ではこちらの件。

先に優先道路の定義。
「優先道路」を勘違いしている人が多いので、「優先権がある道路」と思っている人が多い。
優先道路の定義はこれ。
交差点内にセンターラインか車両通行帯がある道路を優先道路と定義している。
ただまあ、若干分かりにくいので解説書から引用。
優先道路とは「当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路」と規定されており、道路標識等により指定する場合すなわち優先道路となる道路の交差点の手前の地点に「優先道路」の指示標識を設置し、併せてこの道路と交差する道路の交差点の手前に、「前方優先道路・一時停止」の標識を設置して指定するものと、中央線又は車両通行帯境界線が交差点の中まで連続して設けられていることによって直ちに優先道路としての取り扱いを受けるもの、との二つがある。
交通法令実務研究会、「逐条道路交通法」、警察時報社、昭和62年
道路標示(中央線または車両通行帯境界線)による優先道路は、交差点の中まで中央線等が表示されている道路のことをいい
東京地方検察庁交通部研究会、「最新道路交通法事典」、東京法令出版、1974
標識による優先道路はほとんどないので、交差点内にセンターラインか車両通行帯の「線」がなければ優先道路ではない。
優先道路というよりも「有線道路」と考えたほうが理解しやすい。
さて。
どちら向きでも「交差点内にセンターラインも車両通行帯もない」&「左右の見とおしがきかない」のだから徐行義務の対象と考えられる。
①
②
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。
で。
この横断歩道においてこのような事故がありまして。

西進した加害車両と、横断自転車の事故。
加害車両は「横断しようとする歩行者が明らかにいないと言えないのだから減速接近義務」(38条1項前段)と徐行義務(42条1号)の対象と考えられ、これらを履行し前方注視していたなら「被害者がよほどおかしなスピードで横断しない限りは」事故には至ってない可能性が高い。
捜査によって具体的事実は明らかになるだろうけど、減速接近義務の過失を理由に過失運転致傷罪は有罪になるパターンですかね。
ところで、当該交差点に進入しようとする車両に徐行義務があるとして、この場合の徐行とは「一律10キロ以下」と解釈することは妥当とは思わない。
15キロ程度でもこの場合の徐行義務は問題ないと思われるけど、どのみち履行されてないわけよね。
というのも、以前話題になったこれ。

交差点内にはセンターラインも車両通行帯もないので、横断歩道に対する減速接近義務のほか、徐行義務が課されていることになる。
これと同じで、冒頭の事故現場も減速接近義務、徐行義務により横断歩道の安全を確保していることになる。
ちなみにこの動画についてはノールック横断する自転車のセンスがかなりヤバイ(25条の2第1項)としか言いようがないんだけど、そもそも双方の義務を的確に指摘できない人だらけなのがもっとヤバイ。
徐行義務の規定の仕方をみるとわかるんだけど、信号がない左右の見とおしがきかない交差点は「徐行」だとし、交差点内にセンターラインか車両通行帯の道路標示があるときは徐行義務を除外している。
つまり交差点内にセンターライン又は車両通行帯の道路標示があるかないかは、徐行義務の有無を示すサインになっている。
車両は急に徐行になれるわけもなく、「クルマは急に止まれない」という当たり前な物理法則を考えれば徐々にスピードを落として「徐行」に至るのよね。
片側二車線だと追い越し追い抜きも起きやすいから横断歩道30m手前の追い越し禁止(30条3号)、追い抜き禁止(38条3項)なども含め、
・徐行義務(42条1号)
・横断歩道30m手前の追い越し禁止(30条3号)
・横断歩道30m手前の追い抜き禁止(38条3項)
・側方通過一時停止(38条2項)
様々なルールでこの横断歩道の安全を担保しようとしている。
しかし特に「減速徐行系」の義務が履行されなければ、横断歩道が危険になるのは当たり前。
横断歩道を危険にしたのは、構造というよりも人、プレイヤーだと思いますが…
で。
当該横断歩道について「優先道路」だと主張している人がいるけど、
優先道路の交差点は横断歩道の手前にある小道との関係であって、横断歩道自体はその先にある優先道路がない交差点の付属物なのよね。
イメージはこう。
優先道路がない交差点の手前に優先道路がある交差点があるだけで、両者は別の交差点。
なのでこれを民事で考えると、広路狭路態様(自転車30%)から横断歩道修正(自転車有利に5%修正)して75:25、あとは児童修正や重過失修正があるかないかの話なので誤り。
現実的には80:20から加害者側に修正要素があるかないかくらいになるかと。
これを車道通行車両目線で考えますが、
横断歩道に接近するときに減速接近義務があり、手前の交差点との距離を考えても手前の交差点を通過する時点でも相応に減速していることになる。
そして交差点に進入しようとして安全確認できるまでは徐行義務の対象。
次に逆方向の進行車両を考えると、交差点に進入しようとする段階で徐行義務があり、横断歩道を横断しようとする歩行者が明らかにいないと言えるまでは減速接近義務があることになる。
手前の小道との交差点は、中央分離帯の都合上、逆方向進行車両には関係がない。
これらがこの交差点を通行する車両の注意義務ですよね。
横断歩道については優先道路がない交差点に付属しているのはみればわかる話なのに、優先道路と解説…
ただし民事の過失相殺はカネの話でしかなく、事故を防ぐことの本質は減速徐行、横断側は確認(25条の2第1項)。
そして安易に押しボタン式信号のことに行ってますが、信号設置のコストや信号無視の検挙数(どんだけあるか知ってるのかな…依然として40万件以上ですけど)を考えたら、「減速徐行しやすくなる構造」「横断側が確認しやすくなる構造」に向かうのが最近の流れなのよね。
二段階横断施設やハンプ、狭小化などで減速徐行しやすくし、横断側も確認しやすくなる構造にするのが最近の流れ。
信号設置したから解決する、みたいな発想は昭和なのよ。
見とおしがきかない交差点の徐行義務は38条(横断歩道)及び38条の2(横断歩道がない交差点)を担保する規定ですが、優先道路ではない交差点についてその手前にある交差点を抜き出して「優先道路」と解説することで、この人は横断歩道を危険なものにしている。
法律解釈の誤りや判例の改竄などを何度も繰り返してますが、この人は何をしたいのだろうか?
そもそもこれ。

