PVアクセスランキング にほんブログ村
スポンサーリンク

危険運転致死傷罪「アルコール」と「殊更信号無視」は同時に成立するか?

blog
スポンサーリンク

ちょっと前に読者様から下記について、1号の「アルコール態様」が成立しない理由について質問を頂いたのですが、

郡山の受験生死亡事故、被告に懲役12年判決 危険運転を認定:朝日新聞
福島県郡山市で1月、大学受験で訪れていた女性が車にはねられて死亡した事故で、自動車運転死傷処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪に問われた同市の無職池田怜平被告(35)の裁判員裁判で、福島地裁郡山支部…
(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
七 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

この事件は飲酒運転と赤信号無視。
殊更信号無視(7号)は赤信号であることの確定的認識が必要であるところ、

 

1号は「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」、つまり信号すら認識できないような状態をイメージしているので、1号と7号が同時に成立することはないんじゃないかと思うのですが…

 

ところで、同判決文が公開されている。
事実認定をみていきましょう。

第2 証拠により認定できる事実
1 本件交差点周辺の道路状況等

本件交差点は、m駅の西側を南北に延びる片側二車線(一部三車線の箇所がある。)の直線道路(以下「本件道路」という。制限速度は時速40キロメートル。)上にある。本件道路は、本件交差点の北方約482メートルの地点で、東西に延びる通称n通りと交差しており、同交差点(①交差点という。)と本件交差点との間には、3つの交差点(北側から順にそれぞれ②~④交差点という。)があり、各交差点には、信号機が設置されている(ただし、③交差点のみ押しボタン式。)。①交差点から本件交差点までの各交差点間の距離(北側に位置する各交差点の北側停止線〔①交差点のみ南側停止線〕から南側に位置する各交差点の進行方向右側に設置された信号機までの距離)は、①交差点から②交差点までが約192メートル、②交差点から ③交差点までが約113メートル、③交差点から④交差点までが約54メートル、④交差点から本件交差点までが約112メートル である。①交差点から本件交差点までは一直線で見通しがよく、遅くとも③交差点において、④交差点及び本件交差点に設置された信号表示を視認することができる。なお、被告人は、m駅からほど近い場所に居住しており、本件道路を日頃から運転していたため、本件道路に存在する各交差点及び信号機の位置をよく把握していた。

2 被告人の走行状況等

被告人は、勤務先の同僚と共に飲酒をして、令和7年1月22日午前4時25分頃(以下、時刻は同日。)、自宅に帰宅した後、午前4時30分頃、ディスカウントストアでUSBメモリを購入するために、車を運転して自宅を出発した。被告人は、道中で、本件交差点及び ④ないし②の各交差点を順次南から北へ通過し、①交差点を左折したが、④交差点及び①交差点では、それぞれ赤色信号に従って停止した(その余の交差点の信号機は青色を表示していた。)。
被告人は、午前4時50分頃、前記ディスカウントストアに到着し、午前6時26分頃まで同店駐車場で睡眠をとった後、自宅に財布を忘れたことに気づき、同店駐車場を自宅に向けて出発した。
被告人は、午前6時31分53秒頃、①交差点において、赤色信号が表示されていた同交差点を西側から南方向に右折しようと進入したところ、同交差点を南側から東方向に右折しようとしていたタクシーと正面衝突しそうになった。被告人は、一旦停止した後、ハンドルを右に切り、対向車線を 逆走する形で、同タクシーの助手席側を通過し、さらに、同タクシーの後方を走っていた対向車両にも衝突しそうになったため、ハンドルを左に切って同車両を回避した後、自車を時速約54キロメートルまで加速させつつ自車線に戻った。その後、被告人は、赤色信号が表示されていた②交差点及び④交差点を速度を緩めることなく通過し(④交差点通過時の速度は時速約68キロメートル。)、午前6時32分23秒頃、同じく赤色信号が表示されていた本件交差点に時速約70キロメートルで進入して、同交差点を横断歩行中のAに自車を衝突させたが、この間、随時直進車線に車線変更をしつつ進行しており、蛇行運転や車線逸脱行為は見られないなお、被告人が、①交差点から本件交差点までの各交差点を通過した時間帯は、各交差点の対面信号機が赤色を表示した後、①及び本件交差点においてはそれぞれ約13秒後、②及び④交差点においてはそれぞれ約8秒後である。
本件事故後の午前6時56分頃に行われた飲酒検知の結果によれば、被告人は、呼気1リットル中0.28ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態であったが、約10メートル正常に歩行し、約10秒間ふらつくことなく直立することができた。

要はこの事故について疑われるのは下記ですよね。

A.赤信号だという確定的認識を持ち、あえて信号無視をして事故を起こした(処罰法2条7号)
B.赤信号を認識できないような飲酒状態だったために、信号無視になって事故を起こした(処罰法2条1号)

