こちらの件。
被告人は過失運転致死傷罪で起訴されてますが、危険運転致死傷罪が適用できない理由は今回の本筋ではないので置いときます。
被告人は自動運転にし、運転中に靴の履き替え?着替え?をしていた疑いがあるとされてますが…
さて。
このような記事が出ている。
署名活動を行うなかでもう一つ、失意の遺族にさらなる追い打ちをかけているのが、ネット上にあふれる心ない言説だ。「ある程度覚悟はしてましたが、どんなに丁寧に説明しても『親が悪い』『チャイルドシートをつけていなかったのでは』など、被害者の落ち度を探すコメントが寄せられます。気にしない方がいいと言われますが、『そもそも旅行に1歳児を連れていくな』と言われると、もうどうしたらいいのか……」。世間的な関心度の高い交通事故では、遺族への誹謗(ひぼう)中傷も深刻な社会問題となっている。
「最後の抱っこは忘れられない」悪質“ながら運転”に奪われた我が子…遺族を苦しめる誹謗中傷と厳罰化の壁2024年9月、高知・香南市の東部自動車道を走行中、反対車線からはみ出してきた車に正面衝突され、1歳の男の子が亡くなった事故。今年8月、過失運転致死傷罪で起訴された男は、自動運転技術を利用し、走行中にシートベルトを外して靴を履き替えるなどの...
世論って残酷で、あれこれ勝手に推測しては「チャイルドシートを使ってなかったのでは?」などとして被害者バッシングに走る。
問題なのは、このような推測で語る人たちは誹謗中傷になっていることの自覚がないこと。
「分析しただけだ」とか「推測しただけだ」とか、「チャイルドシートを使ってない人に対する啓蒙になるからいいんだ」などと正当化するのがお決まりパターンですが、被害者側からすれば誹謗中傷、被害者叩きにしか受け取れないのである。
根拠もなく「どうせ執行猶予がつくんです」などと語る人もいますが、類似事案を見る限り、ながらスマホ同等に捉えて執行猶予はつかない可能性が高い。

一例を挙げると、爪を切りながら脇見運転して起こした事故を「ながらスマホ同等」と捉え、過失の中でも重過失に属するとしたものがある。
道路交通における他者の安全を確保するという自動車運転者が果たすべき最も基本的な責務に対して無頓着な態度、すなわち道路交通に対する規範意識の乏しさが招いた事態といえるから、本件は、近時、非難の厳しい携帯電話等への脇見事案と質的に変わるものではなく、単なる過失とは一線を画す、重過失の範ちゅうに属する事案ともいえる 。
名古屋地裁 令和4年11月22日
さて。
事故を推測で語ることの危険性は以前も取り上げましたが、YouTuberが「事故を推測で解説してはいけない4つの理由」を挙げている。
【元海上自衛隊幹部が苦言】T-4墜落著書「海上自衛隊潜水艦最強ファイル」ニコ生:元海上自衛隊ユーチューバー。政治・軍事・国際・経済・憲法など話題のニュースをわかりやすくお届けします!サブチャンネル:
事故後に推測で事故を語ってはいけない4つの理由として、
②関係者への配慮
③調査妨害
④社会の混乱
を挙げる。
問題になるのは関係者への配慮でして、「推測」した内容が事実であるかのように独り歩きして誹謗中傷に繋がる。
これは正確性の欠如の結果とも言えますが、わからないものをあえて推測すればそうなるのは自明。
なかなか興味深い記事を見つけたのですが、

