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横断歩道での民事過失修正「直前横断」とは何か?

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以前、横断歩道においても民事過失修正要素「直前横断」が適用されるケースがあり、歩行者不利に修正することがあると解説してますが、

信号がない横断歩道で歩行者に過失が付く。
ちょっと前になりますが、こちらの記事にコメントがありまして。歩行者に違反がないことと過失の有無は別問題ですし、疑うなら裁判所名や判決年月日を書いているのだからご自身で確認したらいかがでしょうか?状況高齢者等歩行者過失広島高裁S60.2.26...

具体的にどういうときに「直前横断」を適用するかというと、こういうのなのよ。

・歩道から横断歩道に踏み出して2歩程度で衝突
・車両の側面に衝突

 

つまり、歩行者が横断開始した時点では車両は既に横断歩道直前にいたことになり、歩行者のわずかな注意で事故を避け得た。
それを民事では「直前横断」として歩行者に10%程度加算する。

 

ただまあ、横断歩道事故で「直前横断」を適用する事例は限定的なのかなと思う。
判例を2つ挙げます。

 

◯広島高裁 昭和60年2月26日

本件事故当時降雨中であつたため、控訴人は右手で雨傘を差し左手で手提かばんを持つて(または抱えて)歩行し、信号機の設置されていない本件事故のあつた横断歩道の手前で、横断のため左右を見たところ、南方から被控訴人車が北進しているのに気づいたが、かなりの距離があつたので歩道(一段高い)端附近に横断歩道に向つて立ち止まり、右のように右手に傘を持ち左手にかばんをかかえながらライターを取り出して煙草に火をつけた後、左右の交通の安全を確認しなくても安全に横断できるものと考えその確認をしないまま、横断歩道上を横断し始め、約1.3m歩いたとき被控訴人車左前方フエンダー附近に控訴人の腰部を接触し、本件事故を起した。

以上のとおり認められる。もつとも、乙第12号証(控訴人の供述調書)には、横断前に一度左右を見たことについて述べていないが、原審控訴人本人尋問の結果では事故のシヨツクで思い出せなかつたと述べており、これと対比すると右認定を妨げるものではなく、他に右認定を左右する証拠がない。

横断歩道であつても信号機の設備のない場合歩行者は左右の交通の安全を確認して横断すべき注意義務(事故を回避するための)があることは多言を要しない。右事実によると、控訴人は一旦横断歩道の手前で左右を見て被控訴人車がやや離れた南方から北進中であり直ちに横断すれば安全に横断できた状態であり、その時点では控訴人は右注意義務を果したといえないわけではない。しかし、控訴人はその直後に歩道端に横断歩道に向つて立ち止まり、右手に傘を持ち、左手でかばんをかかえながらライターを取り出して、煙草に火をつけたというのであるから、通常の場合よりも若干手間取つたことが考えられ、その時間的経過により、被控訴人車がさらに近づきもはや安全には横断できない状態になつていたことが十分に予測できたものといえるから、控訴人が横断し始めるときには、すでに、歩道に立ち止まる以前にした左右の交通の安全の確認では不十分で、さらにもう一度左右の交通の安全を確認した後に横断を始めるべき注意義務があつたものというべきである。しかるに、控訴人は歩道に立ち止まる前にした左右の交通の安全の確認だけで安全に横断できるものと軽信し、あらためて左右の交通の安全を確認しないまま横断し始めた過失があり、それが本件事故の一因となつているものといわざるをえない。本件事故についての控訴人、被控訴人双方の過失の態様、程度を比較し検討すると、控訴人の過失割合は10%とみるのが相当で、これを損害額算定につき考慮すべきものである。

広島高裁 昭和60年2月26日

横断開始して1.3mで左フェンダー(側面)に衝突なので、歩行者が横断開始するときには既に車両は直前に迫っていた状態。

 

◯大阪地裁 令和2年9月25日

本件の証拠上,被告車両の速度や原告の歩行速度は明らかではないが,上記のとおり,原告が横断開始から約1.6m地点で被告車両に衝突していることからすると,原告の横断開始時点において,被告車両は横断歩道に相当に接近していたことが明らかであり,原告が左右の安全確認をしていれば,本件事故を回避できたということができる。横断歩道を横断する歩行者は車両との関係で優先するとはいえ(道路交通法38条1項),安全確認を行わず,被告車両の直前で横断を開始した点において,原告にも過失があるといわざるを得ず,10%の過失相殺を行うのが相当である。

