読者様から質問を頂いたのですが、こちらの件。

話からすると、グラウンド整備目的で運転したのではなく、いわゆる若気の至りというか…
さいたま市の私立高校のグラウンドで、無免許の男子生徒が運転する車が横転し、助手席の生徒が死亡した事故。運転していた生徒らが「過去にもグラウンドで運転した」と話していることがわかりました。
埼玉栄高校、深夜のグラウンド。無免許の男子生徒が運転し、あわせて3人の高校2年の男子生徒が乗っていた軽乗用車が横転。助手席の生徒(17)が死亡しました。
捜査関係者によると、軽乗用車は30キロから40キロ程度のスピードで走っていたとみられ、死亡した生徒は助手席の窓を開けて外に身を乗り出していて、横転した際に身体を挟まれたということです。
軽乗用車にナンバープレートはなく、グラウンドの整備に使われていたものでした。きょう、現場を訪れてみると…
記者
「グラウンドには事故を起こした車とは別の車が止まっていますが、ナンバープレートはついていません。グラウンドを整備するための道具が取り付けられています」同じ学生寮で暮らし、それぞれ別々の運動部に所属していたという3人。16歳が1人、17歳が2人で普通自動車の運転免許はとれません。事故当時、何があったのでしょうか。
捜査関係者によると、3人は午後11時ごろ、グラウンドを走り始め、当初運転していた17歳の生徒と後部座席にいた16歳の生徒が運転を代わった後に事故が起きました。運転していた生徒と後部座席にいた生徒は、警察の任意の聴取に対しこう話しているといいます。
運転していた生徒と後部座席の生徒
「過去にもグラウンドで運転した」警察は、生徒による車の運転が常態化していた可能性があるとみて、危険運転致死の疑いで捜査しています。
交通問題に詳しい専門家は…
交通問題に詳しい 高山俊吉 弁護士
「(私有地でも)車両が入れる状態になっているとすると、それは道路というふうに考える。無免許運転罪が成立します。まったく技量がないためにコントロール不能になって、(段差に)乗りあがってしまったという状況だったとすると、危険運転致死罪を成立させることになる可能性がでてきます」さらに、ナンバープレートが付いていないことも問題だと指摘します。
交通問題に詳しい 高山俊吉 弁護士
「ナンバープレートのついていない車両を走らせるということは、整備不良車両の乗車禁止に抵触することにはなります」埼玉栄高校は、あす会見を開くとしています。
【独自】「過去にもグラウンドで運転した」埼玉栄高校グラウンドで生徒が無免許で運転し横転 助手席の男子生徒死亡 生徒の運転は常態化か(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュースさいたま市の私立高校のグラウンドで、無免許の男子生徒が運転する車が横転し、助手席の生徒が死亡した事故。運転していた生徒らが「過去にもグラウンドで運転した」と話していることがわかりました。埼玉栄高

