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歩道を横切り車道に進出する際の注意義務。

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今回取り上げるのは、路外の店舗から歩道を横切り車道に進出する際の注意義務についてです。

運転レベル向上委員会の解説によると、このマクドナルドから歩道を横切り車道に進出しようとする際に、一時停止義務を怠ったことが事故の原因だとする。

https://maps.app.goo.gl/HXG2UiZnnhU3FfCW8

これを一時停止義務違反(道路交通法17条2項)と答える人は、残念ながら事故予備軍としか言えない。

 

あくまでも加害車両目線で考えて欲しいんだけど、歩道に進出しようとするにあたり、左側には巨大な壁がある。
壁により歩道左側は全く視認できない。

 

歩道を通行するのは、通常の速度の歩行者から、ジョギングする人、小走りや全力疾走の小学生、自転車などが考えられる。
歩道左側は全く視認できないのだから、これらを想定して事故を回避する義務を負うのよね。

 

一時停止しても、運転席からは歩道左側の視野がかなり限定されてしまう。
つまり一時停止では足りない。

 

さて、シチュエーションが酷似した判例がある。
判例は広島高裁 令和3年9月16日。
過失運転傷害被告事件です。

 

道路外から歩道を横切り車道に進出する際に、歩道通行自転車と衝突した事故まです。

道路外のガソリンスタンドから進出する際に、歩道左側には高さ2.5mの壁があり左側が見えないにもかかわらず、徐行進行した。
そこに歩道通行する自転車(時速39.6キロ)が衝突した事故になります。

 

歩道通行自転車には徐行義務があるし、歩道でなんちゅうスピード出してんだ!となりますが一審は「歩道を横切る際に一時停止を怠った過失」として有罪。

 

一審が認めた「罪となる事実」がこれ。

被告人は,平成30年7月10日午後1時30分頃,普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転し,広島市a区bc丁目d番e号所在のガソリンスタンド(以下「本件ガソリンスタンド」という。)敷地内からその北方に接する歩道(以下「本件歩道」という。)を通過して車道(以下「本件車道」という。)へ向け進出するに当たり,本件歩道手前で一時停止し,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約5kmで進行した過失により,折から本件歩道を左から右へ向け進行して来たA(当時41歳)運転の自転車(以下「A自転車」という。)に気付かず,A自転車右側に自車右前部を衝突させてAを路上に転倒させ,よって,Aに入院加療150日間を要する脊髄損傷等の傷害を負わせた。

ところが広島高裁は「是認できない」として一審判決を破棄します。

原判決は,その説示に照らし,本位的訴因の内容を⑴で当裁判所が理解したのと同様の趣旨で捉えた上でこれを是認し,そのとおりの犯罪事実を認定したものといえる。しかしながら,以下の理由からこの判断は是認することができない。

 

ア 被告人車両の進路に沿って本件ガソリンスタンド敷地内から本件歩道に進出しようとする場合,左方の見通しが不良であったことは原判決も説示するところである。4のとおり,本件においては,高さ2.5mの壁が本件ガソリンスタンド敷地の西端に南北方向に設けられ,本件ガソリンスタンド敷地と本件歩道との境界線上まで及んでいるのみならず,その北端付近には看板等も設置されている。加えて,被告人車両においては,車両先端からルームミラーまでの距離が約120cm,同じく運転席の背もたれまでの距離がおおよそ160cmであるから,本件歩道手前の地点に被告人車両を停止させた状態では,運転者である被告人は,本件歩道と本件ガソリンスタンドの境界線から1m以上手前(南側)の地点にいることになる。記録によれば,同地点からは,上記壁等遮へい物の存在により,本件歩道上の左方の状況については,視認することが困難な状況にあったものと認められる。
そうすると,被告人が仮に本件歩道手前の地点で一時停止をしても,左方から来るA自転車について視認することは困難であるから,本件歩道手前の地点で一時停止をして左右等の安全確認を行ったとしても,左方から来るA自転車を発見,視認して衝突回避措置を執ることはできなかったことになる。
したがって,本位的訴因において本件過失の根拠となる注意義務として行うべきとされた本件歩道手前の地点での一時停止及び左右等の安全確認措置は,本件事故の回避を可能ならしめる有効な措置とはいえず,本位的訴因における上記注意義務及びその違反は,被告人に過失責任を問うことのできないものであったといわざるを得ない。
原判決は,このような過失責任を問うことのできない注意義務を設定した本位的訴因をそのまま是認した点において,その事実認定は,論理則,経験則等に違反した不合理なものといわざるを得ない。

