運転レベル向上委員会が、青信号で交差点を通過する際の信頼の原則に関する判例をいくつか挙げてますが、
①「赤信号無視車や赤信号無視歩行者まで青信号側が常に予見しなければならないわけではない」、②「しかし注意しなければならないという義務はある」とし、最高裁判例等から①の話をしたかと思いきや、高松高裁判決や東京高裁判決を理由に「深夜、酩酊をして横断をする人がいる可能性というのが考えられるのでこの場合は信頼の原則を適用することは相当ではないということは、青信号を走っていた車側のほうにもそれなりの過失が出てくる」とし、酩酊横断者については信号無視することを予見する注意義務があるように解説する。
運転レベル向上委員会から引用
しかし、しかしですよ。
遠く離れた場所から接近してくる車両からすれば、歩道にいる歩行者が酩酊状態かなんてわかるわけもなく、夜間であれば歩道をヘッドライトで照らすわけではないのだから、なおさら困難といえる。
つまり被害者が酩酊者かどうかは結果論に過ぎない。
そして酩酊横断者が信号無視することを予見する注意義務があるとした場合、見通しが悪い信号交差点では徐行して死角から酩酊横断者が信号無視してくる可能性に備えなければ達成不可能。

そもそも見通しが悪い交差点であれば、信号無視してきたのが酩酊者なのか、通常の歩行者なのか、それとも車両なのかは結果論に過ぎない。
それなのに酩酊横断者についてのみ注意義務があるかのような解説は変ですよね。
運転レベル向上委員会の解説はなんかおかしいよね?という疑問に応えようと思う。
Contents
信号遵守の信頼

まず最高裁が述べるように、特別な事情がない限り、信号無視する車両や歩行者を予見して警戒すべき注意義務はない。
本件の事実関係においては、交差点において、青信号により発進した被告人の車が、赤信号を無視して突入してきた相手方の車と衝突した事案である疑いが濃厚であるところ、原判決は、このような場合においても、被告人としては信号を無視して交差点に進入してくる車両がありうることを予想して左右を注視すべき注意義務があるものとして、被告人の過失を認定したことになるが、自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、そのような交通法規無視の車両のありうることまでも予想すべき業務上の注意義務がないものと解すべきことは、いわゆる信頼の原則に関する当小法廷の昭和40年(あ)第1752号同41年12月20日判決(刑集20巻10号1212頁)が判示しているとおりである。そして、原判決は、他に何ら特別な事情にあたる事実を認定していないにかかわらず、被告人に右の注意義務があることを前提として被告人の過失を認めているのであるから、原判決には、法令の解釈の誤り、審理不尽または重大な事実誤認の疑いがあり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
最高裁判所第三小法廷 昭和43年12月24日
では高松高裁判決や東京高裁判決は「酩酊者だから予見可能で、交差点に進入する前に予見可能性に基づき予め減速するなど警戒すべき注意義務」としたのか?というと違う。
東京高裁 昭和59年3月13日判決を見ていこう。
なお事理は高松高裁判決も同じ。
本件は、被告人が深夜(略)普通乗用自動車を運転し、車道幅員約12mで片側一車線の歩車道の区別のある道路を時速約40キロメートルで走行中、本件交差点にさしかかり、青色信号に従い右交差点を直進しようとした際、酔余赤色信号を無視して交差点内中央付近を右から左へ横断歩行していた本件被害者2名を約13ないし14m先に初めて発見し制動措置をとることができないまま自車前部を両名に衝突させたことが明らかであり、これに反する証拠は存在しないところ、本件交差点出口南側横断歩道の左側に街路灯があるため、交差点手前の停止線から40m手前(本件衝突地点からは約51.4m)の地点から本件衝突地点付近に佇立する人物を視認できる状態にあり、しかも被害者の服装は、一名が白色上衣、白色ズボン、他の一名が白色ズボンであったから、被告人は通常の注意を払って前方を見ておけば、十分に被害者らを発見することができたと認められる。なるほど、被告人車の進路前方右側は左側に比べて若干暗くなっているけれども、(証拠等)によれば、被告人が最初に被害者らを発見した段階では、すでに被害者らは交差点中心よりも若干左側部分に入っており、しかも同人らは普通の速度で歩行していたと認められるから、前記見通し状況のもとで、被告人が本件の際被害者らを発見する以前に同人らを発見することは十分に可能であったと認められる。
