PVアクセスランキング にほんブログ村
スポンサーリンク

安全運転義務違反の嫌疑。

blog
スポンサーリンク

ツールド北海道事故について、主催者が書類送検されたのは別として、被害者が道路交通法違反(安全運転義務違反)として書類送検されるのはどうなんだ?という声は絶えませんが、

ツールド北海道事故について、主催者らを業務上過失致死容疑で書類送検。
ツールド北海道事故の続報が出ている。2023年9月、自転車ロードレース「ツール・ド・北海道」で、出場した当時21歳の男子大学生が乗用車と衝突し死亡した事故について、警察は大会を主催した団体の理事長ら3人と乗用車の運転手、そして死亡した男子大...

これについてですが、刑訴法の規定により、犯罪捜査したときには書類送検することは義務なのでして。

第二百四十六条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。

当然、被害者がセンターラインを越えたいきさつも捜査の対象なのだから、被害者の嫌疑について捜査した以上は書類送検することは義務になる。
要するに、「書類送検=犯罪確定者」「書類送検=犯罪の疑いが濃厚」というイメージからそう感じるのでしょうけど、捜査した結果として違反とは認めがたいと警察が判断したとしても、その捜査結果は検察官に送致する義務があるだけなのよね。

スポンサーリンク

一例として

似て非なる事例を紹介します。

逆走自転車と衝突した自転車が安全運転義務違反&重過失致傷!?
以前から逆走自転車問題については何度も書いてますが、逆走自転車との距離があるときには、左端に寄せて停止して待ったほうがいいよと書いてきました。今回の判例は逆走自転車と順走自転車の衝突です。順走自転車が犯罪?判例は東京地裁 令和3年7月2日。...

判例は東京地裁 令和3年7月2日、国家賠償請求訴訟。
事案の概要ですが、逆走自転車と衝突した「順走自転車」が、安全運転義務違反等で書類送検されたことを不服として提訴したもの。

 

3つの事案に分けることができます。

 

<1>
原告が自転車に乗り左側通行(順走)していたところ、逆走自転車と衝突。
原告が道路交通法70条違反(安全運転義務違反)の容疑で書類送検。

(安全運転の義務)
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

<2>
1ヶ月半後、原告が自転車に乗り左側通行(順走)していたところ、逆走自転車と衝突。
原告が重過失傷害の容疑で書類送検。

(業務上過失致死傷等)
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

<3>
東京都公安委員会が原告に対し、自転車違反者講習の通知を送付。

 

なお1と2については、刑事事件としては以下のようになっています。

<1>

原告 逆走自転車
書類送検容疑 70条違反(安全運転義務違反) 17条4項違反(左側通行義務違反)
処分 不起訴(起訴猶予)

<2>

原告 逆走自転車
書類送検容疑 刑法211条後段(重過失傷害) 刑法211条後段(重過失傷害)
処分 罪名を過失傷害(刑法209条)に変更の上、不起訴(親告罪の告訴欠如) 不起訴(起訴猶予)

※重過失傷害罪は非親告罪ですが過失傷害罪は親告罪のため、相手方から刑事告訴がないと公訴提起できません。

 

書類送検したのは違法と主張し賠償請求してますが、請求棄却。

原告は、本件交差点を自転車に乗車して左折進行するに際し、進行方向前方の状況を確認すべき義務を負っていたにもかかわらず、本件交差点を左折進行するに際し、前方の状況の確認を怠り、速度を保ったまま左折進行した結果、対向して進行してきた訴外Bが運転する自転車と正面衝突したことが認められ、その際、衝突回避措置も取られていなかったことが認められる。
そうすると、第1事故について、警察官が原告について安全運転義務違反(道路交通法70条)の嫌疑があるとして事件を検察官に送致した判断に誤りがあるとは認められない。

 

東京地裁 令和3年7月2日

安全運転義務違反の嫌疑はあるのだから、書類送検したのは違法ではないとする。
なお、刑事処分は不起訴です。

 