大阪地裁 令和2年9月25日

横断開始して1.6mで衝突したことから、横断開始時点では既に車両は直前に迫っていた。
だから歩行者のわずかな注意で事故を避け得たと考えられるので「直前横断」を適用して過失修正している。

 

まあ、民事の話は所詮はカネの話でしかなくて、民法722条の解釈問題でしかないのだから、基本と例外がどっちなのか忘れたらダメだよね。
もちろん基本は歩行者優先、減速接近、一時停止なのだから。

 

例えばなんだけど、右直事故。
右折車と直進車が衝突した事故について、以下刑事判例がある(被告人は右折車)。

道路交通法37条は,直進車の右折車両に対する優先を定めているのであって,それは,直進車が制限速度を時速10キロメートル程度を超えた速度で進行する場合であっても適用されるというべきであるから,右折車両としては,直進車が制限速度を時速10キロメートル程度超えた速度で進行してくることを予測して,その進路を妨げることがないようにすべき義務があり,直進車からいえば,その程度の制限速度を超えて進行することを右折車両が予測して行動するものと期待してよいといえるのである。
さらに,例え被害車両が交差点に進入する時点で時速40キロメートルの制限速度に減速していたとしても,上記の被告人車と被害車両との相互の位置及び距離関係などからして,衝突が避けられた,あるいは被害者に衝突回避の措置を期待できたとはいえないのである。したがって,本件被害者が,制限速度を時速約10キロメートル超える速度で交差点に進入したからといって,本件衝突について被害者に過失があるとはいえない。

(3) 所論は,道路交通法36条4項によれば,交差点を通行しようとする車両は,交差点の状況に応じ,右折車両に特に注意し,かつ,できる限り安全な速度と方法で通行しなければならないのであるから,本件被害者においても,交差点に進入するに当たり制限速度を守らなかった点で,本件衝突について過失がある,という。なるほど,同条項に定めるように,直進車にも,交差点を通行するに当たってはできる限り安全な速度と方法で進行すべきことが要求されるといえるが,一方で道路交通法37条は,直進車の右折車両に対する優先を定めているのであって,それは,直進車が制限速度を時速10キロメートル程度を超えた速度で進行する場合であっても適用されるというべきであるから,右折車両としては,直進車が制限速度を時速10キロメートル程度超えた速度で進行してくることを予測して,その進路を妨げることがないようにすべき義務があり,直進車からいえば,その程度の制限速度を超えて進行することを右折車両が予測して行動するものと期待してよいといえるのである。
さらに,例え被害車両が交差点に進入する時点で時速40キロメートルの制限速度に減速していたとしても,上記の被告人車と被害車両との相互の位置及び距離関係などからして,衝突が避けられた,あるいは被害者に衝突回避の措置を期待できたとはいえないのである。したがって,本件被害者が,制限速度を時速約10キロメートル超える速度で交差点に進入したからといって,本件衝突について被害者に過失があるとはいえない

仙台高裁 平成13年12月4日

被害者(直進車)は10キロの速度超過がありましたが、36条4項(交差点安全進行義務)の解釈上、直進車は右折車が進行妨害しないことを信頼して通行してよいのだから、その前提で36条4項を解釈する。
具体的には、直進車側からみて右折車が進行妨害してきたときに回避可能性があったのに回避しなかったなら36条4項の違反があったと言えますが、仙台高裁の事例では被害者側に回避可能性がなかったのだから被害者に過失を認めていない。

 

ところがこれを民事の過失割合で考えると、こうなのよ。

右折車 直進バイク
85 15

民事責任上は直進バイクにも「交差点安全進行義務違反の過失」となるけど、刑事上は「直進バイクに過失はない」となる。
なぜそうなるかというと、民事と刑事は根本的に違うからなのよね。

 

それと同じで、民事責任上で横断歩行者に過失が認められたとしても、それは民事責任上の概念でしかないのよ。

 

このように刑事では「直進バイクに過失はない」になっても、民事では「直進バイクは交差点安全進行義務を怠った過失がある」となる。
民事と刑事を混同させたら支離滅裂になるのは当たり前ですが、そもそも差があることすら理解してない人がわりと多い…

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