ちょっと前に「ひょっこりさん」が自転車で妨害運転(再犯)し懲役一年の実刑判決になりましたが、

この人、過去に同様の妨害運転罪で実刑判決を受けている(さいたま地裁 令和3年5月17日)のみならず、同判決文は裁判所ホームページにも公開されている。
びっくりしたのは、再犯した妨害運転についても裁判所ホームページに判決文が公開されてまして(千葉地裁松戸支部 令和7年6月26日)。
では見ていきましょう。
【罪となるべき事実】
被告人は、令和6年4月15日午後0時39分頃、自転車を運転し、千葉県柏市(以下省略)付近道路を同市X方面から同市Y方面に向かい進行するに当たり、a(当時56歳)運転の普通乗用自動車の通行を妨害する目的で、同道路対向車線上を時速約31キロメートルで対向進行してきた同車に対し、法定の除外事由がないのに、同車の約29.01メートル手前で右転把して同道路の中央から右の部分である対向車線上にはみ出して運転するとともに、時速約15キロメートルで進行し、同車に自車を約5.38メートルまで接近させ、同人に回避措置を講じることを余儀なくさせ、他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転し、もって同人運転車両に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法による運転をしたものである。千葉地裁松戸支部 令和7年6月26日
前回事件のときは、妨害運転罪5件、妨害運転ではない安全運転義務違反1件、暴行で起訴されてますが、今回は一件の妨害運転罪のみで起訴したらしい。
今回は被告人側は全面的に妨害運転罪の成立を争っているので、判決文を見ていきます。
4 妨害運転について
⑴ 本件では、被告人自転車が中央線(道路の中央)から右の部分に全部又は一部をはみ出して通行することができる法定の除外事由(道路交通法17条5項)はないのに、被告人は、被告人自転車を右転把させ、中央線の右の部分にはみ出して進行したものであって、通行区分違反(同法17条4項)に該当する。そして、上記のとおり、被告人は、本件自動車の約29.01メートル手前でこのような違反行為に及んだものであるが、被告人自転車と本件自動車の速度からすれば、被告人は、本件自動車と二、三秒で衝突に至るという位置関係で突然このような違反行為を行ったものであり、このような行為は、本件自動車の運転手を驚愕狼狽させる行為であって、急ハンドルや急制動などの急な回避措置の起因となりうる行為であったと認められる。そして、本件現場付近道路の見通しは良好であるものの、幅員が約3.5メートル程度の広くはない道路であり、後続車もいたことなどの交通状況等にも照らせば、運転手の急な回避措置によって、本件自動車が縁石や防護柵へ衝突したり後続車が追突するなどの事故を生じさせるおそれがあったと認められる。
さらに、被告人は、本件自動車の約29.01メートル手前で中央線から右の部分にはみ出した後、すぐに左転把して進行車線に戻ることなく、時速15キロメートルで本件自動車に約5.38メートルまで接近している。対向車線にはみ出したまま1秒間に約4.16メートルという速さで本件自動車に迫ったものであり、他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転したものと認められ、安全運転義務違反(同法70条)に該当する。そして、このような行為は、本件自動車の運転手からすれば、正面衝突の危険性を予期させる異常な事態であって、急な回避措置を講じざるを得ない状況であり、事故を生じさせるおそれはさらに高まったと認められる。⑵ これに対し、弁護人は、本件自動車が一時停止した事実はあるが、安全な操作方法であって、急制動を要せず一時停止できる状況といえるし、後続車との距離も十分にあったことからすれば、急制動などで事故が生じる可能性はなかった旨主張し、また、被告人自転車が対向車線にはみ出した程度も約0.92メートルにとどまり、本件自動車と被告人自転車の速度なども考えれば、本件自転車が実際にしているように左方に移動して本件自動車と距離をとることが可能な状況であって、本件自動車と被告人自転車が衝突するなどして事故が生じる可能性はなかった旨主張する。
