改正18条4項では、追い抜きされる自転車や特定小型原付について「できる限り左側端に寄って」通行する義務を課してますが、
3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合(当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。
4 前項に規定する場合においては、当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない。
何度も書いているように、「できる限り」の意味を取り違える人が多い。
「左側端に寄って」よりも「できる限り左側端に寄って」がさらに左側になるという勘違いですね。
自転車の通行方法と,改正道路交通法の概要。
①自転車は,道路の左側端に寄って通行しなければならない(罰則なし)。
②改正法が施行されたら,自動車等が自転車の右側を通過するときは,自転車は「できる限り」左側端に寄って通行しなければならない。
③これに違反したら,チャリダーに罰金。 https://t.co/4OPOklwlSl pic.twitter.com/0dMO7M0rfK— ウッディモリタ (@woodymorita) July 15, 2024
イラストを見ると、「左側端に寄って」(18条1項)よりも「できる限り左側端に寄って」(18条4項)がさらに左側だという誤解に立っている。
何度も書いてますが、
「できる限り左側端に寄って」とはこういう意味です。
第十八条
特定小型原動機付自転車及び軽車両(以下「特定小型原動機付自転車等」という。)にあつては道路の左側端に寄つて、それぞれ当該道路を通行しなければならない。ただし、道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない。
Contents
「できる限り」とする理由
日本語の問題ですが、いくつか例を挙げてみます。
①給食を残さず食べなければならない
②できる限り給食を残さず食べなければならない
③野菜を食べなければならない
④できる限り野菜を食べなければならない
⑤確定申告は3月15日までにしなければならない。
⑥確定申告はできる限り3月15日までにしなければならない。
要はこのポストをした人の発想って、④を「たくさん野菜を食べろ」と勘違いしたのと同じ。
④で「できる限り」としたのは、「できない事情があれば仕方ないよね」という意味ですよね。
しかし「たくさん食べろ」と勘違いする。
道路交通法上で「できる限り」の差が分かりやすくしてあるのは駐停車の規定。
第四十七条 車両は、人の乗降又は貨物の積卸しのため停車するときは、できる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
2 車両は、駐車するときは、道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
停車 | 駐車 |
できる限り左側端 | 左側端 |
駐車は「左側端」、停車は「できる限り左側端」としてますが、なぜそのように規定したかについては当時警察庁で道路交通法を作った宮崎氏が解説してます。
停車の説明
なお、「できる限り」としたのは、本来は左側端にぴったり寄るのが望ましいが、道路工事その他障害物のため左側端に寄ることが不可能な場合を考慮したからである。
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)
駐車の説明
本項においては、停車の場合と異なり、「できる限り」という言葉が用いられていない。したがって、車両は、駐車しようとするときには、かならず道路の左側端に寄らなければならぬことになる
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)
「左側端」と「できる限り左側端」を分ける理由は、「できる限り」とつけることで道路状況など「できない場合」にはしょうがないよねという意味なのよ。
ここを取り違える人が本当に多い。
つまり18条4項でいう「できる限り左側端に寄って」とは「左側端に寄って、ただし道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない」という意味。
なので18条1項と18条4項は全く同じ意味なのよね。
現に警察庁もそのように説明している(20:00あたりから)。
18条にあるんですけども、「当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない」とあるんですけども、「できる限り」という表現が曖昧なような気がするんです。
・早川交通局長
自転車の側方を自動車が通過する場合の義務に関する規定についてのご質問でありますが、先ほどお答え申し上げた通り、元々自転車は車道の左側端を走行しなければならないという規定がございます。自動車が側方を通過する際は、自転車は元々車道の左側端を走行しておるのですが、可能な範囲で左側端を走行してくださいということで、本来元々左側端を走行しているのであればそれで十分であるという規定の趣旨であります。
要は18条4項は、追い抜きされる場合のみ18条1項に罰則を設けたのと同じ。
18条1項に従っていた自転車に、それ以上何かする義務を加重したわけではない。
「できる限り左側端」という表現は左折(34条1項)にも使われてますが、なぜ「できる限り」としたかというと、
「左側端に寄って」だと必ず左側端に寄らないと違法になるけど、大型車は左折不可能に陥る。
「できる限り左側端に寄って」だと、可能な範囲で左側端に寄ればいいことになる。
できない場合を除外するために「できる限り」としているのは、道路交通法を制定した宮崎氏の解説からも明らかだし、東京地検交通部も同様の解釈。
「できる限り道路の左側端に寄り」とは
(イ)「できる限り」とは
その場の状況に応じ、他に支障のない範囲で可能な限り、行えばよいとの趣旨である<同旨 法総研125ページ 横井・木宮175ページ>。
左側に車両等が連続していたり、停車中の車両等があって、あらかじめ道路の左側に寄れなかった場合には、たとえ直進の位置から左折進行したとしても、本項の違反とはならないことになる<横井・木宮175ページ>。東京地方検察庁交通部研究会、「最新道路交通法事典」、東京法令出版、1974
けど、「左側端に寄って」よりも「できる限り左側端に寄って」のほうがさらに左側だと勘違いする人がいるので(むしろ多い)、自転車や特定小型原付は苦労するかもしれません。
なぜ勘違いするのか?