そして、本件が発生したのは深夜であって、交通量も極めて少ない時間であったこと、本件事故時には被告人車に先行する車両や対向してくる車両もなかったし、本件道路が飲食店等の並ぶ商店街を通るものであること、その他前記本件道路状況等に徴すると、交通教育が相当社会に浸透しているとさいえ、未だ本件被害者のように酔余信号に違反して交差点内を横断歩行する行為に出る者が全くないものともいいがたく、したがって、本件において、被告人が本件交差点内に歩行者が存することを予見できなかったとはいえないし、また、車両運転者が歩行者に対し信号表示を看過して横断歩行することはないとまで信頼して走行することは未だ許されないというべきである。
東京高裁 昭和59年3月13日
この事故は、被告人において衝突地点の51.4m手前で信号無視する歩行者が容易に視認できたにもかかわらず、前方不注視の結果、被害者を発見したのは衝突地点13~14m手前になってしまった。
要するに「普通に前をみていれば容易に衝突を回避できた事案」であり、青信号に従って交差点に進入する車両は、青信号だからという理由で前方注視義務が免除又は軽減されることにはならないという意味です。
で。
判決文をみるときにやりがちな「切り抜き論法」がありますが、例えば「車両運転者が歩行者に対し信号表示を看過して横断歩行することはないとまで信頼して走行することは未だ許されない」を切り抜きして法律解釈として一般化することはできない。
なぜなら、あくまでもこの説示は「交差点手前の停止線から40m手前(本件衝突地点からは約51.4m)の地点から本件衝突地点付近に佇立する人物を視認できる状態にあり、しかも被害者の服装は、一名が白色上衣、白色ズボン、他の一名が白色ズボンであったから、被告人は通常の注意を払って前方を見ておけば、十分に被害者らを発見することができたと認められる」という前提における判断なのだから、この事例に限定した法律解釈でしかない。
さらにいえば、同様に50m手前で信号無視する車両を視認可能なのであれば、対車両であっても衝突回避すべきなのは言うまでもなく、酩酊者に限定した話ではない。
過失運転致死傷罪は予見可能性と回避可能性の問題ですが、死傷に至らせることが犯罪の構成要件なのだから、予見可能性とは本質的に「他人の死傷」についての予見可能性になる。
車両が衝突すれば他人が死傷するのは当たり前なのだから、「衝突の予見」とも言える。

歩道にいる歩行者が赤信号で横断開始することを予見する注意義務は「特別な事情がない限り」は無いのですが、現に信号無視して横断開始したことが視認可能なのであれば、そのまま進行すれば衝突することが予見可能。
だから横断開始した時点で急ブレーキを掛けるなどして衝突を回避すべき注意義務がありますが、それを達成するには前方注視していないとムリ。
つまり青信号で通過しようとする車両には、通常レベルの前方注視義務がある。
しかしあえて信号無視する歩行者や車両があることに「備えて」減速等をして警戒すべき注意義務があるかというと、それはない。
対歩行者でも、対酩酊者でも、対自転車でも、対クルマでも考え方は同じなのだから、対酩酊者にのみ注意義務があるかのような解説をするのは全く理解してないと言わざるを得ない。
問題になるのは距離

そうすると結局、被害者が赤信号無視した状況が視認可能になった地点における「距離」が一番の問題になる。
視認可能になった際の距離からみて、制限速度内で急ブレーキをかけ衝突を回避できるのに怠ったなら有罪だし、回避可能性がないなら無罪になる。
様々な判例の「判決文全体」をみれば、そのような観点で捜査、立証、判断されているのがみえますが、判決文全体を見ない人が陥る罠なのよ。
裁判には事例判例と解釈判例がありますが、厳密にいえば全ての判例は事例判例、つまりその事例における事実認定の下での判断になる。
つまり、事実認定が異なる場合には他の事例には当てはまらない。
特別な事情がない限り、赤信号無視する車両を予見する注意義務は無いとした上記最高裁判例についても、「本件の事実関係においては」としている。
最高裁判例は絶対的な影響を及ぼすのに、一見すると最高裁判例に反するような高松高裁判決や東京高裁判決がその後に出てくる理由は、そもそも事実認定が異なるからなのでして。
そして判決文を注意深く読めば、最高裁判例は信号無視「しようとする」車両や歩行者を予見する注意義務についての話をしており、高松高裁判決や東京高裁判決は「既に信号無視した歩行者を遠く離れた地点で視認可能な場合」についての話をしている。
つまり、問題にする注意義務がどこなのか?が違うのよね。
執務資料は判例集ではないから、あくまでも執務資料で知った判例について理解するには、別途判決文を探して読まないと間違える。
そこを怠り執務資料で満足する人と、きちんと理解したい人では理解の差が大きい。
そして交差点安全進行義務(道路交通法36条4項)の解釈。
第三十六条
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
運転レベル向上委員会は「事故が起きたらできる限り安全な速度と方法ではなかったことになり過失になる」というが、これは誤り。
要するに、同項における「交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意」というのは、交通法規に反して通行する車両や歩行者があることを予め想定する話ではない。
