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横断歩行者保護の歴史についてのご意見とお返事。

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こちらについて2つご意見を頂きました。

道路左側→道路全域には改正されていない。
読者様からこちらについて質問を頂いたのですが、とする件がよくわからないのですが、改正後は「道路左側」の文言が削除されたのだし道路全域になっているのでは?ちょっと整理しますね。昭和35~38昭和38~46昭和46~条文歩行者が横断歩道を通行し...

記事とリンク先を読んだ印象。
「道路左側」から「進路の前方」に変更したことを「対象範囲を狭くした」と捉えるよりも、「道路左側と規定することで起きた無駄を解消」と考えたほうが分かりやすい気がしました。
結果的には対象範囲が狭くなってますが、狭くすることを意図したのではなく無駄を解消したかったのだと月刊交通から読み取れます。

管理人さんが度々取り上げている宮崎条解昭和38年版にある、歩行者が横断歩道に入るきっかけを作るために「横断しようとする歩行者」があるときに一時停止義務を科した点が重要だと思う。
というよりも、昭和38年に車両と歩行者の力関係に着目していたことが驚きです。

まず最初のご意見。
確かに「範囲の縮小」ではなく「ムダの排除」と捉えるほうが適切ですね。

 

「道路左側」の時代、下記は「道路左側を横断する歩行者」になってしまうので、車両から遠ざかる方向なのに一時停止義務が発生してしまう。

さらに4車線の一方通行道路の場合。

昭和38~46年の規定では一方通行道路の場合には道路全域だとしているため、

道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)を横断し、又は横断しようとしているときは

一時停止しないと違反になってしまう笑。
歩行者はすでに横断し終わる上に、車両と干渉する要素がないのに一時停止しないと違反という不合理。

 

これらのムダを排除する目的で改正したと考えたほうが正確かも。
昭和46年に改正したときの警察庁の解説はこちら。

今回の改正により、当該横断歩道の直前(停止線が設けられているときは、その停止線の直前)で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならないという車両の義務は、「その進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるとき」に課すこととした。すでに車両等の進路の前方を通過した歩行者や、道路の左側部分または一方通行になっている道路の幅員が非常に広い場合に車両等の進路から遠く離れている歩行者は「その進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるとき」に当たらない。また、この場合の「進路」とは、車両等の幅に若干の側方間隔を加えた幅をもったものと解される。

道路交通法の一部を改正する法律(警察庁交通企画課)、月刊交通、道路交通法研究会、東京法令出版、昭和46年8月

なので本質的なところは「道路左側」と規定していた時代から変わったわけではない。
ちなみにかなりの文献を調べたましたが、「道路左側を横断しようとする歩行者」の具体的範囲に言及しているものは見つかりませんでした。

 

次のご意見。

 

昭和38年以前と以後の違いはここ。

昭和35年 昭和38年
対象 横断歩道を通行する歩行者 道路左側の横断歩道を横断し、又は横断しようとする歩行者
義務 妨害禁止(一時停止or徐行) 一時停止かつ妨害禁止

対象に「横断しようとする歩行者」が加わり、一時停止が完全義務化。
昭和38年改正以前は妨害禁止のみが義務で、妨害しないための方法として一時停止か徐行の選択可能になっていました。

 

では「横断しようとする歩行者」を加え、「一時停止かつ妨害禁止」に改正した理由を。

 

警察庁の宮崎氏の解説(昭和38年)。

なお、本号においては、車両等の運転者に対し、一時停止する義務と歩行者の通行を妨げてはならない義務を並列的に課しているから、車両等の運転者は、およそ歩行者が横断歩道により道路の左側部分を横断し、または横断しようとしているときは現実にその通行を妨げることになろうとなるまいと、かならず、まずは一時停止しなければならないこととなる。この点従前の本号の規定は、「歩行者が横断歩道を通行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行を妨げないようにすること」と定められ、車両等の運転者に対しては、歩行者の通行を妨げてはならない義務のみが課され、その方法としては、一時停止と徐行が選択的に認められていたから、状況によっては、かならずしも一時停止する必要がなかった。したがって、このような規定によっても、歩行者の保護は理論上は一応図られていたわけであるが、現実の力関係においては、車両等の方が歩行者に比してはるかに強く、歩行者が横断歩道に入るきっかけがなかなかつかめず、結果としてその通行を妨げられることが少なくなかった。そこで昭和38年の道路交通法の一部改正により、本号の規定を現行のように改め、車両等の運転者に対し一時停止の義務を課して歩行者に横断歩道に入るきっかけを作ることにより、その保護の徹底を図ることとしたわけである。

