こちらの件。
法律解釈がメチャクチャ過ぎて何から指摘するか悩むレベルになってますが、センターラインをはみ出した車両と、対向車が衝突したもの。
これについて、運転レベル向上委員会は得意の「自賠責保険が2台分」という机上の空論を力説し、さらに左側通行していた順走車が運行供用者責任から逃れるためには、自賠法3条但し書きの3要件全てを立証しないとダメなんだとする。
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
これは私も以前勘違いしたポイントですが、少なくとも今回のケースでは3要件全てを立証する必要はないかと。
理由は以下。
判例は最高裁判所第一小法廷 昭和45年1月22日。
事案の概要ですが、幼児が車列間横断して起きた事故です。
原審の確定するところによれば、上告人A1が、昭和40年4月3日午後4時20分頃被上告人B運転の三輪貨物自動車と接触して受傷した事故現場は、東西に走るa国道とb道路(南北路、幅員約七・五米の歩車道の区別のないコンクリート舗装道路)とが交差する大阪市c区de交差点から右南北路上南方約50mの地点にあつて、本件事故現場附近からは、ほぼ南西方向に一本の地道が三差状に出て、その三差路の幅員は、右南北路と接する部分では約9.3mあるが、南西方向に伸びるに従い急に狭くなり約4mとなる。本件事故現場附近は田畑が多く、ことに、西側の見通しは良好であり、信号や横断歩道の設備はない。右南北路は、自動車の往来が頻繁で、右e交差点の信号が南北赤になるときは、北行車はたちまち停滞して、その列は、右三差路すなわち本件事故現場附近をはるかに超えて、全長約100mに達する程の停滞状況を示し、他方南行車の方は、e交差点で通行止めとなるので、a国道から廻つてくる自動車が南進してくるだけの状態となる。上告人A2は、その友人訴外Dを見送るため、右三差路を経、右南北路を通つてe交差点のバス停留所まで行くべく、その長男上告人A1を伴つて自宅を出、Dと話をかわしながら、三差路を通り、南北路に達したが、そのときの南北路の交通状況は、丁度e交差点の信号が南北赤であつたから、北行車が、前記のように100m位列をなして停滞し、三差路前も、人が車の間を通つて横断できる程度に少しの間隔をおいたほかは、自動車が頭尾を接して停車していた。上告人A2は、右南北路の西側端を通ることは停滞車のため困難であるとみて、なんとなくその場で直ちに横断してその東側端を歩こうと考え(上告人A2は近辺の交通状況を知悉していた。)、前記停滞車の間隙を抜けて南北路を横切り、その東側端に渡ろうとし、よつて、上告人A1が先頭にたち、少し間隔をおいて上告人A2が続き、その後にDがほぼ一列になつて続いたのであるが、上告人A2は、その際、特に南行車通過に伴う危険に備え、上告人A1の手をつなぎ、または、注意を与える等の措置をとることなく、慢然上告人A1の独り歩きに任せていたため、かかる場合の事故防止能力を欠く上告人A1は、そのまま独りで停滞車の間を通り抜けて南北路中心線附近まで飛び出した。折しも、被上告人Bは、本件事故車を運転してa国道を東進し、e交差点を右折して右南北路に乗り入れ、その中心線から約50センチ東寄りのところを時速約25キロで南進し、右三差路附近にさしかかつたが、前記のように、同所には横断道路の設定はなく、また、叙上のとおり、西側に停滞する車両列のため三差路をなすことすら見極め難い事情にあつたため、そのまま進行したところ、本件事故現場約2m手前で上告人A1が北行停滞車の間隙からやにわに飛び出してきたのに気付き、突嗟にブレーキを踏んだが間に合わず、上告人A1は、自己の右側顔面を被上告人B運転の三輪貨物自動車後部荷台右側面の二つの蝶つがい附近にひつかけるように接触して転倒した。被上告人Bとしては、北行停滞車が列をなしていたため、上告人A1がその間隙から飛び出してくることを予知することはできない状況であつたというのであり、以上の事実は、原判決挙示の証拠関係に照らし是認することができる。そして、右事実によれば、被上告人Bとしては、本件事故現場附近を本件事故車を運転して時速約25キロで南進通過中、停滞していた対向北行車列のかげから、突如として上告人A1が自ら飛びかかつてきたような状態となつたのであつて、これに気付いたときは、急停車の措置をとつても、もはや上告人A1との接触を避けることができず、自車の右側面が上告人A1の顔面に接触してしまつたことが認められ、この間、被上告人Bの運転には別段非難すべき点はなく(右述のような道路交通状況のもとで、被上告人Bに対し、自車の進路直前に突如飛び出してくるものを予見し、これに対処することまで要求することは難きを強いるものといわねばならない。)、結局本件事故につき、被上告人Bには過失はなかつたというべきで、かえつて、上告人A2は、学令にも達しない僅か5才10か月の幼児である上告人A1を帯同して、右南北路の如き自動車交通頻繁な、しかも、横断歩道の設けられていない個所を横断しようとしたのであるから、わが子の手をつなぎ.または、注意を与える等の措置をとつた上、左右の安全をみずから確認して相応の指示誘導をし、もつて、交通事故を未然に防止すべき歩行者、子の監護者としての注意義務があつたにもかかわらず、右義務を怠り、慢然上告人A1を先頭にたたせ、独りで横断するに任せたため、本件事故にあつたというべきであつて、上告人A2は、本件事故につき過失があつたことは明らかである、とした原審の判断は正当として首肯するに足りる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、原判決に所論の違法は認められない。