「遭難系YouTuber」という、山岳遭難事故の解説をするチャンネルの問題点を指摘している。
最大の問題点を「遭難した人へのひどい冒涜になっているケースが目立つ」としてますが、サムネイル画像やタイトルを誇張したり激しい文句を使って「視聴者を釣る」。
内容も推測ばかりで事実確認が取れてないことであっても「こうだろう」みたいな解説をするから、あたかもそれが真実であるかのように情報が独り歩きし、誹謗中傷になるのよね。
推測系の方々は勉強不足も目立つ。
例えば大分の時速194キロ直進車と右折車の事故について、「右直事故の基本過失割合は直進20%、右折80%」だとし、「30キロ以上の速度超過で過失修正しても右折車のほうが過失割合が高い」などと解説する動画も見かけた。
これはそもそも勉強不足の事実誤認と言わざるを得ず、著しい高速度の場合には基本過失割合の適用がないというのは半ば常識なのでして。
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準として公にされている基本過失割合は、各事故において典型的な事案を想定したものであって、特異な事情がある個別の事案についても常に当てはまるというものではない。本件事故についてみると、被告車が法定最高速度を時速54キロメートルも上回る時速約114キロメートルという異常な高速度で走行していたという特異性があり、劣後道路からの左折進行車の運転者においてこのような高速度で直進車が走行していることを認識するのは容易なことではないし、他方、このような高速度で走行する車両の運転者は、周囲の交通の状況に応じた変化に対応し事故を回避することを自ら極めて困難にしているものといえる。そうすると、本件事故は、基本過失割合が当てはまる典型的な事案とはおおよそ言い難く
名古屋地裁 令和4年9月28日
例えば福岡高裁 令和5年3月16日判決は右直事故の民事判例ですが、

以下の理由から右折車は無過失とした一審判断を支持した。
◯事故の概要
・片側二車線(交差点付近は右折レーンを含め三車線)の信号交差点、中央分離帯あり
・夜間、双方ともに信号無視はない
・原告はオートバイに乗り、時速120キロ以上で第二通行帯を直進(指定最高速度は50キロ)
・被告は4輪車で、対向車を2台やり過ごした後に時速10キロで右折開始
・原告車と被告車が衝突
控訴人は、衝突時の控訴人車の速度は時速100キロメートル程度である旨の陳述及び供述をする。
しかしながら、○県警察が、控訴人車の走行状況を撮影した防犯カメラの記録等を解析して、本件事故直前の控訴人車の速度を時速122ないし179キロメートルと算出していること(上記撮影地点から、控訴人が急制動の措置を講ずるまでの間に、控訴人車が減速したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人自身、警察が120キロメートル以上は出ていたというのであれば、間違いないと思う旨の陳述及び供述ををすることに照らすと、上記速度は120キロメートル以上と認めるのが相当である。
車両は交差点に入ろうとするときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないところ(道路交通法36条4項)、控訴人は、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で控訴人車を進行させ、同車を、本件交差点を右折進行してきた被控訴人車の左側面後端に衝突させたのであって、控訴人に過失があるのは明らかである。
これに対し、被控訴人は、被控訴人車を本件交差点に進入させて一旦停止させ、対向車線を車両等が進行してきていないことを確認した上、時速10キロメートル程度の速度で被控訴人車を右折進行させたにすぎない。被控訴人に、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で本件交差点に進入してくる車両等を予見し、運転操作をすべき注意義務があったとするのは困難であるし、加えて、控訴人は、原判決別紙1の①地点から約75.9m手前で、被控訴人車が本件交差点を右折進行してくるのに気付いたというのであり、控訴人が時速50キロメートル程度の速度で走行していた場合、その停止距離(28m)や、被控訴人車の速度を考慮すると、本件事故の発生を回避し得た可能性が高いことに照らすと、本件事故は専ら控訴人の過失によるもので、被控訴人に過失はないというべきである。福岡高裁 令和5年3月16日
相手が著しい高速度で、しかもきちんと確認していた場合に基本過失割合の適用がないということも知らずに、「右折車のほうが過失が大きい」などと誹謗中傷してしまう。
被害者側はこういう心ない「事実無根な誹謗中傷」に晒されるのよね。
推測系YouTuberなる分野があるらしいけど、この手のYouTuberは増えるでしょう。
上の記事にあるように、サムネイル画像やタイトルを誇張したり激しい文句を使って「視聴者を釣り」、中身は推測ばかりで事実確認すらしてないものが目立ちますが、これが誹謗中傷に繋がり被害者を苦しめてしまう。
これは被害者バッシングのみならず加害者バッシングになることもある。
例えば以前「犬のリードに自転車を引っ掛けた事故」にしても、インターネット上の意見の大半は
「チャリカスが著しい前方不注視だろ」
「どうせチャリカスがかっ飛ばしていたんだろ」
となってましたが、真相は「時速20キロからペダリングを止めて減速中」、「警察の再現実験でも犬のリードは視認困難」なのでして。