イ また,原判決は,本位的訴因における過失行為と本件結果との因果関係を肯定し,本件結果を本位的訴因における注意義務違反,つまり,本件歩道手前の地点における一時停止及び安全確認の各義務違反に帰責しているが,この判断についても是認することはできない。
すなわち,本件においては,上記のとおり,被告人には,本位的訴因に係る本件歩道手前の地点での一時停止義務及び安全確認義務を課すことはできず,本位的訴因における被告人の行為に,本件結果を帰責することは許されない。
また,仮に,被告人が,本位的訴因における本件歩道手前の地点での一時停止及び左右等の安全確認の各措置を執ったとしても,A自転車が左方から進行して来ることに気付くことができず,ひいては,本件結果を回避することができる有効な措置を執ることができなかったものと認められ,原判決は,当該各措置を履行したとしても,予見することも有効な回避措置を執ることもできないまま発生した結果を被告人に帰責するものであって是認することができない。
この点,原判決は,被告人が本件歩道手前の地点で一時停止をしていれば,被告人車両が本件衝突地点に到達する前にA自転車が同地点を通過し終えていることになるため,本件事故は発生しなかったことを指摘し,これを主たる根拠として,本件歩道手前の地点における一時停止及び安全確認義務違反と本件結果との因果関係を肯定している
しかしながら,上記のような理屈によって,本件において,被告人が本件歩道手前の地点に到達した時点で一時停止をしていたら,その分だけ本件衝突地点への到達が遅れ,本件結果を回避することができたとはいえるとしても,それゆえに,被告人に対し,本件歩道手前の地点での一時停止義務を課し,同義務違反と本件結果との間の因果関係を肯定することは許されない。
すなわち,本位的訴因にいう本件歩道手前の地点での一時停止義務は,飽くまで,本件歩道に進出するに当たって,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認するために課されるものであり,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等との本件衝突地点における衝突を避けるために本件衝突地点への到達を遅らせることを目的として課されるものではない。後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すのであれば,本件歩道上を左方から進行して来る自転車等がいつ本件衝突地点に到達するか予見可能である必要があるが,本件において,本件歩道手前の地点からは本件歩道上の左方の見通しが不良であるため,そのような予見は不可能であるから,後者の目的のために本件歩道手前の地点での一時停止義務を課すことはできないというべきである。また,原判決がいう理屈で本件歩道手前の地点での一時停止義務違反と本件結果との因果関係を肯定することは,結局のところ,一時停止により本件衝突地点への到達が遅れることによって時間差が生じ,偶然に結果を回避できた可能性を根拠として被告人に本件結果を帰責することになり,ひいては,A自転車が本件衝突地点に到達した時点がいつであったかという偶然の事情によって結論が左右されることになって,妥当性を欠く。

一審が認定した一時停止義務違反を履行したとしても、一時停止した位置からは歩道左側が視認できない。
つまり一時停止したとしても、この事故は回避できないのだから事故発生とは因果関係がないことになる。

 

さらに一審は、一時停止していたら「偶然」事故を回避できたとして過失を肯定したが、一時停止義務は歩道の安全を確認する目的で課されたもので、「偶然」衝突地点への到達が遅れることを以て過失認定することは許されないとする。
しかも衝突地点への到達が遅れることを以て過失というには、歩道通行自転車の存在を認識していなければならないところ(衝突可能性の予見)、歩道左側は全く見通しがきかないのだからそのような予見はできない。

 

要するに、一審判決は結果論から導いた内容になってしまっていて、衝突という結果を知った上での話になってしまっている。

 

広島高裁は一審が認定した「一時停止義務違反」を是認できないとして破棄し、新たに過失認定して有罪とした。

 

そこで新たに認定された注意義務違反がこちら。

本件ガソリンスタンド敷地内からその北方に接する本件歩道を通過して本件車道へ向け進出するに当たり,本件ガソリンスタンドの出入口左方には壁や看板等が設置されていて左方の見通しが悪く,本件歩道を進行する自転車等の有無及びその安全を確認するのが困難であったから,本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失により,折から本件歩道を左から右へ向け進行して来たA(当時41歳)運転のA自転車に気付かず,A自転車右側に自車右前部を衝突させてAを路上に転倒させ,よって,Aに入院加療150日間を要する脊髄損傷等の傷害を負わせたものである。

 

広島高裁 令和3年9月16日

一審 二審
本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約5kmで進行した過失 本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件歩道手前で一時停止せず,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約4.2kmで進行した過失

このように見える範囲が狭いのだから、

一時停止しても安全確認できない。
死角に歩行者がいるかもしれないし、ジョギングしている人がいるかもしれないけど、どちらにせよ見えない。

なので、一時停止後にわずかに進行して一時停止するなど小刻みに発進と停止を繰り返す義務がある。

「小刻みに停止・発進を繰り返すなどして」安全を確認して進行すべき義務があるとしています。

 

広島高裁の事例では、被害者の自転車にも過失があるのは明らかだから量刑判断では考慮されてますが、歩道の見通しがきかない場合の注意義務は、

 

本件歩道手前で一時停止した上,小刻みに停止・発進を繰り返すなどして,本件歩道を通行する自転車等の有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務

 

なのよ。

 

ところで「など」とあるように、他の手段で安全確認できるなら他の手段でも構わない。
代表的な例は、助手席に乗る成人が一度クルマから降り、歩道の安全を確認して誘導すること。

 

これは歩道にいる「信頼できる成人」でも構わない。
赤の他人にお願いしても構わないのよね。

 

道路交通法違反と過失は別。

 

ところで、広島高裁がいう「一時停止後に小刻みに停止・発進を繰り返す」をしても事故は起きることがある。
一例でいうと、クルマが歩道に頭を出しているにもかかわらず、小学生が前をよく見ないで走ってきたようなケースや、異常な高速度で自転車が進行してきた場合など。

 

広島高裁がいう注意義務を果たしていたのに事故が起きたならば、注意義務を尽くしていたとして無罪になる。
ただし助手席に成人が同乗していた場合は別。

 

過失運転致死傷罪における注意義務違反って、平たくいえば「かもしれない運転」だと思えばよい。
様々な状況を予想して対処できるようにするのがかもしれない運転ですが、

 

いわゆる「信頼の原則」って、「かもしれないの範囲を限定」する役目なのよ。
なんでもかんでも予見可能だと言い切ると、車両は前に進めない。

 

そして冒頭のケースのように、歩道左側を視認できない状況で「一時停止義務」というのは事故予備軍と言わざるを得ない。

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