捜査の結果、被告人はこの道路に精通しており、①交差点で赤信号無視して正面衝突になりそうになったことを適正に回避していて、随時直進車線に車線変更をしつつ進行しており、蛇行運転や車線逸脱行為は見られない。
そして事故後の歩行検査でもふらつきはない。

 

これらからすると、被告人が赤信号無視した理由は「故意に赤信号を無視したもので、アルコールの影響で判断がおかしくなったわけではない」と言えますよね。

 

弁護側の主張は認められていない。

これに対し、被告人は、飲酒の影響により眠気が強く、ところどころ記憶がないことを述べるほか、①交差点及び②交差点では、 目をこすっていたり、視界がぼやけていたから、赤色信号を認識することができ なかった、③交差点通過後は、自車のエアコンのダイヤルを操作しようとして目線を下げたことによって、④交差点及び本件交差点の信号機を見落とし、本件交差点直前で顔を上げた際に初めて、本件交差点の赤色信号と横断中のAに気づいた旨述べ、弁護人も、かかる被告人供述に依拠して、被告人は、①交差点を右折する時点で、飲酒により極めて注意力散漫な状態で運転を続けたことにより、各交差点の赤色信号を見落としたのであって、赤色信号を殊更に無視したわけではないと主張する。
しかし、被告人は、自宅を出発してから、本件事故を起こすまで、 ディスカウントストアからの帰り道で 信号表示を無視した点を除いては、周囲の車両の有無や 信号表示、車線を含む道路状況を適切に把握し、それに応じた運転ができており、 本件事故後の飲酒検知時の様子も併せて考慮すれば、 被告人の酔いの程度がそこまで強いものであったとは考え難い仮に、被告人が、①交差点までの間に強い眠気を感じていたとしても、タクシーに衝突しそうになるという事態に直面すれば覚醒するはずであり、その後、本件交差点までの短時間に 、再度強い眠気を感じるとも思われない。また、各信号表示を見落とした理由に関する被告人の供述は、そのような長時間目をこすったりエアコンのダイヤルを見たりしたという点で不自然であるし、前記認定したように①交差点から本件交差点までを随時車線変更しながら、蛇行運転することなく 走行している点などの客観的な走行状況とも整合しない。被告人供述は信用できない。

福島地裁郡山支部 令和7年9月17日

被告人はエアコンのダイヤルをみていて信号を見落としたとも主張してますが、その間「随時車線変更しながら、蛇行運転することなく 走行している点などの客観的な走行状況とも整合しない」。
車線変更しながら運転するには当然前をみているわけで、しかもその車線変更は「蛇行」ではなく意図的。
そうすると前をみていた証拠だよねとなり、赤信号だと確定的に認識しながらあえて無視した事故だと言える。

(量刑の理由)
被告人は、飲酒して帰宅後、体にアルコールが残っていることを自覚しながら、大した理由もないのに運転を開始した上、駅前の大通りである本件道路において 、約500メートルという短距離の間に制限速度を時速30キロメートルも上回る速度まで加速しながら 、赤色信号を表示する複数の交差点を減速せず立て続けに通過して本件交差点に進入し、本件事故を起こした。このような運転態様は、本件当時、本件道路の交通量がさほど多くなかったことを考慮しても、それ自体が通行中の車両や通行人に衝突し、重大な結果を生じさせる危険性が高い無謀な運転といえる。実際に、被告人は、①交差点において、赤色信号を無視して交差点に進入したことなどにより、タクシーやその後続車両に衝突しかねない事態を引き起こしたのに、その後も危険な運転を続けて本件事故を起こしており、敢えて無謀運転を継続した意思決定は、厳しい非難に値する。
本件事故によって、Aの死亡という取り返しのつかない結果が生じるとともに、Bも傷害を負っており、結果は極めて重大である。被害者らは、信号表示に従って横断歩道上を横断していたのであり、全く落ち度はない。
被告人車両の損壊状況等から認められる本件事故態様に照らして、事故の際にAが受けた身体的苦痛や恐怖などの精神的苦痛は相当なものあったと認められるし 、歯科医師になるという夢のために努力してきたのに、大学受験当日の朝に理不尽にも一瞬で命を絶たれたAの無念は、察するに余りある 。Bが受けた傷害は、幸いにも加療約2週間にとどまっているものの 、Bは、本件事故当時にAに対してより適切な対応をすることができたのではないかと思い悩み、その苦しい心情を当公判廷において述べており、このような結果を軽視することはできない。

加療約2週間の軽症で済んだ被害者Bにしても、実際には苦しんでいるのよね。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました