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裏付けがない論。

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道路交通法38条2項に対向車を含むか?という議論の中で、なかなか不思議に思っていることがありまして。
たまたま見つけた謎主張。

道路交通法第38条第2項について
みんカラ(みんなのカーライフ)とは、あなたと同じ車・自動車に乗っている仲間が集まる、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)です。

「その前方に出る前に」の「その」とは当該停止している車両を指すのではないと主張している。

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38条2項の「その」が指すもの

では38条2項を。

2 車両等は、横断歩道等(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等により当該横断歩道による歩行者の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又は①その手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過して②その前方に出ようとするときは、③その前方に出る前に一時停止しなければならない。

①が「横断歩道等の」を指すのはわかるし、②と③は「当該停止している車両等の」を指すのも通常の日本語能力さえあればわかる気がしますが、この手の議論って水掛け論狙いにしか見えないのね。
根拠がありそうな雰囲気でひたすら私見を述べてますが、この見解が正しいとする裏付けや正しいと推認できそうな裏付けは何一つ提示されていない。
置き換えるとこうなる。

2 車両等は、横断歩道等(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等により当該横断歩道による歩行者の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又は①横断歩道等の手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過して②当該停止している車両等の前方に出ようとするときは、③当該停止している車両等の前方に出る前に一時停止しなければならない。

さて、専門家は②と③の「その」をどう捉えているかですが、警察庁の人が著者の解説書を見てみましょう。

第1項後段は、横断歩道等の直前(停止線があるときはその直前)で一時停止すべきことを義務付けているが、この一時停止は主として安全確認のためのものであって、通行を妨害しないようにするためには、さらに前進して停止することも認められると解される。特に幅員の広い横断歩道ではこのような実態が見られる。そこで、本項においては、前車が停止している位置としては「横断歩道等又はその手前の直前」としているのである。
本項は、横断歩道等の停止車両は、第1項後段の規定を遵守するためのものが一般的であることを前提にしているが、「停止している車両等」がこれに限られるものではないのは当然のことである。
本項の一時停止の義務は前車の「前方に出る前に」行わなければならないが、おおむね前車の車体の前端付近で行うべきものである。

平野竜一ら、「注解特別刑法 第1巻 (交通編 1) 第2版」、青林書院、1992.6

立法者(警察庁)の見解によると、2項の一時停止義務は「前車の前方に出る前に」行わなければならないものだとする。

本項の一時停止の義務は、前車の「前方に出る前に」行わなければならないが
条文 警察庁の解説
その前方に出る前に一時停止しなければならない 本項の一時停止の義務は、前車の「前方に出る前に」行わなければならない

「その」とは「前車の」、つまり「当該停止している車両」のことだと警察庁が解説しちゃっているので、

その前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない

警察庁は「その」を「当該停止している車両等(前車)」と捉えているから、一時停止する位置をこのように解説しているわけでしょ。

「前方に出る前に」とは、歩行者等保護の本項の趣旨から考えると停止している車両等の先端線とほぼ同一の位置の側方を厳格に解することがよいであろう。

警察庁交通企画課、道路交通法ハンドブック

この見解は執務資料道路交通法解説(東京法令出版)も同じです。
リンク先の内容は何ら持論が正しいことを担保する裏付けも示されておらず、独自見解に過ぎないことになる。
あーだこーだと理屈をつけているようで、その実は単なる独自見解なのよね。

 

なお「その」の使い方についてですが、道路交通法全体を見渡せばリンク先の内容が正しくないことは読み取れるかと。
思うに、この手の議論をする際には素人の珍説を語りだせば水掛け論にしかならなくて、それは運転レベル向上委員会の人にも当てはまるんだけど、

変な解説。
こちらで取り上げた件。その動画についていろいろ質問を頂いたのですが、要はこれの話ですよね。名古屋高裁判決はこれ。原判示道路は、道路標識等によつて駐車が禁止されているし、原判示自動車の停止位置は、道路交通法44条2号、3号によつても停車及び駐...

