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それは「明らかな先入」になるのか?

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ちょっと前に書いたこちら。

優先道路 対 非優先道路事故の過失割合と過失修正。
運転レベル向上委員会が、専門書とは異なる独自の過失相殺論を展開してますが、優先道路 対 非優先道路(一時停止規制あり)の考え方や法律の解釈、過失修正の適用が専門書とは異なる独自見解になっている。おかしな解釈を鵜呑みにすると、事故に巻き込まれ...

優先道路 対 非優先道路事故の基本過失割合は10:90のところ、「非優先道路側の明らかな先入」として過失修正要素が設定されてますが、「明らかな先入」とは先に交差点に入ったかどうかではない。

優先道路通行車の通常の速度(制限速度内)を基準として、優先車が、非優先道路通行車の交差点進入時に、直ちに制動又は方向転換の措置をとれば容易に衝突を回避することができる関係にある場合

要は非優先道路通行車が交差点に進入した時点での両者の距離のことを指す。
基本過失割合10%で「回避可能」が既に評価されているのだから、過失修正要素の「明らかな先入」は「容易に回避可能だった場合」になる。

 

下記判例が分かりやすいんだけど、前半の説示で「回避可能」だから基本過失割合10%が肯定される一方、「容易に回避可能だったとまでは言えない」として「明らかな先入修正」は認めていない。

原告は、少なくとも被告車両を発見した時点でハンドル・ブレーキを的確に操作すれば被告車両との衝突を回避できたという点で、過失があると認められる。
しかし、上記(1)の諸事情、殊に、原告進行車線が被告車両との関係では優先道路であること、本件事故当時における被告車両の走行態様、被告車両が本件交差点に進入してから本件事故発生までの時間的間隔等に照らすと、原告が被告車両に気付いた地点や被告車両との衝突の危険を感じた地点から衝突地点までの各距離等のほか、前掲証拠で指摘された諸点を十分考慮したとしても、原告が被告車両との衝突を容易に回避できる状況にあったとまではいえないから、原告に著しい前方不注視や著しく不適切な運転方法といった「著しい過失」があるとまでは認められず、被告らの上記主張は採用できない。

福岡地裁 平成26年1月30日

さて質問を頂きました。

読者様
読者様
例えば非優先道路側が十分な確認をして交差点に進入し、横断歩行者優先のために交差点内で一時停止した。
そこに優先道路通行側が本来なら容易に回避可能なのに著しい前方不注視で突っ込んできたような場合が「明らかな先入」なのでしょうか?

なかなかいいところを質問されましたが、非優先道路通行車が客観的にも危険性がないタイミングで交差点に進入し、一時停止中に優先道路通行車が突っ込んできたなら、「明らかな先入」は適用されません。

 

なぜか?
そもそもこの関係においては、優先道路 対 非優先道路の「10:90」という基本過失割合が適用されないからです。

 

優先道路がある交差点では、非優先道路側に「優先道路の進行妨害禁止」があり、その反射的効果で優先道路側が優先権を得る。
かつ優先道路側には徐行義務がないことから、かなり強い優先権になる。

二十二 進行妨害 車両等が、進行を継続し、又は始めた場合においては危険を防止するため他の車両等がその速度又は方向を急に変更しなければならないこととなるおそれがあるときに、その進行を継続し、又は始めることをいう。

明らかな先入と評価される関係では、優先道路側が急ブレーキをするまでもない関係とも言えて、進行妨害禁止義務違反にすらならないわけですが、読者様がご指摘の状況は単なる追突事故と変わらない。
優先道路 対 非優先道路の基本過失割合は非優先道路90%と優先道路有利に設定されてますが、基本過失割合を適用するのが著しく不公平な事案になり、基本過失割合とは別の事案になる。

 

民事の基本過失割合は、その事故態様の中でよくみられる典型例について、いちいち裁判所を介さなくても示談交渉で解決できるように目安を示したもの。
優先道路態様で優先道路側に基本過失割合が10%設定されている理由は、多くの場合この事故態様では優先道路側にも軽度な前方不注視等があり、回避可能性があるからそれを基本過失割合にしただけで、回避可能性がない事案は非典型例になる。

 

読者様ご指摘の状況も、典型例が示す基本過失割合を適用するのが著しい不公平な事案なので、基本過失割合は適用されない。
なので「明らかな先入」も適用がない。

 

現実に「明らかな先入」が適用される事案はかなり少ないと思う。
むしろ「基本過失割合+明らかな先入」なのか「非典型例だから個別判断すべきか」で揉めることが多いかも。

 

ところで、民事の概念は道路交通法解釈と一致しない点が多々ありますが、道路交通法が目的とするのは「危険防止と円滑」、民事が目的とするのは「被害者への弁済」なのだから一致しないのは当たり前。
おかしな解説を繰り返すYouTuber氏については疑問しかないけど、ああいうのを信じると事故が起きたときに「某YouTuber氏の動画で解説されてました」として無理筋の主張をして恥をかくことにすらなりかねないから注意した方がいい。

 

判例タイムズに書いてあるかのように解説しながら、判例タイムズとは異なる見解ばかり発表するのは全く意味がわかりませんが…


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