平成14年3月28日(刑事)
両者ともに有罪。
札幌地裁 昭和44年11月21日(民事)
この事故の態様です。
救急車(被告) | 普通車(原告) | |
信号 | 赤 | 青 |
交差点進入速度 | 最徐行 | 30キロ |
その他 | サイレン&赤色灯 |
原告が負傷したことについて損害賠償請求したものの、救急車側は自賠法3条但し書きを適用して無過失にすべきと主張。
本件交差点に向いサイレンを吹鳴し赤色警告灯を点灯しながら、毎時約40キロメートルの速度で進行してきたが、本件交差点の約70m手前(南西)で毎時20キロメートルに減速し、同交差点の南西側横断歩道にさしかかった。そこでAは、前方の信号機が赤色を表示していたので、最徐行しながら自分では主に前方および左側方面を見、本件交差点中央部附近に小型トラック二台が停止しているだけであって安全であることを確認したものの、右側の札幌市方面は右地点からは建物の影となるため見通しが極めて悪いのに拘らず、Bが確認したとして安全である旨述べたのを軽信して、自らは同方面を瞥見したにとどまり、その後は右側方面の交通状況を充分に確認しないまま進行を続けて左折したため、折から札幌市方面より小樽駅方面(前記の左側方面)に向い、毎時約30キロメートルの速度で青信号に従って本件交差点に直進してきた原告運転の普通乗用自動車を発見できず、自車が左折を終了する直前に同交差点の北西側横断歩道附近で右乗用車の左前部扉に自車の右前部を衝突させた。
右事実によれば、被告車(救急車)の運転者Aが赤信号の交差点に進入するに際し、前記のような左右の安全を確認すべき注意義務を怠った過失により本件事故が発生したことが認められ、被告の運転者無過失の主張は採用できない。したがって、被告の自賠法3条但書に基づく免責の抗弁は、その他の点について判断するまでもなく失当といわざるをえない。
札幌地裁 昭和44年11月21日(民事)
救急車無過失の主張を認めていません。
札幌地裁 昭和63年9月16日(民事)
この判例はタクシーと救急車の衝突事故ですが、救急車側の無過失を認定。
本件救急車は前記認定のとおり緊急自動車として運転中のものであったところ、緊急自動車は、法令の規定により停止しなければならない場合においても停止することを要しないが、他の交通に注意して徐行しなければならないとされている(道路交通法39条2項)。したがって、本件のように前方が赤信号であっても救急車は停止することを要しないが、交差道路を青信号に従って進行して来る車両に注意を払い安全を十分に確認し、徐行する義務がある。しかし、他方、交差点又はその付近において緊急自動車が接近してきたときは、他の車両は交差点を避け、かつ、道路の左側に寄って一時停止をしなければならないとされている(同法40条1項)。前記認定によれば、救急車の運転者Aは、交差点の前方の信号が赤であったので、減速しながら交差点入口にさしかかり、徐行の状態で左右の見通しの効く地点に至った際、右方を確認し、衝突地点の約65m手前の地点を通常の速度(Xもその証言で時速40ないし45キロメートルであったと述べ具体的な速度はともかく、ことさらに高速ではなかったことをうかがわせる供述をしている。)で進行して来るタクシーを認め、その走行に何ら異常を感じなかったので、赤色灯を回転しサイレンを鳴らしている自車を当然認知し、避譲措置を講ずるものと考えて、徐行して交差点内を進行したものであり、右位置関係、速度等にてらせば、路面状態を考慮に入れても、右Aの判断及び進行方法には何らの過失もなかったというべきである。さらに、Aは、安全確認をした地点から約8、9m進行した地点で、再度右方を確認し、約10m右方に迫っている本件タクシーを発見し、衝突回避のためアクセルペダルを踏んだが間に合わず、本件事故となったのであるが、右再確認までの間は、救急車がタクシーの進路前方を徐行して通過せんとする状態となり、タクシーが救急車を現認することは一層容易な位置関係にあったものであるから、初めの確認の際のタクシーまでの距離及びその動静等、本件の具体的事情下においては、タクシーが避譲措置を講ずるものと考え、動静確認を継続していなかったことを以て過失があるとまではいえず、右再確認後の衝突回避措置についても、その位置関係からすると、他の措置によっても衝突を回避することはできなかったというべきであるから、Aに過失はない。よって過失相殺をすべき事情はないといわざるを得ない。
札幌地裁 昭和63年9月16日(民事)
タクシー側の一方的な過失としています。
静岡地裁 平成14年7月4日(民事)
この判例は救急車が赤信号の交差点に進入する際に、徐行せず漠然50キロで進行。
一般車は救急車の接近に気がつかずに交差点に突入していますが、過失割合は50:50。
宇都宮地裁 平成14年3月27日(民事)
具体的な過失割合は不明ですが、以下の報道があります。
裁判では、消防局側が「当時、消防車は赤色灯とサイレンを使用しており、交差点進入の際にも通過予告をしていた」と反論していたが、判決理由で宇都宮地裁の羽田弘裁判長は「緊急車両が交差点に赤信号で進入する際には、確実に安全確認を行う義務が生じる。この点、問題となった消防車の運転手はこの問題をあまりに軽視していた。注意義務の怠りがあったからこそ事故は生じたのであり、相手の男性は死亡している。道交法上の速度超過が相手に生じていたとしても、確認義務は赤信号側の緊急車両の方が重い」として、組合側に請求額の一部となる1100万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
「緊急車両、通過します」では足りない? 事故を起こした消防本部に賠償命令 | レスポンス(Response.jp)宇都宮地裁は27日、緊急走行中と消防車と乗用車が交差点内で出会い頭に衝突し、乗用車を運転していた男性が死亡した事故は、消防車側の安全確認義務に怠りがあったからだと判断し、消防車を管理する組合に対して約1100万円の支払いを命じる判決を言い渡...
状況により異なる
そのほか、青信号で交差点に進入したミキサー車がサイレンを聞き取りにくい状況にあったとしてミキサー車の過失を否定した判例(東京高裁 昭和44年4月24日)などもありますが、状況次第で過失の有無は変わるし、ましてや過失割合となると詳しい状況がわからない限りは判断しようがない。
基本過失割合は、青信号80、赤信号緊急車両が20になりますが、過失割合の問題ではなく双方ともにどんな義務を負うかの問題。
サイレンを察知したら交差点を避けて一時停止する義務があるし(速度遵守は当然のこと)、緊急車両も左右確認して徐行する義務がある。
個人的には、何ら具体的な内容がわからない報道について憶測から過失割合を認定したり、どっちが悪いかを推測する人の心理がわからない。
それはちょっとの違いでいくらでも変わるもの。
ご冥福を。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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