素人の珍説はわかったので、じゃああなたの主張を裏付けする専門書や判例はありますか?という話なのよ。
警察庁の書籍を見る限り、立法者の意図は②③「その」について「前車」、つまり「当該停止している車両等」なんだとしているわけで。
そしてこれに反する見解を述べている専門書は見たことがないし、日本語としては自然なので…

 

そもそも、38条2項は昭和42年新設時と昭和46年改正でビミョーに違う。

 

◯昭和42年

車両等は、交通整理の行なわれていない横断歩道の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、当該横断歩道の直前で一時停止しなければならない。

◯昭和46年

車両等は、横断歩道(当該車両等が通過する際に信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等により当該横断歩道による歩行者の横断が禁止されているものを除く。次項において同じ。)又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない。

違いはここ。

昭和42年 昭和46年
義務発生の状況 横断歩道の直前で停止している車両等がある場合 横断歩道又はその手前の直前で停止している車両等がある場合
一時停止義務の要件 当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするとき 当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするとき
一時停止の位置 当該横断歩道の直前 その前方に出る前

義務発生の状況を「横断歩道の直前で停止している場合」から「横断歩道又はその手前の直前で停止している車両等がある場合」に変更した理由はこれ。

 

第1項後段は、横断歩道等の直前(停止線があるときはその直前)で一時停止すべきことを義務付けているが、この一時停止は主として安全確認のためのものであって、通行を妨害しないようにするためには、さらに前進して停止することも認められると解される。特に幅員の広い横断歩道ではこのような実態が見られる。そこで、本項においては、前車が停止している位置としては「横断歩道等又はその手前の直前」としているのである。

平野竜一ら、「注解特別刑法 第1巻 (交通編 1) 第2版」、青林書院、1992.6

要は横断歩行者を優先するために一時停止した車両が、横断歩道直前(なお停止線が規定されたのは昭和46年改正)で停止した後に、現実にはそこからやや進んで横断歩道上で停止することもありうる。

例えばこのような横断歩道で歩行者優先のために一時停止していたとして(昭和46年改正以前には停止線が規定されてないことに注意)、

横断歩行者が通り過ぎて発進したところ、死角から横断歩行者が出てきたとする。

この場合、横断歩行者優先の義務はあるので一時停止しないと衝突してしまいますが、停止位置が横断歩道上になることもありうる。

旧38条2項だと「横断歩道の直前で停止している車両等がある場合」なので、このように横断歩道上で停止した車両の側方を通過して前に出るときは対象外になってしまい、それが不合理だから改正したわけ。
そしてこのように横断歩道上で先行車が停止していたときに、

後続車が「横断歩道の直前」で停止しても死角を解消できないので、昭和46年改正で「その(当該停止している車両等の)前方に出る前に一時停止」に変更したわけ。

 

だからこうなる。

第1項後段は、横断歩道等の直前(停止線があるときはその直前)で一時停止すべきことを義務付けているが、この一時停止は主として安全確認のためのものであって、通行を妨害しないようにするためには、さらに前進して停止することも認められると解される。特に幅員の広い横断歩道ではこのような実態が見られる。そこで、本項においては、前車が停止している位置としては「横断歩道等又はその手前の直前」としているのである。
本項は、横断歩道等の停止車両は、第1項後段の規定を遵守するためのものが一般的であることを前提にしているが、「停止している車両等」がこれに限られるものではないのは当然のことである。
本項の一時停止の義務は、前車の「前方に出る前に」行わなければならないが、おおむね前車の車体の前端付近で行うべきものである。

平野竜一ら、「注解特別刑法 第1巻 (交通編 1) 第2版」、青林書院、1992.6

昭和46年の改正経緯をみても、同一進行方向の前車の挙動しか考えてないことは容易にうかがえるのですが、どちらにせよ冒頭のリンク先の主張って、その主張を裏付ける専門書等は何一つ示されていないので、「その」が「当該停止している車両等の」ではない!と主張しても裏付けがない独自論に過ぎないわけ。
少なくとも立法者(警察庁)は「その」=「前車の」としており、前車とは「当該停止している車両等」を指すのだとしているし、条文を普通に読めばそうなるわなと。

 

議論の仕方

さて、38条2項の話。
様々な情報を過去に引用してますが、この状況で「対向車を含む」と解釈する人のセンスがわからない。

 

