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「ブレスケアひき逃げ事件」について、最高裁が論点を公開。

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ブレスケアを購入するため(飲酒運転発覚回避目的)に事故を起こした後コンビニによったことが、救護義務違反(道路交通法72条1項)になるのかが争われている裁判ですが、

ブレスケアひき逃げ無罪事件、最高裁が弁論を開くことを決定。
以前も取り上げた「事故直後に飲酒運転を隠すためコンビニにブレスケアを買いに行った事件」。この件は過失運転致死罪ですでに有罪判決が出ていますが、遺族の尽力で「救護・報告義務違反」(道路交通法72条)としてあらためて起訴。一審の長野地裁はコンビ...

最高裁が弁論期日を指定し、無罪とした二審判決が見直される可能性がある。
ところで、最高裁が論点を公開しました。

https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2024/jiangaiyou_05_1285.pdf

あまり詳細な論点は公開されてないけど、要は法令解釈の争いとみてよいかと。
では事件を整理します。

1 本件事故後の被告人の行動等
原審関係証拠によれば、原判決が適切に認定しているように、本件事故後の被告人の行動等に関し、次の事実が認められる。
⑴ 被告人は、平成27年3月23日午後10時7分頃、被告人車両を運転中に本件事故を起こし、衝突地点から約95.5m先で被告人車両を停止させて降車した。被告人は、車を人に衝突させたと思い、衝突現場付近に向かい、同日午後10時8分頃、衝突現場である横断歩道付近で靴や靴下を発見し、その後約3分間、付近を捜すなどしたが、被害者を発見することができなかった。
⑵ 被告人は、被告人車両を停止した場所まで戻り、同日午後10時11分52秒頃、被告人車両のハザードランプを点灯させた後、警察に飲酒運転がばれないように酒の臭いを消すものを買おうなどと考え、被告人車両の停止地点から約50.1m移動し、同日午後10時12分17秒頃、コンビニエンスストア(以下「本件コンビニ」という。)に入店し、口臭防止用品「ブレスケア」を購入し、退店後の同日午後10時13分0秒頃、これを服用した。
⑶ 被告人は、本件コンビニを退店後、衝突現場方向に向かい、
衝突地点から約44.6m離れた地点に倒れていた被害者が発見されるとその下に駆け寄り、被害者に対して人工呼吸をするなどした。その後、その場に到着した被告人の友人のうちの一人が、同日午後10時17分頃、消防に119番通報した。

これが道路交通法72条1項でいう「直ちに救護し」になるのかが問題。

(交通事故の場合の措置)
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第七十五条の二十三第一項及び第三項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。

なお「直ちに」とは、停止することだけに掛かるわけではなく、「救護し」も含まれます。
理由は旧法から現行法に変わる際の趣旨にある。

 

「直ちに」の範囲。
こちらの件。(交通事故の場合の措置)第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必...

 

原判決の判断はこちら。

2 検討
前記1の本件事故後における被告人の行動等について検討すると、まず、被告人は、本件事故後、直ちに被告人車両を停止して被害者の捜索を開始しており、被告人車両を停止した場所に戻ってハザードランプを点灯させたことについても、交通事故を起こした運転者に課せられた危険防止義務を履行したものと評価できる。その後、本件コンビニに行ってブレスケアを購入し、退店後にこれを服用したことについては、被害者の捜索や救護のための行為ではないものの、これらの行為に要した時間は1分余りであり、被告人車両を停止した場所から本件コンビニまで移動した距離も50m程度にとどまっており、その後直ちに衝突現場方向に向かい、被害者が発見されると駆け寄って人工呼吸をするなどしていることに照らすと、被告人の救護義務を履行する意思は失われておらず、一貫してこれを保持し続けていたと認められる。このように、救護義務を履行する意思の下に直ちに被告人車両を停止して被害者の捜索を開始し、その後も救護義務の履行を放棄して現場から立ち去ることはなく、被害者が発見された後は実際に救護措置を講じたという、本件事故後の被告人の行動を全体的に考察すると、被害者に対して直ちに救護措置を講じなかったと評価することはできないから、被告人に救護義務違反の罪は成立しない。

 

