なんで運転レベル向上委員会は間違いを繰り返すのか理解に苦しみますが、
危険運転致死傷罪の成立には、「人の命を奪うかもしれない、それでも構わないというような感じが必要になる」と説明している。
危険運転致死傷罪における故意とは、殺人や傷害についての故意が必要なのではなく、各号に規定した内容の認識が必要なのでして。
これは以前も書いてますが、

運転レベル向上委員会は、危険運転致死傷罪における未必の故意とは、「事故になっても構わない」、「人が死んでも構わない」だとする。
アルコール態様の危険運転致死傷罪の故意ですが、条文はこちら。
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
2条1号における「故意」とは、「アルコールの影響で正常な運転が困難であることの認識」。
人の死傷については「よって」とあるように、結果の話に過ぎない(他人を死傷させることに確定的故意や未必の故意が必要なわけではないのは条文から明らか)。
危険運転致死傷罪について「ほとんど理解をしている方はいない、おそらく報道している側もほぼほぼ理解はしていないんではないか」とも述べてますが、その代表格が運転レベル向上委員会なのである。
理解していたら、こんな解説はしないのよね。
準危険運転致死傷罪(処罰法3条)についてこのように述べている。
2条というのは酩酊に近いような状態、正常な運転が困難な状態である必要性があり、3条というのはそのおそれがある状態なので実際にそういう状態に陥っている必要がないといわれるのが3条になります。
いやいやいやいや…

ほかにも進行制御困難高速度について、名古屋高裁判決と大分地裁判決を相反する判決だとしてましたが、理解しているならわかるように両者は「論点が違う事例」でしかない。
自分自身が有識者であるかのように振る舞う技術に長けていても、中身は間違いだらけなのでして。
なお「人の命を奪うかもしれない、それでも構わないというような感じが必要になる」というのは殺人罪における未必の故意。
運転レベル向上委員会は、いまだ故意、未必の故意、過失の意味がわかっていない。
さて、ながらスマホの危険運転致死傷罪化ですが、運転レベル向上委員会は「法律家や検討委員会は全くあてにならない。有能な人を国会議員にして変えるべき」と主張する。
運転レベル向上委員会は有識者会議で何が話し合われていたのか知らないらしい。
法務省では危険運転致死傷罪にかかる検討部会が開かれてまして、「ながらスマホ類型」を追加するかも検討されてますが、令和6年のとりまとめではこのようになっている。
⑷ 新たな類型の追加(スマートフォン等を使用又は注視しながらの運転行為等)
「スマートフォン等を使用又は注視しながらの運転行為」等のいわゆる「ながら運転」により人を死傷させた場合を法第2条の危険運転致死傷罪の処罰対象とするか否かについては、「ながら運転」には様々な態様のものがあり、高い危険性・悪質性を有するものも想定されるものの、そのような行為だけを的確に切り出して危険運転致死傷罪の処罰対象として規定することは困難である上、立証上の課題もあることなどから、慎重な検討が必要である。
いわゆる「ながら運転」を危険運転致死傷罪の処罰対象として追加することについては、危険運転致死傷罪は、傷害罪・傷害致死罪に匹敵する危険性・悪質性を有する行為を処罰対象とするものであり、危険運転致死傷罪として処罰すべき実質的危険性・悪質性を伴わない行為までがその処罰対象に含まれるような改正は適切でないという共通理解の下で議論が行われ、
○ 「ながら運転」の中には、現行の法第2条の危険運転致死傷罪の対象行為に匹敵する危険性・悪質性を有するものも想定されるといった意見が複数の委員から述べられ、異論は見られなかった。
もっとも、○ 「ながら運転」には様々な態様のものがあり、
・ 注視等の対象物として、スマートフォンのほかにも、カーナビや景色、道路沿いの電光掲示板など様々なものがあり得るところ、それらによって悪質性が異なり得る
・ 例えば、スマートフォンを注視等する行為であっても、緊急性の高い連絡を確認する場合や道路の渋滞情報を確認する場合など、その理由によっては必ずしも危険運転致死傷罪として処罰すべき高い悪質性が認められるとまではいえない場合もあり得る
・ 高い危険性が生じることとなる注視等の時間も、状況に応じて様々であり得ることから、処罰範囲を危険性・悪質性が高い行為のみに的確に限定することが不可欠であるが、注視等の対象物や理由、時間によって危険性・悪質性を一律に区別することは困難である
○ 仮に「ながら運転」を危険運転致死傷罪の処罰対象として追加したとしても、一般に、自動車内の運転者がスマートフォン等を一定時間注視等していたという事実は立証のハードルが高いため、実際の適用は困難であって、「ながら運転」の抑止効果も期待できないといった意見が複数の委員から述べられ、異論は見られなかった。
https://www.moj.go.jp/content/001436932.pdf
危険運転致死傷罪は特に悪質性が高い類型のみを選んで創設してますが、ながらスマホの悪質性についても立法の仕方を「スマホを注視、通話」とした場合、危険運転致死傷罪の根幹にある「特に危険で悪質なものに限定」した趣旨と必ずしも合致しないケースもありうる(一例としては緊急通報でスマホ通話中に起こした事故など)。
どこからが「悪質なながらスマホか?」という議論になってしまう。