しかし前方注視していれば信号無視した歩行者や車両を視認可能な場合ならば、「安全な速度と方法(急ブレーキ等)」により回避しろという話であって、しかも「できる限り」なのだから回避不可能な場合にまで無理難題を課すものではない。
同法36条4項の規定は、同項で規定している「特に注意」しなければならない対象とされている車両等と横断歩行者とに対する関係でのみ「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」ことを定めているに過ぎないと解釈すべきものではなく、以上の車両等や横断歩行者以外の交通関与者すなわち先行右折車や本件での被害車のような先行直進車に対する関係においても、交差点に入ろうとする車両は「できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない」ということを規定していると解すべきものである。けだし、同法36条4項は、昭和46年法律第98号道路交通法の一部を改正する法律により新設されたものであるが、同項の文言、同項制定の経緯(交差点及びその付近における交通事故が年々増え一向に減少の傾向を示していなかつたという当時の社会的情勢を背景とし同法70条から独立させる形で制定されたという経緯)、道路交通法における関連諸規定との関係をも加えて考察すると、同項は、交通上特に危険性の高い場所である交差点(その付近を含む。)における事故防止という見地、目的から、交差点を通行する車両等に対し、一般道路とは異なる特別の注意義務を規定したものであつて、同項は、交通整理の有無、優先道路か否か、道路の幅員の広狭、直進、右折、左折等の如何にかかわらず、(該行為が道路交通法上具体的義務を規定した各条に該当しその適用により右行為の可罰性が評価し尽くされる場合を除き)交差点における車両等のすべてに適用されるものと解され、この意味で、同項は交差点における車両等の一般的注意義務を規定したものということができ、かかる趣旨に照らすと、同項は、交差点における事故防止という見地から、右車両等の運転者に対し、同項に定めるすべての義務の遵守を要求していると解するのが相当であつて、その一つに違反するときは、同項違反の罪(故意犯に限る。)が成立するのであり、また、同項後段は、一見甚だ抽象的ではあるけれども、前説示の同項制定の経緯、目的などに照らすと、広く車両又は歩行者の通行状況などを含む当該交差点のさまざまな状況に応じて、できる限り車両又は歩行者との事故に結び付くおそれのない速度と方法により進行することを義務づけたものと解するのが相当であり、同項前段がその対象を限定しているからといつて、交差点のさまざまな状況に対応して具体化する同項後段の義務が同項前段で規定する対象との関係でのみ課せられていると結論することは狭きに失し相当でない。補足すると、同項前段は、交差点におけるさまざまな状況のうち、運転者に(その進路前方に出てくる可能性が強いため)特に注意を要求する必要がある(すなわち、事故に結び付き易い)という見地から対象を限定したものであるところ、本件交差点のように信号機による交通整理(横断歩行者もこれに従わなければならないことはいうまでもない。)が行われている交差点で、かつ、南北道路が北方から南方へ向けての一方通行道路であるときには、同交差点を西方から東方に向け右信号機の青信号に従いつつ直進通過する(又は、しようとする)車両の運転者が同法36条4項の「特に注意」しなければならない対象は(信号無視の歩行者及び車両並びに一方通行規制違反の対向右折車を除く限り。なお、かかる交通法規違反者ないし違反車両に対しても法が「特に注意」しなければならないと命じているとは到底考えられない。)全くないことになるし、一方、本件交差点を含むすべての交差点において、先行右折車が交差点出口の横断歩行者や対向直進車をやり過ごすべく交差点内で一時停止を余儀なくされているため右の先行右折車やこれに続く先行右折車又は先行直進車が交差点内で立往生しているという光景は日常随所に見受けられる現象で、かかる車両の安全を確保するためにも、これらの車両に対する関係で「できる限り安全な速度と方法で」、後続右折車や後続直進車が(交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ)進行しなければならないとするのでなければ同法36条4項の規定の新設の趣旨が没却されてしまうことになる道理である。したがつて同項は、前段で
A 車両等は交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意しなければならない(この場合には、これらの車両等及び横断歩行者に対する関係で、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないことになるのは理の当然で、あえて明文を設けるまでもない。)という規定を掲げ、後段で、