①立法趣旨に対向車を含んでおらず、札幌高裁も立法趣旨を引用していること。

しかしながら、横断歩道において事故にあう歩行者は、跡を絶たず、これらの交通事故の中には、車両が横断歩道附近で停止中または進行中の前車の側方を通過してその前方に出たため、前車の陰になっていた歩行者の発見が遅れて起こしたものが少なからず見受けられた。今回の改正は、このような交通事故を防止し、横断歩道における歩行者の保護を一そう徹底しようとしたものである。

まず、第38条第2項は、「車両等は、交通整理の行なわれていない横断歩道の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、当該横断歩道の直前で一時停止しなければならない」こととしている。

もともと横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するために一時停止する場合のほかは停止および駐車が禁止されている(第44条第3号)のであるから、交通整理の行われていない横断歩道の直前で車両等が停止しているのは、通常の場合は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにするため一時停止しているものと考えてしかるべきである。したがって、このような場合には、後方から来る車両等は、たとえ歩行者が見えなくとも注意して進行するのが当然であると考えられるにかかわらず、現実には、歩行者を横断させるため横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出たため、その歩行者に衝突するという交通事故を起こす車両が少なくなかったのである。
そこで、今回の改正では、第38条第2項の規定を設けて、交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとする車両等は、横断歩道を通行し、または通行しようとしている歩行者の存在を認識していない場合であっても、必ずその横断歩道の直前で一時停止しなければならないこととし、歩行者の有無を確認させることにしたのである。車両等が最初から歩行者の存在を認識している場合には、今回の改正によるこの規定をまつまでもなく、第38条第1項の規定により一時停止しなければならないことになる。
「一時停止」するというのは、文字通り一時・停止することであって、前車が停止している間停止しなければならないというのではない。この一時停止は、歩行者の有無を確認するためのものであるから、この一時停止した後は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにしなければならないことになる。また、一時停止した結果、歩行者の通行を妨げるおそれがないときは、そのまま進行してよいことになる。

警察学論集、「道路交通法の一部を改正する法律」、浅野信二郎(警察庁交通企画課)、立花書房、1967年12月

右規定の新設された立法の趣旨、目的は、従前、横断歩道の直前で他の車両等が停止している場合に、その側方を通過して前方へ出たため前車のかげになつていた歩行者の発見がおくれ、横断歩道上で事故を惹起する車両が少なくなかつた道路交通の実情にかんがみ、とくに歩行者の保護を徹底する趣旨で設けられたものである。すなわち、右規定は、本来駐停車禁止区域である横断歩道直前において車両等が停止しているのは、多くの場合、歩行者の通行を妨げないように一時停止しているものであり、また、具体的場合に、当該車両等が歩行者の横断待ちのため一時停止しているのかそうでないかが、必ずしもその外観のみからは、一見して明らかでないことが多い等の理由から、いやしくも横断歩道の直前に停止中の車両等が存在する場合にその側方を通過しようとする者に対しては、それが横断中の歩行者の存在を強く推測させる一時停止中の場合であると、かかる歩行者の存在の高度の蓋然性と直接結びつかない駐車中の場合であるとを問わず、いずれの場合にも一律に、横断歩道の直前における一時停止の義務を課し、歩行者の保護のよりいつそうの強化を図つたものと解されるのである。(浅野信二郎・警察研究38巻10号34頁。なお弁護人の論旨は、右「停止」中の車両の中には「駐車」中の車両が含まれないとの趣旨の主張をしているが、法2条18号、19号によれば、「停止」とは「駐車」と「停車」の双方を含む概念であることが明らかであるから、右の主張にはにわかに賛同できない。)

 

昭和45年8月20日 札幌高裁

「横断歩道の直前に停止中の車両等が存在する場合にその側方を通過しようとする者に対しては、それが横断中の歩行者の存在を強く推測させる一時停止中の場合であると、かかる歩行者の存在の高度の蓋然性と直接結びつかない駐車中の場合であるとを問わず、いずれの場合にも一律に、横断歩道の直前における一時停止の義務を課し」とありますが、

 

A、横断中の歩行者の存在を強く推測させる一時停止中の場合
B、かかる歩行者の存在の高度の蓋然性と直接結びつかない駐車中の場合

 