宮崎清文、条解道路交通法 改訂増補版、立花書房、1963(昭和38年)

この趣旨に従って「横断しようとする歩行者」の範囲を5mとしていると考えられますが、この時代に車両と歩行者の力関係に着目していたのは興味深い。

 

横断歩行者保護の規定は改正史が興味深いのだと何回か書いてますが、昭和40~46年頃は裁判所の判断も安定してない。
例えば東京高裁 昭和42年2月10日判決はこのような事故でしたが、

一審(大森簡裁)は最徐行を課すのは過当として無罪にしている。
東京高裁は破棄有罪。

本件交通事故現場は前記のとおり交通整理の行われていない交差点で左右の見通しのきかないところであるから、道路交通法42条により徐行すべきことももとよりであるが、この点は公訴事実に鑑み論外とするも、この交差点の東側に接して横断歩道が設けられてある以上、歩行者がこの横断歩道によって被告人の進路前方を横切ることは当然予測すべき事柄に属し、更に対向自動車が連続して渋滞停車しその一部が横断歩道にもかかっていたという特殊な状況に加えて、それらの車両の間に完全に姿を没する程小柄な児童が、車両の間から小走りで突如現われたという状況のもとにおいても、一方において、道路交通法13条1項は歩行者に対し、車両等の直前又は直後で横断するという極めて危険発生の虞が多い横断方法すら、横断歩道による限りは容認しているのに対し、他方において、運転者には道路交通法71条3号により、右歩行者のために横断歩道の直前で一時停止しかつその通行を妨げないようにすべきことになっているのであるから、たとえ歩行者が渋滞車両の間から飛び出して来たとしても、そしてそれが実際に往々にしてあり得ることであろうと或は偶然稀有のことであろうと、運転者にはそのような歩行者の通行を妨げないように横断歩道の直前で直ちに一時停止できるような方法と速度で運転する注意義務が要請されるといわざるをえず、もとより右の如き渋滞車両の間隙から突然に飛び出すような歩行者の横断方法が不注意として咎められることのあるのはいうまでもないが、歩行者に責められるべき過失があることを故に、運転者に右注意義務が免ぜられるものでないことは勿論である。
しからば、被告人は本件横断歩道を通過する際に、右側に渋滞して停車していた自動車の間から横断歩道によって突然にでも被告人の進路前方に現われるやもはかり難い歩行者のありうることを思に致して前方左右を注視すると共に、かかる場合に備えて横断歩道の直前において一時停止することができる程度に減速徐行すべき注意義務があることは多言を要しないところであって、原判決がこのような最徐行を義務付けることは過当であるとしたのは、判決に影響を及ぼすこと明らかな根本的且つ重大な事実誤認であって、この点において既に論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

 

昭和42年2月10日 東京高裁

裁判所の判断も安定してないし、条文上も「道路左側」と規定したことからバグが起きるし、それらを整理した結果が「進路の前方」なんでしょうね。

 

横断歩道に停止線を設けるべきという意見は昭和39年頃から国会で出てますが、実際に規定されたのは46年。
警察庁が何を懸念していたのかは調べてもわかりませんでしたが、横断歩行者保護に関する資料ってなかなか興味深いものが多いのに、ほとんど知られていないのよね。

 

例えば38条2頃は昭和42年に新設した後、46年に改正されている。
その理由を解説している資料は一つしか見当たりませんが、人間が法律を作るのだからそこには意図があるわけで…
意図が何なのかを理解してないと、最近話題の18条4項のように本質を見失う。

 

「道路左側」→「進路の前方」にしたのは「対象範囲を狭くした」ではなく「ムダの排除」と捉えたほうが適切だというご意見は確かにそうだと思った。
道路左側と規定したことで起きたバグの解消とも言える。
そしてルールの整備は昭和46年に完結しているのでして、今後は「いかにしてルールが守られる構造を作るか」に向かわないと無意味なのよ。

横断歩道を「安全にする」方策。
ではこちらの続き。横断歩道手前にハンプを設置した横断歩道では、全車両が徐行してましたが、要はこれ、減速徐行しないとクルマに不利益があるから減速徐行するわけ。減速徐行せずにハンプを通過しようとすればクルマがケガしたり、クルマが傷ついたり、コー...

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