以前札幌地裁にて、赤信号を無視した中学生とクルマが衝突した事故(過失運転致死)で無罪判決が出た裁判があったのを覚えているでしょうか?
中学生が自殺目的だった可能性を否定できないとし無罪判決が出て確定しましたが、被告人側が国に損害賠償請求するらしい。
過失運転致死の罪に問われ無罪になった男性が、国と道に損害賠償を求める訴えを起こしました。
札幌地裁に訴えを起こしたのは札幌市西区の70代の男性です。男性は2022年7月、札幌・中央区の道道交差点に車で進入した際、前方注視を怠り、女子中学生に衝突して死亡させたとして過失運転致死の罪に問われましたが、去年1月に札幌地裁で無罪判決を受けました。
訴状によりますと、「現場近くの防犯カメラに中学生が自殺しようとしたことを裏付ける証拠があったにも関わらず警察と検察は男性に事故の責任を負わせようとした」などとしています。
原告代理人の吉田康紀弁護士「身体拘束を受けるだけで十分な不利益実名報道もされている。刑事裁判の被告にされるのもかなりの負担」
男性は、国と道にあわせて330万円の損害賠償を求めています。 無罪判決の男性が国を提訴 中学生死亡交通事故で(テレビ北海道) - Yahoo!ニュース過失運転致死の罪に問われ無罪になった男性が、国と道に損害賠償を求める訴えを起こしました。札幌地裁に訴えを起こしたのは札幌市西区の70代の男性です。男性は2022年7月、札幌・中央区の道道交差点に
現場近くの防犯カメラは、女子中学生が赤信号にもかかわらず、横断歩道の真ん中にたたずみ、男性の車に向かって飛び込む様子を鮮明にとらえていました。
2024年1月の札幌地裁の確定判決は、「女子中学生が自殺のために飛び出してきた可能性を否定できず、事故を回避できた可能性には合理的な疑いが残る」として、男性に無罪を言い渡しました。
しかし、捜査段階で、道警は警察官が防犯カメラの映像を確認していたにも関わらず、男性を現行犯逮捕。
さらに、事件を引き継いだ検察庁も、強引に略式起訴したとして、男性はずさんな捜査に憤っています。
男性の代理人弁護士
「非難に値するものだけを起訴するべきであって、そうじゃなくなっている現状を変えるきっかけにしたい」男性の弁護士は、「一旦、略式起訴したら最後まで有罪立証を続けようとする検察は、撤退できない組織だ」と強く非難しています。
無罪判決確定の男性(74)が国と道を提訴 女子中学生をはねて逮捕・起訴も「自殺の可能性」否定できず 警察と検察に憤り 札幌市(HBCニュース北海道) - Yahoo!ニュース理不尽な逮捕と、ずさんな捜査をした道警と検察を許さない。無罪判決が確定した札幌の男性が国家賠償を求めました。男性の代理人弁護士「自分は悪いことしてないのに、こんな目に遭わされて、無罪になっ
報道によると現行犯逮捕したこと、起訴したことを不法行為とみなして損害賠償請求しているように思えるのですが、この事件の当時の報道。
判決は、事故当時の状況について、車は遅くとも時速約84キロで走行していた▽男性が中学生を視認できたのは衝突地点から約60・1メートル手前だった――と認定。中学生が自殺を図った疑いを否定できないとした上で、「車両側の信号機は青で、被害者が車の接近を認識していたことなどから、被害者が中央線手前で立ち止まるはずであると判断するのが合理的。前方を注視していても車線上に飛び出してくることを予見できなかった疑いを排斥できない」と指摘した。
一方、時速50キロの指定速度を超えた走行に対しては「非難に値する」とした。
男性は22年12月、同法違反(過失致死)の罪で略式起訴。札幌簡裁が罰金20万円の略式命令を出したが、男性は不服として正式裁判になった。
被害者赤信号無視で無罪の事件、これはいったい…こちらの続きです。60m手前で被害者を視認できた?ちょっと気になる内容で、「被害者が赤信号の横断歩道上で立ち止まった後に飛び出した」という報道もある点。これに関係する詳細が報道されました。判決は、事故当時の状況について、車は遅くとも時速約8...