たしかに、本件では実際に事故は生じていないが、それは本件自動車の運転手が被告人自転車の接近を的確に認知し、適切に減速一時停止したことによるものであって、上記4⑴の状況からすれば、事故が生じる可能性が存在しなかったとは到底認められず、事故が生じる一般的抽象的可能性があったものと認められる。⑶ 以上から、被告人の被告人自転車の運転は、本件自動車に道路における交通の危険を生じさせるおそれがある方法による運転、すなわち妨害運転と認めた。
5 本件自動車の通行を妨害する目的について
⑴ 被告人は、「国道16号に入ろうと思っており、そのためには本件現場付近道路の先にある交差点を右折する必要があったが、右側に渡ってショートカットしようと思い、中央線を越えた。中央線を越える前に本件自動車が来ていることは分かっていたので、右側に渡れば本件自動車の邪魔になるとは思ったが、邪魔してやろうとは思っていなかった。」旨供述する。
しかし、被告人は、右側に渡るつもりだった旨供述しながら、中央線を越えた後、被告人が被告人自転車を右側に移動させる素振りはなく、そのまま直進し、本件自動車に接近していったもので、被告人の供述内容は被告人自転車の動きと整合しない。被告人自転車の動きからすれば、このような動きをすること自体に目的があったと考えるのが合理的であるが、被告人が本件自動車を認識し、本件自動車の邪魔となるであろうことを認識しながらも、あえてこのような動きをしたことからすれば、被告人は本件自動車の運転手に被告人自転車との衝突の危険を感じさせ、回避措置を講じることを余儀なくさせるなど、その自由かつ安全な通行を妨げることを意図していたと推認される。⑵ そして、被告人は、上記2⑷のとおり、本件直前にも、二度、中央線を越え、進行する自動車に接近するという本件同様の行為を行い、その都度、自動車は一時停止するなどの回避措置をしていたことが認められる。このような一連の運転行為からすれば、被告人は進行中の自動車を狙い、その自動車の運転手に回避措置を講じさせるなど、その自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して妨害運転を繰り返していたもので、本件はその一環であったと認めるのが相当である。
⑶ 以上から、被告人は本件自動車の自由かつ安全な通行を妨げる目的があったと認めた。
千葉地裁松戸支部 令和7年6月26日
被告人は「妨害する意思はなかった、右側に渡ろうとした」と供述するが、センターラインを越えながらも右側に移動するそぶりもなく、なぜか直進しているなど証拠と整合しない。
行為全体を見渡せば妨害目的と認定されるのは当然かと。
ところで、判決文をみると被告人の行為は2つの違反とされている。
①117条の2の2第1項8号イ 通行区分違反(17条4項)の妨害運転罪
②117条の2の2第1項8号チ 安全運転義務違反(70条後段)の妨害運転罪
科刑上一罪だからどちらであっても変わらないんだけど、若干疑問なのは妨害運転のベースになる道路交通法違反については、70条と17条4項は法条競合の関係にあり、17条4項が成立する以上70条を加算する運用は違う気がする。
ただし「センターラインをはみ出したこと(通行区分違反)」と「センターラインをはみ出した後に対向車に接近したこと(安全運転義務違反)」を分けて捉えているようにもみえる。
まあ、結論に影響しないからどっちでもいいんだけど。
もっと謎なのは、「未決勾留日数中240日をその刑に算入する」。
妨害運転罪の容疑で少なくとも240日も勾留されてたのかと…呆れ以上の感想が出てこない。
何をどうすれば道路交通法違反の容疑で240日も勾留されるのだろうか。
懲役一年だから、残りは120日程度ということになる。
既に服役した経験がある被告人に120日程度の懲役を喰らわせたところで何が変わるのか疑問しかないが、この人に必要なのは服役ではなく依存症的な改善プログラムなのではなかろうか?
ひょっこりすることに依存的な快楽を求めているような気がする。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


コメント
コメント失礼します。
出所しても再犯する未来しか見えないです。
コメントありがとうございます。
それはその通りでして…
240日勾留ということは、それだけの期間、送検しなかったとも言えますし、通常20日までの勾留期間を最低11回も延長した、ということですね。
被告人は、延長料金を払うべきです。
検察としては、最大限の罰を負わせるように頑張った期間なのでしょうけど。
コメントありがとうございます。
240日なので、起訴後勾留と思います。
起訴した後に裁判終了まで勾留延長可能です。