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酒田市の事故は「危険運転致傷」ではなく「過失運転致傷」で起訴。

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酒田市の「横断歩道手前の停止車両を追い抜きして」起こした事故。
二週間経過していまだ被害者は意識不明らしいけど、検察官は危険運転致傷罪での起訴をせず、過失運転致傷罪で起訴したらしい。

【速報】酒田市の女子中学生意識不明の事故 はねた男は過失運転傷害で起訴 検察は危険運転での起訴はせず(山形) | 山形のニュース│TUYテレビユー山形 (1ページ)
先月28日に山形県酒田市で起きた、女子中学生がはねられ意識不明になった交通事故で、きょう山形地検は車ではねた男(62)を過失運転傷害の罪で起訴しました。この事故をめぐっては、警察が男を過失運転傷害の疑い… (1ページ)

この件については、危険運転致傷罪の「通行妨害目的態様」(4号)くらいしか当てはまりそうなものはない。
通行妨害目的の解釈については、「積極的な妨害意思が必要」とする立法者の見解のほか、「通行妨害になることの確定的認識で足りる」とした東京高裁H25.2.22判決、「目的犯として規定した理由は危険回避などやむを得ない場合を排除するためであり、通行妨害になることの未必的な認識で足りる」とした大阪高裁H28.12.13判決を取り上げた。

危険運転致傷に切り替えて送検したのは、警察の「やってますアピール」なのか?
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酒田市事故に思う危険運転致傷の成否。
ちょっと前に取り上げた酒田市の「横断歩道手前に停止車両があるのに追い抜きして起こした事故」の話。続報が出ており、いまだ意識不明らしい。回復することを願うしかないですが…ところで報道は相変わらず、危険運転致傷に切り替えたが詳細は不明という扱い...

近時の判例においても、名古屋高金沢支判R4.10.11が未必的な認識で成立するとする。

 

ところで、酒田市の事故が「通行妨害目的危険運転致傷」に該当するかについて考えたときに、「横断歩行者の通行妨害になることが確実と認識していた」といえるだけの証拠がないと厳しいと思う。
未必的な認識で足りるとした大阪高裁判決に対する批判は法学者から指摘されてますが、事故の状況からみて通行妨害目的危険運転致傷罪の成立を認めた結論については納得できる。

 

しかし今回の事案に通行妨害目的危険運転致傷を認めた場合、「横断歩行者がいないだろうと軽信した」過失犯との区別が曖昧になり、被告人の供述のみで結論が左右されかねない。
どちらにせよ、これらの判例をどう理解すべきかについて様々な法学者の意見を検討するのが適切だと思うので、インターネット上でみれる論文を3つ挙げました。

https://ls.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-071201535_tkc.pdf

https://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/22-4/004fang.pdf

https://kwansei.repo.nii.ac.jp/record/29145/files/13.pdf

さて。
個人的には38条2項の立法経緯からみても、38条2項態様の一部には通行妨害目的危険運転致傷罪の成立を認める余地があると思う。

しかしながら、横断歩道において事故にあう歩行者は、跡を絶たず、これらの交通事故の中には、車両が横断歩道附近で停止中または進行中の前車の側方を通過してその前方に出たため、前車の陰になっていた歩行者の発見が遅れて起こしたものが少なからず見受けられた。今回の改正は、このような交通事故を防止し、横断歩道における歩行者の保護を一そう徹底しようとしたものである。

まず、第38条第2項は、「車両等は、交通整理の行なわれていない横断歩道の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、当該横断歩道の直前で一時停止しなければならない」こととしている。