のいずれにも一時停止義務を課したものとしてますが、対向車はどちらにも当てはまりませんけどね…

 

②警察庁の見解は「うしろから行ったクルマ」(国会議事録)だし、平成後期に開催された警察庁の質疑回答でも「対向車を含まない」としていること。

第58回国会 参議院 法務委員会 第20号 昭和43年5月23日

歩行者保護の観点から、三十八条の二項に、その前の条文と一緒につけ加わったわけでありますが、交通整理の行なわれておらない横断歩道におきまして、横断歩行者が渡ろうとして車が横断歩道の直前にとまっておるときには、うしろから行った車もとまりなさいという規定と一緒に、そういう横断歩行者の保護を確保する意味において、その手前三十メートルでは追い抜かないようにということで、こういう類型の事故が非常に多いという観点からこの条文ができたわけであります。その条項に触れたわけでございます。

警察庁が主催している「運転技能試験官専科教養」の座学において質疑回答があり、その回答をまとめた物を千葉県警察本部交通部運転免許本部運転教育課が各自動車学校に配布したもの。

(問7)
横断歩道又はその手前直近の対向車線上に停止している車両等がある場合に、一時停止せず又は一時停止しようとしないとき〔歩行者保護(停車)〕を適用すべきか。複数車線の場合はどうか(平成28年)

(答)
図で示す状態にある対向車線の車両については、「歩行者を横断させるために停止しているものでないことが明らか」と認められることから、〔歩行者保護(停車)〕については、適用できない。ただし、横断歩道に接近する速度を観察し、〔横断者保護(直前速度)〕(38条1)の適用が妥当であれば適用されたい。複数車線の場合においても、道路の幅員に応じて、横断しようとする歩行者等がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前で停止できるような速度で当該横断歩道に接近するものである。

技能試験関係質疑回答集、令和4年、千葉県警本部

警察庁さんは「対向車に適用できない」と明言しちゃってますけど…

 

③元検察官(しかも地検交通部長)の解説書では対向車を含まないとしていること。

 

元検察官で、名古屋地検交通部長、横浜地検交通部長、東京地検交通副部長、広島高検刑事部長などを歴任した互敦史氏の「基礎から分かる交通事故捜査と過失の認定」。

○「横断歩道又はその手前の直前で停止している車両等」とは
進路前方に設けられた横断歩道上か自車から見てその手前で停止している車両等のこと
です。したがって停止車両等が自車線(複数の車線がある道路においては、自車と同一方向の他の車線を含む。)にある場合と反対車線にある場合を両方含みますが、停止車両等の側方を通過して「その前方に出る」前に一時停止すべき義務を課したものですから、結局、この規定からは、後者(停止車両等の反対車線にある場合)は除かれると思います。
しかし、この規定は、停止車両等が邪魔になって横断歩道やその直近を横断しようとしている歩行者や横断中の歩行者の有無の確認ができない場合に、歩行者の安全を守るため、車両等の運転者に一時停止義務を課したものですから、反対車線に停止中の車両等の側方を通過して「その後方」に出ようとする場合も、一時停止義務を課すべきです。よって、このような場合、一時停止義務違反は道路交通法違反にはなりませんが、過失運転致死傷罪成立の前提となる注意義務違反には該当します。

互敦史、「基礎から分かる交通事故捜査と過失の認定」、東京法令出版、191頁

『横断歩道等に停止している車両等』とは,被疑車両が通過しようとしている横断歩道に車体の一部又は全部が入っている状態で停止している車両等を指します(前掲書366頁)。
また,『横断歩道等の手前の直前で停止している車両等』とは,横断歩道を通過しようとしている被疑車両から見てその横断歩道の手前の直前で停止している車両等を指します(前同頁)。この『直前』は,第2項には第1項前段の括弧書きが適用されないため,横断歩道の直前を指し,横断歩道の手前に設けられた停止線の直前を指すのではありません。そして,『横断歩道の手前の直前』の範囲は,道路交通法第44条第3号が『横断歩道又は自動車横断帯の前後の側端からそれぞれ前後に5m以内の部分』を駐停車禁止場所としている趣旨からすると,横断歩道等の手前5m以内であると解するのが相当だと考えられます。また,『停止している』とは,一時停止による場合だけでなく停車あるいは駐車をも含みます。停止している『車両等』には,自動車だけでなく原動機付自転車,軽車両,トロリーバス及び路面電車を含みます(同前頁)。
従って,被疑者から見て横断歩道の右側部分あるいはその前後に対向車両が停止している場合には,道路交通法第38条第2項は適用されません。