B 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ(すべての交通関与者に対する関係で)、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないという規定を掲げ、
以上の2個の規定を一個の文章で設定しているものと解するのが相当であり、被告人の原判示第2の所為は、この後者の規定の違反となるような行為に当たるというべきである。補足すると、被告人が被告人車の進路前方(本件交差点内における)被害車を認めながらその動静に注意を払わずこれを同交差点内で進行中の車両であると即断し、その後もその動静確認をすることなく約50キロメートル毎時の速さで交差点に進入しようとしたのであるから、この行為すなわち同項(後段)違反の基礎となる行為については、その故意に欠けるところはない。次に、道路交通法36条4項と同法70条との関係についてみると、右70条が道路を通行する車両等の一般的注意義務についての規定であるのに対し、同項は交通上危険性の高い場所である交差点を通行するに際しての車両等の特別の注意義務を規定したものであるから、両者はいわゆる法条競合の関係にあり、同項違反の罪が成立するときは、同時に70条違反の罪の構成要件に該当していても、同罪の成立はないものと解するのが相当であつて、このことは所論が指摘するとおりである。
名古屋高裁 昭和59年10月31日
高松高裁判決や東京高裁判決のように、通常レベルで前方注視していれば衝突を回避できるのならば、「安全な速度と方法」で回避しろという規定に過ぎない。
予め交通違反者があることを想定して注意する話ではないのは、「かかる交通法規違反者ないし違反車両に対しても法が「特に注意」しなければならないと命じているとは到底考えられない」としている通り。
民事の適用

民事においては、以下のように基本過失割合が設定されている。
| 相手が赤信号無視4輪車の場合 | 相手が赤信号無視自転車の場合 | 相手が赤信号無視歩行者の場合 | |
| 青信号4輪車の過失 | 0% | 20% | 30% |
赤信号無視した4輪車との事故では、青信号4輪車の基本過失割合は0%。
しかし対自転車や対歩行者では、青信号4輪車にも過失割合が設定されている。
これについて判例タイムズを読むとわかるのですが、基本的な考え方に差があるのでして。
| 赤信号無視4輪車の場合 | 赤信号無視自転車の場合 | 赤信号無視歩行者の場合 | |
| 青信号4輪車の過失 | 0% | 20% | 30% |
| 基本過失割合の設定理由 | 青信号4輪車に過失がない前提 | 青信号4輪車に過失がある前提 | 青信号4輪車に過失がある前提 |
4輪車と4輪車の基本過失割合では、青信号4輪車に過失が「ない」前提、つまり青信号4輪車に回避可能性がない前提で基本過失割合を設定した。
しかし対自転車や対歩行者の基本過失割合では、青信号4輪車に過失が「ある」前提、つまり青信号4輪車にも回避可能性があることを前提にしており、青信号4輪車に過失がない(回避可能性がない)場合には適用しないことも書いてある。
そして判例タイムズには注意書きがあり、要約するとこうなる。
・実際の事故における個別事情を無視して類型に当てはめることは控えろ。
・個別具体的事情を検討し、過失が認められないケースにおいては、基本過失割合の類型を適用するまでもなく無過失。
注意書きを全無視して類型に当てはめるのが運転レベル向上委員会ですが、判例タイムズには「ダメ絶対」として注意喚起されている。
一例でいうと、運転レベル向上委員会は大分194キロ右直事故について、右直事故の基本過失割合「直進車20%、右折車80%」を適用し、「30キロ以上の速度超過」として直進車不利に20%の修正要素を適用しても右折車のほうが過失が大きいと主張する。
しかし時速194キロという著しい高速度の場合に基本過失割合の適用がないのは、判例タイムズや判例から明らかとしか言いようがない。
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準として公にされている基本過失割合は、各事故において典型的な事案を想定したものであって、特異な事情がある個別の事案についても常に当てはまるというものではない。本件事故についてみると、被告車が法定最高速度を時速54キロメートルも上回る時速約114キロメートルという異常な高速度で走行していたという特異性があり、劣後道路からの左折進行車の運転者においてこのような高速度で直進車が走行していることを認識するのは容易なことではないし、他方、このような高速度で走行する車両の運転者は、周囲の交通の状況に応じた変化に対応し事故を回避することを自ら極めて困難にしているものといえる。そうすると、本件事故は、基本過失割合が当てはまる典型的な事案とはおおよそ言い難く
名古屋地裁 令和4年9月28日
