38条2項の解釈について、藤吉先生が国賠訴訟をすると宣言してましたが、こちらにご意見を頂きました。
なぜ国賠訴訟なのか、なぜ厳しいのか、「解釈を聞ける可能性」とはなんなのかについて藤吉先生が説明してなかったので、たぶん分かりにくいだろうなと思ってました。
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国賠訴訟がなぜ厳しいか?
まず、検察官が起訴して「道路交通法違反事件」として扱った場合はシンプルです。
違反が成立すれば有罪、違反が不成立なら無罪というシンプルな構図なので、38条2項の解釈に対向車を含むかダイレクトに判断されます。
ところが問題なのは、不起訴になった場合。
国賠訴訟って、正確には「国家賠償請求訴訟」。
つまり「賠償しろやゴルァ」「カネを払えやゴルァ」なんですね。
刑事訴訟がシンプルに「違反の成立/不成立」を争うのに対し、国賠訴訟は「カネを払う義務があるか/ないか」の争いになってしまいます。
国賠法の要件はこれ。
要は38条2項の解釈として「対向車を含まない」が正解だったとする。
しかし警察は、こうなりますよね。
見解の相違なので残念だ。
見解の相違なので、違反検挙した行為に「故意/過失」があったわけじゃないことになる。
そうなると国賠法上は「請求棄却」になり、原告藤吉先生が敗訴することになります。
しかし、国賠訴訟の判決文の中で、裁判所が「38条2項は対向車を含まない」という判断を下す可能性もあるわけ。
それを引き出せれば、国賠訴訟は敗訴だけど法解釈は勝ったことになります。
試合に負けたけど勝負には勝ったみたいな話。
しかし国賠訴訟はあくまでも争点が「故意/過失で違法な検挙をしたか?」になるわけで、故意/過失の立証責任は原告側。
38条の解釈がメインの争点ではなくて、あくまでも争点は「公務員の故意/過失」なのよ。
そうなると、裁判所が38条2項の解釈に触れないまま敗訴するリスクもあるわけで、ちょっとややこしいのです。
違反取消請求訴訟はできない
そしてこの話をすると
と考える人もいるだろうけど、行政訴訟法上、「違反取消請求訴訟」は不適法なのでできません。
あくまでも「ゴールド免許交付請求」や「免許停止処分取消請求」という形を取らないと、裁判所は「不適法な訴えだから却下」という判断しかしない。
1 行政事件訴訟法にいう行政庁の処分とは、法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、行政庁が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解する(最判昭和39年10月29日・民集18巻8号1809頁参照)。
2 法は、自動車運転等の禁止の命令(法75条の2)、免許の取消し及び停止(法103条2項)、仮免許の取消し及び停止(法106条の2)等の各規定において、「政令で定める基準」に従うものと規定しており、法施行令は、上記各規定における「政令で定める基準」として、法、法施行令及び法に基づく処分に違反する行為を「違反行為」とし、個々の違反行
為に所定の点数を付することとする累積点数制度を用いている。
しかし、同施行令の規定の仕方は、いずれも「違反行為をした場合において、その累積点数が別表…に掲げる点数に該当することとなったとき」というように、上記の各行政処分につき、累積点数それ自体を要件とはせずに、一定の点数に該当する個々の違反行為の存在自体を要件とした文言になっており、累積点数が一定の点数に達することが上記の各行政処分の要件となるものではないと解される。
また、法や法施行令によっても、累積点数を加算する行為については、これをその都度当該運転者に対して一般的に通知することとはされておらず、他の法令の規定に照らしても、このような通知の制度は設けられていないと解される。このことは、累積点数を加算する行為が当該運転者によって不服申立手続や訴訟で争われることを法が予定していないことを窺わせるものといえる。
3 このようにみてくると、累積点数を加算する措置は、公安委員会において各処分要件が整ったかどうかを画一的にチェックするための内部処理のための制度であって、それ自体は、国民の権利義務に何らの影響を与えるものではなく、したがって、行政処分には該当しないものと解するのが相当である。
4 原告は、累積点数加算の段階で行政処分性を認めてこれを訴訟で争えるように解しないと、その後の免許証の更新の際、優良運転者として有効期間5年の免許証の交付を受けられない不利益を被るなど、非常に不合理であると主張する。
しかし、優良運転者の認定基準は、法施行令33条の7により、各号に定める日前5年間において違反行為又は法施行令別表第2の2に掲げる行為をしたことがないこととされており、やはり累積点数が加算されたという事実が要件とされていない。優良運転者に該当する者が免許証の更新の申請に対して有効期間3年の免許証の交付を受けた場合には、その者は、この免許証の交付は、有効期間5年の免許証の交付を受ける法的利益を侵害するものであるとして、抗告訴訟を提起することもできるものと解するのが相当である。
また、免許取消し等の処分を受けた者は、当該処分直近の違反行為のみならず、それ以前の、公安委員会が累積点数算定の根拠としたすべての違反行為の存在を争うことができ、その場合、それらの違反行為についての第一次的な立証責任は公安委員会が負うこと、累積点数算定の基礎となる違反行為は、最後の違反行為があったとされる日を起算日とする過去3年以内
における違反行為に限られること(累積点数の定義については法施行令33条の2第1項1号イ参照。)からすれば、免許取消し等の処分を受けるまで累積点数の加算の当否を争えないものと解したとしても、必ずしも不合理とはいえない。