違和感があります。
さて、要は高校のグラウンドを「一般交通の用に供するその他の場所」と解釈できるかの問題になりますが、小学校の校庭を道路交通法上の道路と解釈し無免許運転罪の成立を認めた事例は確かにある。
道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項に規定する道路、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。
道路交通取締法は道路における危険防止及びその他の交通の安全を図ることを目的とするものであり(同法第1条参照)、本件運転の場所は小学校校庭であること所論の通りであるけれども、道路交通取締法第2条第2項によれば同法に所謂「道路」とは道路法による道路、自動車道のみならず一般交通の用に供するその他の場所をも包含すること明かであるから、学童その他一般公衆の多数出入する小学校校庭の如も道路交通取締法にいう「道路」の中に包含されるものと解するを相当とする。従て被告人が法令に定められた運転の資格を持たないで原判示小学校校庭において本件貨物自動車を運転した以上かかる所為もまた道路交通取締法第7条第1項第2項第2号、第28条に該当するものと謂うべきであつて、原判決には法律の解釈適用を誤つた違法はなく、論旨は採用し難い。
高松高裁 昭和27年3月29日
道路交通取締法7条2項2号は無免許運転禁止の規定です(同28条は罰則規定)。
小学校の校庭は道路交通(取締)法の道路と解釈し、無免許運転の罪として有罪です。
ただまあ、この判例を直ちに適用できるわけではなくて、道路とするには下記解釈が通説。
道路交通法2条1号にいわゆる「一般交通の用に供する場所」とは、それが一般公衆に対し無条件で開放されていることは必ずしもこれを要しないとしても、道路交通法1条の道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図るという目的に照らし、現に一般公衆および車両等の交通の用に供されているとみられる客観的状況のある場所であつて、しかもその通行することについて、通行者がいちいちその都度管理者の許可などを受ける必要のない場所をいうものと解するのが相当である。
仙台高裁 昭和38年12月23日
昔って小学校の校庭なんて一般人がフリーパス状態だったわけで、フリーパス状態で一般人が自由に通行していた実態があるなら道路交通法上の道路になり得ますが、令和の私立高校のグラウンドがそんなセキュリティなわけもなく、ちょっとムリがあるような。
なお、小学校のグラウンドを道路交通法上の道路と解釈すると、運動会を開催するのに道路使用許可が必要になり不合理だとする見解もありますが、検察庁はその見解に否定的。
横井・木宮氏や法総研は、学校の校庭などを道路と認めると、77条(道路使用許可)なども適用しなければならなくなり不合理であるということなどを根拠に道路性を否定しているが、もともと、学校の校庭や工場の敷地などは一般交通の用に供する場所として設けられたものではなく、道路としての形態も備えていない。したがって、そのような場所で運動会を行ったり、工事をしたり、工作物を設ける場合に使用の方法や形態などについて警察署長の許可を得なくても道路交通の安全や円滑を損なうおそれはなく、77条の適用などはその必要がない。
これに反し、64条(無免許運転の禁止)や65条(酒気帯び運転などの禁止)の規定などは、当該場所が現に公衆の通行の用に供されている以上その交通の安全を図るためにその適用が必要とされるのである。
かように、道路交通法の目的・諸規定の立法趣旨にたちかえって考えれば、道路交通法の道路と認定された場所について、ある規定が適用され、ある規定が適用されないという結果が生じても不都合ではない。東京地方検察庁交通部研究会、最新道路交通法事典、東京法令出版、1974
要はそのルールの趣旨に基づき、小学校の校庭だろうと一般人の通行実態があるなら道路交通法上の道路として無免許運転禁止など危険防止のルールを適用する意義があるけど、そもそも小学校の敷地なんだから運動会をするのに道路使用許可を得なくても小学校の裁量で安全確保の手段を講じることができるのだから、道路使用許可の趣旨とは合わない。
道路と解釈した場所だからといってすべてのルールを適用する必要はないだろ?と東京地検は説明してますが、言われてみるとその通りかと。
多摩川河川敷のグラウンドなんて一般人がフリーパス状態なので道路交通法上の道路と解釈される可能性があるし、一般人が自由に通行している実態があるなら無免許運転を禁止する必要があるけど、かといって多摩川河川敷のグラウンドを使うのに道路使用許可は要らないでしょ。
道路と解釈したからすべてのルールを適用する必要はなく、道路交通法の立法趣旨に従って適用するルールと適用しないルールがあったとしても何ら不合理ではない。
けど結局のところ、事故現場が一般交通の用に供されていたとは思えないので、道路交通法違反(無免許運転罪)はムリがあり、危険運転致死(技能未熟運転)又は過失運転致死(無免許加重)のどちらかになるのかと。
そもそも、学校がクルマのキーをどのように管理していたかも疑問だし、他の生徒も同様の運転をしていた実態があるのかないのか気になるところ。
こういう事故を見るたびに、これは防げた事故だよなあと思うのよ。
もちろん一番防げたポイントは「勝手に運転させないような管理体制」としか言いようがない。
そして道路交通法の適用があるかないかについてもわりとどうでもいい気もするけど、「私有地=免許不要」というのも正確ではないのよね。
道路交通法上の道路ではなければ免許不要ですが、じゃあ道路交通法上の道路以外なら無免許運転することが妥当なのか?と聞かれたら…

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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