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進路変更した車両が無過失になる事例。

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弁護士先生が取り上げている事故について質問を頂きました。

側道から第2車線への車線変更による事故-後続車が速度違反30キロ超ー【153】 | 茨木・高槻・吹田・摂津の法律相談『弁護士法人茨木太陽』
最判令和6年5月9日 原審 東京高裁 令和5年8月9日 横浜地裁令和5年1月27日 自保ジャーナル2180号
読者様
読者様
こちらの判例は、進路変更車が0%で間違いないのでしょうか?
速度超過「+20%」、著しい過失「+10%」をいれても直進車100%には届かないと思うのですが。

結論からいうと、進路変更車が0%、後続直進車が100%で間違いないです。

 

さて、弁護士先生が解説するように進路変更態様の基本過失割合は進路変更車が70%、後続直進車が30%です。
基本過失割合がこのようになっている理由は、進路変更には後続車を確認して安全に進路変更する注意義務があり(道路交通法26条の2第2項)、進路変更する側の注意義務が大きい。
一方、後続直進車にも基本過失割合を設定している理由は、多くの場合このような事故では直進車にも前方不注視などの過失が認められるからです。

 

問題になるのは、進路変更車が十分な安全確認をしてから進路変更したのに、後続車が想定外の速度で突っ込んできた場合。
十分な安全確認をしているのだから、進路変更車に不注意(過失)がないことになる。

 

要はこの判例は、そういうことなのよ。
後続直進車は30キロ以上の速度超過な上に、進路変更車がいるのに何ら減速もせず、衝突直前でハンドルを切り中央分離帯に衝突した。
もし、進路変更車が進路変更した際に、既に後続直進車が間近に迫っていたなら話は別。
それなら基本過失割合から修正要素を適用する事案になりますが、この事案は基本過失割合を適用する事案ではないと裁判所が捉えたように思えます。

 

以前も取り上げたけど、右直事故の判例。

異常な高速度の右直事故と、過失割合の話。
右直事故の直進車が「時速120キロ」という異常な高速度だった2つの事例を取り上げましたが、刑事と民事の差は無視しますが、時速120キロという異常な高速度で差が出る理由はここ。①時速118キロで直進した白バイと衝突した右折車に、過失運転致死罪...

右折車と直進二輪車の基本過失割合は「右折車85%」ですが、福岡高裁 令和5年3月16日判決は直進二輪車を100%(右折車0%)とする。
なぜか?
事故の概要です。

・片側二車線(交差点付近は右折レーンを含め三車線)の信号交差点、中央分離帯あり
・夜間、双方ともに信号無視はない
・原告はオートバイに乗り、時速120キロ以上で第二通行帯を直進(指定最高速度は50キロ)
・被告は4輪車で、対向車を2台やり過ごした後に時速10キロで右折開始
・原告車と被告車が衝突

裁判所の判断はこちら。

控訴人は、衝突時の控訴人車の速度は時速100キロメートル程度である旨の陳述及び供述をする。
しかしながら、○県警察が、控訴人車の走行状況を撮影した防犯カメラの記録等を解析して、本件事故直前の控訴人車の速度を時速122ないし179キロメートルと算出していること(上記撮影地点から、控訴人が急制動の措置を講ずるまでの間に、控訴人車が減速したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人自身、警察が120キロメートル以上は出ていたというのであれば、間違いないと思う旨の陳述及び供述ををすることに照らすと、上記速度は120キロメートル以上と認めるのが相当である
車両は交差点に入ろうとするときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないところ(道路交通法36条4項)、控訴人は、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で控訴人車を進行させ、同車を、本件交差点を右折進行してきた被控訴人車の左側面後端に衝突させたのであって、控訴人に過失があるのは明らかである。
これに対し、被控訴人は、被控訴人車を本件交差点に進入させて一旦停止させ、対向車線を車両等が進行してきていないことを確認した上、時速10キロメートル程度の速度で被控訴人車を右折進行させたにすぎない。被控訴人に、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で本件交差点に進入してくる車両等を予見し、運転操作をすべき注意義務があったとするのは困難であるし、加えて、控訴人は、原判決別紙1の①地点から約75.9m手前で、被控訴人車が本件交差点を右折進行してくるのに気付いたというのであり、控訴人が時速50キロメートル程度の速度で走行していた場合、その停止距離(28m)や、被控訴人車の速度を考慮すると、本件事故の発生を回避し得た可能性が高いことに照らすと、本件事故は専ら控訴人の過失によるもので、被控訴人に過失はないというべきである。

福岡高裁 令和5年3月16日

要は右折車は十分な確認をしてから右折したのに、対向二輪車が想定外の速度で突っ込んできた。
通常であれば安全に右折できた距離だと判断されたから十分な確認をしていたとなるし、十分な安全確認をしているのだから不注意(過失)は認められない。

 

じゃあ苫小牧白バイ事故(直進車118キロ)はなぜ右折車が有罪になるんだ?と思う人がいるかもしれないけど、苫小牧白バイ事故は「右折車がノールック右折したところ、既に対向白バイは間近に迫っていた」わけ。