もともと横断歩道の手前の側端から前に5m以内の部分においては、法令の規定もしくは警察官の命令により、または危険を防止するために一時停止する場合のほかは停止および駐車が禁止されている(第44条第3号)のであるから、交通整理の行われていない横断歩道の直前で車両等が停止しているのは、通常の場合は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにするため一時停止しているものと考えてしかるべきである。したがって、このような場合には、後方から来る車両等は、たとえ歩行者が見えなくとも注意して進行するのが当然であると考えられるにかかわらず、現実には、歩行者を横断させるため横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出たため、その歩行者に衝突するという交通事故を起こす車両が少なくなかったのである。
そこで、今回の改正では、第38条第2項の規定を設けて、交通整理の行われていない横断歩道の直前で停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとする車両等は、横断歩道を通行し、または通行しようとしている歩行者の存在を認識していない場合であっても、必ずその横断歩道の直前で一時停止しなければならないこととし、歩行者の有無を確認させることにしたのである。車両等が最初から歩行者の存在を認識している場合には、今回の改正によるこの規定をまつまでもなく、第38条第1項の規定により一時停止しなければならないことになる。
「一時停止」するというのは、文字通り一時・停止することであって、前車が停止している間停止しなければならないというのではない。この一時停止は、歩行者の有無を確認するためのものであるから、この一時停止した後は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにしなければならないことになる。また、一時停止した結果、歩行者の通行を妨げるおそれがないときは、そのまま進行してよいことになる。

警察学論集、「道路交通法の一部を改正する法律」、浅野信二郎(警察庁交通企画課)、立花書房、1967年12月

とはいえ、どうやって立証するかについては疑問なのよね。
「交通整理の行われていない横断歩道の直前で車両等が停止しているのは、通常の場合は、第38条第1項の規定により歩行者の通行を妨げないようにするため一時停止しているものと考えてしかるべき」であり、さらに「先行車は横断歩行者優先のために停止していたと認識」、「横断する歩行者がいることを認識していた」なら、通行妨害になることの確定的認識があったとも言える。
横断する歩行者がいることを認識していたことの立証が「供述」だけでは公判維持に耐えきれないと思うし、どうやって立証するかについてはビミョーなのよ。

 

ただまあ、危険運転致死傷の「進行制御困難な高速度」にしても、立法段階から進路逸脱がなくても成立しうることが指摘されていた一方、

立案担当者の解説では,「速度が速すぎるため,道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自車を走行させることを意味する」とされた。それへの該当性が認められる具体例としては,以下の 2例が挙げられていた。①そのような速度での走行を続ければ,進路から逸脱させて事故を発生させることとなると認められる速度での走行,これには,カーブを曲がりきれないような高速度で自車を走行させる場合があたる,および②ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって,進路から逸脱させて事故を発生させると認められる速度での走行,である。

https://chuo-u.repo.nii.ac.jp/record/2000746/files/0009-6296_129_6-7_521-549.pdf

進路逸脱がない場合にどうやって立証するかについては悩ましい。
大分地裁判決は、進路逸脱を伴わなくても同罪を立証する方法を示したとも言えますが、

 

そもそも、酒田市の事故についてはどのような理由で危険運転致傷で送検したのか、なぜ危険運転致傷での起訴を断念したのかは全く報じられていない。
メディアがもう少し深掘りしないと、危険運転致死傷罪の理解が進まず誤解されたままなのよ。

 

「危険」だから危険運転致死傷罪になるわけではなくて、処罰法2条各号に規定されたものだけが危険運転致死傷罪なのだから。

 

同罪の限界を探る事案としては興味深いですが、そもそも公判維持に耐える立証が困難なのでしょうし。
けど、「警察のやってますアピールだ」というのはかなり不勉強と言わざるを得ない。

危険運転致傷に切り替えて送検したのは、警察の「やってますアピール」なのか?
運転レベル向上委員会って陰謀論が本当に好きなんだなと思ってしまいますが、酒田市の「停止車両追い抜きして横断歩行者をはねた事故」について、過失運転致傷から危険運転致傷に切り替えて送検したのは「警察のやってますアピール」だとする。実務を理解して...

未必的認識で足りるとした判例を紹介したら、彼の持論である「立法時に含まないと決めたから含まない」を崩壊させてしまうから紹介するわけにはいかないだろうけど、自己訂正できないと情報操作にすらなりうるのよね。

 

被害者の回復をお祈りします。

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