ちょっと前に、自爆事故を起こした高校生の事案がありましたが、
※突っ込めと言われた気がしたので・・・
ありがとうございます笑。
ところで、このような自爆事故もありました。
この手の事故についても、賠償問題は複雑。
事実関係がハッキリしないと何もわかりませんが、要は人身損害の賠償責任を規定した自賠法の解釈と、民法の関係とか刑事事件よりはるかに分かりにくい気がする。
「他人」の解釈
自賠法では、運行供用者が「他人」に対し人身損害を与えた場合に賠償するように規定している。
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
では具体的事例を検討しましょう。
原審が適法に確定するところは、(一) 被上告会社は、建物の管理・清掃等を営む会社で、その所有の本件自動車を会社と作業現場との間における作業員の往復や作業用具の運搬に使用し、平常はこれを会社の事務所に設けられている車庫に格納していた、(二) 被上告会社は同族会社で、本件事故の被害者であるD(以下「D」という。)は代表取締役の二男であり、取締役に就任しているが、常勤の作業員と同様に現場作業に従事して月給を支給されており、通勤には自己所有の単車を使用している、(三) Dは、本件事故発生の前日の午後一一時ころ、被上告会社の従業員E(以下「E」という。)とともに本件自動車を使用して作業現場から会社に戻り、近くの飲食店で食事をしたのち、Eから知人の働いているトルコ風呂に行つてみようと誘われ、みずから本件自動車を運転し、Eを同乗させて、東京都港区aの会社を出発してb方面に向かつたが、目的のトルコ風呂が見つからなかつたので行先を変更し、Dの知人がマネジヤーをしているc方面のトルコ風呂に赴いたが、マネジヤーが不在であつたため再度行先を変更して、Dの自宅に帰る途中でd方面のトルコ風呂に立寄るべく引続き運転中、目黒区内で道路工事の標識に衝突し付近に停車中の自動車との接触事故を起こしたことから、Eに運転を交代してもらつて本件自動車を走行させているうち、翌午前二時三〇分ころ渋谷区e付近において、Eの前方不注視等の過失により本件自動車をガードレールに衝突させる本件事故が発生し、Dが加療二年以上を要する重傷を負つた、(四) DとEとが本件自動車を私用に供するについては、被上告会社の明示の許諾は得ていないけれども、被上告会社においては従業員が本件自動車を私用に供することを固く禁じて管理を厳重にしていたとも認められない
事故が起きて「Dさん」が負傷した際、Dさんは運転しておらず「Eさん」が運転していた。
どこに行こうとしていたかについては、あえて伏せません。
この場合、Dさんが自賠法3条でいう「他人」だと主張して運行供用者に賠償を求めることが出来るか?という問題が起きる。
では最高裁の判断を。
しかしながら、自賠法三条により自動車保有者が損害賠償責任を負うのは、その自動車の運行によつて「他人」の生命又は身体を害したときであり、ここに「他人」とは、自己のために自動車を運行の用に供する者及び当該自動車の運転者を除くそれ以外の者をいうことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和三五年(オ)第一四二八号同三七年一二月一四日第二小法廷判決・民集一六巻一二号二四〇七頁、昭和四二年(オ)第八八号同四二年九月二九日第二小法廷判決・裁判集民事八八号六二九頁、昭和四四年(オ)第七二二号同四七年五月三〇日第三小法廷判決・民集二六巻四号八九八頁)。したがつて、被上告会社がDに対し自賠法三条による賠償責任を負うかどうかを判断するためには、Dが右の意味における「他人」にあたるかどうかを検討することが必要である。
そうして、原審確定の上記の事実関係に徴すると、Dは被上告会社の業務終了後の深夜に本件自動車を業務とは無関係の私用のためみずからが運転者となりこれにEを同乗させて数時間にわたつて運転したのであり、本件事故当時の運転者はEであるが、この点も、Dが被上告会社の従業員であるEに運転を命じたという関係ではなく、Dみずからが運転中に接触事故を起こしたために、たまたま運転を交代したというにすぎない、というのであつて、この事実よりすれば、Dは、本件事故当時、本件自動車の運行をみずから支配し、これを私用に供しつつ利益をも享受していたものといわざるをえない。もつとも、原審認定の被上告会社による本件自動車の管理の態様や、Dの被上告会社における地位・身分等をしんしやくすると、Dによる本件自動車の運行は、必ずしも、その所有者たる被上告会社による運行支配を全面的に排除してされたと解し難いことは、原判決の説示するとおりであるが、そうであるからといつて、Dの運行供用者たる地位が否定される理由はなく、かえつて、被上告会社による運行支配が間接的、潜在的、抽象的であるのに対し、Dによるそれは、はるかに直接的、顕在的、具体的であるとさえ解されるのである。
それゆえ、本件事故の被害者であるDは、他面、本件事故当時において本件自動車を自己のために運行の用に供していた者であり、被害者が加害自動車の運行供用者又は運転者以外の者であるが故に「他人」にあたるとされた当裁判所の前記判例の場合とは事案を異にするうえ、原判示のとおり被上告会社もまたその運行供用者であるというべきものとしても、その具体的運行に対する支配の程度態様において被害者たるDのそれが直接的、顕在的、具体的である本件においては、Dは被上告会社に対し自賠法三条の「他人」であることを主張することは許されないというべきである。
最高裁判所第三小法廷 昭和50年11月4日
要は事故時に「同乗者」であり「運転者」ではなくても、このケースにおいてDさんは共同運行供用者の立場になるから自賠法3条でいう他人ではない。
自賠法3条は運行供用者が他人に人身損害を与えた場合に賠償する規定なので、「他人ではない」とされたDさんには自賠法による賠償請求権がない。
