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黄色信号と、停止線で停止できない場合の注意義務。

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以前このような事案を取り上げてまして、

交差点内は駐停車禁止だから、クラクション鳴らして横断歩行者を蹴散らせ!
この人ってマジで語っているのか、ネタなのかわからないけど要約すると、「交差点内は駐停車禁止だから止まることができず、クラクション鳴らして蹴散らせ!」という恐ろしい主張をしてますが…交差点内は「法令の規定」(38条1項)や「危険を防止するため...

事案としては、黄色信号にもかかわらず交差点に進入した上、青信号で横断開始した歩行者と衝突したもの。
これについて、①黄色信号で停止できる速度だったのだから停止すべきだった、②黄色信号を看過して交差点に進入した以上、38条1項に基づき「青信号で横断しようとする歩行者」に対し一時停止すべきだったと書きましたが、

もし「黄色信号を視認した時点で既に停止線で止まれない距離」だった場合、どうすべきなのでしょうか?

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黄色信号と注意義務

判例は東京高裁 平成5年4月22日。
事故の概要です。

 

被告人車は大型車ですが、時速40キロで進行していた被告人は黄色信号を認めた「停止線の20~30m手前」では既に停止線で止まれないことから(注、過積載等の事情もある)、そのまま進行。

その結果、青信号で横断歩道を横断した幼稚園児を轢いてしまった事故です。

なお、横断歩道が赤→青に変わった瞬間については目撃者の証言や証拠から被告人車の最後尾が連光寺側自転車横断帯(画像左側)を越えた瞬間から1秒進んだところと認定(画像はビミョーに間違っているので注意)。

目撃者の対面信号が青色表示に変つた時の被告人車の位置は、被告人車の最後尾が連光寺側横断歩道に沿つた自転車横断帯の矢野口側端を越えた辺りから、最大限その地点から更に一秒進んだ地点までの範囲にあつたと考えることができるのは、以上認定したところから明らか

被告人の過失をどのように考えるのでしょうか?

本件事故における被告人の過失について考えるに、所論は、自動車運転者は交差点に差しかかつた際、対面信号機の表示が黄色に変わつた場合、直ちに急停止の措置をとつても停止線の手前で停止できないときは、そのまま交差点を通過できるとの見解を前提に、本件において、被告人は、黄色信号に変わつたのを認めたとき急制動の措置をとつても、停止線を越えてしまう状況にあつたのであるから、本件交差点を通過しようとした被告人には過失はない旨主張している。この点たしかに、黄色の灯火信号の意味については、道路交通法施行令2条において「車両……は、停止位置をこえて進行してはならないこと。ただし、黄色の灯火の信号が表示された時において当該停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合を除く。」と定めている(なお、本件の場合、停止位置とは、「停止線の直前」である。同条1項の表の備考欄参照)が、この規定は、黄色の灯火信号が表示された時点において、当該停止位置に近接しているためそこで安全に停止することができない場合に、停止位置を越えて進行しても道路交通法違反(黄色灯火信号無視等)にはならないと定めているに過ぎないのであつて、規定の文言上も明らかなように、停止位置を越えた場合そのまま進行して交差点を通過することができる旨定めたものではない。ただ、交通の現状においては、黄色信号の場合、全赤信号となつた時間内に通過できるのであれば、そのまま交差点を進行することが許されるという態度で自動車を運転をする者も稀ではないが、全ての場合に当然にこのような態度で交差点の通過が許されるものではない。しかも、被告人車が、全赤信号の表示中に本件交差点を通過し終えることができなかつたことは前記認定のとおりであるから、そのような理由で被告人が制動措置を講じなかつたことを合理化することはできない。