違反確定だから書類送検するわけではないし、それこそ不起訴理由が「嫌疑なし」であっても書類送検はされているのでして。

被害者の嫌疑

ツールド北海道事故では、被害者はセンターラインを越えて追い越ししようとして対向車と衝突したとされる。
そうすると外形的には通行区分違反(道路交通法17条4項、5項4号)の嫌疑はあることになる。

 

ではなぜ通行区分違反(17条4項)ではなく安全運転義務違反(70条)として送検しているか?
これの理由は公表されてませんが、安全運転義務は他の具体的条文を補完する目的であることから、他条違反が成立するときには安全運転義務違反は成立しないとする(最高裁 昭和46年5月13日)。

 

で。
あくまでも想像になりますが、通行区分違反(17条4項)は故意犯の処罰規定しかないのだから、道路中央から右側にはみ出した認識が必要になる。
今回の被害者がそれを認識していたのかは確かめようがないのだから、過失による安全運転義務違反として送検しただけなんじゃないかなと。

 

70条には過失犯の処罰規定がありますが、過失犯の処罰規定がない他条の内容を過失による安全運転義務違反として処罰できるか?という問題があり、最高裁は構成要件を満たすなら可能だとする。

 道路交通法七〇条の安全運転義務は、同法の他の各条に定められている運転者の具体的個別的義務を補充する趣旨で設けられたものであり、同法七〇条違反の罪の規定と右各条の義務違反の罪の規定との関係は、いわゆる法条競合にあたるものと解される(最高裁昭和四五年(あ)第九五号同四六年五月一三日第二小法廷決定・刑集二五巻三号五五六頁参照)。すなわち、同法七〇条の安全運転義務は、他の各条の義務違反の罪以外のこれと異なる内容をもつているものではなく、その構成要件自体としては他の各条の義務違反にあたる場合をも包含しているのであるが、ただ、同法七〇条違反の罪の構成要件に該当する行為が同時に他の各条の義務違反の罪の構成要件に該当する場合には、同法七〇条の規定が同法の他の各条の義務違反の規定を補充するものである趣旨から、他の各条の義務違反の罪だけが成立し、同法七〇条の安全運転義務違反の罪は成立しないものとされるのである。
つぎに、同法七〇条の安全運転義務違反の罪(ことに同条後段違反の罪)と他の各条の義務違反の罪とは、構成要件の規定の仕方を異にしているのであつて、他の各条の義務違反の罪の構成要件に該当する行為が、直ちに同法七〇条後段の安全運転義務違反の罪の構成要件に該当するわけではない同法七〇条後段の安全運転義務違反の罪が成立するためには、具体的な道路、交通および当該車両等の状況において、他人に危害を及ぼす客観的な危険のある速度または方法で運転することを要するのである。したがつて、他の各条の義務違反の罪の過失犯自体が処罰されないことから、直ちに、これらの罪の過失犯たる内容をもつ行為のうち同法七〇条後段の安全運転義務違反の過失犯の構成要件を充たすものについて、それが同法七〇条後段の安全運転義務違反の過失犯としても処罰されないということはできないのである。
これを本件についてみるに、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)二五条の二第一項の「車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、後退してはならない。」との規定の過失犯たる内容をもつ行為は、直ちに道路交通法七〇条後段の安全運転義務違反の過失犯の構成要件を充たすものではなく、具体的な道路、交通および当該車両等の状況において、他人に危害を及ぼす客観的な危険のある速度または方法による運転だけがこれに該当するのであるから、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)二五条の二第一項違反の過失犯が処罰されていないことから、その過失犯たる内容をもつ行為のうち道路交通法七〇条後段の安全運転義務違反の過失犯の構成要件を充たすものについて、同法七〇条後段違反の過失犯として処罰できないとはいえないのである。
そうすると、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)二五条の二第一項違反の過失犯たる内容をもつ被告人の本件後退行為につき、道路交通法七〇条後段の安全運転義務違反の過失犯処罰の規定の適用がないとする理由はなく、かえつて、同法七〇条の安全運転義務が、同法の他の各条に定められている運転者の具体的個別的義務を補充する趣旨で設けられていることから考えると、他の各条の義務違反の罪のうち過失犯処罰の規定を欠く罪の過失犯たる内容を有する行為についても、同法七〇条の安全運転義務違反の過失犯の構成要件を充たすかぎり、その処罰規定(同法一一九条二項、一項九号)が適用されるものと解するのが相当である。
原審の認定するところによれば、被告人は、国道を南進中の車があり、かつ国道から町道への見通しが極めてよくない状況であるのに、その交通状況を十分確認しないで南進中の車はないものと軽信した過失により、後退の時機、程度、方法についての判断を誤まり、車体後部を国道(車道)に突出させるまで後退させるという危険な運転方法をとつたというのであるから、被告人の右後退行為は、具体的な道路、交通および当該車両等の状況において、他人に危害を及ぼす客観的な危険のある方法による運転で、かつ、かかる運転をするについて被告人に過失があつたと認められる可能性が十分あるというべきであり、原審において検察官から過失による安全運転義務違反の予備的訴因が追加されていたのであるから、原審としてはこの点について判断をするべきであつたのにかかわらず、前記のように道路交通法七〇条、一一九条二項、一項九号の解釈適用を誤つた結果、その判断をすることなく、被告事件が罪とならないとして被告人に無罪を言い渡しているのであつて、原判決には判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、刑訴法四一一条一号によつてこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