ただし理屈の上では、運転者Eさんの不注意による事故なので、Eさんに対し人身損害の賠償請求は可能です。
まあ、従業員に対し賠償請求するのかという問題と、気持ちいいほうのお風呂屋さんに行こうとしていた二人…最高裁判決文に「気持ちいいほうのお風呂屋さんに行こうとしていた」なんて書かれたらツラい。
次のケース。
こちらは自己所有の自動車の運転を友人に委ねて同乗中、友人が起こした事故により死亡したもの。
こちらも自賠法でいう「他人」には当たらず、自賠法を根拠に運行供用者に賠償請求権を行使できないとする。
しかしながら、原判決の認定するところによれば、本件事故当時Dは友人らの帰宅のために本件自動車を提供していたというのであるから、その間にあつてFが友人らの一部の者と下宿先に行き飲み直そうと考えていたとしても、それはDの本件自動車の運行目的と矛盾するものではなく、Dは、Fとともに本件自動車の運行による利益を享受し、これを支配していたものであつて、単に便乗していたものではないと解するのが相当であり、また、Dがある程度F自身の判断で運行することをも許したとしても、Dは事故の防止につき中心的な責任を負う所有者として同乗していたのであつて、同人はいつでもFに対し運転の交替を命じ、あるいは、その運転につき具体的に指示することができる立場にあつたのであるから、FがDの運行支配に服さず同人の指示を守らなかつた等の特段の事情がある場合は格別、そうでない限り、本件自動車の具体的運行に対するDの支配の程度は、運転していたFのそれに比し優るとも劣らなかつたものというべきであつて、かかる運行支配を有するDはその運行支配に服すべき立場にあるFに対する関係において同法三条本文の他人にあたるということはできないものといわなければならない。しかるに、原判決は、前記の特段の事情があるか否かについて事実関係を確定しないまま、所有者であるDの運行支配の程度態様を間接的潜在的抽象的なものであると判断し、Dが同法三条本文の他人であると主張することができるとしたものであつて、ひつきよう、原判決の右判断には同法三条本文の他人の意義に関する解釈適用を誤り、その結果審理を尽くさない違法があるものといわなければならない。そして、右の違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかであつて、この点に関する論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件についてはさらに審理を尽くさせるのが相当であるから、これを原審に差し戻すこととする。
最高裁判所第二小法廷 昭和57年11月26日
これにしても、ちょっと状況が変われば話が変わるので、「同乗者だから」みたいな安易な理由で語れない。
民事は難しいのよ。
誰に請求できるか?という話だし、誰が賠償責任を負うか。
プロでも間違う
以前書いたように、プロの弁護士さんでも「物損!自賠3条!」「自転車事故!自賠3条!」と訴状に書いて裁判所にダメ出しされるわけで、
この話ってなかなかややこしい。
きょう未明、茨城県ひたちなか市で、軽乗用車が信号機に衝突し、高校生ら7人が重軽傷を負いました。
午前3時半ごろ、ひたちなか市小砂町の交差点で、「電柱に車が衝突していて煙が出ている」と通行人の男性から通報がありました。
警察官が駆け付けたところ、軽乗用車が歩行者用信号機の柱に衝突し、車のフロント部分がめり込んでいたということです。
この事故で、軽乗用車に乗っていた高校生や会社員ら16歳から19歳の男性7人がけがをしていて、うち2人が肺挫傷、1人が頸椎を折る重傷です。
警察によりますと、7人は、4人乗りの軽乗用車にすし詰め状態で乗っていたとみられますが、誰が運転していたかなど話が食い違っているということで、警察が詳しく調べています。
Yahoo!ニュースYahoo!ニュースは、新聞・通信社が配信するニュースのほか、映像、雑誌や個人の書き手が執筆する記事など多種多様なニュースを掲載しています。
これ、運転者が誰なのか確定しないと刑事責任を問えないので当然捜査して裏付けをしていきますが、事故当時に運転してなかった怪我人についても、自賠法では「他人」ではなく共同運行供用者になる可能性があり、そうすると保険やら何やら話が変わるのよね。
運転者が民法上の賠償責任を負うにしても、状況次第では大幅に過失相殺になる。
ぶつかって、傷ついて、泣き叫んでも、全然希望の匂いはしないわけよ。
報道を見ても事実関係がハッキリしないと何もわかりませんが、個人的には「気持ちいいほうのお風呂屋さんに行こうとして自爆事故」なんて判決文に書かれたらキツイなあと…
「私は他人です!自賠3条で請求します!」→「お前は他人ではない!」みたいな争いになるわけですが、この青森地裁判決も同乗者が死亡した件について「同乗者は他人ではない!」としている。
もちろん同乗者だから他人性が否定されるわけではない。
状況次第で変わりますが、民事って刑事よりはるかにに分かりにくい。
だから揉めるわけだけど、揉める原因になった行為を食い止めれば揉めないわけでしてね…
いざ事故になると、弁護士さんでも四苦八苦しながらやるわけで。
交通の研修会で話題に上った事項の備忘録
・自転車事故や物的損害で自賠3条書く人は一旦正気に戻ろう。
・あおり運転事案で故意主張する人がいるが保険の故意免責は考慮したか?
・治療費全額既払いで損害計上しない時でも治療経過(期間・実日数)は明示しよう。過失争われそうなときは治療関係費も。— ゴルゴンまこつ (@lawyer_makoto) March 14, 2023
事故になって揉めるよりも、事故を起こさないほうがはるかにラクとしか。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
特殊浴場ではなくトルコ風呂と書いてて笑える
コメントありがとうございます。
昔はむしろ正式な名称なんですよね…私なら泣きます。