道路交通法上の義務はさておき、事故の発生を未然に防止しなければならない自動車運転者の業務上の注意義務という観点から考えると、前記認定のような状況下において、被告人が対面信号機の黄色表示を認めながら、急制動の措置を講じることなく、停止線を越えて進行する場合には、交差道路側の車両用及び横断歩行者用の各信号表示に従つて動き始める歩行者、自転車又は自動車が被告人の進路前方に立ち入る危険が十分に予想されるばかりか、右のように交差道路側の各信号が変わる直前においても、被告人側の対面信号が赤色の表示をしているのを見て、交差道路から車道交差部分に進入してくる車両や横断を開始する歩行者等もないとはいえないのが実情である。しかも、前記認定のとおり、被告人は、停止線の約30m手前において、すでに矢野口側横断歩道の北東側歩道上に、横断しようとして信号待ちをしているとみられる被害児童ら2人の姿を認めていたのであるから、同児らを含め横断歩道等を横断する可能性のある歩行者等又は車道交差部分に進入してくる可能性のある車両との衝突を避けるためには、黄色信号を認めた時点で、急制動の措置を講じても停止するまでに停止線を越えてしまう状況にあつたと認められる本件においても、被告人としては直ちに急制動の措置を講じ、できるだけ速やかに停止すべき注意義務があつたというべきである(なお、実際にその結果、停止線を越えて横断歩道上、自転車横断帯あるいは車道交差部分において停止し、横断歩行者や車両の通行の妨げになる事態が生じたときは、その事態に対応してさらに交通状況に注意しながら自車を前進又は後退させてそれらの通行の妨げとならないようにすべきことはいうまでもない。)。そうすると、これに反して、黄色信号を認めながら急制動の措置を講じることなく、漫然と本件交差点を通過しようとした結果本件事故を惹起した被告人には、過失があるといわざるをえない。

東京高裁 平成5年4月22日

施行令2条黄色灯火はこのように規定してますが、

停止位置を越えて進行してはならないこと。ただし、黄色の灯火の信号が表示された時において当該停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合を除く

停止線で止まれない場合には止まる義務を免除してますが、だからといって交差点を通過していいかについては別問題。
途中で横断歩道が青に変わったなら歩行者が横断開始することは予見可能だし、ややフライング気味に横断開始する歩行者があるのも予見可能。
従って停止線で止まれない場合でも、急制動を講じる注意義務があったとしている。

以前取り上げた判例については

以前取り上げた判例についてですが、

青の信号で交差点に進入した自動車運転者が、前方の横断歩道上左端付近に左から右に横断しようとして佇立している歩行者を認め、さらに右交差点の中央付近まできたときに前方の信号が黄色に変わったのを認めた場合には、直ちに横断歩道直前で停止すべき業務上の注意義務はないけども、間もなく歩行者に対する信号が青に変わり、歩行者が当該横断歩道を左から右に横断を開始することが必至であるから、自動車運転者としては、右歩行者の通行を妨げないよう配慮するとともに減速徐行し、状況に応じいつでも急停止し得るような態勢で横断歩道またはその付近における歩行者の動静を絶えず留意して進行するなど、その安全をはかる業務上の注意義務がある。

東京高裁 昭和41年10月19日

こちらについては警察学論集 昭和46年11月号(立花書房)の「自動車事故における過失認定の問題点-16-横断歩行者保護義務,横断・転回時の注意義務」 (久保哲男)に判決要旨のみ掲載されていて、具体的な状況は不明。
警察学論集には「判例集未掲載」と紹介されてます(たぶん高検速報が元ネタじゃないかと…)。

 

黄色信号でむしろスピードを上げて通過しようとする車両は多いけど、判例からするとむしろ逆なんですよね…
横断歩道が青に変われば横断歩行者がいることは予見可能な以上、むしろ減速すべきというのが裁判所の立場ですが、ここがポイント。

道路交通法上の義務はさておき、事故の発生を未然に防止しなければならない自動車運転者の業務上の注意義務という観点から考えると

なぜか道路交通法だけが義務みたいな謎主張をし出す人たちがいてびっくりするけど、法律上はそんなことはなくて、明文化されてない注意義務がわりと多い。
その意味では、道路交通法違反になるかならないかはあんまり関係ないのよね。