最高裁判所第一小法廷 昭和48年4月19日

被害者がセンターラインを越えた認識があり外形的にもセンターラインを越えていたのか、それともレースによる興奮状態などによりセンターラインを越えた認識がなく外形的にはセンターラインを越えていたのかは、被害者死亡なのでわかるわけもない。

 

前者なら通行区分違反(17条4項、119条1項6号)、後者なら安全運転義務違反(70条後段、119条3項)になりますが、過失によるセンターラインオーバーの全てが安全運転義務違反になるわけではなく、見通しが効かないカーブで対向車が迫っていたという状況があるから70条後段の構成要件を満たす(見通しが効かないカーブで対向車が迫っていた状況を見逃して対向車線に進出したことは、「他人に危害を及ぼさないような方法」に反する)。

 

たぶんそういう理由で安全運転義務違反として書類送検したのではないかと思われますが、被害者死亡なので自動的に不起訴になる。
また、責任の軽重を考えれば、仮に被害者に安全運転義務違反が成立するとしても、主催者の安全管理のほうがはるかに大要素なのは言うまでもない。

 

ところでこの件、運転レベル向上委員会は「道路使用許可を出した場所には道路交通法は適用されません!」と何度もガセネタを流してましたが、東京高裁昭和42年判決は道路使用許可を出した場所でも道路交通法は適用されるとしてますし、何より今回の報道が出てきて辻褄が合わなくなる。

 

ろくに調べもせず思いつき程度で動画を作成するからこうなるのだし、ガセネタを流して社会を混乱させているのだから笑えない。

ツールド北海道事故、「道路交通法の適用があるか?」なんてどうでもいい論点。
ツールド北海道事故が起きたのは9月8日なので、もう3ヶ月半以上が経ちました。だいぶ風化した感がありますが、個人的には大会主催者の責任が大きいと考えてます。主な問題点は下記2点。①片側一車線&見通しが悪い狭い峠道で「道路左側部分」のみでの開催...

勉強不足、知識不足の素人が自信満々にガセネタを流してしまうのだから、問題としては深刻なのよね。

 

そしてこの書類送検については、「違反確定者」ではなく「違反の嫌疑があり捜査対象になった者」であるという以上の意味はないと思う。

コメント

タイトルとURLをコピーしました