札幌地裁の事実認定によると、被告人は指定最高速度を34キロ超過し、しかも被害者を視認可能な距離は60.1m手前としている。
この事実関係においては仮に被告人が指定最高速度を遵守して前方注視していたなら回避可能性があるようにも思えるところ、
被害者がクルマの接近を認識しながらも信号無視を継続してクルマの進路に飛び出た可能性を否定できないとして、被害者がそのような行動を取ることを予見できなかった可能性があるという論拠で無罪にしたように見える。
刑事は「疑わしきは被告人の利益に」ですから。
で、報道によると防犯カメラの映像を確認した上で現行犯逮捕したようになってますが、そもそも逮捕要件は「証拠隠滅や逃亡のおそれがあるとき」。
防犯カメラ上で証拠があるなら現行犯逮捕する必要はなかったという見方もできるし、どのタイミングで釈放されたのかわかりませんが、身柄拘束のまま検察送致されたなら略式起訴不同意はしにくい。
略式起訴の同意書にサインしないとなると、身柄拘束が延長されかねませんから…
とはいえ、札幌地裁判決の報道をみると「過失がなかった」ではなく「疑いを排除できない」としていることから、過失運転致死罪で起訴したことに違法性を求めることは難しい気もする。
検察の方針として確実に有罪になると考えられる事件に絞って起訴しているから有罪率99%以上になるわけですが、この事件は過失運転致死罪の嫌疑が全くないとは言えないわけでして。
事故を起こしてないのに人違いで逮捕起訴したなら当然大問題ですが、最高速度を遵守して前方注視していたら回避可能性があったと捉えて起訴することが問題なのか?と聞かれたら…
ところでこの事件、仮に被告人が指定最高速度を遵守していて事故を起こしたとして、同じように起訴するのか?という疑問が残る(ただし指定最高速度を遵守していたなら、60.1m手前で視認可能なら回避可能性はむしろ上がるという見方もできる)。
著しい速度超過という事実が起訴判断に影響していたのでは?という疑問もありますが、理屈の上では過失運転致死罪での起訴を断念し指定最高速度遵守義務違反罪(交通法22条、118条1項1号、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金)で起訴することもできるはず。
過失運転致死傷罪は「道路交通法違反の有無」ではなく「予見可能性と回避可能性の有無」だから、事故についての刑事責任が無罪になるのは理解できますが、著しい速度超過については社会的危険がある行為なのは確かなこと。
それを加味したら、今回の報道(国を提訴)について世論は同情的にはならないのではないかと思ったんだけど、
そもそも今回の報道については、速度超過の件は触れられていない。
34キロの速度超過でも事故の刑事責任とは関係ないのだから報道する必要がないという見方もできる。
とはいえ、仮に著しい速度超過の件を併せて報道していたなら、必ずしも世論は同情的にはならない気がする。
速度超過という違反があることと過失運転致死罪で逮捕・起訴したことは必ずしも関係はない話とはいえ、世間の見方ってそうじゃない。
過失運転致死傷罪を「どっちが悪いか?」とか、「著しい速度超過があった以上、逮捕されて当然だ」みたいな感覚の人が多いし、いまだに逮捕要件や過失運転致死傷罪の成立要件を理解してない人が多い。
「逮捕されたからには過失が大きいんです」みたいな誤った解説もみかけますが、推定無罪が働かない国と揶揄されるのはそういうところ。
ただまあ、報道とは本来、情報を余すことなく正確に伝えることに意義があるんじゃないかと思ってまして、それらの情報をどう捉えるかは視聴者に委ねるものなんじゃないかと思っているのですが、
例えば「苫小牧白バイ事故」についてもなぜか被告人が右折開始したときの距離間を報道しない。
ここが重要なポイントなのに報道しなければ、世間の認識がおかしくなるのは当然の話。
けど報道って本当に大事なポイントが報じられないことがわりとあって、
冒頭の件にしても、著しい速度超過があったことは過失運転致死罪とは関係ないし(それはたまたまの結果論とも言える)、逮捕・起訴したこととも直接的には関係ないと思われますが、たぶん世間はそうは見ないんじゃなかろうか。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
この男を擁護する気持ちは全くないですけど、北海道の郊外は制限+20km/h程度で走る車ばっかり。
千歳でレンタカーを借りた時のパンフには「黄色信号で止まらない直進車がほとんどなので、右折信号が有る交差点なら右折信号が青になって対向車が止まるのを確認して右折を始めましょう」なんて書いてあり、口頭でも右折は特に注意と言われましたね。
この男にしてみれば、80km/hチョイは「普通」で、青信号なら「停止は不自然」でしょうね。
判決が気になります。
コメントありがとうございます。
裁判の争点は逮捕、起訴の違法性になると思うので、おそらくは厳しいと思います。
ただまあ、速度遵守は大事なんですよね。