 

黄色信号で止まれないから止まらなかったことは施行令2条に違反しないにしても、それは道路交通法の中だけの話であって、注意義務まで消し去るわけではない。
けど、

交差点内は駐停車禁止だから、クラクション鳴らして横断歩行者を蹴散らせ!
この人ってマジで語っているのか、ネタなのかわからないけど要約すると、「交差点内は駐停車禁止だから止まることができず、クラクション鳴らして蹴散らせ!」という恐ろしい主張をしてますが…交差点内は「法令の規定」(38条1項)や「危険を防止するため...

「交差点内は駐停車禁止」という誤った考えを元に、クラクション鳴らすことを推奨する人すらいるのでなかなか難しい。
なお、今回の事例ですが、被害者の動きについては以下認定されてます。

Bが横断を開始した時点では、いわゆる全赤信号の状況にはあつたものの、対面する歩行者用信号は、まだ青色表示に変わつていなかつた疑いが濃く、被害児童についても、青色表示に変わる直前に横断を開始した可能性があることは否定できないというべきである。

幼稚園児に期待してもしょうがないんですけどね…

コメント

  1. shtakah より:

     管理人様が引用されている東京高判昭和41年10月19日(昭和41年(う)第1340号(業務上過失傷害被告事件))は,高等裁判所刑事裁判速報集1518号,東京高等裁判所判決時報刑事17巻10号216頁に掲載されているほか,判例タイムズ207号(昭和42年8月15日号)151頁に掲載されています。