控訴人は、衝突時の控訴人車の速度は時速100キロメートル程度である旨の陳述及び供述をする。
しかしながら、○県警察が、控訴人車の走行状況を撮影した防犯カメラの記録等を解析して、本件事故直前の控訴人車の速度を時速122ないし179キロメートルと算出していること(上記撮影地点から、控訴人が急制動の措置を講ずるまでの間に、控訴人車が減速したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人自身、警察が120キロメートル以上は出ていたというのであれば、間違いないと思う旨の陳述及び供述ををすることに照らすと、上記速度は120キロメートル以上と認めるのが相当である。
車両は交差点に入ろうとするときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないところ(道路交通法36条4項)、控訴人は、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で控訴人車を進行させ、同車を、本件交差点を右折進行してきた被控訴人車の左側面後端に衝突させたのであって、控訴人に過失があるのは明らかである。
これに対し、被控訴人は、被控訴人車を本件交差点に進入させて一旦停止させ、対向車線を車両等が進行してきていないことを確認した上、時速10キロメートル程度の速度で被控訴人車を右折進行させたにすぎない。被控訴人に、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で本件交差点に進入してくる車両等を予見し、運転操作をすべき注意義務があったとするのは困難であるし、加えて、控訴人は、原判決別紙1の①地点から約75.9m手前で、被控訴人車が本件交差点を右折進行してくるのに気付いたというのであり、控訴人が時速50キロメートル程度の速度で走行していた場合、その停止距離(28m)や、被控訴人車の速度を考慮すると、本件事故の発生を回避し得た可能性が高いことに照らすと、本件事故は専ら控訴人の過失によるもので、被控訴人に過失はないというべきである。福岡高裁 令和5年3月16日
そして大分地裁の刑事一審判決文によると、このような文言がある。
その上で、被告人が、常習的に高速度走行に及んでいたことなど自己に不利益な事実を率直に認めたり、本件事故現場での献花を続けたりして、反省の態度を示していること、未だ若年であること、両親が出廷して社会復帰後の監督を申し出ていること、被害者の遺族に対して保険により損害全額の賠償がなされる見込みがあることのほか、被告人の責めに帰し得ない事情のため公訴提起から公判審理までの期間が長引き、被告人として不安定な状態に置かれ続けたことといった一般情状も考慮し、主文の刑を量定した。
大分地裁 令和6年11月28日
わざわざ「損害全額」とあるように、各種判例や具体的事情からみて「直進194キロ車100%、右折車0%」で示談が成立したんだなと読み取れる。
個別具体的事情を加味することなく基本過失割合を適用することは「ご法度」だと判例タイムズが警告しているのに、なぜか「信号無視だから」という理由で具体的事情を加味することなく、全て基本過失割合に当てはめるのが運転レベル向上委員会。
実務と掛け離れた謎解説を連発するのは、判例タイムズの趣旨を理解してないからといえますが、信頼の原則にしても理解してないらしい。
インターネット上には様々なガセネタがありますが、誤った理解に陥るリスクが高いし、判決文全体を見ないまま解説するのもどうかと思うのよね。
判決文全体を見ても、結局切り抜きして意味をすり替えてしまう問題もありますが。。。

で。
執務資料に掲載されている判決の切り抜きは所詮は切り抜きなので、意味を理解するには判決文全体を探して読むことが必要です。
それを怠れば、勘違いします。
これって言い換えるなら、童貞さんがAVを見てテクニシャンになったかのように勘違いすることと似ている。
気になった判例はちゃんと判決文全体を探して読みましょう。
それをせずに語るのは間違いの原因。
ちなみに「信頼の原則」は誤解の原因になるから、「信頼してよい例外」という方が適切なんじゃないかと思う。
誤解というのは、信頼の原則が前方注視義務まで免除して回避可能な事故まで免責するかのような間違いに陥るリスクのことで、
だから「相手が信号無視なのに」として、他の大事な要素(具体的には視認可能になった際の距離)には言及しなくなるのでしょ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。





コメント
素朴な疑問ですが、回避不可能だったけど、回避行動を一切取らなかった(要は前方不注意)場合においても、過失無しになるのでしょうか?
コメントありがとうございます。
要するにその場合、前方注視を果たしても回避可能性がないため、前方不注視と致死傷の間に因果関係がなく、刑法上は無罪になります。
民事は違う可能性もありますが。