ずいぶん前に書いた記事にご意見を頂いたのですが、

一時停止ではない側が優先権を持つのに、優先側に徐行はおかしい。
言いたい意味はわからんでもないのですが、なぜ見通しが悪い交差点に徐行義務を課すかについては
「歩行者の安全を考慮した」
という見解もあるのでして…
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見通しが悪い交差点と徐行義務
現在の徐行義務は①信号がある場合、②優先道路を通行している場合(優先道路は交差点内にセンターライン等が必要)を除き、見通しが悪い交差点を通行する際に課している。
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。
優先道路とは交差点内に中央線か車両通行帯がある道路のこと(36条2項)。
昭和46年以前は優先道路が除外されていない。
第四十二条 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないもの、道路のまがりかど附近、上り坂の頂上附近、勾配の急な下り坂又は公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要があると認めて指定した場所においては、徐行しなければならない。
この規定ですが、昭和40年代頭に「交差道路に一時停止がある場合は除外ではないか?」という見解もあり、数々の猛者が裁判で主張しているのよ。
一例。
道路交通法第35条第36条(昭和39年法律第91号による改正前のもの)が、交差点における互に違つた方向からこれに進入する車両相互間の優先順位を定めたものであるに対し、同法第42条は左右の見とおしのきかない交差点に進入する車両に対し総べての通行者との間の危険防止を目的として制定されたものであり、同法第35条第36条のように歩行者を除いた車両相互間の関係のみを規制したものではないのである。従つて、右法意に照らすと、たとえ、交差する車両に対しては優先する場合であつても、そのために同法第42条の一般徐行義務が解除されるものではなく、又同法第43条も公安委員会が特に必要があると認めて指定する交差点において、車両等に対して一時停止義務を課し(通行人にはその効力は及ばない)、これと交差する道路の車両等に優先通行を認めたに過ぎず、そのために優先車両に対し同法第42条の徐行義務までも解除したものとは解し難い。
東京高裁 昭和41年11月22日

裁判所は「徐行義務は全ての通行者との衝突を回避する目的だが、歩行者には一時停止規制の効力が及ばないのだから、車両間のみの危険防止じゃないし」とする。
実は最高裁も同じ見解を取ってましてね。
ところで、車両等が道路交通法42条にいう「交通整理の行なわれていない交差点で左右の見とおしのきかないもの」に進入しようとする場合において、その進行している道路が同法36条により優先道路の指定を受けているとき、またはその幅員が明らかに広いため、同条により優先通行権の認められているときには、直ちに停止することができるような速度(同法2条20号参照)にまで減速する義務があるとは解し難いが、本件のように幅員約7.6メートルのあまり広くない道路で、これと交差する道路の幅員もほぼ等しいようなときには、これと交差する道路の方に、同法43条による一時停止の標識があつても、同法42条の徐行義務は免除されないものと解すべきである。なんとなれば、優先道路または幅員の明らかに広い道路を進行する場合には、その運転者にも、またこれと交差する道路を進行する車両等の運転者にも、当該交差点における優先通行の順位が明らかになつており、その間に混乱の生ずる余地が少ないが、本件のように、交差する双方の道路の幅員が殆んど等しいような場合には、一時停止の標識が存在しても、その存在しない方の道路を進行する車両等の運転者にとつては、その標識の存在を認識することは、必ずしも可能であるとは限らず、もし、右認識を有する者についてだけ、同法42条の徐行義務を免除することにすれば、当該交差点における交通の規整は一律に行なわれなくなり、かえつて無用の混乱を生ずるであろうからである。また、本件のように、あまり広くない道路で、しかも交差点の見とおしのきかない場合には、歩行者の安全も考慮しなければならないことは、原判決も説示するとおりであり、このことも前記解釈の根拠となり得るであろう。
最高裁判所第三小法廷 昭和43年7月16日
最高裁は「優先道路と広路車は徐行義務がない」とし、「交差道路に一時停止規制がある場合は徐行義務が免除されない」とした。
その理由の一つはこれ。
本件のように、あまり広くない道路で、しかも交差点の見とおしのきかない場合には、歩行者の安全も考慮しなければならないことは、原判決も説示するとおりであり、このことも前記解釈の根拠となり得るであろう。
当時の42条には「優先道路と広路車は除外」とは書いてないけど、最高裁は徐行義務の除外と捉えた。
警察庁的には納得いかなかったらしく、昭和46年改正時に「優先道路のみ除外」と明確化したわけですが、
要は優先道路って交差点内にセンターラインがあるため、横断歩行者にしても警戒する。
とはいえ、優先道路がない交差点では歩行者の安全を考慮しているから徐行義務を課しているという見解は最高裁が認めているわけでして。
警察庁の解説書には、徐行義務は38条の2(横断歩道がない交差点の歩行者優先)を担保する規定としてまして。
横断歩道以外では直前横断禁止とはいえ、小学生に期待してもね…
徐行義務の解除
そもそも、一時停止標識の有無は交差道路からはわからないわけですが、
交差道路に一時停止標識があるかわからないので、だから徐行により警戒させている面もあるかと。
そして「横断歩道がない交差点での歩行者優先(38条の2)」を担保するために徐行義務を課したという見解もあるので、かなり大事なのよね。
ところで、徐行義務がいつ解除されるか?
道路交通法2条20号に、車両が直ちに停止することができるような速度で進行することをいうとある徐行とは、一般に停車の手段を施すときは惰力進行を加算しても優に衝突をさけうる程度の速度すなわち時速約10キロメートル程度ということになるであろう。しかして同法42条が交通整理の行なわれていない左右の見とおしのきかない交差点で車両等に徐行義務を課しているのもかかる場所での道路交通の安全と円滑という矛盾する二つの要請を調整する趣旨のものと解されるから、ことを刑法上の注意義務の観点からみても、徐行とは交差道路からくる車両の有無、動静を確認し機に応じて交差点の直前で直ちに停止しうる程度に予め減速して進行することをいうと解するのが相当で、ここにいう徐行もやはり時速約10キロメートル前後ということになるであろう。ただ、その減速の程度は、通常は、交差点に接近するにともなつて次第に深まつていくが、他面、この接近にともなつて左右の見とおしも好転し、また、自車が交差点を先に通過しうるかどうかの判断も可能となり、安全通過を確認しうるにいたればそのままもしくはむしろ若干加速してでもすみやかにその交差点を通過すればよいことになるであろう(この関係は、交差点の手前に一時停止の道路標識が設けられている側の車両についても、一旦一時停止して交差点の安全を確認したのちにおいては全く同様であるといえる。)。
東京高裁 昭和48年7月10日
安全確認を目的としているのだから、安全が確認できた時点からは徐行義務が解除される。
なので交差点通過中はずっと徐行してろという意味ではないので、徐行を遵守したから渋滞になるとも思えないのですが、何のために徐行義務を課したのか考えていくと納得しやすいのかも。
条文解釈も大事なんだけど、条文趣旨や立法趣旨は調べない人がわりと多いような。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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