     以下,判例秘書インターネット掲載の判決文を引用いたします。

     所論は、原判決には法令の解釈を誤つた違法があるといい、その理由として、原判決は、本件の場合、被告人に横断歩道の直前における停止義務があると判示しているけれども、道路交通法第七一条第三号は、同法第三八条の規定と対比すれば、交差点又はその付近以外の横断歩道の場合に一時停止の義務をも認める趣旨で設けられたものと解すべきもので、本件は交差点における場合であるから自動車運転者としては単に歩行者の通行を妨げないようにすればよく、必ずしも当該横断歩道の直前で一時停止しなければならない義務を負うものでない。しかも当時歩行者はまだ横断歩道の前で佇立していたか又は歩き出したとしても、その前方を通り抜けられる余裕が十分にあつたから、被告人は進行したもので歩行者の歩行を妨げたものでもない。従つて、原判決が横断歩道の直前で一時停止をせずに進行した点をもつて直ちに被告人に過失があるとしたのは、法令の解釈を誤つたものであり、右は判決に影響を及ぼすものであるから、原判決は破棄を免れないと主張するものである。
     よつて判断するに、道路交通法第七一条第三号の規定にある「横断歩道」の文言には何らの制限がなく、同規定の立法趣旨が歩行者保護の強化を図るにあると認められることに徴すると、一応同規定は、その「横断歩道」が交差点又はその付近にあると否とを問わず、適用されると解すべきもののように思われないでもない(現に警察庁の通達はその旨の解釈を示している。)のであるが、他方道路交通法第三八条が交差点又はその付近において、道路を横断している歩行者の保護を考えながらも、反面車両等が停滞し交通の円滑を著しく妨げることを慮って、その歩行者の横断している道路直前における車両等の一時停止義務を定めていないこと又本件のように、自動車が、交通整理の行なわれている交差点において、信号機の表示する青色の信号に従つて交差点内に進行したが、交差点の外に出ないうちに信号が黄色に変つた場合、道路交通法施行令第二条によれば、当該車輛は交差点(その直近にある横断歩道の外側までの道路を含む)の外に出なければならないとされていることにかんがみると、道路交通法第七一条第三号の適用上交差点又はその付近におる横断歩道を含むかどうかの問題についてはなお疑を残さざるを得ない(控訴審検察官はこの点につき消極的意見を述べ所論と結論を同じうしている。)のであつて、本件の場合原判示のように道路交通法上被告人に横断歩道直前における停止義務があるとはにわかに断じがたい。そればかりでなく、道路交通法の規定を離れて一般的注意義務の問題を論ずる観点から考えても(控訴審検察官はこの立場から原判示のように被告人の停止義務を認むべきであると主張する。)、原判示のように自動車を運転し青の信号で交差点内に進入した被告人が前方の横断歩道上左側端付近に左から右に横断しようとして佇立している数名の歩行者を認め更に交差点中央付近まできたとき前方の信号が黄色に変つたのを認めた場合、直ちに右横断歩道の直前で停止すべき業務上の注意義務があると解するのは相当でない。けだし、この程度の状況下においては、被告人は後に述べるように必要な減速をして徐行すると同時に横断歩道又はその付近における歩行者の動静に絶えず留意して進行する等運転上適当な注意を払うならば、横断歩行者の前方をその通行を妨げることなく無事に通り抜けることがまだ不可能ではないと認められるからである。しかし右のような場合、間もなく歩行者に対する信号が青に変り歩行者が当該横断歩道を左から右に横断を開始することが必至であることは明らかであるから、被告人は自動車運転者として当然右歩行者の通行を妨げないよう配慮すると同時に減速徐行して状況に応じ必要があれば何時でも急停車し得るような態勢の下に横断歩道又はその付近における歩行者の動静に絶えず留意して進行する等してその安全を図るべき業務上の注意義務があることはもちろんである。しかるに原判決挙示の証拠によれば原判示のように被告人はこれを怠り、当時の毎時約三〇粁の速度をわずかに落しただけで(被告人は時速一五粁ぐらいに減じたというけれども本件事故を目撃していた自動車運転者佐藤勝利の供述調書によれば、多くを減じたとは認めがたい。)、漫然進行したため、折柄信号が変り前記横断歩道左側から右側に歩いて横断をはじめた歩行者の前は事なく通過したものの、その後方から抜けて同横断歩道の外側を横断し被告人の車の前面に馳け出してきた七才の男の子を至近距離に迫つて始めて発見し、急制動の措置をとつたが間に合わず、自車左側前部を同人に衝突させて、同人に対し原判示の傷害を負わせたことが認められるのであつて、本件事故に対し被告人は過失の責を免れ得ないものといわなければならない。したがつて、原判決が被告人に対し本件横断歩道の直前における停止義務を認めた点にたとえ法令の解釈を誤つた違法があるとしても、とにかく原判決が前述のように停止義務以外の注意義務違反の点をもとらえて被告人に過失があると判示した以上、原判決に判決に影響を及ぼすことが明らかな誤があるとはいえないので、結局論旨は理由がない。

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      すみません、今回は「判例集未掲載」とあり調べることを怠った私のミスです。
      何がミスかというと、頂いた内容をみると過去に見たことがある内容でして…過去に取り上げてました。

      https://roadbike-navi.xyz/archives/29110

      71条3号と当時の38条の関係性以外の部分を気にしてなかったミスと、判例集未掲載とありさらに調べなかったミス…言い訳にすらならずすみません。

      ところで高検速報「のみ」に掲載された判例は、最高裁図書館以外では見ることができないのでしょうか?
      いくつか気になっているものがありますが、古い高検速報は非公開扱いでして。

      重大なミスに気づかせて頂きありがとうございます。

  2. shtakah より:

    「法務図書館(千代田区霞が関1-1-1 中央合同庁舎6号館 赤れんが棟2階)に所蔵する図書を利用して,教育,調査,研究を行う方」は,法務図書館で高等裁判所刑事裁判速報閲覧することができるようです。なお,最高裁判所図書館と異なり,図書室への入室はできず,事前に電話連絡(03-3580-4111(代表),内線5760)をして閲覧したい図書,利用したい日時等について相談する必要があるということです.

    https://www.moj.go.jp/housei/tosho-tenji/kanbou_library_library01_00001.htmlを
    ご参照下さい。

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