本件遊歩道は、公園敷地内の、歩車道の区分がなく、自転車・歩行者の通行区分もない見通しが良好な道路で、交通規制もない。本件遊歩道の路面は平坦なアスファルト舗装で、本件当時は乾燥していた。本件遊歩道は、本件現場の先で、左にカーブしており、カーブ部分の南側には、扇状の階段(以下「本件階段」という。)がある。
本件事故当日、原告は、父母とともに、本件現場付近に車で訪れ、(中略)。各人が一匹ずつリードでつないだ犬を連れていたが、原告が連れていた本件犬が自力で階段を下りなかったため、原告は、本件犬を抱えて本件階段を下りた。原告が、本件階段下の草地で本件犬を下ろしたところ、本件犬は本件階段付近の草を探っていた。本件リードは、リール付きでリードの出し入れをして伸縮できるものであった。なお、原告の父Bは、先に階段を下り、遊歩道を渡って北側の草むらで、自身が連れてきた犬を遊ばせていた。
被告は、ロードバイクである被告車を運転して、本件遊歩道のやや左側を、西から東に向かって、時速約20キロで走行していた。被告は、別紙図面3の①地点で、進行方向の(ア)地点に原告が佇立していること、被告からみて原告の左側の草むらに人(B)と同人が連れた犬がいることを認識したが、この時、原告がリードを把持して本件犬を連れていることは認識していなかった。被告は原告の右側のスペースが広く空いているように見えたため、原告の右側を通過しようと考え、また、進行先で遊歩道が左にカーブしていることから、被告車のペダルを漕ぐのをやめて速度を落として進行し、原告の右側を走行しようとした。被告が、②地点を通過しようとした時、原告が把持していた本件リードと、被告車のチェーン部分等が接触して絡まり、被告車はその場において停止する力を受けた一方、被告の身体は、慣性によって被告車から離れて、前方に進んで芝生の上に倒れ込み、被告車も倒れた。他方、原告は、右腕が引っ張られる形で転倒した。(中略)
実況見分が行われ、本件現場において、自転車走行時及び停止時の本件リードの視認可能性を確認するために、被告車と同等の大きさの自転車を時速20キロないし25キロの速度で走行させて本件リードの視認状況が確認された。
警察官は、本件リードの存在を認識しない前提で、3度にわたり、通常の状態で前方を注視しながら自転車を走行させる実験を実施したが、本件リードを張った状態及び緩ませた状態のいずれにおいても、本件リードを発見することは困難であった。一方、警察官が、本件リードの存在に注意しながら時速約20キロで自転車を走行させた時には、本件リードを約9m手前で視認可能であった。
これについて、最終的に自転車80%で和解してますが、過失割合自体は歩行者と自転車の力関係からすれば妥当。
しかし強い非難に値するかと聞かれたら疑問だし、少なくともかっ飛ばしていた事実もなければ、著しい前方不注視とも言えない。
しかし民事の過失割合が平等ではなく公平、つまり歩行者と自転車の力関係を考慮して決めるのだから「どっちが悪いか」の数字ではないことも知らないと、「自転車80%」という数字だけをみて「自転車の著しい過失」と捉えてしまう。
そしてその前提で過剰にバッシングする。
これなんかは判決文を探せばすぐに見つかるのに、それすらせずに妄想で解説するYouTuberとかいるから事実無根になるのですが、
推測系の怖いところは、推測する人が酔いしれてあたかも根拠があるかのように錯覚してしまう点なのかも。
その結果が誹謗中傷という不法行為になっていることを理解する必要があるし、誰しもが陥りやすい罠だから自戒を込めて冒頭の記事内容を受け止めたい。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。





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