『交通事故捜査の手法 第2版』、宮成正典、立花書房

一人ならまだしも、複数の検察官となると重みが増すし、ましてや警察庁さんも同じですよね…
刑事判例をみると、対向車の渋滞停止時に減速接近義務を怠った過失を主張する事例は多々見かけますが

38条2項に基づいて一時停止義務違反を主張する事例は見たことがないけど、強いていうなら東京高裁46.5.31が「横断歩行者が明らかでない場合の一時停止義務違反」を主張してますが裁判所は認めず。
法曹界が対向車を含むとは考えていなかった事実が判例や検察官の解説書から読み取れる。

 

④3項の解釈や旧44条との整合性、東京高裁判決など

38条2項問題は、ロジカルに全ての整合性を考える必要がある。
38条2項の解釈として、対向車が停止している場合を含むのか?という問題がありますが、この問題、かなりいろんな資料を挙げて整合性を検討してきました。要はこの話、全ての面で整合性を考えないとどこかで辻褄が合わない話になり、感情論にしかならない。...

名古屋高裁判決にしても、同一進行方向の停止車両に対する説示と見るのか自然ですが、存在しない前提を創作する人とか出てきちゃうでしょ。

変な解説。
こちらで取り上げた件。その動画についていろいろ質問を頂いたのですが、要はこれの話ですよね。名古屋高裁判決はこれ。原判示道路は、道路標識等によつて駐車が禁止されているし、原判示自動車の停止位置は、道路交通法44条2号、3号によつても停車及び駐...

なぜわざわざデマを創作してまでおかしな話に結びつけるのか理解し難い。
けどまあ、こんだけの情報を集めると、警察庁の元々の見解は「対向車を含まない」だったのだとわかるし、検察や裁判所も「対向車を含まない」前提なんだと理解できるところ、なぜ法改正もなく解釈を変えてしまうという違法性がある事態が起きるのかさっぱりわからない。
そして何のことやらわからない理論を語る人も出てくるけど、あなたの見解と同じ専門家はいますか?という話なのよね…

 

この手の文理解釈について思うんですが、結局水掛け論にしかならんのよ。
ド素人の文理解釈は特に。
しかも文理解釈を進める上で、運転レベル向上委員会の人みたいにありもしない前提を創作してあたかもそれが正しいかのようにしてみたりするだけなので、ド素人の意見はわかったのであなたの主張通りに書いてある専門書を提示しましょうね、としか言いようがない。

 

