こちらの件。
特定小型原付を免許不要にしたのは、今時点では「最適解だった」と考えているのですが、その理由は記事にも書いた通り。
違法モペットや違法電動キックボード(これらは本来、保安要件を整えれば合法だった)よりも「免許不要(だけど時速20キロまでしか出ない)の特定小型原付においで」として釣った政策だと考えてまして、電動モビリティを特定小型原付に再編したいのだろうなと。
時速50キロとか出るような違法モペットを無免許で乗り回されるよりも、時速20キロまでしか出ない特定小型原付を選ぶほうがメリットがあるように「釣った」ものと考えますが、
特定小型原付を免許制にすべきという意見は多い。
4つの事実から検討します。
Contents
事故を起こした特定小型原付の7割は「免許保有」
これは特定小型原付が施行されて１年後に公表されたデータですが、事故を起こした者の7割は原付以上の免許を持っていた。
特定小型原付の「違反検挙」でみると、「通行区分違反(歩道通行や逆走)」が55％、信号無視が31％(両者合わせて86％)となり、これらの違反については免許保有者なら違反だと容易に理解できると考えられる。
ただし特定小型原付のルールには分かりにくい点があり、歩道上にある「普通自転車通行指定部分」を通行するには時速6キロモードにする必要がありますが(通常モードだと通行区分違反になる)、
普通自転車専用通行帯や自転車道については、時速6キロモードにする必要はない。
※これは自転車道
「自転車道」と「歩道の普通自転車通行指定部分」の違いが必ずしも周知されていないので、勘違いによるモード変更忘れで検挙された事案もあるかと。
とりあえず事故を起こした人の7割は免許保有者だという事実を押さえておく。
免許保有者と非免許保有者の違反率
実証実験(要免許)から特定小型原付に移行する段階で、警察庁は免許の有無と違反の件数について実験している。
内容はこう。
免許取得者50名と免許を持たない者50名を、電動キックボードで運転免許センターのコースを走らせて違反数をカウントしたもの。
採点項目はこちら。
まずは平均違反行為回数。
「免許あり」の平均違反回数が26.6回、「免許なし」は69.94回。
2.6倍の差がありますが、16歳～17歳については免許の有無で違反回数がさほど変わらないのに対し、「18歳～30代」と60歳以上はなかなかの差が出ている。
採点項目に基づいて点数化したのがこちら。
50人の延べ違反点数の合計は、免許ありが36585点、免許なしが120665点と大きな差があり、具体的違反行為としては「指定場所不停止」(いわゆる一時停止違反)、信号無視、右側通行(逆走)が多い。
これらからすると、免許の有無で違反行為数はだいぶ違うようにみえますが、
運転免許を受けている者、運転免許を受けていない者ともに、指定場所不停止、信号無視、右側通行、右左折方法違反、歩行者保護不停止等の順で点数が高かった。また、違反行為別に見ると、多くの違反では、運転免許を受けている者とそうでない者とで点数にさほど差が見られなかったが、指定場所不停止や信号無視、右側通行などについては、点数の開きが認められた（表４）。このうち、信号無視と右左折方法違反については、二段階右折に対する理解の不足が要因の一つとして考えられる。
③ 結論
②ウの採点結果をみると、運転免許を受けている者と受けていない者との間で、一部の項目を除き、運転者の運転行動に全体的には大きな差はないと言うことができる。
個々の違反行為では大きな差が生じているものもあるが、これらはもっぱら交通ルールに関する知識の差が要因となっているものと考えられる。https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/mobility/interim-houkoku.pdf
警察庁は「一部を除けば免許の有無で違反回数に大差なし」と捉えましたが、一部には大差が出まくっているのでして…
警察庁の結論はいささか強引に思える。
免許保有者だから違反しないわけもない
クルマを運転する人のほとんどは免許保有者ですが、電動キックボードに限らずクルマ、オートバイ、原付について、令和５年中に反則行為として告知した件数がどれくらいあるのでしょうか？
431万5,982件です。
交通取り締まり全体(反則告知、送検)の詳細はこちら。
一時不停止(1,267,094件)、最高速度違反(888,500件)、通行禁止違反(616,174件)、信号無視(428,565件)、携帯使用等(214,458件)の順になる。
一時不停止だけで126.7万件もあるし、信号無視も42.8万件。
