こちらの記事について読者様からご意見を頂いたのですが、

早回り右折がなければ無罪か不起訴濃厚と解説してますが、判決文をみると逆に思えるのですが…どうなのか解説よろしくお願いします。
この件ですかね。
運転レベル向上委員会から引用
まあ、気づく人は気づくと思ったからあえてスルーしたのですが、正規の右折方法をとって事故を起こしたのであれば、この事故態様においては当初から起訴されて余裕で有罪です。
これの理由はシンプルです。
◯被告人が右折開始した時点での位置関係

被告人が右折開始した時点での両者の距離は79mですが、正規の右折方法をとると被告人車はさらに18.3m直進してから右折することになる(大型車の回転半径から)。
一応時速80キロ程度を予見する前提になってますが、被告人車がさらに18.3m直進してから右折するとしたら、両者の距離はかなり接近していることになる。
要は超直近右折の状態になるのだから、対向車確認が容易になるのよね。
札幌地裁もそこを指摘している。
⑴ 前記のとおり、右折車両の運転者は、対向直進車両に衝突等の危険を回避するために制動や進路変更をさせることなく、同車の接近前に自車が右折を完了し得ることを確認し得た場合のほかは、対向直進車両が通過するまで右折進行を一時差し控えるべき義務を負うと解される。この点、本件公訴事実は、判示と同旨の注意義務を掲げるものであるが、検察官は、同注意義務につき、対向直進車両の動静に留意し、その安全を確認しながら進行すべき注意義務も含む趣旨であり(仮に被告人が公判において供述するように右折に際して被害車両の存在に気付いていたとしても、同注意義務に違反している。)、また、①結果回避措置を本件交差点の中心の直近の内側を通ることに限定する趣旨ではなく、②前方を注視し、適切な走行を行うことにより、被害車両との衝突を回避すべきことも包含しており、例えば、そもそも右折を差し控えるなどの回避措置も当然含む趣旨であると釈明している。
⑵ そして、被告人は、本件右折開始時点において、前記のとおり、被害車両の接近前に自車が右折を完了することができず、被害車両と衝突等してその運転者の死亡の結果を伴う交通事故を発生させるという結果を予見すれば、その場で右折を差し控える、又は、道路交通法34条2項にのっとり、本件交差点の中心の直近の内側を通過する右折開始地点(前記第2の5⑵)まで直進するなどして、容易に結果発生を回避することが可能であったということができるから、結果回避可能性(結果回避義務違反)も認められる。札幌地裁 令和6年8月29日
34条2項に従ってさらに直進してから右折しようとすれば、「容易に結果発生を回避することが可能であった」。
つまりもっと簡単に安全確認できる状態になっていたことになり、過失認定も容易になる。
超至近距離に対向車がいることを見逃して右折開始したなら、前方不注視が著しいことになるのだから、過失認定はむしろ容易になる。
そもそも当初不起訴にした理由の考察からしてビミョーすぎるんだけど、過失運転致死罪は原則起訴。
不起訴にするのは証拠不十分で有罪にできるかビミョーな場合か、信頼の原則など無罪になりうるケース。
確実に有罪になる事案のみを起訴しているから有罪率99%以上になるわけで、普通に考えれば「確実に有罪になると言えるまでの証拠がなかった」から当初不起訴にしたものと考えられる。
運転レベル向上委員会の人は判決文をきちんと理解してないのだと思うけど、この事件は道路交通法違反被告事件ではなく、過失運転致死被告事件。
本質的に34条2項自体は、過失運転致死傷罪の注意義務にはならない。
なぜなら、34条2項に従って右折しようとしたとしても、対向車確認を怠れば結局事故は起きるのでして、右直事故における注意義務違反を考える上では、結局「対向車確認を十分したか?」になる。
しかし今回の事故については、34条2項に従って右折しようとさらに直進していたならば、「より対向車確認が容易だった(対向車が超直近に迫っていた)」。

もし34条2項に従って右折しようとさらに直進していたならば、右方道路の車両の位置関係の問題から被告人は右折できないことになる(たまたま事故が起きないことになる)。
しかし偶然の結果を過失とは認定できないので、結局は対向車の安全確認を十分したか?という観点で
又は、道路交通法34条2項にのっとり、本件交差点の中心の直近の内側を通過する右折開始地点(前記第2の5⑵)まで直進するなどして、容易に結果発生を回避することが可能であった
なのよね。
運転レベル向上委員会の人がなぜこのような間違いに陥るかというと、彼の頭の中には「過失=道路交通法違反」という誤った考えしかないから。
34条2項+37条の2つの「過失」があるから有罪だ!という誤った発想に陥る。
正規の右折方法をとる場合、両者の距離は接近するのだから「より容易に対向車の安全確認ができた」のでして、そこをノールックで右折して事故を起こしたのであれば、この事故態様では超至近距離に対向車が迫っていたのに見落としたという「重大な過失」になり、最初から起訴されて余裕で有罪なのよ。
この事故って、当初不起訴処分にしたものを検察審査会がひっくり返した。
当初不起訴処分にした理由を考えると、一応「信頼の原則」によると、著しい速度超過車を予見する注意義務は「特別な事情がない限り」は無いことが理由と思われる。
つまり検察官が起訴して有罪にするには、信頼の原則を否定する特別な事情を要する。
今回の事故については、既に対向車が危険距離まで迫っていたことが「信頼の原則を否定する特別な事情」とも言えますが、検察官は当初有罪にするだけの十分な確証がなかったのだと考えられます(過失運転致死罪は原則起訴ですし)。
「過失=道路交通法違反」という発想から脱却できないと、「34条2項違反+37条違反のダブル」→「34条2項違反はなく37条違反だけ」という発想に陥るのだと思う。
つまり2つの違反より1つの違反のほうが罪が軽いものと勘違いしてしまう。
過失運転致死傷罪ってそうじゃなく、予見可能性と結果回避可能性の問題なのだから、少なくともこの事故については、34条2項に従っていれば「より容易に対向車確認ができた事例」。
つまり容易に結果回避可能だったのに見落として事故を起こしたのであれば、余裕で有罪になる。
発想が真逆なのよ。
この人がやたらと判例を改竄する理由が見えてくるのよね。
判決文を理解できてないのに、判例解説する感覚はわからない。
各種解説書や判例には「過失運転致死傷罪の注意義務違反と、道路交通法違反は別問題」と書いてありますが、判決文を読んでもこの理解ならなかなか難しい。
この事故って細かいことを省いてざっくりいうと、「ノールック右折したらたまたま著しい高速度の白バイと衝突した事故」。
きちんと安全確認してから右折したわけではない。
ところが世間の発想は「過失相殺論」、つまり「どっちが悪いか?」だと思い込むから判決文をきちんと理解できないのだと思う。
さらにいうと具体的距離も調べないまま「時速118キロ」が強調され、本質を見失っている。
そもそも「白バイvs右折車」だと思い込む時点で間違いなのよ。
刑事事件なのだから「国vs右折車ドライバー」なのに、「白バイvs右折車」だと思っていたら間違えるのは当然なのよね。
ただまあ、この事故について運転レベル向上委員会は陰謀論とガセネタを流した張本人ですから、反省して訂正したほうがいい。
北海道施行細則の間違いなんかは選挙カーの駐停車にも関わるのですが…
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。



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