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「事故の責任」と「事故後の責任」は別。

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この動画って支離滅裂に思えてならないのですが、

タイトルが

[有罪か?無罪か?その判断は?]3車線道路の真ん中で寝てた人をはねて逮捕!?それを避けることが可能なのか?

タイトルからすると、運転者の努力によって事故を回避できたか否か?を取り上げているのだから過失運転致死傷罪の成否についての話なのかと思いきや、なぜか紹介している判例は救護義務違反、つまり「事故を起こした後の責任」になっている。

過失運転致死傷罪は事故を予見し回避可能だったかを争うもの。予見不可能、回避不可能なら無罪になる。

事故自体の責任と、事故を起こした後の責任を混同させて何の意味があるのかわかりませんが、これで取り上げている千葉地裁の判例。

これは道路交通法違反(救護報告義務違反)に問われたものですが、なぜ過失運転致死罪の成否が争われていないかというと、

なお,本件事故については,被告人に対し,最高速度遵守義務違反および安全確認義務違反の過失による自動車運転過失致死被告事件に関し,罰金50万円の有罪判決(求刑も同額の罰金)が確定している(乙5,6)。本件道路交通法違反被告事件は,上記別件の判決期日直前に起訴され,当時の裁判体は,上記別件の再開,併合をしなかった。

千葉地裁 平成29年9月15日

過失運転致死罪については、最高速度遵守と前方注視を怠り事故を起こしたとして有罪が確定している。
道路交通法違反は別に起訴し、しかも判決直前ということもありすでに過失運転致死罪の裁判が結審(結審とは審理を終了して判決待ちの状態)だったのかと思われますが、裁判を再開して併合審理しなかったことから過失運転致死罪と救護報告義務違反罪が別の裁判になってしまった事案。

 

この動画のタイトルからすると、千葉地裁の事例は「有罪」なのよ。
動画の趣旨が「避けることが可能なのか?」、つまり事故の回避可能性があったかを問題にしているのだから。
事故自体については「最高速度遵守と前方注視をしていれば回避可能」として有罪(過失運転致死)。
しかし救護報告義務違反については、被告人に「人をひいたとする認識があったとは言えない」として無罪。

 

ちゃんと判決文を読んで解説しているのかすら疑わしいけど、「事故を起こした責任」と「事故を起こした後の責任」は別だからこういう判決になることはある。

 

裁判の意味、というよりも救護報告義務違反の意味を理解して解説しているようには思えないのですが、千葉地裁の事例はこうですよね。

 

①路上横臥者を轢いたことについては、最高速度遵守と前方注視をしていれば回避可能だったとの判断から有罪(過失運転致死)。
ただし罰金刑になっているように、被害者の過失も大きい事情を考慮した量刑になっている。

 

②救護報告義務違反(事故を起こした後の責任)については、人を轢いたとする認識があったとは言えず、故意がないと判断され無罪。

 

本来は過失運転致死と救護報告義務違反を併合審理すべきところ、過失運転致死の審理が終結し判決待ちになった状態(結審後)で救護報告義務違反を起訴したため、過失運転致死と救護報告義務違反が別の裁判になってしまったイレギュラーな事案。

 

イレギュラーな事情から過失運転致死と救護報告義務違反が別の裁判になってしまったものとしては、現在最高裁で問題になっている「飲酒運転発覚回避目的でコンビニにブレスケアを買いに行った事件」がありますが、

「ブレスケアひき逃げ事件」について、最高裁が論点を公開。
ブレスケアを購入するため(飲酒運転発覚回避目的)に事故を起こした後コンビニによったことが、救護義務違反(道路交通法72条1項)になるのかが争われている裁判ですが、最高裁が弁論期日を指定し、無罪とした二審判決が見直される可能性がある。ところで...

救護報告義務違反の争点は違いますが、本来は併合審理すべきところ、別の裁判になってしまうこともある。
そもそも千葉地裁の事例は判決文を読めば「過失運転致死は有罪で確定」していることが読み取れるわけで…

 

「避けることが可能か?」と「事故を起こし救護しなかったことに故意があると言えるのか?(人を轢いた認識があったか?)」は別問題ですが、動画タイトルと解説内容からすると前者と後者を混同させているので、支離滅裂なのよ…
そもそも「事故自体は速度遵守と前方注視で回避可能」+「人を轢いた認識があったとは言えない」という事案なので、むしろ恐ろしい事故だったという見方すら成り立ちますが…

なお本件は指定最高速度が40キロの道路を時速60キロ(ロービーム)で通行中に起こした事故ですが、夜間ロービームで進行する際には「照射範囲で制動可能な速度で進行すべき注意義務違反」を認定した事例がいくつもある。

自動車の運転者は、前照灯の照射範囲を考え、適宜減速して進行すべき注意義務がある。

東京高裁 昭和42年4月3日

自車の前照灯を下向きにして進行する場合、前方30mを超える距離にある障害物を確認できないことを前提として、自車の速度を調節すべき注意義務を負っていたものと解するのが相当である。(中略)スチールラジアルタイヤを装着すれば、運転者が危険を感じてから停止するまで約29mを要するのであるから、運転者が前方注視を厳にし、障害物を約30m前方に発見して直ちに制動の措置を講ずれば、その直前において停止し、これとの衝突を回避することが不可能であるとはいえない。しかしながら、運転者は絶えず前方注視義務を十分に果すことが理想であっても、長い運転時間中に一瞬前方注視を怠ることもありえないとは言えず、あるいは前方注視義務を十分に果していても急制動の措置を講ずることに一瞬の遅れを生ずることもないわけではなく、さらに運転者がその注意義務を果そうとしても外部的事情により義務の履行が困難となることがありうることを考えると、運転者としては、車両の性能と義務の履行につき限界すれすれの条件を設定して行動すべきではなく、若干の余裕を見て不測の事態にも対処できるような状況の下で運転をすべき業務上の注意義務があるといわなければならない。

東京高裁 昭和51年7月16日

千葉地裁事例の「過失運転致死」の具体的内容はわかりませんが、「最高速度遵守義務違反および安全確認義務違反の過失として有罪」とあるところをみると、以下2つの理論が成り立つ。

 

・指定最高速度を遵守して前方注視していれば回避可能だった
・指定最高速度を遵守するのはもちろんのこと、ロービームの照射範囲を考え適宜停止できる速度で進行していれば回避可能だった

 

具体的にどのような過失が認定されたのかはわかりませんが、「避けることが可能だったのか?」と「事故を起こした後の救護報告義務違反」は別問題。
別問題だから併合罪の関係にあるわけで…

 

路上横臥者を轢過した事案については、過失運転致死傷罪が有罪になることも無罪になることもありますが、事案ごとに違うのであって「路上横臥者だから無罪」みたいな雑な判断になることはない。
そして救護報告義務違反については、人を轢いたことについて未必的にせよ認識が必要なわけですが、事故を起こした責任、事故を回避可能だったかの問題と(過失運転致死傷)、事故を起こした後の責任(救護報告義務)は別問題。
なのでそもそも、取り上げているテーマと判例が食い違いしているのよね。

 

なお、過失運転致死傷罪は無罪だけど救護義務違反は有罪ということも当然ありうる。
事故自体が予見不可能で回避可能性がないなら過失運転致死傷罪は無罪ですが、事故を起こした認識があるのに逃走したら救護報告義務違反は成立するからです。
とはいえ事故の責任と事故後の責任を混同させているのをみると、交通安全とは程遠い世界に見えてしまうのですが…

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