信号無視だけで毎日1174件検挙されていることになる。
免許制だから違反しない、なんてことはあり得ないのでして。
しかも信号遵守については、免許の有無関係なく一般的な成人なら誰しもが知る基本的なルールと言える。
特定小型原付施行前の実証実験
特定小型原付が施行される前に、一部の電動キックボードを「小型特殊自動車」とみなす特例で実証実験していたのを覚えてますでしょうか？
電動キックボードをクルマ扱いする特例によりヘルメット着用義務がなくなり、小回り右折が義務になるなど物議を呼んだことは記憶に新しい。
クルマ扱いだったから免許が必須でしたが、飲酒運転事案が多発した。
免許を持っていたとしても残念ながら飲酒運転する人はいるのでして。
これら4つの事実をまとめると
これら4つの事実をまとめます。
・免許保有者でも違反が多発しており、年間の信号無視検挙数は約43万件(令和5年)。
・警察庁主催の実験によると、一時不停止や信号無視などについては、免許保有者と非免許保有者でだいぶ成績差がある。
そしてこれらを踏まえて。
以前から指摘するように、特定小型原付を免許不要にした理由の一つとして、
時速50キロとか出る免許/ヘルメット必須なモペットよりも、時速20キロまでしか出ないけど免許/ヘルメット不要の特定小型原付を選ぶほうがメリットが大きいという価値観を植え付けさせて、市場から違法モペットを追い出したいんじゃないかと思う。
モペットにしても、本来は保安装備を整えナンバーを取得し、免許とヘルメットがあれば合法な存在。
しかしインターネット通販で購入し、保安装備を整えず、ナンバーを取得せず、無免許ノーヘルで爆走する人が絶えない。
免許不要だけど時速20キロまでしか出ないよという特定小型原付は、違法モペットより特定小型原付を選ばせたいための方策だと考えてまして。
ただし、警察庁の実験や違反データからみてもわかるように、特定小型原付の違反は基本的なもの(一時不停止や信号無視、通行区分)に集中している。
要はここに対する教育が必要なんだと理解できる。
「モペットより特定小型原付を選ばせたい釣り」と考えると、免許不要にしたのは最適解だったと言えますが、じゃあモペットを市場から追い出すだけの成果が出ているか？については今後検証が必要。
けど仮に特定小型原付を免許制にした場合、違法モペットより特定小型原付を選ぶ理由がなくなるのでして…
特定小型原付の施行についてはやや展開が早すぎた感は否めないし、警察庁の実験にしても「一部を除き大差ないんです！」はコーヒー噴き出すレベル。
「一部に大差が出まくったんです！」が正解なはずですが、じゃあこの大差を埋めるのは何なのか？
免許必須にしたら「釣り効果」はほとんどなくなる。
これについてはいまだ答えがわからないのですが、例えば特定小型原付の講習を受けると何らかの優遇措置があるみたいな仕組みがあってもいいのかなと思うのよね。
免許制にしたら違反が減るとは思う(警察庁主催の実験から)。
しかし違反が撲滅することにならないのは明白(令和5年違反検挙数から)で、むしろ違反数の減少も微々たるものなんじゃないかとすら思える。
あと一つ勘違いされているのは、日本が導入した特定小型原付のルールは海外に比べて厳しい。
海外での状況も分析してルール化したことは評価できる。
あと興味深い流れとしては、大手のパナソニックが特定小型原付を開発し、既に型式認定を取得していること。
パナソニックが参入するとなると、だいぶ展開が変わりそうな気がする。
前回記事にも書いたけど、特定小型原付についてガセネタを流してでも批判する人がいるのは残念。
正しく批判すべきなのに、わざわざガセネタを使う人がいるのはどうなんですかね。
これら4つの事実をみたときに、今のところ最適解は免許不要&何らかの講習会が必要なんだと考えますが、そこについては意見が割れるかもしれません。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
Eチャリのおっちゃんが動画で疋田智氏の【LUUPの飲酒運転の割合は自転車の22倍、原付の30倍】というのを紹介してまして、ソースが知りたくて色々探したけど、ホントかどうか分からなかったのですが、LUUPの違反件数は登録台数の1.8倍なんてデータも出てきました。
LUUPが、と言うより、LUUPを移動手段とする人が違反しやすい人だと思いますし、免許がある無しも関係ないみたいですね。
コメントありがとうございます。
検挙数の比較なら無意味だと思いますし、そもそもちょっと前まで自転車の酒気帯び運転は罰則がありませんでしたし…
怪しいデータを語る人はいますが…