最高裁判決文に被告人に「右折方法違反」という道路交通法違反があると指摘しているのに、「被告人は交通法規に違反せずきちんと右折した」と解説しているあたりをみても、
被告人は、第一種原動機付自転車を運転して、センターラインの若干左側からそのまま右折を始めたのであるから、これが同条項に違反し、同121条1項5号の罪を構成するものであることはいうまでもない
なんで改竄するのか理解不能。
最高裁判決のような短い判決文を読み取れないのか、意図的に情報操作したのかはわからんけど、この人の解説ってこんなことばかりなのよ。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
中央分離帯の切れ目に関しては前から疑問に思っていたのですが、やっぱ「センターライン無し」になるわけですか・・・
中央分離帯の道路は単なるラインの道路より格上って感じがあるのですが、狭い交差路に対して「切れ目」がある場所は多いです。交差路の見通しが悪い場合、そんな所でガチの徐行をしたら追突続出じゃないでしょうか。何か法と現実とで乖離があるような気が。
もしかして優先道路の法律が出来た時は、中央分離帯のある一般道はほとんど無かったって落ちですか?あるいは当初は片側2車線以上は車両通行帯にする予定だったから、そっちで優先道路にするハズだったとか?
コメントありがとうございます。
この件ですが、そもそも昭和46年改正道路交通法以前の42条は「優先道路」を除外しておらず、左右の見通しが悪い交差点であれば全て徐行だったのです(ただし信号がある場合は徐行義務の除外)。
https://roadbike-navi.xyz/archives/53956
そしてちょっとややこしいのですが、最高裁判所第三小法廷 昭和43年7月16日判決が「優先道路通行車と広路通行車は徐行義務の除外と解するべき」とした。
要は現行の36条2項に該当する場合は徐行義務の除外だと最高裁が判断したのですが、警察庁的には納得できなかったらしく、昭和46年改正時に「優先道路通行車は徐行義務を除外」と明記するに至った。
その結果、優先道路通行車のみが徐行義務の除外で、広路通行車は徐行義務が免除されないことになりました(最高裁判所第二小法廷 昭和52年2月7日、最高裁判所第二小法廷 昭和63年4月28日)。
ポイントになるのは「元々は優先道路通行車でも徐行義務を免除してない」のでして、43年最高裁判決を受けた妥協の産物なんですね。
今回のケースについては、交差点内にセンターライン又は車両通行帯を表示して優先道路にすることもできますが、あえてそれをしてないことから、警察が意図的に徐行義務を発生させています。
回答有難うございます。
確かに中央分離帯の切れ目にセンターラインを引いている所もあるので、意図的にラインを引いていないわけですか。
ただ、中央分離帯のある立派なバイパスが優先道路ではなく、片側1車線で40㎞制限の旧道の方がしっかりと優先道路になってるのはチグハグだなと思いまして(そうしないとマトモに走れないってのもありますが。街中の交差点のほとんどは見通しが悪い)。
コメントありがとうございます。
おそらくですが、横断歩道の安全を担保する意味で優先道路にしなかっただけではないでしょうか?
仮に横断歩道がないならあえて優先道路にしない理由は薄い気がします。