他にもいくつも「対向車を含まないと推測される根拠」を挙げてますが、一つの資料だと不十分だけど、こんだけ揃うと「対向車を含む」と捉えるほうが厳しい。

資料や判例等 内容
条文解釈 普通に読めば対向車を含んでいないけど、100歩譲って対向車を含んでいるように読めなくもない
3項との対比 2項で対向車を含んでいるなら、3項の解釈がおかしくなる
警察学論集42年12月 立法趣旨、立法経緯は対向車を含んでいない
国会答弁43.5.23 「交通整理の行なわれておらない横断歩道におきまして、横断歩行者が渡ろうとして車が横断歩道の直前にとまっておるときには、うしろから行った車もとまりなさいという規定」と説明
旧44条の解釈 旧44条3号と同様の表現を用いていることからしても、対向車を含んでいないことが推測される。
月刊交通46年8月 44条3号を改正した理由から、38-2に対向車を含んでいないことが推測される。
名古屋高裁S49.3.26 この判例は道路左側にある駐車車両に対する判断しかしていないので無関係な上、名古屋高裁の説示は宮崎注解43年改訂版からの引用
宮崎注解 対向車を含んでいないことがうかがえる記述な上、名古屋高裁以降の全訂新版(56年)でも見解を変えていない
東京高裁46.5.31 対向車が渋滞停止している状況で、横断歩行者がいるかいないかわからない場合の一時停止義務を否定
東京高裁50.9.5(民事)、大阪高裁54.11.22(刑事)など多数の判例 対向車が横断歩道を塞いでいる状況で、2項を一切問題にしていないことから、そもそも対向車に適用するとは考えていないことが推測される。
千葉県警の解説書 警察庁主催の質疑回答をまとめたもの。対向車には適用できないと明記されている。
札幌高裁45.8.20 立法趣旨を説明しているが、対向車を含んでいないことがうかがえる内容
運転免許基準(警察庁) 対向車を含んでいないことが容易にうかがえる
互敦史、「基礎から分かる交通事故捜査と過失の認定」、東京法令出版、191頁 停止車両等の側方を通過して「その前方に出る」前に一時停止すべき義務を課したものですから、結局、この規定からは、後者(停止車両等の反対車線にある場合)は除かれる
『交通事故捜査の手法 第2版』、宮成正典、立花書房 被疑者から見て横断歩道の右側部分あるいはその前後に対向車両が停止している場合には,道路交通法第38条第2項は適用されません。
平野竜一ら、「注解特別刑法 第1巻 (交通編 1) 第2版」、青林書院、1992.6 昭和46年改正の理由を解説しているが、改正理由に対向車を含まないことがうかがえる

この話って2年以上前に、読者様から「対向車を含まないと警察が説明するけど根拠がわからない」みたいな話があって、実は私も不思議に思っていたので調べ出したのが出発点。
対向車を含まないとする解釈が実は間違いなんじゃないのか?と疑問を持っていたこともありますが、調べれば調べるほど「対向車を含まない根拠」が見つかるので含まないと捉えるのが妥当と結論しましたが、藤吉先生が騒ぎ出してから執務資料を読み出したレベルだと「浅すぎて話にならん」としか言いようがないのよね。

 

「条文に対向車を除くとは書いてない!」みたいな低レベルな話でしたら、議論するレベルではないのでちょっとムリ。
ちなみに「警察庁が各都道府県警に、38条2項の解釈について通達のようなものを出した」みたいな説があるのですが、どこの警察本部(交通企画課)に聞いても「そのようなものは把握していない」というのも不思議。
存在がわからないものは議論の対象にすらなりませんが、もっと不思議なのはうちのように複数の専門書を取り上げたときに、

いろんな人
いろんな人
専門書や専門家が必ず正しいとは言えないだろ!

と語る人が出てくること。
もちろんその前提は当たり前なので、これだけたくさんの資料を挙げているのですが、そういうあなたは、持論を補強する専門書や判例を挙げてますか?という話をなるわけよ。

 

「その」が「当該停止している車両等ではない」ことが書いてある専門家の資料を挙げないと…
運転レベル向上委員会の人のように、ありもしない前提を創作してから語る方法は論外。
この人にしても、「対向車を除くとは条文に書いてありません」とか「条文に車両の向きは書いてありません」と力説する一方、危険運転致死傷罪の「進行制御困難高速度」については「他の進行している車両に対する制御困難を除くとは条文に書いてありません」とは言わないわけで、立法趣旨を力説してそれが含まれないのだとしている。

 

つまり、条文に明示されているかは法解釈に必ずしも関係ないのだと自ら認めているのに、なぜか38条2項になると「条文に書いてありません」を連呼する矛盾…
支離滅裂過ぎるけど、どちらにせよ存在しない前提を創作し、しかも何ら持論を裏付けする専門書も出さないのだから、そりゃ議論するレベルじゃないよねとしかならないのよね。
そういう人に限って「専門家でも正しいとは限らない!意見が割れることもある!」みたいに言い出すけど、だから「割れている専門家の意見(資料)を出しなよ…」という話なのよ。

 

道路交通法の解説書や資料、判例なんていくらでも調べることができますが、なぜ冒頭のリンク先のような主張って持論が正しいといえる根拠を出さないのか不思議。
謎の文理解釈を始めても、結局は「持論があるのはわかったので、持論が正しいといえる根拠を出してくださいね」としか言えない。

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