福岡高裁 札幌高裁
種別 刑事 民事
直進バイクの速度 時速120キロ以上 時速118キロ
右折車の挙動 本件交差点に進入させて一旦停止させ、対向車線を車両等が進行してきていないことを確認した上、時速10キロメートル程度の速度で被控訴人車を右折進行させた 右折6秒前(95m手前)で対向車を確認し、右折直前には対向車確認をしなかった(既に直進バイクが近距離に迫っていた)
判決 右折車は無過失 右折車は有罪

「対向二輪車が著しい高速度」という点は共通ですが、右折車が十分な安全確認をしていたか?つまり「右折開始時の両者の距離」が過失割合を大きく変えるのよね。

 

これは下記判例でも同じ。

優先道路通行車が114キロで直進。非優先道路通行車と衝突した場合の過失割合。
優先道路通行車と非優先道路通行車が衝突した場合、基本過失割合はこうなる。優先道路通行車非優先道路通行車1090ところで、優先道路通行車が著しい高速度で直進してきた場合、どうなるのでしょうか?優先道路通行車が著しい高速度で直進判例は名古屋地裁...

優先道路車と非優先道路車の基本過失割合は、非優先道路車が90%。
しかし名古屋地裁 令和4年9月28日判決は、優先道路車を95%(非優先道路車が5%)とする。

青車両(原告)は一時停止後、優先道路に向かい左折。
赤車両(被告)は優先道路(法定速度60キロ)を時速114キロで直進し衝突。

民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準として公にされている基本過失割合は、各事故において典型的な事案を想定したものであって、特異な事情がある個別の事案についても常に当てはまるというものではない。本件事故についてみると、被告車が法定最高速度を時速54キロメートルも上回る時速約114キロメートルという異常な高速度で走行していたという特異性があり、劣後道路からの左折進行車の運転者においてこのような高速度で直進車が走行していることを認識するのは容易なことではないし、他方、このような高速度で走行する車両の運転者は、周囲の交通の状況に応じた変化に対応し事故を回避することを自ら極めて困難にしているものといえる。そうすると、本件事故は、基本過失割合が当てはまる典型的な事案とはおおよそ言い難く

名古屋地裁 令和4年9月28日

要は、非優先道路車は安全確認をしてから優先道路に進入したのに、想定外の速度で優先道路車が突っ込んできた。

 

勘違いしやすいのは、優先道路車が著しい高速度だったなら必ずこういう過失割合になるのではない。
非優先道路車が安全確認して「通常想定される速度では起こり得ない事故だから」こうなるのでして、安全確認が不十分なまま優先道路に進入したなら全然違う過失割合になるのよ。

 

冒頭の進路変更事故にしても、そういう話だと捉えれば分かりやすいかも。
つまり優先側に著しい高速度があったとしても、非優先側の安全確認義務は免れない。
しかし非優先側が十分な安全確認をしていたと認められるなら、無過失になる。
つまり、問題になるのは両者の距離なのよね。

 

これらから言えるのは、相手がどうのこうのと言う前にまず自分の注意義務をしっかりやりましょうとなるし、注意義務を果たしていて起きた事故については、裁判所がきちんと評価して無過失又は無過失に近い判断をする。

 

けどこういう事案ってあまり知られていないのよね。
なぜかというと、片方がきちんと安全確認していた事故は少ないからだと思われる。

 

過失割合を解説する動画やサイトをみていると、基本過失割合から修正要素を加えて増減させる内容しか解説しないことが多い。
そもそも問題になるのは、非優先側がプレイを開始したときに「安全確認を十分していたか?」、つまり「両者の距離」次第で基本過失割合を適用するかしないかが変わりますが、

 

こういう事案から言えるのは、あなたがきちんと安全確認していたなら法はきちんと評価するという話なのよね。
民事が理不尽な世界だと勘違いする人が多いのですが、これらの判例を見ると、全然理不尽な世界ではないことがわかるかと。

 

大分の時速194キロ右直事故にしても、刑事裁判所は「右折車に過失がない」とする。
要はきちんと安全確認してから右折した(つまり十分な距離があることを確認していた)のに、あり得ない高速度で直進車が突っ込んできたもの。

 

法は不可能を強いるわけじゃないのに、大分の事故にしても「右折車が悪い」と語る人や、右折車のほうが過失割合が大きいと語る人がいてビックリする。

 

まあ、非優先側がきちんと安全確認していたところに、優先側が著しい高速度で突っ込んできた事故がマレだからあまり知られていないのかもしれないけど、そもそも基本過失割合はなぜそのような数字にしているか?を理解することが大事なのかと。

 

これらは路外右左折合流や転回、横断などでも考え方は同じです。
結局、非優先側が無過失になるのは「きちんと安全確認してからプレイしたか」つまり「プレイ開始時の両者の距離」が大要素なのよね。

 

逆にいえば、プレイ開始時の両者の距離がわからないものは過失割合の解説をしようがない。

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