「確定申告は3月15日までにしなければならない」と「確定申告はできる限り3月15日までにしなければならない」の差。
「野菜を食べなければならない」と「できる限り野菜を食べなければならない」の差。
要は「できる限り」とつけることで、できない場合を除外する効果なのよ。
まさか「できる限り野菜を食べなければならない」を「ひたすら野菜を大量に食べろ」という意味に取る人はいないかと。
一番分かりやすいのは駐停車の規定について宮崎氏が解説した内容。
他にも進路避譲義務と緊急車両の優先なんかもこれが現れています。
27条2項(進路避譲義務) | 40条2項(緊急車両の優先) |
できる限り道路の左側端に寄つてこれに進路を譲らなければならない | 道路の左側に寄つて、これに進路を譲らなければならない |
緊急車両の優先(40条2項)には「できる限り」がついてないので、問答無用に左側端に寄らないとダメ。
進路避譲(27条2項)には「できる限り」とあるので、できない事情があれば仕方ないよねというスタンス。
冒頭のポストの人はおそらく、「できる限り左側端に寄って」を「なにがなんでも左側端に寄って」だと取り違えているから、「左側端に寄って」よりも「できる限り左側端に寄って」がさらに左側なんだと勘違いしているのだろうけど、警察庁はそんなアホ解釈はしていない。
18条にあるんですけども、「当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない」とあるんですけども、「できる限り」という表現が曖昧なような気がするんです。
・早川交通局長
自転車の側方を自動車が通過する場合の義務に関する規定についてのご質問でありますが、先ほどお答え申し上げた通り、元々自転車は車道の左側端を走行しなければならないという規定がございます。自動車が側方を通過する際は、自転車は元々車道の左側端を走行しておるのですが、可能な範囲で左側端を走行してくださいということで、本来元々左側端を走行しているのであればそれで十分であるという規定の趣旨であります。
けど、こういう誤った認識の人はそれなりに多い気がする。
18条4項に「できる限り」とついてなかったならば、左側端に穴があろうと穴に突っ込まないと違法になるし
通行に適さない側溝上を通行しないと違法になる。
けど「できる限り」とすることで「道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない」という意味になる。
意味を取り違える人が多いのが気になるけど、そのうち国会議事録が公開されるはずなので、ごちゃごちゃいう人がいたら国会議事録にご案内したほうが早いかもしれません。
まさか、立法者の解説より持論が優先するなんて素人がいたら、話になりませんし。
道路交通法って、様々な条文と整合性を取りながら解釈を確認しないと間違います。
法律上は「できる限り」とつけないととんでもないことが起きますが、一般市民的には「できる限り」が誤解を招く。
ややこしいよね。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
この部分は、そもそもが、
「自転車等の安全を確保するための規定の創設」の趣旨の
自動車は、自転車等を追い抜くときは自転車との間に間隔が取れないときは、その間隔に合わせて速度を落とせ、が先にあって、
そのあとに、追い抜かれる際には、自転車はできるだけ左に寄れ、ということなのですよね。
このポスト主の人が、自転車の義務だけをクローズアップしてるのか、よく分かりません。
コメントありがとうございます。
確かにそれもそうなんですよね。
けど、おかしな解釈をする人は必ず出ます。