論旨は、原審の認定しない事実関係を前提とし、独自の見解に基づき原判決を非難するものであつて、採用することができない。
最高裁判所第一小法廷 昭和45年1月22日
一審は加害者に過失を認めてますが、二審(大阪高裁 昭和43年7月5日)は自賠法3条但し書きを適用して加害者は無過失だとした。
その判断は最高裁も是認してますが、問題になったのはここ。
所論は、被上告会社は、本件事故は、上告人A1の飛出しとこれを制止しなかつた上告人A2の過失によつて発生したものであつて、被上告人Bに過失はなかつたと主張するのみで、自動車損害賠償保障法(以下単に法という。)三条但書所定のその余の免責要件事実については何ら主張していない。しかるに、本件事故は、自己や連行供用自動車運転者被上告人Bの運行上の過失もしくは右自動車の構造上の欠陥または機能障害によつて生じたものではなく、かえつて、被害者上告人A1の監護者である上告人A2の過失によるものであることが認められるから、被上告会社は法三条但書所定の免責の適用を受ける旨判示した原判決には、主張のない事項につき判断した違法があるというものである。
※「所論」とは上告人の主張という意味。
加害者側は自賠法3条但し書きの3要件全てを主張・立証してないのに、自賠法3条但し書きを適用して免責(無過失)とした判断は違法だと主張した。
これについて最高裁の判断はこちら。
そこで考えるに、自己のため自動車を連行の用に供する者が、その連行によつて他人の生命または身体を害し、よつて損害を生じた場合でも、右運行供用者において、法3条但書所定の免責要件事実を主張立証したときは、損害賠償の責を免れるのであるが、しかし、右要件事実のうちある要件事実の存否が、当該事故発生と関係のない場合においても、なおかつ、該要件事実を主張立証しなければ免責されないとまで解する必要はなく、このような場合、連行供用者は、右要件事実の存否は当該事故と関係がない旨を主張立証すれば足り、つねに右但書所定の要件事実のすべてを主張立証する必要はないと解するのが相当である。
これを本件についてみてみるに、本件記録に徴すれば、被上告会社において、自己が本件事故車の運行に関し注意を怠らなかつたかどうか、自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかつたかどうかは、本件事故と関係のない旨暗黙の主張をしているものと解せられ、原審も、その旨の認定判断をしているものと解せられないではないから(右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし是認するに足りる。)、原判決に所論の違法はなく、論旨も採用することができない。最高裁判所第一小法廷 昭和45年1月22日
3要件全てを主張・立証する必要はなく、例えば3要件のうち「自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたこと」については、本件事故と因果関係がないことを主張・立証すれば足りるとする。
さて。
対向車がセンターラインをはみ出して進行してきた場合において、左側通行していた順走車からすれば下記は明らかなのだから、
・センターラインをはみ出して進行してきた対向車に過失があるのは明らか。
・クルマの機能障害や欠陥については、本件事故発生と無関係(ただし裁判例を見る限り、「車検を受けている」ことを証拠として出すことが多い印象)。
結局、自身に過失がないことを立証すれば足りることになる。
さて。
運転レベル向上委員会の解説を見る限り、自賠法と自賠責保険を全く理解していないことがわかる。
というのも運転レベル向上委員会の解説。
自賠責の支払=任意保険上の過失ではない
今回、トラック側自賠責が支払われる可能性があっても、それは直ちにトラック側の任意保険上の過失を意味しません。
自賠責は被害者保護を重視する制度であり、支払いの有無と最終的な過失割合は別に考える必要があります。運転レベル向上委員会から引用
これは相当に誤解を招く発信と言えますが、自賠責保険が支払われるということは、自賠法3条により運行供用者責任が認められることを意味する(=無過失の立証ができないことと同義)。
第十一条 責任保険の契約は、第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生した場合において、これによる保有者の損害及び運転者もその被害者に対して損害賠償の責任を負うべきときのこれによる運転者の損害を保険会社がてん補することを約し、保険契約者が保険会社に保険料を支払うことを約することによつて、その効力を生ずる。
自賠責保険は自賠法3条の損害賠償責任が生じた場合に支払うとしている。