自動車運転による死傷事犯は、かつて業務上過失致死傷罪(刑法第211条前段)によって処罰されていたが、危険かつ悪質な運転行為による死傷事犯について事案の実態に即した適切な処罰を可能とするため、平成13年に刑法の一部改正により危険運転致死傷罪が設けられ(当時の刑法第208条の2)、また、平成19年には、刑法の一部改正により自動車運転過失致死傷罪が設けられ(当時の刑法第211条第2項)、それまで業務上過失致死傷罪によって処罰されていた自動車運転による死傷事犯は自動車運転過失致死傷罪によって処罰されることとなった。その後、平成25年に、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「法」という。)が成立し、危険運転致死傷罪について、それまでの対象行為(現行の法第2条第1号から第4号まで及び第7号に規定する行為)に新たなもの(現行の同条第8号に規定する
行為)が加えられて法第2条に規定されるとともに、法第3条に新たな類型の危険運転致死傷罪が設けられ、また、自動車運転過失致死傷罪が過失運転致死傷罪として法第5条に規定されるなどした。さらに、令和2年には、法第2条の危険運転致死傷罪の対象行為として、現行の同条第5号及び第6号に規定する行為が追加された。
このように、自動車運転による死傷事犯に係る罰則については、累次にわたって法改正が行われてきたところであるが、近時、危険かつ悪質な運転行為による死傷事犯に適切に対処することができていないのではないかという観点から、様々な指摘がなされるようになっている。
「自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会」(以下「本検討会」という。)は、こうした状況を踏まえ、危険かつ悪質な運転行為による死傷事犯に係る罰則の改正の要否・当否や考えられる法整備の内容について、論点を抽出・整理した上で議論を行うため、開催されたものであり、11回にわたる会議を経て、一定の方向性を得るに至ったことから、ここにその議論の状況を取りまとめ、報告書として公表する次第である。
ただまあ、今回のようにながらスマホでの事故は「過失運転致死傷罪」と「道路交通法違反(ながらスマホ)」は併合罪ではなく過失運転致死傷罪に吸収される。
行為の悪質性と量刑がミスマッチではないか?という意見も多いんだけど、過失運転致死傷罪の中で法定刑を引き上げたら対処できる…というわけではない。
もっとも、過失運転致死傷罪の法定刑を引き上げることについては、
○ 過失運転致死傷罪の法定刑は、速度違反や飲酒運転等の悪質な運転による死傷事案に対処するため、平成19年にその上限が懲役7年に引き上げられており、量刑が法定刑の上限に集中するような傾向も見られないことから、法定刑を引き上げるべき立法事実は存在しない
現状で過失運転致死傷罪の法定上限の判決はほとんどなく、上限ばかりの判決であれば上限引き上げ理由になるだろうけどそういう状況ではないことも指摘されている。
ちなみに部会資料は法務省のサイトで見れます。
危険運転致死傷罪に詳しくない運転レベル向上委員会の試案だと、例えば煽り運転を受けて110番通報中に事故を起こした場合でも危険運転致死傷罪が成立しうる。
しかしそれが、例えばスマホゲームをしていて前方不注視になり事故を起こした場合とは悪質性が異なるのは言うまでもない。
有識者会議ではながらスマホが危険かつ悪質な運転になりうることを認めつつも、「注視等の対象物や理由、時間によって危険性・悪質性を一律に区別することは困難」として見送った。
悪質な運転は危険運転とすべきだし、悪質とは言い難い運転は危険運転として処罰すべきではないことは言うまでもないが、いわゆるながらスマホについてはその区別を明確に規定することが困難だということや、「自動車内の運転者がスマートフォン等を一定時間注視等していたという事実は立証のハードルが高いため、実際の適用は困難」という実務面も加味し、死文化しかねないことを指摘している。
有識者会議には様々な立場の人がいますが、捜査する側、つまり警察や検察からすれば使いにくい(立証しにくい)条文を与えられても困るだけなのよ。
有識者と一般人の間に乖離が起きる理由って、想像力の違いでもある。
一般人が頭に浮かべる「ながらスマホ」とは、ゲームや動画視聴のような話ですよね。
それらによる事故が厳罰処理されるべきというのは理解できる。
しかし有識者はながらスマホという状態について、あらゆるタイプを想定して妥当性を考えなければいけない。
有識者がYouTuberレベルの短絡的思考で「ながらスマホ=ゲームや動画視聴」と決めつけて議論することは許されず、あらゆるタイプを想定できるから有識者なのよ。
運転レベル向上委員会は危険運転致死傷罪について「人の命を奪うかもしれない、それでも構わないというような感じが必要になる」という間違った解説をしている。
そのような無識者、一般人が法律を作ったら、穴だらけになるし不当な処罰になるのは当然だよね。
ながらスマホ危険運転致死傷罪が制定されてないという「結果」に対して批判するのが運転レベル向上委員会。
ながらスマホ危険運転致死傷罪が成立されなかった理由から考えるならまだわかるが、運転レベル向上委員会の人が結果論者というのはこういうところなのよ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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