3 原判決の判断について
原判決は、被告人は、ブレスケアを購入するために本件コンビニに赴いた時点で、交通事故を発生させた当事者として救護義務を「直ちに」尽くすことよりも、飲酒事実の発覚を回避するための行動を優先させており、そのような発覚回避行動に要した時間が二、三分間にとどまり、場所的にも数十メートル程度の離隔しかなかったとしても、交通事故を発生させた当事者が救護義務を尽くすことと、飲酒事実の発覚回避行動をとることは、内容や性質からみて対極の行動であり、前者より後者を優先させる意思決定を行動に移した時点で、前者の救護義務の履行と相容れない状態に至ったとみるべきであり、被告人は、上記発覚回避行動に及んだことにより救護の措置を遅延させたというべきであるから、「直ちに」救護の措置に及ばなかったという救護義務違反の罪が成立すると判断している。
しかし、飲酒事実の発覚を回避する意思は、道義的には非難されるべきものであるとしても(もっとも、被告人が身体に保有していたアルコール量は、酒気帯び運転の罪を構成する程度に達していなかった。)、救護義務を履行する意思とは両立するものであって背反するものではなく、上記発覚回避行動に出たからといって救護義務を履行する意思が否定されるものではないから、被告人が同意思を失ったとは認められない。前記2のとおり、被告人は、救護義務を履行する意思の下に直ちに被告人車両を停止して被害者の捜索を開始し、被害者が発見された後は実際に救護措置を講じており、その間に捜索や救護のためではない上記発覚回避行動に出ているものの、本件事故後の被告人の行動を総合的に考慮すれば、人の生命、身体の一般的な保護という救護義務の目的の達成と相容れない状態に至ったとみることはできない。原判決は、救護義務違反の罪が成立するかどうかは、当該事案全体を見渡し、様々な事情を総合的に考慮して判断すべきであると説示するものの、本件事故後における救護義務を履行する一貫した意思の下での被告人の行動の全体的な考察を十分に行わず、飲酒事実の発覚回避という行為の目的を過度に重視した結果、救護義務違反の罪の構成要件への当てはめを誤ったものといわざるを得ず、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。

 

4 検察官の主張について
検察官は、法令用語としての「直ちに」は、即時性が強く一切の遅滞を許さないとされていることなどからすれば、道路交通法72条1項前段の「直ちに」とは、事故発生の後、無為のうちに時間を空費したり、法が命じる救護の措置以外の一切の行為を行うことを許さない趣旨と解すべきであり、これと同様の解釈に基づき、被告人に救護義務違反の罪が成立するとした原判決の判断は正当である旨主張する
しかし、原判決は、前記3のとおり、救護義務違反の罪が成立するには、当該事案全体を見渡し、事案全体に表れた様々な事情を総合的に考慮して、救護義務の履行と相容れない状態に至ったといえる必要があることを前提に同罪の成否について判断しており、救護の措置以外の行為をしたら直ちに同罪が成立するとの解釈を採っているものとは解されない。検察官の上記主張は採用できない。
また、検察官は、原判決は、被害者の捜索活動と並行して119番通報を行うことが可能であったのにそれをしなかったなどの不作為を問題視し、ブレスケアの購入、服用という逸脱行動に及んだ段階で、期待された措置を講じなかったという不作為が可罰的な程度に達したとして、救護義務違反の罪が成立すると認定したものと解され、かかる原判決の判断は正当であるとも主張する。しかし、被害者が発見されていないため、119番通報をすることよりも被害者を捜索、発見して救護措置を講じることを優先したからといって、人の生命、身体の保護という救護義務の目的に直ちに反することになるとはいえないし、被害者が発見されていない状況で119番通報をしたとしも、被害者の所在や負傷状況等を救急隊員に伝えることができず、被害者の救護に直ちにつながらないから、本件において、被告人が119番通報をしなかったことを重視して救護義務違反の罪の成立を認めることはできないというべきである。検察官の上記主張も採用できない。

 

5 以上によれば、被告人に救護義務違反の罪が成立するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり、その余の控訴趣意について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、原判決は、救護義務違反の罪と報告義務違反の罪とが科刑上一罪の関係にあるものとして1個の判決をしているから、結局、原判決は全部破棄を免れない。

 

東京高裁 令和5年9月28日

この判決の基礎となった考え方は、東京高裁 平成29年4月12日判決と考えられる。

救護義務及び報告義務の履行と相容れない行動を取れば、直ちにそれらの義務に違反する不作為があったものとまではいえないのであって、一定の時間的場所的離隔を生じさせて、これらの義務の履行と相容れない状態にまで至ったことを要する