自賠責保険は自賠法3条の損害賠償責任(運行供用者責任)のうち、一部分だけを補填する役割しかない。
例えば死亡人身損害が8000万の事例において、自賠責保険からは3000万が支払われるけど、法律上は運行供用者責任が認められたから自賠責保険から支払われるのだから、残り部分は任意保険から支払われるのでして。
◯対人賠償責任保険の約款
⑴ 当会社は、契約自動車の所有、使用または管理に起因して他人の生命または身体を害することにより、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して、この対人賠償責任条項および基本条項に従い、保険金を支払います。
運行供用者である「被保険者」が自賠法3条による「法律上の損害賠償責任」を負う場合には、自賠責保険で不足した分は任意保険から支払われることになる。
ごく一部の例外的事例…例えば自賠責保険について被害者請求をして、自賠責機構が有責と判断し自賠責保険が支払われた後に、被害者が加害者に「自賠責保険分では足りない」として損害賠償請求訴訟を提起したものの、裁判所の判断が自賠責機構と異なり「無過失」を認定することはありうる。
しかしそれは自賠責機構と裁判所の判断が異なっていた、つまり自賠責機構の判断が誤りだった事例でしかない。
そもそも、自賠責保険が支払われるということは、自賠法3条所定の運行供用者責任として損害賠償しなければならない立場になりますが、そもそも。
運転レベル向上委員会はいまだ福井地裁判決を理解してないようですが、
自賠責の支払=任意保険上の過失ではない
今回、トラック側自賠責が支払われる可能性があっても、それは直ちにトラック側の任意保険上の過失を意味しません。
自賠責は被害者保護を重視する制度であり、支払いの有無と最終的な過失割合は別に考える必要があります。運転レベル向上委員会から引用
福井地裁判決の過失割合はこうなる。
| 順走車 | 逆走車の同乗者(死亡) | |
| 人損 | 60 | 40 |
| 物損 | 0 | 100 |
福井地裁判決について運転レベル向上委員会は「順走車に過失が認められた」とか「業務中ではなかったという判断だ」などと語ってましたが、福井地裁判決は「左側通行していた順走車に過失があったとは認められないが、過失がなかったとも認められない」という事案。
なぜこうなるかというと、

対向車が居眠り状態に陥り、センターラインを50センチ(画像では80センチとしているがミス)はみ出して通行。

この裁判においては、警察が作成した実況見分調書の信用性にケチがついた。
そのため、「左側通行していた順走車が、逆走車をどの地点で認識できたか?」を立証できなくなり、そのため「過失があるとは認められないが、過失がなかったとも認められない」、つまり「詳細不明な事故」と認定された。
自賠法3条によると、人身損害の賠償責任から逃れるには自身の無過失を証明する必要がありますが、「詳細不明」だから無過失の立証もできないし、過失の証明もできない。
だから法律に基づき、「無過失の証明がないから人身損害の賠償責任がある」となり、「過失の証明がないから物損(民法)の賠償責任は否定」となる。
要するにこの裁判のケースは、いわゆる「基本過失割合」が想定する典型例ではないから自賠法による賠償責任が肯定され、人身損害と物損で過失割合が違うことになる。
運転レベル向上委員会の解説が支離滅裂なのは、以下を理解してないからになるのよね。
・人身損害と物損で過失割合が異なる非典型例があること。
・いわゆる「基本過失割合」が想定する典型例だけでなく、同じような事故態様でも基本過失割合を適用しない場合があること。
・自賠責保険は自賠法3条所定の運行供用者責任が生じた場合に支払われるが、自賠法3条による賠償責任が生じるならば、対人賠償責任保険(任意保険)の支払い対象になること。
・いまだ福井地裁判決の意味を理解してないこと。
・自賠法3条但し書きの「無過失の証明」は、著しく難しい話ではない。ドラレコが普及したことは無過失の証明がしやすくなったと言われているが、ドラレコが存在しない昭和40年代であっても無過失を認めているように、福井地裁判決の特殊性は「警察の実況見分調書の信用性にケチがついたこと」と、本来ならはみ出し通行した運転者が賠償すれば解決するのに、それが事実上不可能という特殊性があったこと。
・自賠責保険2台分というのはほとんどのケースにおいて「必要がないこと」な上、最大6000万になるというのは自賠責基準からみると「絵に描いた餅」でしかないこと。
超レアケースを「それが一般的」であるかのように語るのも疑問だし、法律解釈がぐちゃぐちゃだから支離滅裂な話になっている。
いまだ福井地裁判決の意味を理解してないだけのことはあるな、としか思いませんが、運転レベル向上委員会の問題点がてんこ盛りになっているのよね。
専門書を読みきちんと整理出来てないまま、テキトーなことを語るから支離滅裂なのよ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。



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