いずれにしても、原告の上記主張は採用できない。京都地裁 平成13年8月24日
※同種の判断は多数あり。
「点数を取り消せ」という訴えは、行政訴訟法上できないのよ。
だからハードルが高い国家賠償請求訴訟を仕掛けるしかないし、「試合に負けたけど勝負には勝った」みたいな形で38条2項の解釈を引き出すしかない。
で、読者様の意見。
藤吉先生が説明してなかったので、たぶん分かりにくいだろうなと思ってました。
国賠訴訟の枠組み上、争点は「違反が成立するか?」ではなく「違反検挙に故意/過失による誤検挙があったか?」になってしまう。
原告側が立証しないといけない内容も「故意/過失の有無」になります。
とはいえ、原告が「38条2項の正しい解釈は対向車を含まない」ことを立証し、検挙に過失があったことを立証したら、警察側は「いや、対向車を含むと解釈すべき」と反論せざるを得ない。
そうすると裁判所も38条2項の解釈について判断せざるを得ないわけで、藤吉先生の狙いは「国賠訴訟には敗訴したが、38条2項の解釈では勝った」に持っていきたいのでしょうね。
国賠訴訟はあくまでも「カネを払えや」だという話なので、ハードルは高いのです。
単に見解の相違程度だと、故意/過失がなかったことになり国賠訴訟は敗訴します。
38条2項の解釈については2年前からいくつも資料を出してますが、全て総合的にみれば対向車を含まないとしか思えない。
38条2項って、「停止車両の死角問題」がメインで立法されたと思ってましたが、立法経緯はそもそも違う(警察学論集)。
警察学論集、「道路交通法の一部を改正する法律案要綱(案)について(警察庁)」、立花書房、1967年5月
しかしながら、横断歩道において事故にあう歩行者は、跡を絶たず、これらの交通事故の中には、車両が横断歩道附近で停止中または進行中の前車の側方を通過してその前方に出たため、前車の陰になっていた歩行者の発見が遅れて起こしたものが少なからず見受けられた。今回の改正は、このような交通事故を防止し、横断歩道における歩行者の保護を一そう徹底しようとしたものである。
まず、第38条第2項は、「車両等は、交通整理の行なわれていない横断歩道の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、当該横断歩道の直前で一時停止しなければならない」こととしている。
もともと横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するために一時停止する場合のほかは停止および駐車が禁止されている(第44条第3号)のであるから、交通整理の行われていない横断歩道の直前で車両等が停止しているのは、通常の場合は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにするため一時停止しているものと考えてしかるべきである。したがって、このような場合には、後方から来る車両等は、たとえ歩行者が見えなくとも注意して進行するのが当然であると考えられるにかかわらず、現実には、歩行者を横断させるため横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出たため、その歩行者に衝突するという交通事故を起こす車両が少なくなかったのである。
そこで、今回の改正では、第38条第2項の規定を設けて、交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとする車両等は、横断歩道を通行し、または通行しようとしている歩行者の存在を認識していない場合であっても、必ずその横断歩道の直前で一時停止しなければならないこととし、歩行者の有無を確認させることにしたのである。車両等が最初から歩行者の存在を認識している場合には、今回の改正によるこの規定をまつまでもなく、第38条第1項の規定により一時停止しなければならないことになる。
「一時停止」するというのは、文字通り一時・停止することであって、前車が停止している間停止しなければならないというのではない。この一時停止は、歩行者の有無を確認するためのものであるから、この一時停止した後は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにしなければならないことになる。また、一時停止した結果、歩行者の通行を妨げるおそれがないときは、そのまま進行してよいことになる。警察学論集、「道路交通法の一部を改正する法律」、浅野信二郎(警察庁交通企画課)、立花書房、1967年12月
要は、「先行車が横断歩道手前で停止していたら、横断歩行者優先中なんだから問答無用に止まれ」が立法趣旨。
警察学論集の記述を見ると、昭和42年以前はかなり「空気読めない方々」が突破して事故ったんだなあと読み取れますが、下図のような状況は最徐行して確認する注意義務を認定した判例も(東京高裁S42.2.10)。
1項前段をいかに遵守すべきかに話が向かって欲しいのですが、2項の解釈に関わる資料はかなり挙げているので、全て総合的にみれば対向車を含まないとしか思えないのよね。
そして対向車を含めたほうが安全なのも事実ですが、最徐行する車両が大多数ならこんな議論自体不要だったのかも。
しかし、昭和42年に作ったルールの解釈が令和に争われるほうが問題。
他にも、昭和39年に作ったルールの解釈がいまだに争いがあることなんてほとんど知られてない気がするけど、この手の話は立法趣旨・経緯から調べないとわからない。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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