 

東京高裁 平成29年4月12日

コンビニに数分立ち寄りその後救護した行動を「一定の時間的場所的離隔を生じさせて、これらの義務の履行と相容れない状態にまで至った」として有罪にしたのが一審の長野地裁。
「一定の時間的場所的離隔を生じさせて、これらの義務の履行と相容れない状態にまで至った」とは言えないとしたのが二審の東京高裁。

 

ところで、古い判例には「直ちに」について以下の判断がある。

右報告が果して道路交通法72条1項後段所定の報告をした場合にあたるかどうかについて案ずるに、右にいう「直ちに」とは、同条1項前段の「直ちに」と同じくその意義は、時間的にすぐということであり「遅滞なく」又はというよりも即時性が強いものであるところ、同条1項前段の規定によれば交通事故であつた場合、事故発生に関係のある運転者等に対し直ちに車両の運転も停止し救護等の措置を講ずることを命じているのであるから、これと併せてみると同条1項後段の「直ちに」とは右にいう救護等の措置以外の行為に時間を籍してはならないという意味であつて、例えば一旦自宅へ立帰るとか、目的地で他の用務を先に済すというような時間的遷延は許されないものと解すべきである。
蓋し同法が右報告義務を認めた所以は、交通事故の善後措置としては、先ず事故発生に関係のある運転者等に負傷者の救護、道路における危険防止に必要な応急措置を講ぜしめるとともに、これとは別に人身の保護と交通取締の責務を負う警察官をして負傷者の救護に万全の措置と、速やかな交通秩序の回復につき適切な措置をとらしめるためであるから、現場に警察官がいないときの報告も、時間を藉さず直ちになさねばならないからである。

 

大阪高裁 昭和41年9月20日

この観点からするとコンビニによった行動が「救護以外の時間的遷延」に当たるわけ。
しかし最近の判例をみると、「一定の時間的場所的離隔を生じさせて、これらの義務の履行と相容れない状態にまで至った」という概念を採用している雰囲気。
そこに最高裁が待ったを掛ける可能性が高そう。

 

ところでこの件はいろんな法学者が東京高裁判決に疑問を投げ掛けてまして、そのうちいくつかはネット上にもあります。

 

例えば東京高裁判決のここ。

被害者が発見されていないため、119番通報をすることよりも被害者を捜索、発見して救護措置を講じることを優先したからといって、人の生命、身体の保護という救護義務の目的に直ちに反することになるとはいえないし、被害者が発見されていない状況で119番通報をしたとしも、被害者の所在や負傷状況等を救急隊員に伝えることができず、被害者の救護に直ちにつながらないから

119番通報よりも被害者の発見を優先したとありますが、発見を一時中断したからコンビニに行ったわけで、「被害者が発見されていない状況で119番通報をしたとしも、被害者の所在や負傷状況等を救急隊員に伝えることができず、被害者の救護に直ちにつながらない」というのは継続して被害者を捜索していた場合の話に思える。
救護義務違反不成立の理由としてはなんか変。

 

どちらにせよ、この件は事実認定の誤りではなく法令解釈の争い。
最高裁が何らかの判断をすると考えられますが、気になる方は弁論を見に行ったらいかがでしょうか?
なお、わりと注目事件なので弁論は抽選/整理券交付になっています。

 

弁論は令和6年12月13日午後2時00分、第二小法廷。
整理券交付締切時刻は午後1時20分。

 

今回はわりとシンプルな理由で最高裁が判断しそうな予感なのよ。
要は救護と無関係な行動、つまりコンビニに行ったことが「直ちに救護し」とは言えないというシンプルな理由付けをするような気がする。
というのも、

一審と二審の要旨(最高裁まとめ)を見る限り、問題にしているのは「直ちに」の解釈ですよね。

道路交通法違反で最高裁が判断するのは、赤信号無視事件以来(?)でしたっけ?

なぜ?赤信号無視で最高裁まで?
以前取り上げたこちらの判例について質問を頂いたのですが、ちょっと分かりにくいのかな、この判例。被告人は「信号無視はしてない!」と裁判で争ったわけではありません。争ったのはなに?まずは事件の概要。(1) 被告人は,平成27年7月12日午後8時...

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